前夜
内容の変更などについては活動報告などで報告させて頂きますので、どうぞご覧ください!
―――――【新しい夜明け】との【戦争】前夜。
会議室の円卓に俺と【十二天将】全員が集まっていた。
ピリッとした空気の中、俺は口を開く。
「んじゃ、最後のミーティング始めるか……。
【新しい夜明け】についての情報は集まったか?」
事前に情報収集を頼んでおいたイルム、イカルガの方を見るとゆっくり頷く。
始めに立ったのはイルム。
「取り敢えず俺は【新しい夜明け】が今まで【高天ヶ原】以外にも【戦争】を申し込んでないか調べた。
……案の定、結構な数やってたよ……。
海外プレイヤーが多いギルドは敬遠してるっぽいが今まで申し込んだ【戦争】の回数は100を超えてる。
そのうち実際に【戦争】をしたのは40ほど……全部格上のギルド相手で全部勝ってる。
……ちなみに、敗北したギルドのうち半数近くのギルドが解散してる……。
こんなにも格上ギルドに勝ててる理由は何となく予測が着くんだけど……その辺は『イカルガ』が詳しく調べてるだろうから俺はこの辺りでパスだ」
そう言って席に座るイルム。
何処からこのような情報を集めてくるのだろうか……それもイルムの人の良さがなす技というやつだろうか?
イカルガはふんと鼻を鳴らして立ち上がる。
「……どうやら【新しい夜明け】はわざとギルドランクを低くキープしていたようですマスター。
その上今まで主戦力は隠していたらしく、今まで楽々と【新しい夜明け】に勝っていたギルドはその隠していた主戦力により敗北したようです。
主戦力として新しく現れたのは5人。
うち2人は【専用職業】である可能性があります。
……私が個人の情報網を使って調べたところ、【専用職業】である可能性があるプレイヤー2人は前線に居り、片方は防御特化型、もう片方は魔法職だと思われ、互いが互いをサポートして戦っているようです。
その他の3人もその2人を極端に守りながら戦っているようで、その2人が要のようですね
……まぁ、私が考えるに、叩くべき場所がわかっている分戦いやすいかと思います、マスター」
俺に向かって礼をするとイルム同様に席に座るイカルガ。
流石は情報屋として活動しているだけはある。
その情報はとても有用なものだった。
「2人ともありがとうな?
情報を集めるのは大変だっただろ?」
「なーに言ってんだ『ユウノ』。
これくらい余裕に決まってるだろ?」
イルムはカラカラと笑って言う。
―――――軽装に身を包むミディアムマッシュヘアの青年は何処か少し眠たそうに開かれた瞳を優しげに細める。
「マスターからの頼み事とあっては全力を尽くさないわけにはいかない」
クールな印象ながらも、分かりにくいが得意げな表情を浮かべるイカルガ。
―――――濡羽色の美しい黒髪をローポニーテールに纏めた、冷たい色をした切れ目の瞳を持つ、表情の薄い顔をしていた。
「……いつもありがとうな」
情報収集と言えばイルムとイカルガというふうになっているが、その情報収集という仕事がどれだけ大変なのかは一時期ソロで活動していた分良くわかる。
「それで『ユウノ』?
今回はフルメンバーで行くのかしら?
……その必要性はあまり感じないのだけれど」
アマネは胸の前で腕を組みながら言う。
俺たち【高天ヶ原】のフルメンバーというのは俺と【十二天将】の13人である。
他にもギルドメンバーは居るが、【高天ヶ原】は少数精鋭型なのだ。、
「ひとまずフルメンバーでの参加だな。
ただ、メインで戦うのは正直前衛2人に後衛1人の3人パーティーで十分だ」
【新しい夜明け】がどれほどのメンバーを集めるのかは知らないが、恐らく質より数で押してくるはず。
正直イカルガに聞いた5人以外は有象無象と言っても過言ではないだろう。
「『ゆうの』?
3人というなら誰が戦うんでありんすか?」
大っぴらに表情に出す訳では無いが、興味津々といったふうにユウギリは問いかけてくる。
「まぁ、無難に前衛は俺と『アラタ』、後衛は『ユウギリ』でどうだ?」
完全に前衛で暴れるのを得意とする俺とアラタ。
そこにサポートをしつつ自らでも戦えるユウギリを後衛として配置すれば相当暴れることが出来るだろう。
「……よく良く考えたらギルドマスターが進んで前衛で戦うとか正気の沙汰じゃ無いわよね……。
『ギルドマスターが倒された時点で敗北』っていうルールがポピュラーで、ギルドマスターは後ろから指示を飛ばすのがセオリーなのに……」
「ま、まぁ、それが【高天ヶ原】クオリティーってやつだろう?」
アマネの言葉に若干苦笑いを浮かべつつイルムが答える。
「『ユウノ』さんと一緒に前衛……っ!!
