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戦争

「そういや『アマネ』」


「何かしら?」


ユウギリとの一件で何故か俺も一緒に説教を受けた後、ユウギリが用事ができたと言って離脱していってしまったのでアマネと共に座敷に居た。


「こんな遅くまでログインしてて大丈夫なのかよ?」


時刻は既に夜中の3時を指していた。

現実世界での仕事が教師とあってはゲームに割く時間もほとんどなくなってしまうのではないかという心配も込めてそう聞く。


「大丈夫よ?

何の問題もないわ」


「教師がそんなんでいいのかよ?」


俺はがそう言うと、アマネは二三回瞬きをしてから笑う。


「心配してくれてるのかしら?」


「……一応俺のギルドの幹部っていう立ち位置だからな……心配とまでは行かなくても気になってはいる」


その言葉を聞いたアマネはふぅんと満足気な表情を浮かべて、ユウギリが置いていった料理を摘む。


「一応教師っていう立ち位置にいるけど私の場合ちょっと勝手が違うのよね」


「……どういう事だ?」


「私の叔父が【双葉学園】の理事長をしててね。

何でも教師が足りないからしばらく働いてくれないかって頼まれたの。

私、一応教員免許持ってたからそれに目をつけたんだと思うわ」


「教員免許って一応で取るような物か……?」


結構古参のメンバーであるアマネだったが今でもその素性がよく分からない。


「その辺は気にしないでおいて?

まぁ、取り敢えず条件次第では受ける事にしてたの。

そしたらかなりの好条件を提示してくれたから私も承諾したわ」


「どんな条件なんだ?」


アマネが好条件だと認識し、教師として働くのを承諾するのだからそれなりに高待遇なのではないだろうか?

俺はそれが気になりアマネに問う。


「取り敢えず私の学校での立ち位置は『非常勤講師』みたいなものになるの。

最低限授業時間中だけ出勤すればいいことになってるわ」


「だけど確か『アマネ』は日本史を担当するんだろ?

日に何回か授業があるんじゃないか?」


「それも交渉済みよ。

私が出る授業は午前中だけ。

午後は他の人が授業を受け持つみたいよ。

だから実質午後は私、フリーなの。

まぁ、授業に使うプリントとかを作らないといけないから毎日フリーとは行かないんだけどね」


「割と楽そうだな……」


「まぁ、他の正規の教師よりかはかなり楽よ。

それに私は部活の顧問も免除されてるし。

でもその代わり給料はそれなりってところね」


アマネはそう言って肩をすくめる。


「ところで『ユウノ』?」


「……なんだよ」


声音の変わったアマネに俺は若干遅れて返事をする。

何となく嫌な予感がする。

この声音は聞き覚えがある……というかついさっき聞いたような声音だ。


「―――――貴方学校では相当問題児らしいじゃないの?」


「なんにも悪いことしてないぞ」


事実、俺は怒られるようなことはほとんどしてこなかった。

欠席が多いと怒られたことはあったものの、出席日数も計算してギリギリ足りる様に来ているし何の問題もないはずだ。


「……貴方、前回のテストの点数覚えてるかしら?

私は教えて貰った時に頭を抱えたわよ……」


「前回のテスト……?

あ〜……記憶にないわ。

俺、無駄なことはすぐに忘れるたちでな〜」


ケラケラと笑いながらそう言うとアマネは深いため息を吐いて頭を抱えた。


「ほぼ半分の教科が赤点ギリッギリだったじゃない!

その他の教科も平均よりちょっと上くらいで!」


「赤点取ってないんだからいいだろ別にぃ〜」


俺のモットーは『赤点完全回避』である。

ひとまず赤点さえ取らなければいいのだ。


「……もうちょこっと真面目に勉強してちょうだい……」


「善処しまーす」


まぁ、学校に行かない日もあるのだから、テストなんてした日にはボロボロなのは当たり前だろう。

何せ勉強していないのだから。


「……次のテストから日本史で平均点割ったら覚えておきなさい……?

酷い目に合わせるわよ」


「ちょ?!!

それは理不尽じゃねぇか!?」


「当たり前でしょう?

