レイド
『World Of Load』において【モンスター】にはいくつかの分類が存在する。
その分類は大きくわけて3つ。
まず、至る所に出現する【通常モンスター】。
ドロップ品などはそこまでいいとは言えないが凡庸の素材や武装などをドロップする。
しかし、例外は存在するもので、この【通常モンスター】はレベルや強さによってはそこそこレアな素材や武装をドロップすることもある。
次に、あまり出現しない【名持ちモンスター】。
こちらは【通常モンスター】とは違い、倒せた場合のドロップ品はレアなものが多く、『固有ドロップ品』というものが存在している。
その代わりにその強さは【通常モンスター】とはくらべものにならないほどである。
最後に【ボスモンスター】。
こちらは名称そのままであり、モンスターの中では最大級の強さを持っている。
ドロップ品は1番レア度が高く、『特別固有ドロップ品』というものが存在しているものの、やはりその強さは飛び抜けており、パーティーというより、レイドを組んで戦うのが定石となっているほどだ。
このように、大きく3つに分ける事のできるモンスターだが、細かい分類をすればもう少し数が増える。
例えば一部の見た目が変わり、行動が変化する【変異種】であったり、目撃されることが極端に少ないほど出現しない【貴種】、2種以上のモンスターの特徴を持つ【混合種】など様々である。
そんな、様々な種類のあるモンスターだが、それぞれにある一定の
出現条件というものが存在している。
例えば【通常モンスター】であれば、倒されれば倒された分、別の場所でランダム再出現する。
【名持ちモンスター】は一定数値以下の数になると随時ランダム再出現する。
【ボスモンスター】に関しては倒されてから最低でも10日経たなければ再出現することはない。
特に【ボスモンスター】の強さによっては再出現するまでに一月や半年を要するモンスターもいるのだ。
ピンからキリまであるが、そこそこ強い【レイドボスモンスター】ともなると確実に半年は経たなければ再出現することは無く、その間【レイドボスモンスター】がいた場所にはランダムに【ボスモンスター】が出現することになる。
このように『特別固有ドロップ品』というレアなものをドロップさせるが、再出現するまで時間がかかる【ボスモンスター】はプレイヤーからすれば自分たちで狩りたいモンスターナンバーワンである。
ちなみにだが、『特別固有ドロップ品』というのは消費アイテムだった場合、倒せば手に入るが、それが武装だった場合、たったの1度しかドロップすることは無い。
しかもそれが初回だけとは限らず、何度か倒してドロップしたという話も珍しくはない。
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―――――『フクオカ』霊峰ヤフック山・三合目
ゴツゴツとした岩肌が視界に広がるも、ある程度開けた場所。
そこでは戦いが繰り広げられていた。
一方はモンスター。
【レイドボスモンスター】に分類される、ゴツゴツとした表面ながらも脆さを感じさせない岩の体を持つ巨大なゴーレム。
―――――名前を【岩兵・ラックス】。
推奨レベル52以上というそこそこの強さを持つ【レイドボスモンスター】である。
一方はプレイヤー。
総勢31名、それぞれ5人1組で戦っているのを見るに6つのパーティー合同のレイドなのだろう。
そのうち1名は少し離れたところから彼らレイドの戦闘を見守っていた。
彼らは【高天ヶ原】所属のプレイヤーたちである。
ギルドマスター直々に【レイドボスモンスター】を一体倒してくるようにと言われ、指定された【レイドボスモンスター】と現在戦っているのだ。
レイドの平均レベルは55。
一応推奨レベルは超えているものの、実際はギリギリ足りないと言える。
本来ならば、推奨レベルよりプラス10レベルは欲しいところなのだが、今回はわざとギリギリのレベルで挑戦している。
【高天ヶ原】のギルドマスターであるユウノも簡単に勝てるとは思っておらず、むしろ負ける可能性もあるだろうと、【十二天将】から1人、アラタを引率として付けている。
もし全滅しそうになった場合はアラタが割って入り、撤退する手筈となっていた。
アラタ自身も今回は後始末を付けなければならないだろうと考えていたのだが―――――
「これは倒せそうですね……」
少々の驚きを孕んだ声を漏らして柄から手を離す。
始めは何時でも割って入れる様にしていたのだが、戦闘が5分、10分と過ぎていくうちにそれは杞憂だったと思った。
今回のパーティーは魔法職2人に戦士職3人のパーティーを6つ組んでいたのだが、前衛として戦う戦士職のプレイヤーたちが思っていたより戦えているのだ。
これは嬉しい誤算と言えるだろう。
