第四戦1VS1②
全く更新が出来ていないのに皆様読んで頂きありがとうございます……!
「――――避けてばっかで楽しいのかよオバサンっ?!」
「当たってあげたいんだけど……この程度じゃ……ねぇ?」
「絶対シバく……っ!!!」
言い合いをしながらもヒィロが繰り出してくる攻撃はみぞおちを始めとして肝臓、腎臓、心臓、顎、喉、眼、頸椎、こめかみなど的確に急所を狙っており、その軌道も変幻自在。
躱されると察知すればその途端に別部位への攻撃へと転換させる。
――――しかし、その攻撃がひとつたりともアマネにかすることすらなかった。
【的場鴉――――二尾の傘】と呼ばれる一張りの優美な和傘を携え、まるで花びらが舞うように軽やかに躱す。
「この……っ!!」
苛烈なまでのヒィロの攻撃は止む気配を見せず普通ならば息切れのひとつでも起こしてしまうであろう動きが繰り出され続けていた。
この戦いを見ている者からすればがむしゃらとも言える程必死なヒィロと涼し気な雰囲気すら感じさせる余裕なアマネという分かりやすい対比に【実力差】という言葉が頭に浮かぶだろう。
戦闘が開始されて六分ほど経った頃、突然アマネ、ヒィロの両名が程々の距離を持って動きを止めた。
「――――それで?やっと準備運動は終わり?」
「……なーんだやっぱりわかってたんだ?」
先程までのがむしゃらとも言える程の必死さは幻だったかのようにヒィロが言う。
「私はエスパーじゃないんだから分かるけないでしょう?
……初めに大口叩くくらいなんだからあの程度なわけがないって言う期待を込めてたのよ。
――――大したこと無かった時は……分かってるわよね?」
獰猛な獣を眼前に感じさせるアマネの威圧。
絶対なる狩人のそれはヒィロを萎縮させる――――ことはなくむしろ闘争心を煽りコンディションを最高へと上り詰めさせる。
「まぁまぁ落ち着いてよオバサン。
オレってばこう見えてスロースターターなワケ。
……でも、さぁオバサン――――」
いちいちオバサンと呼んでくるヒィロに頬が引き攣り始めたアマネであったがそんなことはどうでも良くなるという予感がしていた。
その予感は――――ようやく楽しむことが出来るだろうという、隠していては負けてしまう。
だから全力を出しても仕方がない、そんな理由を使える予感だ。
「――――封印を解かないと使えない力ってロマンあるじゃん?」
「――――それは同意するわ」
ヒィロから初めて見えた素の不敵な笑み、それを見たアマネの九つの尻尾が感情とリンクしたかのように嬉しそうに踊り予感が的中した事を悟る。
「――――『覚醒』」
ヒィロの銀灰色の毛並みが白銀に染まり全身を覆いつくす。
それと同時に鼻口が伸びてゆき立派なマズルとなり鋭い犬歯をギラつかせた。
人間らしさがほんのり残りほとんど獣という特徴を発現させたその姿は――――まさに人が混じった狼。
四足歩行の体勢を取りつつ鋭い眼光をアマネに向けたヒィロは息を吐く度に焔を散らし、踏みしめる大地を凍りつかせる。
「――――そんじゃオバサン。
一瞬で片付けるからみっともなく泣かないでよね?」
より一層生意気な口を叩きつつもなるほど自信があって然るべきな雰囲気を纏っていた。
――――頬が緩む。
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『World Of Load』に存在する種族。
それは大きく分けると5種類に分けることが出来る。
【人間族】、【獣人族】、【長命族】、【異種族】、【神話族】。
細かく分けるとキリがないほどに多い種族だが均衡を壊すの筆頭である【神話族】にまるで対抗するかのような【種族】がある。
【神話族】にも引けを取らない特殊さを持つ【異種族】に分類される――――【大罪シリーズ】。
超大器晩成型ながら【神話族】に肩を並べるステータスを持つ【長命族】に分類される――――【古代シリーズ】。
【神話族】をも超える可能性を秘めた【人間族】に分類される――――【英霊シリーズ】。
そしてヒイロが持つ【獣人族】に分類される――――【神獣族】。
