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戦闘開始

―――――ザッザッザッ……


人気のない荒廃した街、抉れ、盛り上がり足場の悪いアスファルト製の道路の真ん中を堂々と3つの人影が歩むそんな音が響く。


油断しているようにも警戒しているようにも見えるその人影はしばらくの間そうやって歩みを止めることは無かった。




「―――――居るな……」


ユウノはぽつりと呟く。

しかし、そう言ったユウノたちの周りには人影などひとつもない。


「斬りますか?」


鯉口を切りつつアラタは抜刀の構えを取る。

そんな様子を見たユウノは手で制す。


「仕掛けてくるまで待て」


わざと後手に回る、ユウノはそう言っているのだ。

アラタが腰の日本刀から手を離すのを確認し、ユウノは一層ゆっくりな歩を進めた。


静寂の中、段々と緊張感が高まってくる。

それはユウノたち3人のものでは無い。


―――――仕掛けようとしている敵のものだ。


対してユウノたち3人は緊張など感じさせず、ただ自然体で歩を進めているだけだった。


そんな3人を見つめる敵は思う。


何故にこんなにもあいつらは冷静なのだ、と……。


周囲は既に囲んでおり、何時でも襲いかかることが出来る。

それにも気がついているのは重々承知だ。

優位なのは自分たちのはずなのに、それでも自分たちが罠を仕掛けている場所にまるで吸い込まれるかのように向かっている3人が不気味でならなかった。




ピタリと、ユウノたち3人の歩みが止まる。


―――――そこは開けた交差点。


ユウノたちが入ってきた道路以外の三方向は、おそらく【新しい夜明け(ニュー・ドーン)】のメンバーがやったのであろう。

瓦礫や廃車で通れないようにされていた。

その上交差点を囲むビルは廃れているものの、作りは立派であり、そう簡単には壊せないだろうけれど、崩れている壁が存在している。

―――――見事に死角が存在している場所だ。


そして、ユウノたち3人が進んできた方向から、複数の人影が現れる。

その数はざっと10ほど。

新しい夜明け(ニュー・ドーン)】の参加メンバーが55だと考えると出てきたのは少ない方だろう。


ユウノは狐面を軽く触り、着け心地を確認し直す。


「……初撃は不意打ちを喰らわせて来るって予想が外れたな」


柄頭に手を乗せつつ現れた敵を見据えるユウノ。

自然体なその姿が逆に隙がないことを伝える。


「アンタらに不意打ちなんて効かないだろうしな。

それに、俺とこいつのは不意打ちに向かない【職業】なんでね」


「……なるほどね……お前がギルドマスターか」


会話の内容から目の前に立つ10人のうち先頭に立つ2人、口を開いた方がギルドマスターだと判断し、イカルガが集めてきた情報を頭に浮かべる。


防御特化型と魔法職の2人が要。


―――――1人は全身鎧(プレートアーマー)に全身が隠れるほど巨大なタワーシールドを持った男性プレイヤー。


―――――1人は魔女のようなローブを身に纏い、短杖(ワンド)を持っている女性プレイヤー。


つまり、目の前にいる2人が【新しい夜明け(ニュー・ドーン)】の要のメンバーということだろう。

そうなると残り3人はと素早く周りに視線を回す。

それらしい姿は見えないが、何となく何処に居るのかは感じられている。

不意打ちをされることは無いだろうと、そこで考えを打ち切り、眼前の的に意識を向けた。


「ギルドマスターかどうかなんて些細な問題だろ?」


「そうでもないぞ?

ギルドマスターってのはそのギルドの長だ……だからな、それが倒されるとほとんどのギルドの士気が落ちる……。

―――――つまり最初に狙えるなら狙うべきプレイヤーなのさ」


言葉を紡ぎ終えた途端、ユウノは踏み込む。

相手にはユウノが消えたかのように見えたであろう速度で【新しい夜明け(ニュー・ドーン)】のギルドマスターであろう男に斬りかかったのだ。


しかし、辺りに響いたのは金属同士が擦れ合う音。

ユウノの一閃をタワーシールドでガードしたのである。


「あっぶな……っ!」


「まぁ、これくらいは防ぐよな」


満足げにユウノはそう言うとバックステップで元の場所に戻っていく。

どうやら今の行動を目で追えたのはアラタ、ユウギリ、そしておそらく要と呼ばれる2人のみだろう。


「さてと、何となく実力も分かったことだし……やろうか」


そのユウノの一言で【高天ヶ原(たかまがはら)】側は即座に戦闘態勢に入る。

アラタは抜刀し、青眼に構え、ユウギリは自然体のまま、しかし目付きを真剣なものに変えていた。

勿論、ユウノも構えを取っているものの、その構えは何処か脱力しているようにも見え、抜刀された日本刀の切っ先が地面を向いている。


「隊列を組め!