私が教える教科で平均点を割るなんて言語道断よ。

裁判すっ飛ばして即有罪ね」


「私刑にも程がある?!」


よりにもよって日本史とは……俺が赤点ギリギリを取っている教科の筆頭格だ……。


「私の授業を休まずに真面目に聞いたいたらテストでもそこそこの点数は取れるわよ?」


「……授業に出るのが面倒くさいでござる」


俺は座敷でぐったりと倒れ込んでそう呟く。

あのながったるい話を聞きながら黒板に書かれるたくさんの文字を書き写すというのが苦行でしかないのだ。


「……貴方根っからの勉強嫌いなのね……」


俺の様子に流石のアマネも引き気味である。


「良し、決めたわ。

『World Of Load』の中でも勉強しましょう。

私がマンツーマンで教えてあげるわ!」


「遠慮します」


アマネが喋り終わるのと同時に俺は真顔で断りを入れる。


「冗談じゃない!

なんでゲームの中でも勉強しないといけないんだよ!?」


「貴方が控えめに言って馬鹿だからでしょう?!」


「馬鹿……っ?!

お前言ってはいけない事をいったな!?」


「事実なんだから仕方がないでしょ!!!」


ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーとアマネと言い合いをしていると、【高天ヶ原(たかまがはら)】のギルド当てにメッセージが届いたのに気がつく。


「……誰だこんな時間に……」


俺個人では無く、【高天ヶ原(たかまがはら)】というギルド当てに直接送られてくるメッセージはかなり珍しい。

俺はギルドマスターのみが操作可能なウィンドウを開き、そのメッセージを確認する。


「送り主は……【新しい夜明け(ニュー・ドーン)】……??」


「聞いたことない名前ね……新規のギルドかしら?」


どうやらアマネも聞いたことのない名前だったらしく首を傾げる。

かくいう俺もその名前に心当たりはなかった。

俺はそのあとにつづられた本文を読む。


「なになに……『【祝】次に潰されるギルドにあなたたちが選ばれました。

つきましてはギルド間の戦争を申し込みます』……すげぇ久しぶりに見たわ……この文章形態……」


『World Of Load』にはギルド間でのみ可能な【戦争】、【演習】というシステムが存在する。


簡単に言えば【戦争】はその名の通り戦い争う、リスク覚悟の戦い。

逆に【演習】は集団戦の練習のために戦う、訓練のようなものだ。


今回挑まれた、【戦争】は送り主であるギルドの方にある程度のルールの決定権、そして報酬の提示権がある。

送り主であるギルド側はルールの厳しさに応じて、それに見合った報酬を提示しなければならない。


―――――ただ、この報酬に関してはギルドランクの差に応じて緩和されることがある。

自分たちのギルドランクよりも上位のギルドへ【戦争】を挑んだ場合、自らのギルドが負けた場合の相手へ渡す報酬をワンランク下げることができる。

例えば『全員のメイン武器を譲渡』だったのが『参加メンバーの内半分のメイン武器を譲渡』になったりだ。


しかしこのギルドランクの差に関しては一つ二つでは上位のギルドとは認められない。

最低でも10は離れていないといけないのだ。


この【戦争】自体を受けるかは、受け取った側のギルド、そのギルドマスターに左右されるため、あまりにも不利なルールだったり、高望みな報酬を設定すると受けてすらもらえないのだ。


そして、この【戦争】において最も気をつけなければならないのは【デスペナルティー増加】という仕様であること。

本来、『World Of Load』における【デスペナルティー】はプレイヤーの取得している職業全ての1レベルダウンとメイン装備の内ランダムで1つドロップである。

だが、この【戦争】においてはそれではない。


『プレイヤーの取得している職業の数×10レベルのランダムダウン』になってしまうのだ。

つまり、プレイヤーが取得できる職業の最大数である6つを取得しており、【戦争】で死亡した場合、そのプレイヤーはトータル60ものレベルが、ランダムでダウンしてしまう。