最近一緒に戦えてなかったから光栄ですっ!!」
見るからにやる気十分といったふうのアラタに俺は笑いが零れる。
―――――明らかにユウノを意識したであろう和装と腰に差す一振りの日本刀。
蒼みがかった腰ほどまでの長髪に綺麗というより可愛いと表現する方がしっくりくる顔をしていた。
確かに【高天ヶ原】に連れてきた当初は俺とパーティーを組んでレベル上げだったり、プレイヤースキルを磨いていた。
【十二天将】になってからは面倒を見なくても十分な働きをしてくれるようになったため、あまり一緒に行動をしなくなったのを思い出す。
「取り敢えずこの3人がメインで戦うってことでいいか?」
俺の同意を求める言葉にアマネが質問をなげかける。
「メインで戦わない私たちはどうしたらいいのかしら?」
「……まぁ、今回のルール的に誰か1人でも倒せば【新しい夜明け】の勝ちなんだから、そっちに流れ弾が行かないとも限らないからなぁ……。
―――――その時は迎撃してよし」
先程メインで戦うと言われたアラタ、ユウギリ以外のメンバーはその言葉を待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべた。
「……くれぐれもやりすぎるなよ……??」
どう考えても降りかかる火の粉を払うだけでは済まなそうな雰囲気にため息混じりに言葉を吐く。
「んじゃ、取り敢えず今日は解散だな。
あぁ、『アラタ』と『ユウギリ』は残ってくれ。
連携の確認だけしておきたいからな」
「りょーかいです!」
「わかりんした」
解散を告げると、呼び止めたメンバー以外が席を立つ。
【戦争】前日の夜はいつも決まって全員がする。
―――――自らの装備を手入れするのだ。
ゲームの中とはいえ、自分の命を預けている装備に敬意を払うというのだろうか。
誰が言い始めたわけでも無く、自然とそれが習慣付いている。
俺とアラタ、ユウギリのみが残った円卓のある会議室。
空席を開けて座る俺たちはわざと移動せずに口を開く。
「……鈍ってないだろうな?『アラタ』」
「『ユウノ』さんと一緒に戦えるのを楽しみに、毎日が絶好調に決まってます」
「本当に2人は元気でありんすねぇ……。
わっちは明日はさぽーとにまわらせてもらいんす」
「えぇ〜!
『ユウギリ』さんも戦って下さいよ〜!」
「良いでありんすか?
『ゆうの』と一緒に戦う時間が短こうなってしまいんすよ?」
「―――――『ユウギリ』さんはサポートをお願いします!全力で!
えぇ!敵はわた……俺と『ユウノ』さんで片づけますので!!!」
「見事な手のひら返しだなぁ……」
「うふふふふ……相変わらず慕われていんすねぇ……」
「……たまに犬耳と尻尾を幻視することがある……」
「そ、それはわた……俺に遠回しに付けろと……?!」
「言ってねぇ!!
というかいい加減一人称になれろ!!
もう『私』って言えばいいだろうが!」
「何を言うんですか『ユウノ』さん!
それでは私……じゃなくて俺のアイデンティティが無くなるじゃないですか!」
「そんなアイデンティティは捨ててしまえ!!!」
連携の確認と言いつつも、俺たちはそんな冗談交じりの会話を楽しむ。
―――――いつもこうだ。
別に緊張なんてしている訳でも無いのに、何故かこんなふうになってしまう。
しかし、その時間が心地いいのも事実。
辞めるつもりは毛頭ない。
それにしても、我ながら珍しい3人でパーティーを組んだと思う。
【高天ヶ原】では集団戦を行う際、基本的に【十二天将】が4人1組のパーティーで動く。
俺はその中でも特殊な1人での遊撃担当。
遊撃と言えば聞こえがいいが、俺がやっているのは目の前に立ちはだかる敵を無差別に斬り殺してるだけ。
流石の俺もレベル差がほとんど無いプレイヤーに囲まれれば死ぬだろうけれど、そこらにいるプレイヤーには負けるつもりは無い。
だからこその1人での遊撃だ。
次にアラタ。
アラタは完全に前衛型だ。
割りと他のメンバーと共闘しているイメージが強く、パーティーの中では最前線で戦うが、自らの手が開けば後衛にまで下がってフォローする。
ただ、一対多数をあまり得意としていないため、囲まれるのは不味いだろう。
……まぁ、アラタが囲まれているのは初心者の時にしか見たことがないが。
最後にユウギリ。
完全な後衛型というよりかは中距離を維持しつつ支援魔法などを使いサポートしつつも、襲われた場合は自らでも対応できる万能型と言ったところだろうか。
ユウギリの【種族】もあり、接近戦が全くできないと思って近づけば痛い目を見るだろう。
―――――俺たちはその後も互いの現状を確認しつつ冗談交じりの話を続けた。
いよいよ明日。
【新しい夜明け】との【戦争】だ―――――。