その上、6つのパーティーがしっかりと連携を取れている。
【岩兵・ラックス】はゴーレム系モンスターにしては素早いがしかし、それでも行動は遅い。
その分一撃の威力が高く設定されているため、同レベル帯の魔法職のプレイヤーが一撃でも貰えばかなり危険だろう。
それを分かってのことだろう。
前衛として戦う戦士職のプレイヤーたちはダメージを与えると言うより攻撃が魔法職のプレイヤーまで及ばないように防御しているのだ。
そして、それを理解しているであろう魔法職のプレイヤーたちはダメージを与えるべく様々な【魔法】を撃ち出している。
そんな魔法職のプレイヤーの中でも一際活躍しているのは最近【高天ヶ原】に加入した【個別魔法使い】のアルル。
アルルはララノアとの【魔導師】になるための特訓により着実に実力を伸ばしていた。
【個別魔法】を創る際の発想やどのような原理で設定すれば威力が上がるのかと言った知識。
様々なものをまるで乾いたスポンジに水を吸わせるかのように吸収していくアルルはやはり才能があるのだろう。
アラタはそんなアルルを見つめながら肩をすくめる。
自分はどうだっただろうか、そんなことを考えたのだ。
少し思い出してみればユウノに迷惑をかけたようなイメージしか湧いてこない。
【専用職業】を獲得してからはそこそこ強くなったようにも感じたが、今でも使いこなせている気は全くしなかった。
アラタは愛刀である【布都御魂剣】の鯉口を切る音をチャキン、チャキンと鳴らす。
初めはユウノを真似て二刀流剣術を使おうと思っていたアラタだったが、その難しさに断念した。
左右の手を別々の動きにさせつつ、正確に斬るという芸当はアラタには難しすぎたのだ。
ユウノがまるで簡単な事をしているようにやって見せていることは実はありえない事なのだと実感するのにそう時間はかからなかった。
そんな考え事をしていると地響きが鳴る。
発生源の方へ視線を向けてみれば、【岩兵・ラックス】が尻餅をついていたのだ。
それを見逃すプレイヤーたちではなく、前衛として戦う戦士職のプレイヤーたちは素早くその巨体から離れた。
そして、そこから数秒も経たないうちに、様々な魔法が撃ち込まれる。
【岩兵・ラックス】を中心に爆炎が吹き上がり、ゴーレムの声なき悲鳴が聞こえたような気がする。
そんな中、1人の魔法職プレイヤーが強力な【魔法】を撃とうと用意を進めていた。
そのプレイヤーは勿論アルル。
放とうとしている【魔法】は恐らく最近創ったと言う新しい【個別魔法】だろう。
霊峰ヤフック山に来るまでに得意気に話していたアルルの姿が思い浮かぶ。
「―――――焼き尽くせ!!【地獄の業火】」
地面を揺らす程の激しい炎が吹き出す。
【岩兵ラックス】を囲む様に吹き出した炎はまるで意志を持っているかのように動き、目標を焼き尽くさんとうねる。
見るからに強力な【魔法】だ。
アラタはその威力を冷静に分析していく。
(威力としては……【極限魔法】とまでは行かないだろうけど【最上級魔法】くらいの威力は普通にありそうですね……あの感じを見るに一点集中という使い方もいいですけれど、広範囲を焼き払うのにも便利そうです)
そう考えながらアルルの方を見る。
どうやら【地獄の業火】を撃ったせいでMP切れを起こしたようで、回復アイテムを使用していた。
【魔術師】になったばかりのプレイヤーがMP消費の激しい【極限魔法】に迫る威力の魔法を放てるだけでも破格だろう。
それほどに【個別魔法】というのは有用性が高いのだ。
未だ警戒を解かないプレイヤーたち。
その姿に感心したと言わんばかりに頷くアラタ。
倒しきったという確証がないにも関わらず気を抜くのは『死』と同意義であるためだ。
アルルの放った【魔法】が消え、その姿が目視できるようになる。
そこにあったのは表面を融解させた【岩兵・ラックス】。
倒しきれなかったかと再び戦士職のプレイヤーが前に出ようとするが、その必要は無かったようで、【岩兵・ラックス】は轟音を響かせながら身体を瓦解させていく。
―――――戦闘時間43分26秒。
【レイドボスモンスター】である【岩兵・ラックス】との戦いが今終わりを告げた。
一瞬の静寂の後にプレイヤーたちは両腕を上げて喜びを表す。
そんな姿を見ながらアラタを素直に拍手を送った。
同じギルドの仲間である皆には失礼だが十中八九負けるだろうと予想していたのだが、その予想を覆し危なげなく勝利を納めたのだから。
「―――――『アラタ』さんっ!」
元気に名前を呼びながらアラタの元に駆け寄って来るアルル。
アラタはそんなアルルの姿を見つめながらニコリと笑う。
「流石は私の……俺の後輩ですね。
今回は負けると思っていたんですけど、まさか勝ってしまうなんて」
「負けると思っていたんですかっ?!
