第三戦1VS1③
免許って取りに行くの大変ですね……
作品を執筆して息抜きです
『――――本当にそれでいいんだな?』
「……っ?!」
アラタが左腰に差すもう一振の日本刀を抜刀しようと鯉口を切ったその時絶対に聞こえるはずのない声が聞こえた。
『――――なんだよそのザマは?』
己を責める声では無い。
むしろ今にも面白おかしく弄って来そうな声音。
『――――お前は俺になりたいのか?』
視線が下がる。
痛いほどの図星。
仕方がないではないか。
――――彼の姿に憧れを抱いた。
あの時見た姿があまりにも鮮烈に脳を焼いたのだ。
――――彼のことを真似することで、彼に少しでも近づいた気になりたかった。
『――――それとも……』
『――――俺を超えたいのか?』
「……っ!!」
彼に貰った日本刀の柄を握り締める。
――――声が一際に心を震わせる。
そうだ『彼になる』ではない。
――――『彼を超える』のだ。
自らが憧れた人。
自らが追い求める理想。
自らが超えるべき壁。
――――もう知っているではないか。
真似をしたところでその頂きは同等でしかないことを。
『――――ほら、行ってこい【アラタ】!』
真似はもう――――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……はて?」
先程までの恐ろしいまでの速さながら猛烈な力任せの攻撃が止み、腰に差してあるもう一振の日本刀を抜こうとしたアラタがその姿勢のまま唐突に静止している。
アルヴァン自身から幾許か距離は取られているがあまりに隙だらけの姿につい力が抜けてしまう。
この戦いの残り時間もあとほんの少し。
互いに【HP】はほとんど減っていないが、若干アルヴァンの方がダメージを受けていた。
(蹴り一撃分私の方が負けていますか……)
先程までの攻撃は騙すのに集中しなければならなかったため反撃に出ることは出来なかったがしかし、今はどうだ。
――――静止するアラタの隙のありすぎる姿に落胆。
一息の間に勝利を手にする自信がアルヴァンにはあった。
ステッキを手首のスナップでくるりと一回転させると口角を上げる。
「――――【ベレジョーナヴァ・ボーフ・べレジョート】」
その言葉がアルヴァンの口から発されるとその手に握られたステッキが輝きを持ち姿を変える。
ただのステッキほどの長さからアルヴァンの身長程の黄金の長杖へ。
長杖の上部へ向かい2匹の蛇が這い上がっていくように絡みつき、まるで蛇の頭を抱擁するかのような双翼が出現する。
これがアルヴァンのメイン武装の正しい姿。
黄金の長杖というあまりにも目立つその姿を隠しカモフラージュさせていた。
「――――【武装解放】」
そしてこの一言がアルヴァンの武装の特異性を表す。
蛇の頭を抱擁するかのような双翼が音をたてて羽ばたくとまるで三日月のように左右対称に巨大化する。
風切の部分は硬質化し鋭く鋭利な刃となり、絡みつく2匹の蛇の頭は双翼の翼角部分まで這い上がると牙を立てて噛み付く。
ステッキから始まり、黄金の長杖、そして今は双翼が刃となり双刃の巨大な黄金の大鎌の姿となる。
アルヴァンは大鎌から一瞬手を離すと重さによって双刃側が地面へと向かい回転し落下する前に再び手を握りまるで今まで通りステッキを回すかのように扱う。
「――――【ヘルメスの黄金杖】」
アルヴァンのメイン武装である【ヘルメスの黄金杖】。
【ヘルメスの黄金杖】という名から分かる通りアルヴァンの【種族】は【神話族】――――【雄弁と計略の神】。
その【メイン職業】を――――【神々の使者】。
【道化師】の二つ名を持つ【Aurora】のギルドマスターアルヴァンの本来の力はここからである。
黄金の大鎌を携えたアルヴァンはゆったりとアラタに向かって歩を進める。
急いでいる様子はなく落ち着き払ったその姿は集中しなければ見失ってしまう程だ。
しかし、映像を通して見る分には関係なく、今の2人を傍から見れば突然微動だにしなくなったアラタにアルヴァンが黄金の大鎌を出しまるで仲良く談笑でも始めようとしているかのようにゆったりとした速度で歩み寄っているという場面にしか見えない。
