第三戦1VS1④
夜中に恐れ入ります……
筆が乗りすぎて書き上げれたのでこのテンションのままこの時間に更新させてください!
「――――【先勝】」
アラタの声だけが響いた。
背後に揺らめき灯る6つの光の玉の内1つが弾ける。
――――残り5つ。
消えるかと思われた光の玉はその粒子が意思でも持つかのように動き出すとアラタの握る【菊一文字】を包む。
――――すると【菊一文字】はアルヴァンの持つ【ヘルメスの黄金杖】にも負けず劣らずの黄金の光を放ち始めた。
そこからまるでタイミングを図るようにゆっくりと姿勢を下げたアラタはアルヴァンを見据えて――――一歩。
踏みしめた地面は蜘蛛の巣を描くようにひび割れ、アラタは一歩でアルヴァンとの距離をゼロに。
更に敢えて身体を一回転させることによりギリギリまで手元を見せず自らの背中を影にしタイミングを図らせにくくする。
「ふっ……!!!」
「くっ……!」
ステータスをフル活用し、更に遠心力も加えることによりその一太刀の威力を上げる。
流石のアルヴァンもそれを真正面から受け止めるのは不可能と判断したものの、アラタの動きを捉えられず出来たのは【ヘルメスの黄金杖】を使い何とか直撃を避け、掠る程度に収めること。
(……っ!?
掠っただけにも関わらずここまで【HP】を……!)
まるで掠らせた部分を丸々斬り飛ばされたかのような【HP】の減り方にアルヴァンは口元を歪める。
「――――【友引】」
アラタの攻撃はまだ始まったばかり。
その言葉をトリガーに光の玉がまた1つ弾ける。
――――残り4つ。
今度は光の玉の弾けた粒子はアラタ自身を包み迸る雷と焔の勢いが増す。
――――【六妖】。
合計六太刀により構成される【数之太刀】の内の1つである。
日に1度しか使用することは出来ず、使用すれば最後の六太刀目まで放たなければ使用プレイヤーは問答無用で即死する。
――――【先勝】
――――【友引】
――――【先負】
――――【仏滅】
――――【大安】
――――【赤口】
六曜になぞられて創られた【六妖】はこの六太刀それぞれに効果があり、そのどれもが強力である。
しかし放つ順番は決められており、更に放つ前に名前を口にしなければならずこれを守らない場合も使用プレイヤーは即死するというデメリットを抱えている。
一太刀目の――――【先勝】。
その日のうちに攻撃を当てたプレイヤーからダメージを受けていない場合【六妖】終了まで与えるダメージバフ200%。
その日のうちに一度もプレイヤーからダメージを受けていない場合【六妖】終了まで与えるダメージバフ500%。
二太刀目の――――【友引】。
使用プレイヤーの周囲10m以内に同一ギルドのプレイヤーがいない場合【六妖】終了まで使用プレイヤーのステータス上昇10%。
10m毎に10%上がりMAX100%まで上昇。
三太刀目の――――【先負】。
納刀してから次の抜刀までの時間により効果が変動し、納刀中プレイヤーの防御力はゼロになり受けるダメージが激増する。
1秒の場合【先負】後から【六妖】終了後3分間使用プレイヤーにダメージデバフがかかり相手に与えるどんなダメージもゼロ。
2秒の場合【六妖】終了まで使用プレイヤーにダメージデバフがかかり相手に与えるどんなダメージもゼロ。
3秒の場合効果なし。
4秒の場合【六妖】終了まで使用プレイヤーに与えるダメージバフ50%。
5秒の場合【六妖】終了まで使用プレイヤーに与えるダメージバフ100%。
10秒以上の場合使用プレイヤーに与えるダメージバフ100%、【六妖】終了までという効果が無くなり【六妖】使用中得たバフが10分継続。
四太刀目――――【仏滅】。
使用プレイヤーの【HP】、【MP】がランダムに減少。
満タン状態を100%ととし、最低10%MAX50%減少させられる。
減少した【HP】、【MP】量10%毎に1秒間使用武装に効果付与。
付与される効果は【絶断】。
五太刀目の――――【大安】。