酷いですよぉ〜……」
「レベル差がギリギリでしたから……全員が綺麗に一撃を貰えば危ない状況でしたし。
そんな中で約45分も集中力を切らしませんでしたね」
素直に驚いたと言わんばかりの表情でアラタが言うと、アルルは興奮した様子で口を開く。
「流石は【高天ヶ原】に所属しているプレイヤーさんたちですねっ!!
前衛の戦士職の皆さんなんて私たち後衛に攻撃だったり【敵対心】が集まらないように上手く動いて下さいましたしっ!
【回復役】の皆さんもしっかりとHP管理をしていてとても安心して戦えましたっ!!」
「しっかり皆育って行ってくれてるみたいで良かったですよ。
これでわた……俺の引率も終わりですね。
しっかりと『ユウノ』さんに報告しないと」
良い意味で予想外の結果に報告が楽しみになるアラタ。
アルルはそんなアラタをみながら不思議そうに言った。
「『アラタ』さんって私だったり新人のプレイヤーにも敬語を使うんですね」
「あ〜……そうですね。
私は……いえ、俺は【十二天将】の中でも1番新人ですから。
皆さんと会話してるといつの間にか敬語が染みついちゃって……こっちの方が話しやすいので皆にこういう話し方ですよ」
日頃からの言動が染み付いてしまっているという話に納得の表情を浮かべるアルル。
「そうなんですね……。
でも、私は『アラタ』さんの後輩ですから!
敬語じゃなくてもいいんですよ??『先輩』っ!」
にっこりと笑いながらアラタの事を先輩と呼ぶ。
何気ない一言だったがアラタはその一言が大層嬉しかったようでほっこりとした表情を浮かべていた。
「せ、せんぱい……あぁ……なんと甘美な響きなんでしょう……っ!」
アラタはアルルの頭を撫で始める。
「うぅ〜!
魔法職じゃなくて戦士職だったら私が付きっきりで教えてあげるのにぃ〜っ!!」
「あ、『アラタ』さんっ!
くすぐったいですよぅ〜」
「可愛いなぁ可愛いなぁ〜♪」
そう言ってじゃれ合う2人。
ユウノがこの場にいれば思っただろう。
犬娘がじゃれあっている、と。
アラタは一人称を私から俺に正すことも忘れ、アルルを撫で回す。
撫でられているアルルは嬉しそうに尻尾を振りながら受け入れていた。
その後、満足したらしい2人は残りのプレイヤーたちを連れて『トウキョー』に帰るため、霊峰ヤフック山にある【地域間転移門】へ向かうのだった。
「『アラタ』さんって結構無理して俺って一人称使ってるんですね?
やっぱり『ユウノ』さんを意識してなんですか?」
「ま、まぁ、そうです……よ?」
「へぇ〜ふぅ〜んほほぉ〜ん」
「な、なんですか?!『アルル』っ!!」
「いえいえ、ただ、先輩も可愛いなぁって」
「どういう意味ですかっ?!」