それは、メイン職業が60ダウンしてしまう可能性もゼロではないのだ。


装備品はドロップしないものの、トータル60レベルもランダムでダウンしてしまうとなれば、プレイヤー達は【戦争】というシステムを多用しようとはしなかった。

誰だって自分が苦労して上げたレベルを失いたくはない。


―――――そんな仕様の中でも、実際に行われた【戦争】の例を上げてみよう。

ルールは【集団戦とし、ギルドマスターを倒したギルド側の勝利】。

報酬は【勝利ギルドに敗北ギルドはギルドの全私財から半分の私財を受け渡す。

この時私財の選択権は勝利ギルドにあるものとする】。


こう言ったような例がある。


こういった報酬を決めて行われる【戦争】は【デスペナルティー増加】という仕様のため、あまり挑まれることはないが、全くないというわけではない。


俺たちも一時期この【戦争】を挑まれていた事が多々あった。

それも不利なルールを決められて。


ある時はメイン職業の使用禁止。


ある時はギルドVSギルドマスターである俺のみ。


ある時は集団戦でこちらのメンバーの1人でも倒されればこちらの負け。


明らかにこちらの不利なルールだ。

その上敗北した場合の、勝者に渡す報酬は【参加メンバー所持武装全ての譲渡】。


このようなルールにされては普通ならば断るだろう。

―――――しかし、俺たちは受けざるを得なかった。


なにせ、俺たちはギルドランク1位に君臨するギルドだ。

そんなギルドがギルドランクが全く及ばない下位のギルドに【戦争】を挑まれて拒否したとなれば逃げたと、あいつらは弱虫だと言われてしまう。


例え俺達があまりにも不利なルールだから拒否したのだと言っても世間は冷たいもので、「それでも逃げたものは逃げた」といい、俺たちを責めるのだ。


当時はそんな世間の反応に苛立ちを覚えたのを思い出す。

それでも俺たちは負けなかった。

―――――1度たりとも。


そしてしばらくして、俺たちに【戦争】を挑んで来るギルドは居なくなった。

もちろん、負けた場合の【デスペナルティー】を恐れてだ。



「それで?

久しぶりの【戦争】を申し込んできた相手さん方のルールの指定と報酬は?」


アマネは凝った肩を解すように肩を回しながら俺に言う。

俺はウィンドウのメッセージをスライドさせて、ルールの確認を行う。


「『集団戦とし、【高天ヶ原(たかまがはら)】は【戦争中】、回復系アイテムの使用を禁止する。

敗北条件は【高天ヶ原(たかまがはら)】側はメンバーが1人でも倒された場合。

新しい夜明け(ニュー・ドーン)】側は全滅した場合』」


「思ったより緩いルールね」


アマネは欠伸をしながらそう答える。

確かにこのルールなら俺たちはメイン職業を使用できるため正直そこまできついルールではない。

そして次に報酬は何を望んでいるのかを確認する。


「『敗北したギルドは、参加メンバーのメイン武装を勝利したギルドに譲渡するものとする。

そして、敗北ギルドは自らのメイン職業の情報を公開するものとする』……か……」


メイン武装の譲渡自体は割りと今まであった条件だったため、驚きはしなかったが、メイン職業の情報の公開ともなると、もし負けてしまった場合、その後の【戦争】に勝てなくなる可能性が倍増してしまうだろう。

何せメイン職業の情報の開示となれば、それを見た者はいくらでも対策をたてることができるからだ。

恐らく、【新しい夜明け(ニュー・ドーン)】はそれを目的にこの報酬を要求してきている。


送られてきた文章にあった『次に潰されるギルド』ということはつまり今までも他のギルドに同様の要求をしているのだろう。

そして、勝って、美味しい思いをしてきた。


どんどんと大きな獲物を求めて最終的にたどり着いたのが俺たちだったという訳か……。


―――――まぁ、まだまだ、考えが甘いのだが。


アマネはその報酬について聞いた途端にくすくすと笑う。


「喧嘩売る相手を間違えてるわね。

今までどうやって勝ってきたか知らないけれど……正直気に入らないわ。

事実上のギルド解散に追い込んでいるんだもの」


アマネの言葉に同意を示し、首を立てに振る。

俺は即座に他の【十二天将】たちにメッセージを飛ばす。

内容は『久しぶりに喧嘩を売られた。

懲らしめるために報酬内容はこのままで受けようと思うがどう思う?』という文章に、先程の報酬の画面を貼り付けて送った。

すると、1分もしないうちに全員から返信が届く。


『トラウマ植え付けてやるにゃ』


『命知らずに死を』


『下賎な輩には灸を据える必要があるな』


『殺るぞ』


『思い知らせようか』


『久しぶりに怒りが湧きます』


『わぁぉ、面白くなーい』


『わぁぉ、意地きたなーい』


『受けてくださいまし』


『マスター殲滅を』


『喰ろうてやりんしょう』


全員からの返信を見た俺は【新しい夜明け(ニュー・ドーン)】から送られてきた【戦争】の申し込みに同意を選択する。


「……さてと、ちょいとばかり真面目に行きますかね……」


俺は装備を整えるべくギルドマスタールームに向かう。

日時は次の日曜日。

まだ時間はあるものの俺の気持ちが逸って仕方がなかった。


ギルドというゲームでの仲間の集まる場を壊そうとするとは……。




―――――後悔させてやる。









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― 新着の感想 ―
[気になる点] 十二天将からの返信ですが、一人足りなくないですか? その場にいるアマネ以外に11人いるはずなのですが、返信が10個しかありません。 誰か1人、忘れているのではないでしょうか?
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