この一太刀はあらゆる防御、無敵を無視し相手にダメージを与えることができる。
しかし、自らにかかるあらゆるバフ効果は乗らず、【システムアシスト】も無効となり、プレイヤースキルによる太刀筋によって全てが決まる。
刃の入射角、振るう速度、場所などの要因により何も斬ることが出来ないナマクラにもなれば全てを両断する無敵の一太刀ともなりえる。
六太刀目の――――【赤口】
【赤口】終了後【HP】、【MP】がランダムに減少。
満タン状態を100%ととし、最低10%MAX50%減少する。
残存【HP】10%以下の場合【赤口】終了時から10秒間使用プレイヤーの被ダメージ0、ステータス500%アップ。
以上の六太刀、6つのとてつもなく強力な効果を内包しているのだがこの【六妖】はユウノが使用するのとアラタが使用するのではリスクが違う。
例えば【HP】が少しも減っていなく万全の状態だとしても【仏滅】、【赤口】の二太刀により全ての【HP】が無くなり死亡してしまう可能性がある。
そこにアラタの【種族解放】による常時減少が噛み合ってしまうとかなりの高確率で【HP】がゼロになってしまうのだ。
――――つまり、アラタは【六妖】を使う場合自分の【HP】が残ることを願いながら、必ず相手を仕留めなければ負ける可能性が高くなってしまう。
【友引】によるただでさえ高いステータスが強化されたアラタによる逆袈裟斬りを奇跡的な勘で躱したアルヴァン。
その表情は――――笑みが浮かんでいた。
【ヘルメスの黄金杖】を握る手に力が込められる。
アルヴァンは知っていた三太刀目である【先負】に反撃の隙が現れることを。
そのため一太刀目と二太刀目をしのげば良いのだと。
「――――【先負】」
アラタはその言葉と共に【菊一文字】を納刀する。
もちろん光の玉も1つ弾けアラタの差す日本刀にすっと吸い込まれていく。
――――残り3つ。
その瞬間。
アルヴァンは広範囲を薙ぎ払えるように【ヘルメスの黄金杖】を構えるとアラタを逃がさないために接近する。
流石のアラタも接近されてからの広範囲への攻撃は避ける暇がないだろう。
「――――やっぱりこのタイミングですよね」
アルヴァンの背筋に冷たいものが走る。
スローモーションになった視界の中でアラタが得意気に笑っていた。
(ありえない……!まだ納刀してから1秒程度しか……!?)
正確な時間までは分かりきれなかったが、この【先負】を使う際に少なくとも3秒以上は放とうともしていなかったはずだとアルヴァンの思考が高速化する。
どんなときもそうだった。
だからこそ早く放つとデメリットがあると己が喰らった際に確信したのに。
「一体どういう……っ?!」
アラタが鯉口を切っていたのは先程納刀した【菊一文字】ではなく【布都御魂剣】。
「ちょっとズルすぎるんで怒らないでくださいねって言いましたよね?」
「……っ!!」
此処で己の予想がまだまだ甘かったのだと思い知る。
これほどまでに強力でその分多くの縛りがある【六妖】ですらまだ隠していたなんて。
広範囲を薙ぎ払うために、確実にアラタを狩るために構えた【ヘルメスの黄金杖】がここに来て大きな命取りとなった。
先程までであれば間に合ったかもしれないが【友引】によるステータス上昇があるためアラタの抜刀に【ヘルメスの黄金杖】は間に合わない。
珍しく笑みを消したアルヴァンが忌々しそうに眉を顰める。
「間に合い……なさい……っ!!!」
「私の方が疾いです……っ!!!」
――――抜刀一閃。
アラタの右腰より抜き放たれた【布都御魂剣】は一筋の光となりアルヴァンの胴体を両断する。
上半身、下半身に両断されたアルヴァンがポリゴン体を吹き散らし消えていく。
残された【ヘルメスの黄金杖】を一瞥したアラタは自らの残り【HP】を確認して【布都御魂剣】を納刀し、【菊一文字】の柄に手を添えると息を吐いた。
「――――【仏滅】」
再び光の玉が弾け、粒子がアラタの日本刀を輝かせる。
アラタの【HP】と【MP】がゴッソリと削れ取られ残りが5割を割る。
