終戦
このお話を書いていて思いました。
アラタがラスボスっぽい!!!!
そして何故かガルドが主人公っぽい!!!
―――――【神話族】。
『World Of Load』において均整を壊すな【種族】だと言われている。
全体的なステータスがどの種族よりも高く設定されており、誰もが憧れる【種族】だ。
しかし、【神話族】になるためには【専用職業】を獲得し、その副次効果で【種族】を変化させるしかない。
その上、【専用職業】を獲得すれば、必ず【神話族】になれるという訳でもなく、【専用職業】の中でも限られた【種族】のみが【神話族】に変化することが出来るため、超低確率を引かなければならない。
そして、この【神話族】最大の特徴であり、強みは一つの特殊な【技能】にある。
その【技能】の名前を―――――【種族解放】。
【HP】、【MP】を消費し続けるタイプの【技能】であり、その効果は獲得した【神話族】によって様々である。
ただひとつ言えるのは【HP】、【MP】を消費し続けるというデメリットをデメリットとも思えないほどの効果が出るということだ。
―――――そんな、超レアであり、均整を壊すな【種族】にも、勿論弱点は存在する。
例えば、【神系統】の【神話族】という【種族】は【人間】から与えられるダメージが増加してしまう。
それは、【神】というものを倒すべきは【人間】という意味が込められているからだろう、というのが『World Of Load』をプレイする者たちの考えだ。
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それは戦いとは呼べなかった。
いや、呼ぶべきではないものだった。
「り、理不尽……だろ……そんなの……」
【防御系技能】を使用したにも関わらず一撃のうちに倒されたプレイヤーはそう呟く。
確かに【HP】は全快では無かった。
レベル差はあったかもしれない。
自分はまだメイン職業のレベルを80までしか上げれていないし、サブ職業も殆どが上げきれていない。
それでも一撃なんて理不尽だろう。
―――――心が折れる音がした。
「次ィ!!!!」
アラタは雷を焔を自らの身体から迸らせながら日本刀を振るっていた。
今アラタに襲いかかっているのは殆どが影で作られた偽物のプレイヤー。
しかしその中には未だ心の折れていないプレイヤーが混じっている。
アラタの【専用職業】。
それは【武神】という【職業】だ。
【種族】を【神話族】に変化させる希少な【職業】であり、その【種族名】は―――――【神・武甕槌】。
今から約半年前に行われた特殊イベントにより獲得が出来た【職業】。
そのイベントとは、報酬に2種類の【専用職業】、それも【神話族】に変化することの出来るものに転職出来るチャンスが与えられるという『World Of Load』のプレイヤーならば全員が生唾を飲むようなイベントだった。
片方は戦士職系プレイヤー向けに、片方は魔法職系プレイヤー向けの【専用職業】。
ただ、その参加条件がなかなかに厳しかった。
『イベント開始時に【ニッポン】に居り、メイン職業が【上位職業】であり、尚且つそのメイン職業のレベルが100であるプレイヤーのみ』というものだった。
この情報が公開された途端にこのイベントは開始された。
つまり、【ニッポン】に居なかったプレイヤーは参加すらすることが出来なかったのだ。
普通、こんなイベントがあればプレイヤー側が苦言を申すだろう。
―――――しかし、『World Of Load』ではそれが起きなかった。
勿論ゼロというわけでは無かったが、ほとんどのプレイヤーは仕方の無いことだと諦めた。
その理由としては、こう言った告知のあるイベントが約半年に1回、各地で行われていたからだ。
アラタの戦う場所より後方では、2人のプレイヤーが不動の体制でそれを観ていた。
白い狐面を被っているために表情が伺えないユウノ。
その隣に立つ自然体のユウギリ。
戦闘と呼べるかすらわからない目の前の光景に参加する意思は勿論ない。
「くっ……!!!
魔法職!!用意はまだか!!」
流石と言うべきだろうか。
ガルドの使用している【要塞顕現】はたまに飛んで来る流れ弾を全て弾き、守られたプレイヤーは1人としてダメージを負っていなかった。
しかし、その声音に余裕の色はない。
「い、行けます!!」
そんなガルドの声に応えたのは準備をしていた魔法職のプレイヤーたち。
各々の最大火力を出すために【支援魔法】を掛け合い今ようやく準備が終わったのだ。
―――――だが、アラタはそれに気が付かないほど愚かではなかった。
目の前のプレイヤーを斬り裂くと、一瞬でガルドの、【要塞顕現】の目の前まで移動したのだ。
「……ッッッ?!!」
声にならない悲鳴のような声が上がる。
「が、ガルドさん!!
