第三戦1VS1②
エタってしまったんだなと思わせてしまった皆さまお待たせいたしました……
――――時間は経過しすでに戦闘開始から5分。
アラタとアルヴァンの【HP】は少しの変化を見せることもなく攻防が続いていた。
しかしそれは一進一退の攻防ではなく、一方的なもの。
アルヴァンがアラタによる無数の攻撃を見事なまでに受けとめ、いなし、躱す。
伊達に【Aurora】のギルドマスターとして名をとどろかせてはいないということだ。
ただの一度も有効な攻撃を当てることが出来ていないアラタであったが、その表情に焦りは無い。
焦りを滲み出すよりも――――眉が歪んでいた。
ユウノとの修練によってその実力を伸ばしたアラタであったがだからこそ分かってしまう。
――――このままでは自分の勝利が危ういということに。
アルヴァン相手に敗ける気がしないという自信は未だに変わらないがしかし、この15分と限られた時間の中で自分が今のままでしか居られないならあるいは自分が敗北する未来もある、それが決定的になってしまったから。
――――アラタの眉は歪む。
それはアルヴァンに負けてしまうかもしれないからでは無い。
――――自らが変わることが出来ないかもしれないから。
はなからアラタは敗ける事など考えてもいない。
ただその根本にあるのはアルヴァンすらも自らの糧とする、その考えのみ。
アルヴァンとの戦闘を通して己の更なる成長、飛躍があれば勝利はあとから必ず着いてくるとそう信じて疑っていない。
――――であるならばやらなればいけないことは決まっている。
(……うん、多分今なら……いけるかも)
「……ふっ!!!」
「今のは少し危なかったかもしれませんねぇ……!」
横凪に振るわれたアラタの日本刀を一歩足を後ろへと擦り、体をそらしたアルヴァンが紙一重で躱す。
もう何度繰り返されたか分からないやり取りであったがアルヴァンの内心は穏やかではなかった。
少しづつ、ほんの少しの変化ではあったもののアラタの太刀筋が鋭く疾くなっている。
それは気の所為などではなく今の動作――――余裕を持って躱せるはずだった。
そのはずにも関わらず結果は紙一重での回避。
軽口のひとつでも叩きたくなると言うものだ。
本来ならばバックステップによって間合いを取りたい所だがしかし、今の調子を上げ続けているアラタを前にそれは愚策としか言えない。
今の今までアルヴァンは余裕であるという雰囲気を崩すことなく戦ってきた。
――――受け止め、いなし、躱す。
それはひとえにアラタに思考の泥沼に陥らせたいがための策。
――――自分の攻撃はアルヴァンには効かないのではないか。
アルヴァンからすればアラタにそう思わせることが出来れば良かった。
良くも悪くも人間は精神と肉体がリンクしすぎている。
思い込みというのは身体のパフォーマンスを下げるのにうってつけだ。
ステッキを持ち直しバトンのように回すとトン、と石突きで地面を叩く。
場所はもちろんアラタの攻撃を躱したその場所から動くことは無い。
それはアルヴァンという一人のプレイヤーの意地。
「――――貴女の実力は其の程度ですか?」
人当たりの良さそうな笑みを浮かべて一人毒を吐く。
苛立ってくれれば最高、思考を縛り行動を縛り完勝へと歩を進める。
――――アルヴァンはギルドマスターであるが故に。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――――【数之太刀】
【一迅】
【二尽】
【三還】
【四赫】
【五剱】
【六妖】
【七鈍】
【八堕】
【九纏】
【十束】
