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工業科のヤンキーが絡んでくるから

ある時、食堂に行こうとしたら、工業科のやつらが「タンタン!」と乾いた舌打ちをしていた


ふとその方向に目をやると、こっちを見て手招きしている


(誰だコイツは?)


当時のヤンキーは人を呼ぶときに名前を言わず、舌打ちで大きな音を出し、その方向を振り返り、目があったヤツを呼びパシりにするのがお約束だった


工業科の校舎と食堂は隣接していて、食堂を通るのに工業科の校舎を通らないと行けないのである


僕は舌打ちしたヤンキーのいる教室まで呼ばれ


「おい、コロッケパンとコーラ買ってこい」

と僕をパシりにしようとした


は?何言ってんだ、コイツ?同じ一年生でくそ生意気なヤツだ!

と思い


「パン?その代わりオレの分まで出せよ」

と言って手を差し出した、買ってきてやるから金は出せよ、という意味だ


するとヤンキーは


「あぁ?テメ今何つった、おいっ!」


まぁ、早い話が工業科の連中はヤンキーで、僕たち普通科の連中はお坊ちゃんに見えたのだろう

そんなもんだから、普通科のヤツをパシりにしてやれってな感じで僕を呼び止めたみたいだ


この手のやつらは相手にしない方がいいのだが、絡まれたら仕方ない


ヤンキーは教室から出て、僕の目の前に立った


背は僕より小さい、コイツ160あるのか?


「テメー、何ふざけた事言ってんだ?金出せだと?パシりの分際で何偉そうな事言ってんだ、おいっ!」

と凄んでもかえって可笑しくて笑いそうになった


「お前こそ、工業科の分際で普通科に気安く声かけてんじゃねえよ、偏差値30以下のクセに」


こんな事を言ったもんだから、ヤンキーは怒り、僕はそのままチビに引っ張られるような形で階段の踊り場まで連れて行かれた


(あぁ、このチビ、ケンカ強くなさそうだな)


僕もケンカは強くない

でも、コイツなら楽ショーだ、ヤンキーの腕を取り、逆に詰め襟の部分を掴んだ


格闘技の心得は中1の頃と、この学校には体育の他に柔道という科目があった

だが、同時はあくまで授業の一環としてして柔道をやってただけで、柔道なんかケンカの役にも立たないと思っていた

柔道は投げて押さえ込みして、それで終わり

そんなもん覚えてもケンカが有利になるワケでもない


だけど、知らないヤツに舌打ちで呼ばれ、挙げ句にパン買ってこいと言われりゃカチンとくる


「痛てーな、離せバカヤロー!」


ヤンキーは大声でわめいていたが僕はその場で学ランの詰襟の部分を掴み、壁に叩きつけた


「コロッケパンとコーラと後、サンドイッチ買ってこい、金はテメーで払え」


こういう時は出来るだけ威嚇しないように声は荒げずに普通に言う


ヤンキーはすぐにデカイ声で怒鳴ったり威嚇する


全部が全部ではないが、こういうヤンキーはほぼハッタリが多い


「ざけんじゃねーよ!普通科の分際で舐めてんのかテメー!」


当時、工業科の連中はヤンキーが多く、劣等感からなのか、普通科の連中を目の敵にするようなやつらが多かった


比較的大人しい普通科のヤツはヤンキーに凄まれちゃ従うしかないしね


商業科のやつらもいたが、普通科と工業科とも上手く付き合っており、絡まれる事はなかった


僕は詰襟を掴んでいた手をヤンキーの顔に掴み直し、壁にゴンゴンと頭を叩きつけた


といっても強く叩きつけたら打ち所が悪くて大ケガもしくはそれ以上の事になるので、軽く頭を壁に何度か叩きつけて、


「おまえ名前は?」


とあくまでも穏やかな聞いた


「ウグウグ…」


と僕が顔を掴んでいるから上手く喋る事は出来ない


更にもう一回壁に軽く頭を叩きつけた


「だから何て名前だ?」


上手く話せないのをわかっていながら更に聞く


「お前さぁ、次にこういうことしたらこれだけじゃ済まないよ?わかった?返事は?」


終始怒鳴りもせず、顔はにこやかにしかし顔を押さえたままヤンキーに忠告する


このヤンキーはハッタリでケンカは強くない


この時点で僕が有利になり、後はこのヤンキーを食堂まで連れていき、コロッケパンとコーラとサンドイッチを買った


金は僕が払った


ヤンキーはコロッケパンとコーラを受け取り、こちらをガン飛ばしながら教室に消えた


これでヤツの言うとおりにパシりになってやった


それでも後でガタガタ言ってきても、こっちで金払ったんだし、反論だって出来る

まぁ体裁を気にするヤンキーはそこまで言ってこないだろう


でも今の学校でこんな事をしたら僕はナイフとかで刺されただろうな…


それほど陰湿ではなく、同じ学校の生徒だし、何度も顔を合わせれば仕返しだとかそんな事はしない

まさか普通科のヤツに返り討ちにあったなんて知れ渡ったら、ヤツはダセーヤツ!と思われ、ソイツは一気に情けないヤツとレッテルを張られる


そんな場面を見られたくないし、知られたくもないからヤンキーはまずそんな事は言わない


でもこれがきっかけでそのヤンキーとは食堂で会う度に話すような関係になった


名前は覚えちゃいないが、最初は警戒しながらも僕に近づいてきて、コロッケパンとコーラの金を払おうとしたのだろう


僕は金は受け取らずに、

「なぁ金いらねえからタバコ一本くれよ。それでチャラにしよう」と言って

食後に工業科の校舎の裏でヤツが吸っていたタバコを一本もらい一服した


ヤツはまだ警戒していた


タバコを吸い終わり

「サンキュー」と言って僕は教室に戻った


僕からは何も仕掛けない


それからたまに食堂で顔を会わすと


「オレ、コーラ買いたいんだけど小銭ないんだよ。明日返すから貸してくんない?」

と言ってヤンキーから金を借りたこともあった


翌日にはコーラの代金とパンを買う金を利子代わりに渡した


ヤンキーはこの時点で僕に何もしてこない


後は食後にヤツからタバコを一本もらい、一服する


大した会話はしなかったが、別に話すこともあまりなかったし、ただタバコが吸いたかっただけの事だった


校内で絡まれたのはこれが唯一で、後は絡まれるような事はなかった


でも実は僕もケンカが弱かったので、僕よりタッパがあってガタイのいいヤンキーに絡まれたら、パシりやってただろうなぁ…


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