第三戦 1VS1
大変お待たせしました……
本日より更新、投稿活動再開させていただきます……!
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――――【高天ヶ原】待機場所
「――――にゃ〜!!
今回は完敗だったにゃ〜……」
3VS3を終え、待機場所へと戻ってきていたマリィが机に突っ伏したまま悔しそうに声を上げる。
「情報が少なすぎたのも痛かったですわね……」
「とはいえ、3人を相手にほとんど1人で戦い抜いたあの抜群の戦闘に対するスキルと土壇場の集中力……。
手放しで見事だとしか言いようがない」
ソフィアの言葉にダインは何処か清々しい表情を浮かべながら対戦相手であるコーリンたちを褒める。
敗けてしまったことに対しては腹の奥底から悔しい気持ちでいっぱいではあるものの、それはそれとしてあそこまでの戦闘を見せられれば素直な称賛の言葉が自然と湧き上がり、それは戦った3人が3人共に感じていた。
「いや〜相変わらず謙虚だねぇおと――――旦那はさぁ〜」
ダインの肩をぽん、と叩きながらイルムが軽い口調で話しかける。
「……お前のことだから励ましで声をかけに来た訳では無いのだろうが……確実に俺の事を『お父さん』呼びしようとしたのを聴き逃してはいないぞ……?」
「わぁお……しっかり聞いてるじゃないデスカー……」
ワザトジャナイヨ、とあまりにも片言な喋り方に明らかなからかいの雰囲気を醸し出しながらイルムはダインと談笑する。
マリィやソフィアも同じく他のギルドメンバーと会話を弾ませていた。
マリィはこの後の戦いを見据えて自らの声や体の調子をチェックしながらも仲間と笑う。
ソフィアは先程の戦いを第三者から見た時の感想を聞き即座に活かせるように、己の成長に繋げようと思考を回す。
「それで?随分と余裕そうだが準備は良いのか?『イルム』」
「まぁ、俺が呼ばれると決まったわけじゃないし。
それに俺はこれくらいリラックスしてる方が性に合ってるんでね」
両の手をプラプラと振りながらまるで準備運動でもしているかのように言うイルム。
その様子にダインは笑いながらそうか、と短く言うとソフィアのように思考を回す。
次に同じようなミスがないようにと。
『――――続きまして【1VS1】です。
【高天ヶ原】からの出場は『アラタ』さまが選択されました。
指定の場所へとお進み下さい』
【高天ヶ原】の待機場所に響く出場メンバーを告げる機械音声。
「…………」
「ほら『アラタ』呼ばれて……」
イルムがアラタに声をかけようとするも途中で言葉が途切れる。
いつもであれば緊張した面持ちで声が裏がえるような返事をするのだが、アラタは一振の日本刀を立てその柄に額を当てたままの姿で静かに座っていた。
そのいつもとは違うアラタの雰囲気にイルムは声をかけるのを躊躇う。
――――思えばアラタがこの待機場所についてから一言も喋っていないことを思い出す。
ただひたすらにいつもとは違う日本刀を携え自分の意識をまるで日本刀に移すかの如く寄り添い額を柄に当てていたアラタ。
「…………」
なおも無言で動こうとしないアラタに自然と視線が集まる。
「――――『アラ』さーん?出番だよ〜?」
沈黙を破ったのは気の抜けるようなふわふわとした雰囲気のクリスの言葉。
無言不動だったアラタがゆっくりと目を開けると立ち上がりいつの間にやら取り出していたもう一振の日本刀――――【布都御魂剣】を初めから持っていた日本刀と共に腰に差す。
スタスタとフィールドへと転送される場所へと向かうアラタ。
背を向けたままに目的の場所に経つ姿にいつもと違うアラタの雰囲気を感じ取り、気負いすぎていないかと不安になる面々だったがしかし――――
「――――勝ってきますので、皆さんはどうぞくつろいでいてくださいっ!」
転送直前、振り向きざまにサムズアップして笑うアラタにそんな心配は要らなかったと笑うのであった。
「――――なーんだアホみたいに集中してただけかよ……」
声をかけるのを躊躇ったイルムがなんとも言えない表情で頭を搔いた。
「何時もの可愛らしい『あらた』が見りんせんのは残念でありんすが……ふふふっ」
ユウギリが残念だと言いながらもそのような雰囲気は一切なくただ柔らかに笑う。
そのユウギリの笑みを見ながらアマネも同じく笑った。
「あら、やけにいい笑顔じゃない『ユウギリ』。
何かいい事でもあったのかしら?」
「野暮でありんすなぁ『あまね』……。
さっきの『あらた』を見てると最近思うことがありんして……」
ユウギリは口元を手で隠しながら再び笑みを浮かべた。
――――『ゆうの』によく似てきたと思いんせんか?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
フィールドに転送される一瞬の間を永遠にも等しく感じることができるほどに、アラタの感覚は研ぎ澄まされていた。
何時もであればうるさいほどに早鐘を打つ自らの心臓がとくん、とくん、と一定の落ち着いた旋律を奏でている。
いつもの装いと似て異なる今回の装備たちはその全てがコレクターでもあるユウノからして素晴らしいと太鼓判を押されるほどのものを揃えた。