以上10種が知られる、最も有名と言っても過言では無い【能動型技能】。
模造品の【能動型技能】が多く出回る中、正真正銘ユウノ本人から受け継いだのはアラタしか存在しない。
しかし、ユウノ本人から受け継いだアラタであっても否定することの出来ない事実があった――――
――――【数之太刀】を真の意味で使うことが出来るのはユウノのみという事。
――――『World Of Load』――――
ゲーム世界であるからこそ【プレイヤーへの支援】が存在するため、現実世界では不可能な動きを可能としている。
例えば――――本来であればその重量から片手で自在に操ることは難しいであろう日本刀を軽々と操るということ。
振るうことが出来たとて、動と静――――その動きを止めたり、美しき軌跡を描くことは不可能に近い。
それを可能とさせるのが【プレイヤーへの支援】だ。
ゲームをプレイした後の現実世界での動作への違和感を感じすぎるためにこの【プレイヤーへの支援】のオンオフ機能を使って現実の感覚を取り戻すということをするプレイヤーも居るものの大凡のプレイヤーはこの機能をオフにすることはまず無い。
――――しかし、その大凡に入らないプレイヤーは少なくは無い。
もちろん、ユウノもその一人である。
「……ん……?」
異変を感じたのはアルヴァンがアラタを煽ったすぐ後のこと。
構えは全く変わっていないがしかし、明らかにアラタの纏う雰囲気が変わった。
それに続いて息遣いが今までの一定だった状況からだんだん、だんだんと――――消える。
「――――【一迅】」
「なっ……ッ!?」
アルヴァンの胸あたりの服を斬り裂くアラタの日本刀。
流石のアルヴァンもその場から飛びずさった。
そして向けてしまう驚愕の視線をアラタに。
そんなことは全くと言っていいほど気にしていないアラタは眉をひそめて残心を解くと再び構えた。
(待て……待ちなさい……!
今のは一体……いや、落ち着きなさい……今のを私はよく知っているはずではないですか……っ!
しかし、そんなわけが……!そんな素振りは全く……!
それよりもなんなら今のは……アレよりも……っ!)
油断は全くなかったと断言出来る。
むしろ雰囲気の変わったアラタに対して最大限の警戒をしていた。
それでも動けなかった。たったの一歩すらも。
混乱するアルヴァンであったが、それを思考するための時間はない。
否――――アラタがさせてくれない。
一瞬でアルヴァンの懐に潜り込んだアラタは頭を地面に擦ってしまいそうな低位置から攻撃を繰り出す。
「……【二尽】」
「なん……のっ!!」
ステッキを使い二発の突きをそれぞれ順番に処理したアルヴァンはそのまま反撃、牽制も込めてステッキの石突きでアラタの顔を目掛けて突きを放つ。
「くっ……!」
それが当たるなどと思ってはいないアルヴァンであったがまさか反撃が来るとは思っておらずもろにアラタの蹴りを喰らってしまう。
顔を逸らし躱しながら地面に手を着いたかと思えばそのまま回転の勢いを殺さずに浴びせ蹴りの要領で反撃をして見せたアラタ。
見事なまでの反撃であったがアラタの表情は曇り模様。
「……もっと……もっと……!」
傍から見た者、そして実際に体験したアルヴァンから言わせれば速さは及第点――――どころかむしろ出来すぎていると言える。
しかし、アラタの中には技術が細やかさが圧倒的に足りていない、その気持ちが溢れていた。
先程放った【二尽】。
本来であればその鋒は同時に襲いかかるため、それぞれに処理などさせないはずなのだ。
(……このままじゃただ速いだけの連撃……!
『ユウノ』さんの足元にも……!)