――――残り2つ。
【菊一文字】の柄に添えていた手に力を入れ刹那のうちに抜刀。
アルヴァンがポリゴン体を吹き散らし消えていった場所よりも人一人分奥へ目掛けて下から上へと斬り上げを放つ。
何も無いはずだが残されていた【ヘルメスの黄金杖】がひとりでに動きだしまるで所有者がアラタの攻撃を躱すために動いたかのような動きをする。
しかし、アラタの攻撃は完全に空振りだった訳ではなく、明らかに何かを斬った感覚がアラタの手に伝わっていた。
ひとりでに動きだした【ヘルメスの黄金杖】が後方に弾かれるように飛んでゆく。
「――――流石に騙されてはくれませんか」
【ヘルメスの黄金杖】の周りの空間がぐにゃりと歪む。
まるでそこにあるものを無いように見せていたのを解除するかのように。
――――現れたのは今しがた両断されたはずのアルヴァン。
「貴方は嘘くさすぎるので……私の勘で動いて正解だったみたいですね」
「これはこれは手厳しい……」
人当たりの良さそうな笑みを浮かべたアルヴァンは困ったなと言わんばかりに後頭部を擦る動作をするが、それがまたあまりにも普通で逆に嘘くささを醸し出していた。
「――――【大安】」
自らの左前方地面に鋒を向けて静かに構えるアラタ。
光の玉が弾けると今までのアラタを包んでいた輝きが【種族解放】によって迸っていた雷と焔ごとふっと全て消える。
――――残り1つ。
まるで音すらも消えてしまったかのような静寂。
アルヴァンは額に一筋の汗を光らせながらアラタの一挙手一投足を逃さぬようにと目を凝らし瞬きすらも忘れたかのように凝視。
――――金属同士の衝突音が鳴り響いた。
「くっ……!」
「……凄いですね確実に斬ったと思ったんですけど……」
【ヘルメスの黄金杖】がアラタの【菊一文字】を受け止めていたのだが、日本刀の物打ちの部分がアルヴァンの右肩にくい込んでおり、明らかにダメージを与えていた。
アルヴァンからすれば防御したのにも関わらず押し負けその身に刃がくい込むことになったのに驚愕の一言。
アラタからすれば渾身の一太刀を持ってしても斬りえなかったアルヴァンに感嘆の一言。
「――――【赤口】」
そんな姿のままアラタの口から放たれる最後の一太刀を放つ予告。
光の玉、その最後のひとつが弾けた。
5割を割っていたアラタの【HP】と【MP】が急激に減ってゆき先に【MP】がゼロとなる。
【HP】もゼロへと近づいてゆき――――
――――ゼロにも見える場所で止まる。
「終わらせます」
受け止められたその姿勢から【菊一文字】を自らの身体側に引き寄せるように斬る行為を一太刀とさせたアラタ。
残存【HP】――――脅威の残り1。
よって【赤口】の効果が十全に発揮される。
全ての輝きが消えていたアラタの身体からまるで無理矢理押し込められていたダムが決壊したかのように雷と焔、そして神秘的とも言える輝きが奔流となって迸った。
ここから10秒間の間――――アラタを止められる者は居ない。
――――与えるダメージバフ、ステータス上昇共に600%。
挙句に10秒間の間アラタは【HP】が減らない。
ただでさえ高いステータスを持つ【神話族】のアラタがこのようなバフ効果を得てしまえば最早見える見えない感じる感じないそんな問題では無い。
何とか10秒間耐え忍べばと考えたアルヴァンだったが意識を集中させようとした瞬間、【ヘルメスの黄金杖】を持っていた左手が肩ごと斬り飛ばされていることに気が付き、認識外でこんなことされたのでは流石にお手上げだとついつい笑みがこぼれる。
「――――その笑顔は自然で良いですね」
「それは褒め言葉として受け取っておきます」
その言葉を最後にアルヴァンは【HP】を全て失うのであった。
『――――決着!!!
勝者【高天ヶ原】アラタ!』
勝者を告げる機械音声。
アラタは左拳を突き上げて満面の笑みを浮かべた。
目尻を光らせながら。
次は誰の番でしょーか!
お楽しみに!!




