おニャン子クラブ意識してるじゃん!
日曜日になり、僕は駅の改札口で二人を待った
杉下と波多野が一緒に改札口に向かって歩いてきた
しかし、波多野…おニャン子クラブみたいな格好じゃないか
セーラーズのトレーナーにチェック柄のスカート
杉下は相変わらずのボーイッシュな格好でスリムのデニムを履きパーカーを着ていた
でも、二人とも中学の頃と比べると随分大人びた感じに見える
あぁ、薄くメイクしてるからか
二人とも出るところは出て、引っ込んでるとこは引っ込んであり、中々のスタイルだ
僕は薄手の白のジャケットの下にはタンクトップ
下はチノパンを履き、コンバースの靴を履いていた
「小野っち久しぶりー、どうしたのジャケットなんて着て」
波多野が僕の服装を見て笑った
「なんでサングラスなんてかけてるのよ~!それじゃ杉山清貴みたいじゃん」
当時は杉山清貴とオメガトライブというバンド名で、二人の夏物語という曲がヒットしていた頃だ
「早く電車乗ろう」
そう言って僕は二人をホームに引っ張っていった
「オレの学校の近くにサンシャイン水族館に行こうと思って。色んな動物が見れるよ」
電車の中で僕は得意気に話した
「小野っち、最近駅で会わないね。時間ずらしたの?」
杉下は反対側のホームで電車を乗るから会っても話は中々出来
ない
波多野はバス通学だから、僕と会う事は無い
でもこうやって3人で電車に乗るなんて新鮮な気分だ
僕は波多野に話しかけ、波多野は杉下に話しかけ、杉下は僕に話しかけるという何とも変な会話でいつしか水族館に着いた
「わぁキレイ。あ、見てみて、アザラシがいるよ」
波多野が童心に帰ったかのようにはしゃいでいる
「ここラッコいるじゃん。あれカワイイ~っ」
杉下はラッコが腹の上で貝を叩き割ってる様子を見て、カワイイを連発している
僕はその様子を見ながら(あぁこの二人が彼女だったら良いなぁ。いっぺんに同時に付き合えないものだろうかな…)
等と童貞にありがちな、あり得ない妄想をして悦に入っていた
「そう言えばさ、サンシャイン広場でおニャン子クラブがデビューイベントやるみたいだけと、小野っち学校近いから見に行くの?」
「おニャン子クラブ?」
この年の4月から始まった番組【夕焼けニャンニャン】という番組は空前のブームを巻き起こした
番組内でオーディションを行い、勝ち残った者がおニャン子クラブの一員になれるという事で、当時の女子中学生や女子高生の応募で殺到した
番組のレギュラーである、とんねるずも大ブレイクして、毎回ハチャメチャな展開でスタジオ内がグチャグチャになるのも番組の目玉だった
波多野は随分と詳しいな、そんなイベントがサンシャイン広場であるのか
「慶子、もしかしておニャン子クラブに入りたいの?」
杉下が波多野をからかうように聞いた
「いやだぁ、アタシ別に興味ないよー」
「でも、その格好モロおニャン子の格好じゃん」
僕も波多野をからかった
「いや、これはたまたまだよ~、アタシテレビになんて出たくないしぃ~」
ウソつけ!
思いっきり意識した格好だろうが!
「アイツ、絶対おニャン子クラブの事意識してるよな…」
僕は杉下に耳打ちした
「…だよね、多分オーディションとか受けてんじゃないかな…」
「プッ、マジで?」
「笑わないでよ、アタシも笑いそうになるじゃん…プッ」
「…プッ、ギャハハハハハ!」
思わず二人して爆笑してしまった
「え~、何?何が面白いの?」
波多野が大笑いしてる僕らを見て、何がおかしいのか聞いてきた…
「何か、ラッコって笑えない?見てるとつい笑ってしまうからさ」
「う、うん、何かおかしいよね、アハハハハ」
咄嗟にごまかした
そこは言わずにしておこう
その日は僕ら3人で夕方まで水族館を見て回り、その後は何事も無く、ウチに着いた