俺が先頭で防御に専念する!

後方から狙い打て!」


全身鎧のギルドマスターらしきプレイヤーは自ら先頭に出てタワーシールドを構える。

それに守られるかのように他のプレイヤーは一歩後ろに下がり、武器を構えた。


「【要塞顕現フォートレス・ウォール】!!」


タワーシールドをまるで地面に埋め込むのを目的かのように叩きつけ、【能動型能力(アクティブ・スキル)】を発動させる。

すると、タワーシールドを中心に、光の壁が生み出される。

ユウノはそれを見ると、冷静に指示を出す。


「ユウギリ、1発打ち込んでもらえるか?」


「分かりんした。

―――――【焔の嵐(フレイム・テンペスト)】」


ユウギリがそう唱えると魔法陣が浮かび上がる。

赤の複雑な魔法陣からは、まるで暴れているかのような暴風に、煌々と燃え盛る焔が混ざり合い、今にも辺り一面を焼き尽くしてしまいそうなものが打ち出される。


【魔法】にはそれぞれランクが存在する。

【初級魔法】、【中級魔法】、【上級魔法】、【最上級魔法】、【極限魔法】の順番で威力も増すが、その分消費魔力量も増える。


ユウギリが使った【焔の嵐(フレイム・テンペスト)】は【中級魔法】に分類されるものである。


【中級魔法】とは言ったものの、ユウギリのステータス、そしてレベル補正、職業補正によりそこらの【魔術師】が使う【焔の嵐(フレイム・テンペスト)】よりも威力は上がっている。


―――――しかし、ユウギリの魔法は光の壁に衝突し、それ以降への進行は出来なかった。


「……【要塞顕現フォートレス・ウォール】……聞いたことない【技能(スキル)】だな……やっぱり『イカルガ』が言っていた【専用職業(リミテッド・ジョブ)】ってのは間違いなさそうだな……」