数歩しか進んでいないもののアルヴァンはアラタを自らの攻撃の範囲に捉えた。
武装が大鎌に変わったためステッキと比べれば明らかに範囲が広がったとはいえ捉えるのが早すぎる。
何時ものアラタであればアルヴァンの【メイン武装】の事も考え――――否感覚でその危険度を捉えもっと距離を開けていたはず。
(随分と『焦って』もらえたようですね)
まさにアルヴァンの思い通りの展開。
『焦り』は『小さなミス』を――――
『小さなミス』は『明確な異変』を――――
『明確な異変』は『取り返しのつかない失敗』を――――
アルヴァンは黄金の大鎌を構えるとアラタの正面から滑り消える。
今までの歩行とは違う文字通りその場を滑るかのように一瞬で移動した。
その到着地点はアラタの左後方――――ちょうどアラタが日本刀を握らず抜こうとして柄にかけられている無防備かつ防御の薄い左手側だ。
狙うはアラタの首。
大振りである必要はなく【ヘルメスの黄金杖】のこの大鎌の姿であればさらりと撫でてやるだけで首は落ち即死するだろう。
(……私相手にその隙を作ってしまった自分を恨むんですね)
アルヴァンの基本スタイルは僅差での勝利もしくは耐えてからの一発逆転。
自分は余裕を崩すことなく相手の『焦り』や『怒り』などのマイナスな感情を増幅させペースを破壊する。
アラタの首に向かって最速最短で繰り出されたのは黄金の大鎌による手首のスナップのみで放たれる横凪。
ほんの少しもその攻撃に反応する様子はおろか、アルヴァンが己の後方にいるのさえ把握していないであろうアラタ。
最早アルヴァンの凶刃は必中と言って差し支えなかった。
「――――辞めにする」
「なっ……?!間に合うはずが……っ!?」
差し支えなかった。
そう『なかった』のである。
いつの間に抜いたのか二振目の日本刀が逆手に握られておりアルヴァンの凶刃を受け止めていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アラタの抜いた二振目の日本刀。
銘を――――【菊一文字】。
刃長は二尺四寸二分。一般的な日本刀とそう変わらない長さながら細身で腰反りが高く、刃文は一文字丁字。乱れは八重桜の花びらを彷彿とさせ露にその身を濡らすかのような美しさを醸し出していた。
攻撃を受け止められたアルヴァンであったがその刀身の美しさに目を奪われる。
「……明らかに模倣品ではなさそうですね?」
「貴方なら見ただけで分かるんじゃないですか?」
そう言葉を交わした2人は互いに交わらせた武器を離し弾かれるように距離を取る。
アルヴァンはある予感から直ぐに攻撃に映らずに様子見を。
アラタはいつの間にか二振共に納刀しており、アルヴァンから視線を外すことなく片手は柄に添えてウィンドウの操作を始めた。
その操作自体もそう長くかかることはなく変わったのはほんの少ししたこと。
――――左腰に差していた日本刀が二振とも右腰へ。
「……うん。私はこっちで行こう」
左腰に差していた時よりもしっくり来たようでアラタは満足気に言い直すことも無く言った。
アラタが左腰に日本刀を差していたのは扱いやすいからでは無くユウノがそうしていたから。
文化的に見れば間違いでは無いのだが、左腰に日本刀を差す場合右利きであれば扱いやすい。
しかし、利き手が左の場合はそうはいかない。
――――アラタは左利きである。
扱いやすさを取るのであれば右腰に差していた方がいいのだ。
アラタが改めて二振の日本刀を抜刀する。
右手に今まで通りの【布都御魂剣】。
左手に新たな【菊一文字】。
右足を一歩前に前傾気味に体を半身に構えると右腕を肘が若干曲がる程度に突き出し左腕はだらりと横に垂らす。
「――――試し斬りに使わせてもらいます」
「……先程までの様子とは大違いの様ですね?」
今のアラタから『焦り』の香りは全くと言っていいほどにしない。
アルヴァンはそれがわかっているからこそ胸の内で表情を歪める。
(……二刀流。『剣聖』に及ばないとはいえ速度は彼以上……)