――――だからこそアラタは気がつけない。
今自分を支配しているのは――――
「それでも……っ!」
――――『焦り』という不倶戴天の敵であることを。
アラタは今ならいけるかもしれない、そう感じた自分の感覚を信じる。
アルヴァンが自分の動きに少々の驚きを感じているその隙に。
体勢が崩れているのなど関係ないと言わんばかりにアラタは片足が地面につくやいなや重心を無理矢理移動させ踏み砕く。
地面を破壊することにより多少の力のロスがあるものの前へ――――アルヴァンの方へと向かう勢いは十二分にすぎる。
【種族解放】を使っていないとはいえ【神話族】であるアラタの全力の直進は直に見た者からすればほぼ瞬間移動と相違ない。
瞬きほどの時間もなく、知覚した頃には攻撃は起こっているもしくは終わっているだろう。
アルヴァンを持ってしても眼前にアラタを知覚するまでの軌道は見えない。
アラタは軸足である左足で地面を踏み締めアルヴァンの左脇腹に狙いを定める。
すれ違いざまに放つ軽い斬撃ではなくその身体を斬り裂くべく、四肢のその末端まで力を漲らせた。
「――――【三還】…………ッ!!!」
左脇腹から右肩へと昇る逆袈裟斬り。
返した刀はまるで巻き戻っていくかのように逆から同じ軌道を描く。
一切の力を逃すことなくそのまま回転し両断する横凪一閃。
「…………」
「…………」
【三還】を放ったアラタは最後の横凪一閃の勢いのままアルヴァンの後方へ抜ける。
【三還】を喰らったアルヴァンはステッキを握ったまま持ち上げた姿のまま。
その2人がどちらも無言でピクリとも動かない。
【プレイヤーへの支援】をオフにし本来右からの袈裟斬りから始まる【三還】を変型させ、三太刀を一呼吸で終える。
今のアラタも納得の出来に全身を多幸感が満ちるもアルヴァン程のプレイヤーがこれだけで終わることは無いと理解しているため反撃を受けないように柄を握りこんだまま視線を上げた。
終わることは無いとは分かっているが先程の完璧な完成度の【三還】であれば少なくとも半分以上は持っていけたはず。
「――――ふむ……」
――――持っていけた、はず、だった。
「なん……で……?」
アラタの上げた視線の先には顎に手を当て興味深そうに声を漏らすアルヴァン。
その様子から明らかにダメージも驚きもないように見える。
向けられた視線に気がついたのかアルヴァンは口元だけ愉快そうに歪め片手をアラタに向けてあげたかと思えば手のひらを上に指をクイックイッと曲げかかってこいと言わんばかりの挑発を行う。
「――――【一迅】ッ!」
アルヴァンからの挑発から一息も開けずに横凪一閃。
――――表情は、【HP】は変わらない。
「【二尽】……ッ!!」
防ぎにくいであろう両足太腿を狙った鋭い突きを【一迅】から連続で行う。
――――まるで時が停まっているかのように、変わらない。
「【三還】……ッッ!!!」
敢えて正型の右袈裟斬りから始めることにより速さを求めた三太刀を放つ。
――――やはり、変わることは、なかった。
計六連撃を放ったアラタはギリギリアルヴァンの攻撃の範囲から離れた場所に位置取り肩で息をしながら表情を歪める。
「なん……で……?」
まるで先程の繰り返しのようにアラタの頭に多くの疑問符が浮かび混乱してしまう。
躱されている?――――否、アラタの手には斬った感覚がしっかりと残っている。
(……なにかダメージを無効にする能力……?)
似たような状況を覚えているはずだがモヤがかかっているかのように思い出せないアラタ。
上下する肩は落ち着くことはなく、更に制限時間が近づいて来るため思考に時間を割くのも勿体ない。
「……だったら……」
アラタは小さく呟くと左腰に差すもう一振の日本刀の柄に手をかける。
(……【二刀流】で手数をもっと増やして……【種族解放】でゴリ押しすれば……!)
果たしてアルヴァンが無傷なのは本当にダメージを無効化にしているからなのか。ゴリ押しで何とかなるのか。
――――『焦り』という不倶戴天の敵はアラタの思考回路を鈍らせる。
アラタはもう一振の日本刀の鯉口を切る。
「【解ほ――――」
『――――本当にそれでいいんだな?』
「……っ?!」
アラタの耳にその場にいるはずのない人の声が聞こえた。
職を変え何とか執筆意欲が湧いてまいりましたので再びよろしくお願いいたします…!