目の前に広がった光景にそう呟く。

ユウノが想定していた【防御系技能(スキル)】よりも性能が高い。

瞬時にユウノはギルドマスターらしきプレイヤーを後回しにすることに決める。

その判断の良さがユウノの行動に影響した。




突如、周りから飛来する矢やクナイ、【魔法】に一瞬瞳を見開き、ユウノとアラタはユウギリを挟む形でそれを斬り落とす。

【魔法】を斬る【防御系技能(スキル)】―――――【斬消(ざんしょう)】である。

その効果は『【魔法】の中心を斬ることで、武器の性能により【魔法】を切断する』だ。


「……不意打ちは効かないって思ってたんじゃないのか?」


「『嘘も方便』って言うだろ……?」


少しもダメージを負っていないユウノたちを睨みつけるかのようにして言葉を吐き捨てるギルドマスターらしきプレイヤー。

ユウノたちの周りには今まで姿は隠していた【新しい夜明け(ニュー・ドーン)】のプレイヤーたち、総勢55名が囲んでいた。

四方を囲む形でそれぞれが武器を構えて戦闘態勢に入っている。


アラタは今にも飛び出しそうな前傾姿勢でユウノの言葉を待っている。

まるで餌を前に『待て』をされた猟犬と言ったところだろうか。

ギラギラと瞳が輝いていた。


「『ユウギリ』、こっからは支援頼むわ」


「分かりんした。

……ただ、わっちも自衛はさせてもらいんすよ?」


「勿論、それはいいぞ。

さて……―――――『アラタ』」


「はい、『ユウノ』さん」


互いに視線を一度交わらせ、笑う。




「―――――斬るぞ。

俺たちが出来るのはそんくらいだ」


「異議なし、です……っ!!!」


そこからの2人の速度ははっきり言って『異常』だった。

20メートルは離れていたであろう、四方を囲むように構えていた【新しい夜明け(ニュー・ドーン)】のプレイヤーの目の前に突如出現したのだ。

1度は見たその光景だったが、それを自らの目の前でやられるのとは別の話で、誰一人覚悟のできぬままユウノ、アラタと相対することになる。


「な……っ?!!」


「驚いてる暇があるなら守ったらどうだ?」


―――――横一閃。

スピードの乗ったその太刀筋から逃げることは叶わず、先頭に立っていたプレイヤーを綺麗に斬り裂く。

溶けるように消えていく姿を確認し、一撃のうちに屠ったのを確信するユウノ。

どうやらレベル差が酷かったらしい。

チラリとアラタの方を見れば今ユウノの目の前で起きたことが向こうでも起きていた。


「ふっ……はっ……!」


ユウノの目の前では1人が完全に屠られ、事実を飲み込んだらしいプレイヤーたちが攻撃を仕掛けようとしている。

しかし、ユウノにとってはそれは酷く遅いもので、躱しつつ、プレイヤーを斬る。

袈裟斬り、兜割り、真っ二つ逆袈裟斬り。

様々な方法でプレイヤーたちを斬り、屠るものの、違和感を感じた。


―――――数が減らない。


おかしい。

55しかプレイヤーは参加していないはずだ。

ユウノが感じたものと同じものをアラタも感じていた。

2人は合図をするわけでもなく、最後に1人斬り裂くと、ユウギリの元、交差点の中心に戻る。


「……やけに手応えがない上に減らないです……」


「同感だ……どうなってやが―――――」


そして、その理由をユウノは知ることになる。

タワーシールドの後ろ、【要塞顕現フォートレス・ウォール】に護られて魔女のようなローブを身に纏った女性プレイヤーが何かを作っている。


―――――それは黒い影だった。


自らの影から人の形をした黒い影を生み出していたのだ。

次の瞬間、その影の人形は先程までユウノたちが戦っていたプレイヤーの姿に変化する。


「……なるほどな……」


「私……俺たちはプレイヤーじゃなくて影で作られた人形を無駄に倒していたんですね……」


2人のそんな言葉にユウギリは少々驚いたように口を開く。


「気がついてなかったんでありんすね。

わっちは気がついていながらわざとやってると思っていんした」


「……気がついてなかったんだよ」


「……どーせ私……俺たちは脳筋ですよ〜だ……」


ユウギリの言葉にイジける素振りを見せる2人にくすくすとユウギリは笑う。


「ほらほら、しっかりしなんし。

誰もそんなこと言ってないでありんしょう?」


まるで子供をあやす母親のように、弟を元気付ける姉のように2人の頭を撫でるユウギリ。

いつもの雰囲気とはまた別のものだ。


―――――しかし、そんな3人には絶え間なく【魔法】が打ち込まれていた。

ビルからも放たれているのを見るに、本物のプレイヤーたちはそちらに隠れていたのだろう。


そんな、雨のような【魔法】攻撃を防いでいるのは勿論ユウギリ。

3人を囲むように半円状のドームが【魔法】から身を守っていた。


幾層にも重なる繭(コクーン・ドーム)


消費魔力に比例して強固になる防御系【上級魔法】である。


「影を使う【職業】とかあいつを見てるみたいだな……」


ユウノは自らの仲間の姿を思い浮かべる。

しかし、それは似ているだけで実力差は歴然としていた。


要塞顕現フォートレス・ウォール】をじっと見つめていたユウノはぽつりと呟く。


「一定ダメージまでを完全にガードする【技能(スキル)】って所か……デメリットは行動不能、かね……」


外側からの攻撃は完全に通さず、逆に内側の味方の攻撃は通す。

まさに要塞と言ったところだろうか。

ユウノの呟きにアラタ、ユウギリは頷く。

どうやらその場にいる3人は同意見だったらしい。


「―――――んじゃ、一定ダメージ以上の一撃打ち込むかね」


「そ、それ、私……じゃなくて俺がやってもいいですか?!」


忘れた頃にやって来る。

アラタに犬耳と尻尾を幻視する状況だ。

ユウノもユウギリも、そのアラタの姿にクスリと笑いをこぼす。


「いいぞ、やっちまえ」


「はいっ!!!」


アラタの【職業】から考える、に【要塞顕現フォートレス・ウォール】を破れるだろうと判断し、ユウノは許可を出す。


人間(ヒューマン)】である自分よりも【神話族】であるアラタの方が、単発威力は上回っているだろう、そう考えたのである。




「……取り敢えずこの【魔法】の雨を何とかしないとな……」


未だ止まない【魔法】にうんざりとした表情を浮かべる。


「わっちの半分の魔力を込めんしたけど、流石にそろそろ壊れそうでありんす……」


「それはそうだろうな……」


深いため息を吐いたユウノは腰の日本刀に手を伸ばす。


「俺が出て露払いしてきてやるよ」


抜刀するユウノ。

()()()に日本刀を握っていた。


これがユウノの本来のスタイル。




「―――――さぁて……行きますか……ね……」













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