恐ろしきは【種族解放】を使わずにその評価ということ。
(目で視ていたのでは間に合いませんね……)
冷静になったアラタであれば再びその攻撃の起こりは読みにくく、トップスピードへと至ったその姿を視認するのは至難の業であろう。
「――――【解放】」
「――――【解放】」
その声は照らし合わせたかのように同時に。
――――アラタから迸る雷と溢れ出す焔。
――――アルヴァンから吹き荒ぶ風と周りを囲う視えないナニカ。
残り時間僅か5分と残っていない。
アラタは持てる全力を注ぎアルヴァンはそれに対して本気で出し抜こうと策を練る。
(こんな所で敗けてられない……)
(此処で敗けるのは流れが良くないですからね……)
初めに動いたのはアラタ。
【種族解放】したアラタの動きは攻撃の起こりどころか動き出しの気配すら読めず、並のプレイヤーならば途端に斬り捨てられるだろう。
右手に握られた【布都御魂剣】を使った【二尽】を彷彿とさせる刺突2連撃。
更に止まること無く左手に握られた【菊一文字】を操り繰り出される【三還】と同じ動きの3連撃。
そして横薙ぎで終わるかと思えば更にもう一回転。
勢いが衰えるどころか軸足でない左足で地面を蹴り勢いを増させさると両の手を自らの身体側に寄せ日本刀を振るうその瞬間のみ腕を伸ばし二振による全てを両断させうる【一迅】をイメージさせる横薙一閃。
「――――……ふぅ……。
良くもまぁ無傷で居れるものですね?」
超が着くほどの高速二刀流による連撃であったがアルヴァンの【HP】は【種族解放】による常時減少値分しか減っていなかった。
人当たりの良い笑みを浮かべたアルヴァンは余裕さを醸し出す。
「お褒めの言葉ありがとうございます……。
この程度であればまだまだ――――」
「――――あと何連撃その誤魔化し、続けきれますかね?」
「はて?誤魔化し?
なにをおっしゃっているやら?」
アルヴァンの笑みは崩れることは無い。
「それとも――――火力を上げれば既に限界ですかね?」
そう言ったアラタは【布都御魂剣】のみを納刀させて【菊一文字】を両手で握り青眼に構える。
「――――これ、使うつもりはなかったんですけど……」
「ほう……?」
「ちょっとズルすぎるんで怒らないでくださいね?」
一瞬だけ苦笑いを浮かべ表情を引きしめる。
「――――【六妖】」
ぽぅ、とアラタの背後に揺らめく光の玉が6つ灯る。
「……なるほど。
それを使ってもらえるとは光栄ですね……」
笑みを崩さなかったアルヴァンの表情に陰りが差す。
――――これからアラタが繰り出す【六妖】の恐ろしさを、本家であるユウノに繰り出され身をもって知っているためである。
【数之太刀】――――【六妖】
【数之太刀】の中でも最も使用するにあたっての縛りが多く、唯一連撃として存在する技。
大前提としてこの【六妖】は日に1度しか使用できない。
使用回数に制限をかけられていることによりその分絶大なる効果を持つ【六妖】。
――――だからこそ。
アラタはここで使う気は全くなかったのだ。
(……本当は『ファントム』に使うつもりだったけど……)
しかし、アルヴァンは出し惜しみして勝てるほどの相手ではない。
アルヴァンは【ヘルメスの黄金杖】をしっかりと握り直しアラタを周囲の景色ごと視界に収めて集中する。
【六妖】をその身に喰らったのはたったの1度。
――――だが、アルヴァンにとってはその1度が大切だった。
【六妖】が繰り出された瞬間、映像、情報を元にどのような攻撃なのかを予測し、己が実際に喰らうことにより検証する。
――――事実、アルヴァンは【数之太刀】に関して実際に使っているユウノやアラタを除いてもっとも理解しているプレイヤーと言える。
ユウノやアラタはそれをしっかりと認識していた。
(――――だからこそコレは確実に効く)
アラタは確信とも言える考えを持って【六妖】を使う決心をした。
互いに互いを見つめ合い数秒の沈黙が場を支配する。
「――――【先勝】」
アラタの声だけが響いた。
新作の書きだめ読み返すと気に入らなかったので書き直し中です(笑)