実在はしない、しかし永きを語り継がれてきた獣の姿を持つ伝説上の生物――――その名を冠した種族だ。
ヒィロが持つ【神獣族】その名は――――【神喰らいの銀狼】。
【獣人族】に分類されていることから運動能力が高いのは当たり前として真の力は目を見張るものがある。
――――しかし。
その身を【六ツ束ねし魔法の紐】によって拘束されていたという神話からか、初めから真の力を出せる訳では無く、6つの条件を達成する毎に真の力を解放することが出来る。
ひとつ――――敵の前に連続5分以上姿を晒すこと。
ひとつ――――武器を持たずに戦闘を行うこと。
ひとつ――――自らの能力を使わずに連続3分以上戦闘を行うこと。
ひとつ――――自らの勝利を疑わずに戦闘を行うこと。
ひとつ――――敵に【神】や【伝説上】の名を冠したモノがあること。
ひとつ――――上記5つを達成して【覚醒】を行使すること。
アマネと戦闘を行うヒィロはこの全ての条件を達成する事に成功。
【神話族】に勝るとも劣らない真の力を十全に発揮出来る状態となっていた。
「――――はっやいしおっもい……!」
「へぇ〜オバサン反応できるんだ?」
二人には程々の距離が空いていたのにも関わらずヒィロはアマネの側頭部へのハイキックを、アマネはそれを見事に閉じた和傘によって防ぐという超至近距離に。
――――移動と呼ぶにはあまりに速い。
正しく瞬間移動とも言えるヒィロの動きに脳が判断するよりも先に身体が動いたアマネは攻撃を何とか防ぐことができていた。
ヒィロは防がれた脚を和傘ごと自らの身体へと引き寄せたかと思えば軸足となっている左足で跳躍しそのままの勢いで変則的な左回し蹴りを放つ。
流れるような体捌きにアマネも一瞬巻き込まれかけたものの敢えて体勢を崩すことにより新たな軸足となった右脚のバランスを狂わせ変則的な左回し蹴りを紙一重に上へと逸らす。
ヒィロは逸らされると分かった瞬間当てることは諦め次の動きへの準備へと移っていた。
足での着地は諦め右脚で引き寄せていた和傘を離し蹴り出すと身体が頭を下に地面へ向けて落ちる。
もちろんそのまま地面へ激突するなどということはなく初めに地面に触れるのはヒィロの両手。
――――手のひらで地面を弄び、身体を舞い踊らせる。
急激な回転を加えられたヒィロの身体は遠心力を殺すことなく足へと伝えアマネの側頭部をつま先で刺す。
「っ……!」
体勢を崩していたアマネであったがその攻撃を片手で防ぐと攻防のリセットのためなのか一足で跳躍し距離を置く。
ヒィロはそんなアマネに追撃を加えることなく大人しく行動を見守っていた。
視線を切らすことなく互いを見つめ先に沈黙を破ったのはヒィロ。
「――――ねぇオバサン。
このまんまだとホントに一瞬で終わっちゃうんだけど?」
若さゆえの過多な自信――――否、これまでのヒィロの積み重ねてきた努力と正しき才能を開花させたことによる自負からかうっそりと立ち上がる慢心。
「オバサンも俺と同じなんでしょ?
早く使ってよ――――弱いものイジメじゃん?」
眼前の敵を自らよりも下位に置いた香りを感じた。
アマネは口元を緩めて目を細める。
――――ヒィロの強さは今のままだと少々不味いのは間違いない。
――――生意気なちびっこには分からせてあげる必要があるのではないか。
――――そもそも最近の不完全燃焼具合から我慢するのも限界が来ていた。
――――理由ミツケタ。
「――――『覚醒』……」
アマネの声が凛と通る。
腰から伸びる九つの狐尾が毛を逆立てて揺れた。
どのような変化が起きるのかとヒィロは楽しみにしながらもわざわざ変化が終わるのを待ってあげる義理はないと突撃する。
ヒィロのスピードがあれば一撃とは言わず数回の攻撃が可能だろう。
敢えてフェイントなど混ぜない一直線でアマネへと向かい最速でまずは一撃――――。
脳内では攻撃を組み立てながら瞬きの合間にアマネへと接近していた。
荒ぶる獣が襲いかかるかのように技術ではなく速度重視の腕による薙払い。
「――――【解放】」
蒼き炎が揺らめき鋭き風が斬り裂く。
――――嫌に耳に残ったのは鈴の音だった。