この距離だと……っ!!」
叫んだプレイヤーの言わんとすることはガルドにも伝わる。
味方討ちのある『World Of Load』ではこんな至近距離に【魔法】を放ってしまえば巻き込まれてしまう。
「良いから撃て!!
俺の【要塞顕現】を舐めるなッッッ!!!」
ガルドは絶叫にも似た声で指示を飛ばす。
それは自分の【技能】に自信を持っているから。
タワーシールドを握る手に更に力を入れる。
その姿を見せると同時に、ガルドの背後から魔法職のプレイヤーが【魔法】を放つ。
放たれた【魔法】は全てが【最上級魔法】以上の威力を持った広範囲を攻撃するものだった。
閃光、そして着弾。
【魔法】により巻き上げられた粉塵がおさまり始めた頃、【要塞顕現】は姿を消す。
流石に先程の【魔法】を直撃はしていないにしても、あれほど近距離であればかなりのダメージが入ってしまう。
【要塞顕現】の防ぐことの出来るダメージの許容範囲を超えてしまったため、消えたのだ。
どれほどの移動速度があったとしてもその範囲からは逃げられない。
なんなら奥にいた2人も纏めて倒せたのではないか。
これで勝ったのだと、ふうと息を吐くも、何かがおかしい。
―――――何故勝利宣言が表示されないのか。
ガルドの頬を冷や汗がつぅと伝う。
舞い上がった粉塵が完全におさまり、そして答えが見えた。
「ふぅ〜……危なかった……。
流石にアレが直撃しちゃったら死んじゃいますよ……」
―――――全くの無傷。
いや、土埃などで汚れてはいるが、ダメージを負っているようには見えなかった。
奥にいた2人も障壁を張って防いでいる。
アラタは今も尚雷と焔を迸らせている。
その勢いは衰えるところを知らないようで、もしダメージを与えているとしても信じられないほどの姿をしていた。
どのように先程の【魔法】を避けたというのだ。
ガルドは混乱する。
ユウノもそうだが、このアラタという少女も非常識の塊ではないか。
「違いすぎる……」
それは自然と漏れた言葉だった。
ガルドがこの【戦争】を挑んだ時、勝率は高くはないと思っていたものの、全員でかかれば1人を倒すくらい出来ると本気で思っていた。
しかし、現実を見ればどうだ。
自分が想定していた以上に彼らは非常識の世界で生きているのだと実感させられた。
これがギルドランク1位の【高天ヶ原】。
世界中で『World Of Load』をプレイするプレイヤーたちの頂点。
ガルドは握りつぶさんばかりにタワーシールドをキツく握った。
実力差を見せられたとして、自分が早々に諦めるわけにはいかない。
自分は【新しい夜明け】のギルドマスターなのだから。
「ウォォォォォォオオッッッ!!!」
自分を鼓舞するように叫び声を上げる。
そして、タワーシールドを持ち上げるとその影に身を隠しつつアラタに向って突進を開始した。
ガルドの【専用職業】は盾しか装備することが出来ない防御特化型の【職業】だ。
だからと言って攻撃手段が無い訳では無い。
盾を相手に叩きつける【シールドバッシュ】。
盾を持ち相手に突進する【シールドチャージ】。
通常では相手を怯ませる程度の威力だが、この超重量のタワーシールドで行えばそこらの棍棒やハンマーより威力が出る、歷とした攻撃になる。
首をかしげて動こうとしないアラタにこれは都合がいいと全力で突進する。
【二つ名】を【若武者】と呼ばれるプレイヤー、アラタ。
しかし、その武器は細身の刀剣である日本刀だ。
力負けして押されることはまず無いと判断したガルド。
「オラァッッッ!!!」
全体重を乗せた【シールドチャージ】がアラタを襲う。
―――――が、それは予想外の方法で防がれた。
いや、予想したくない形で防がれたのだ。
衝突したのはガルドのタワーシールドとアラタの日本刀の切っ先。
勿論この時のアラタは素の状態で止めた訳では無い。
その証拠にアラタの足元は不自然に陥没していた。
【特殊技能】―――――【不動】。
【武神】が使用できる【技能】で、1度使用するとしばらく使えない【技能】であるものの、その効果は『使用したプレイヤーの両足が地面に着いている場合、受ける物理ダメージを完全に地面へ逃がす』というものだ。
