弟の身を案ずる姉
夕方、ウチに帰るとアネキとオフクロがえらい剣幕で怒鳴ってきた
「アンタ、何考えてんのよっ!勝手に退学届けなんて出して!先生困ってたわよ!」
何だ、やっぱりそう簡単に受理してくれなかったのか
「何が気に入らないの?何かイヤな事でもあったの?もしかしていじめられてるの?」
イジメ?そんな事しか思い浮かばないのか?尾崎豊でも聴いてちったぁ高校生の気分を理解しろってんだ!
「イジメられて辞める?んなアホな事があるか!あんなバカ学校に行ってもこの先ろくな事が無い、だから辞めたの」
「わかんないわよ!何が不満なの!ただつまんないだけで辞めるなんて絶対変よっ!」
アネキとは一歳しか年が離れてないけど、僕のような将来に不安を抱えた連中の事は解らないだろうか…
「ねぇ貴久、こんな事お父さんにバレたらまた殴られるわよ…お願いだから高校だけは最後まで通ってちょうだい」
「結局オヤジの顔色伺いかよ?イヤな事を3年間我慢したらその先に何か良いことが待ってるとでも思ってるのか?無いだろ、だから辞める、それだけだから」
「じゃあ、辞めてどうすると言うのよ…編入の件はこの前お父さんに反対されたでしょ?」
「バイトしながら大検の試験受けるよ」
「大検?」
「アンタ大検ってどれだけ大変なのか知ってるの?ちょっとやそっと頭が良いだけじゃ受からないのよ、解ってるの?」
アネキが物凄い剣幕で怒った
「やってみなきゃ解らないじゃん!」
「貴久…もうそんな回りくどい事しないで今の高校で通えばいいじゃない?アンタそんなに今の高校に行きたくないの?」
「はっきり言うけど、あんなとこバカの集まりでまだ中学の頃に習った事授業で受けてんだぜ?それに教科書すらまともに読めないヤツらと一緒に勉強したらこっちまでバカになっちまう。というワケで退学届け出してきたから」
オフクロは黙ったままだった
僕の目には当時のオフクロはオヤジの顔色を伺い、波風立たないようにしていた事なかれ主義の人間にしか見えなかった
そのやり取りを聞いていたアネキは僕の手を掴み
「お母さん、ちょっと出るけど心配しないで!」
と言って僕を引っ張り外に連れ出した
「おい、何処行くんだよ?」
「いいから来なさい!」
姉に引っ張られながら僕は夕陽の沈んだ外を歩いていた
中学の通学路の途中に公園がある
アネキはそこまで僕を連れてきた
「慶子、連れてきたわよ」
ナニ?波多野が来てるのか?
すると前方にジャングルジムの側にあるベンチに波多野が座って待っていた
「おい、何でここに波多野がいるんだよ?テメー波多野に全部言いふらしたのかよっ!」
僕はアネキに食ってかかった
姉は黙って下を向いていた
「小野っち学校辞めるなんて言わないでよ!祐実センパイは小野っちの事心配なんだから」
「テメーらに関係ねぇ事だろ!大体何でここにテメーが居るんだ?関係ねぇんだからさっさと消えろ!」
僕は波多野を追い返そうとした
すると姉は僕の両手を掴み大声で叫んだ
「何でいつもいつもそうやって危なっかしい事ばっかりしてんの?バカ学校だって何だっていいじゃない?その学校すら辞めて何がしたいっていうの、ねぇ?」
もし僕が尾崎豊ならばアネキの言うことなど一切聞かずに中退しただろう
しかし僕は尾崎豊のように音楽の才能も無いし、これといった身を助けるような武器もない
アネキは手を離さない
その手から涙がこぼれ落ちた
「お願いだからお姉ちゃんの言うこと聞いてよ…アンタがタバコ吸おうが酒飲もうが何も言わない…でも学校だけはちゃんと出て、ねえ?」
「小野っち、祐実センパイはいつも小野っちの事心配してたんだよ…
アタシもこんなお姉ちゃんが欲しかったなぁ。小野っち羨ましいよ…」
…何だよったく!学校を辞めるっていう作戦は失敗したかも
「貴久、お姉ちゃん何も言わないから代わりに学校だけはちゃんと卒業して…」
いつまで手を握ってるんだアネキは
しかも凄い力でずーっと離さない
こりゃ参ったな…
「解った解った、とりあえず学校は続けるからいい加減手を離してくんないかな」
「絶対に約束だからね!」
そう言って顔を上げたアネキの顔は泣き顔でグシャグシャになっていた
「ギャハハハハハ!何だそのマヌケ面は!」
思わず僕が爆笑した
「小野っち、そんな言い方ないでしょ!弟思いのお姉ちゃんをバカにするような事言っちゃダメよ!」
波多野が真剣な顔だ
からかうんじゃないって事か
「それよか腹減った…波多野、あの喫茶店で3人で飯食いに行かないか?」
僕は話題を変えた
「えと、あのお店のハンバーグとかナポリタンは美味しいからそこでご飯食べようかな…
祐実センパイも行きます…?」
アネキは手で涙を拭きながら
「貴久が奢ってくれるなら行ってもいいわよ」
とか細い声で答えた
あぁ~あ、中退計画は失敗だ
この後3人で波多野が手伝いする喫茶店へと向かった