――――そして、自らの腰に差す二振りの日本刀。
一振は愛刀と呼ぶべき【布都御魂剣】。
最早自分の体の一部と言っても過言ではないほどに扱ってきた。
一振は未だ手にして日が浅いものの己が憧れの人から渡された最高の日本刀。
手の馴染みは深く、思いもひとしお。
(――――敗ける気がしない)
それは強がりでもなければ自分に言い聞かせている訳でもない。
ただ純真たる事実を噛み締める。
――――ようやく、とはいえ時間にして一瞬であったもののアラタからすれば永遠にも感じた時間が過ぎフィールドへと足を踏み入れた。
『草原』、『荒廃した街』ときてアラタが戦うフィールドは背の高い木々が清々しく伸びる『森林』。
陽の光が差し込み暗い印象はなくむしろ当たりは明るいとさえ思えるほどだ。
「――――おやおや、【若武者】が相手とは私も運が悪いと言わざるを得ませんねぇ……」
眉を八の字にして困り眉を作りながら商人風の装いの男性プレイヤー――――アルヴァンのやけに軽い言葉がアラタの耳へと届く。
アルヴァンが現れたということはこの第三戦のアラタの敵は彼ということになる。
【Aurora】のギルドマスターであり【道化師】の二つ名を持つ紛うことなきトッププレイヤーの一角。
「これは私も気を引き締めて胸を借りるつもりで……」
困り眉の次は人あたりの良さげな笑みを浮かべながら喋り続けるアルヴァンを正面から見据え、アラタは一切の躊躇もなく呟いた。
「――――敗ける気がしない」
しっかりと言葉となって吐き出されるアラタの自信。
目の前にいるアルヴァンという男の実力を知っていてもなお、初めに抱いた思いと言葉は乖離することなくただただ事実の確認と言わんばかりの呟きだった。
そんなアラタからの言葉に眼鏡の奥の糸目を更に細めて愉快そうに静かに笑うアルヴァン。
戦いの前の会話から相手を崩していくつもりだったアルヴァンであったがアラタの様子にそれは不可能かと断念。
ただの雑談に花を咲かせようかと思った矢先のアラタからの挑発とも取れる言葉に笑みを深めたのだった。
『――――それでは只今より第三回戦を開始させていただきます』
まるで見計らったかのようなタイミングで響き渡る機械音声。
アラタは腰を落とし一振の日本刀の柄に手を添えて何時でも抜刀できる姿勢を取る。
アルヴァンはアラタを見据えては居るものの構えらしき構えは取らずにほとんど棒立ち。
対称的な2人の姿にアルヴァンはアラタを侮っているようにも見えるがそんなわけが無いと言うことをアルヴァンと戦ったことがあるものは嫌という程承知していた。
アラタもその1人であるために一切の油断をしていない。
『――――スタート!!!!』
初めは様子見と言わんばかりに行動を移すつもりがなかったアルヴァンだったが、長年の経験からか、それとも余程勘が働くのか自らの武装であるステッキをどこからともなく取り出すと地面にその先端を付け身体を翻して飛び上がる。
まるで曲芸のような身のこなしに感心する者が多いであろうがしかし、それよりもこの一連の動きが攻撃を回避するために取られた行動だということに気がつけたものは何人居るだろうか。
「――――【一迅】。
これは流石に躱されますよね……」
いつの間にかアルヴァンの背後に移動し、日本刀を振るった後の残心をとるアラタ。
「……流石は【若武者】と言ったところですかね。
今のは本当に危なかった……それこそ【剣聖】を思わせるほどの一撃でしたねぇ」
アルヴァンの額から頬にかけて一筋の汗が伝う。
攻撃の速度に関して言えば追えない訳ではないのだが、極端に攻撃の起こりがが読みにくい。
(……以前戦いを見た時とはまるで別人……。
流石若者は成長が早いですねぇ……)
感慨深い気持ちになりながらもアルヴァンは改めてアラタと向き合う。
ステッキをクルクルとまるでバトンでも回すかのように遊ばせながらアラタの攻撃を牽制し、思考のための時間稼ぎを行う。
――――が、しかし。
今日のアラタは一味も二味も違っていた。
何時もなら格上との戦闘の際慎重すぎるほどの動きを見せるアラタであったが、今回に限って言えば前に出る、攻めるという意思が強かった。
地面を踏み砕かんばかりに一歩目を踏みしめて、全力で駆け出す。
直線的ではなく敢えて不必要な動きを混ぜることによって相手を翻弄する役割もあった。
そしてアルヴァンの死角に入った瞬間アラタはその手に握る日本刀をまるでレイピアのように扱いほぼ同時に着弾する突きを二連撃。
「――――【二尽】」
並の相手ならこれで戦闘不能ないし大ダメージと言ったところだが、相手はアルヴァン。
死角からの攻撃だったのにも関わらずステッキを握ったかと思えば自分の胴体を軸に背面へと回し、アラタの日本刀の鋒をステッキの側面を当てることにより攻撃を防いだ。
「おぉ〜怖い怖い。
速すぎて見失ってしまうところでしたよ」
視線は一切アラタの方を向くことはなくアルヴァンはニコニコと笑う。
その反応が何処と無く不気味さを感じさせるが止まってる暇はないと言わんばかりにアラタは動き出すのであった。
――――アラタの頬を冷たい汗が伝う。
早ければ今日明日中に新作を投稿しますのでそちらもどうぞよろしくお願いいたします!