ガルドはそれでも諦めず押し返そうとする。
しかし、ガルドが前に進むことは無かった。
「……確か、あなたがギルドマスターでしたね」
アラタはそう呟くと狙いを定めたというふうにガルドを見つめる。
「先に潰させてもらいます」
「は……っ?!!」
先程まで全く進めず、まるで巨大な壁でも押しているのではないかと思っていたのに、突然前に体が進む。
いや、進むというより倒れると言った方が正しいだろう。
アラタがガルドの前から消えたのだ。
そして再び現れたのは無防備なガルドの背後。
「ふっ……っ!!!」
「ぐぅ……っ?!」
振るわれたアラタの日本刀。
全身鎧の薄い所を狙いすましたかのように斬りつける。
ガルドは崩れた体制を即座に立て直し、タワーシールドを振るう。
だが、それはアラタに当たるわけもなく、空を切った。
「流石に硬いですね」
「……当たり前だろ。
俺は防御特化型なんでな」
「攻撃しないと勝てませんよ?」
アラタの言葉にガルドはニヤリと笑う。
「分かってるさ―――――なぁ!!」
まるで合図のようなガルドの声。
そして、アラタの左右から鎖鎌が飛来する。
「くっ……!」
それを斬り払い、バックステップでその場から離れるアラタ。
しかし、それを追尾するかのように暗器がアラタを襲う。
いくら斬り払っても霧散したあとに別の暗器が襲ってくる。
キリのないこの状況にデジャヴュを感じたアラタ。
「影……っ!!」
もう一人の【専用職業】を持つ【新しい夜明け】側のプレイヤー。
彼女がアラタを攻撃しているのだ。
「なるほど……攻撃はあっちですか……」
アラタを睨みつけながらひたすら攻撃を続ける女性プレイヤー―――――【ヤクロ】。
その攻撃はアラタをガルドから引き離すように続けられ、しばらくの後に、ガルドとヤクロは合流する。
この2人のコンビが【新しい夜明け】の切り札と言っても過言では無い。
事実、今までの【戦争】ではこの2人が勝利の鍵となっていたのだから。
【新しい夜明け】のプレイヤーたちはそんな2人を守るように立ちふさがる。
そんな様子を見たアラタは―――――ため息を吐いた。
そして、アラタは自らのメイン武器である【布都御魂剣】という名の日本刀を中段に構える。
「―――――行きます」
小さな短い呟き。
アラタは走り出す、まるで転移しているかのように。
そこからの展開は早かった。
アラタは手加減していたのかと言わんばかりにプレイヤーたちを倒していく。
しかし、先程のように一撃とは行かなかった。
理由は【種族解放】を解除していたから。
【HP】と【MP】を消費し続けると言うのは流石にまずかったらしく、呟く時には雷も焔も迸ってはいなかった。
そんな中でも最後まで残ったのはやはりガルドとヤクロ。
ヤクロを倒そうとすればガルドが割って入り、ガルドを倒そうとすればヤクロが攻撃を加えるのだ。
しかし、それも長くは続かず、2人の持つ回復アイテムが尋常ではない速度で消費されるのを見れば、勝敗は火を見るよりも明らかだった。
―――――そして、終わりは来る。
まず倒されたのはヤクロ。
ガルドの【MP】が切れ、防御が間に合わなかったのだ。
ヤクロが倒された数秒後にはガルドも瀕死の状態まで追い込まれ、最後には首をはねられ、倒された。
最後の一人であるガルドを倒した際に【高天ヶ原】のメンバーの目の前にはウィンドウが浮かび上がる。
『WINNER【高天ヶ原】!!』
こうして、【高天ヶ原】と【新しい夜明け】の【戦争】は幕を閉じた。
お読みいただきありがとうございますっ!!
ひとまず今後の予定としては後日談的なものを1話書いたあとに、【高天ヶ原】のプレイヤーたちの設定を少し書こうかと思っています!
ちなみに今回の設定では全員の【種族】や【職業】は書きませんので御安心を!
書くのは今までに登場したものだけですので!
あとはキャラクターの見た目などを少し詳しく書ければと思っています!
今度とも読んでいただけると幸いです!