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第二ボタンと言わず全部のボタンくれてやる!

夕方、オフクロに起こされ僕は目が覚めた


ついさっき卒業式をやったとは思えない程、僕には過去の事の様に思えた


その日は何処にも行かず、夕飯を食べ、風呂に入ってすぐに寝た


高校入学までの10数日間は春休みとなるが、特に何もする事は無かった


クラスの何人かは卒業と同時にバイトを始めた者もいた


僕はそんな気になれないし、まだ気分は中学生のままだ


波多野とは、何も話さないまま卒業してしまった

もし、この時代に携帯電話が普及して、LINEというコミュニティーツールがあったら波多野に告白しただろうか?


多分それは無いだろう

LINEがあろうが無かろうが、波多野に連絡する勇気は無かったと思う、何せチキンだったから…

あれはあくまでも中学時代の思い出として胸に閉まっておくべきで、もう無理矢理にでも、閉じ込めておこう、と言い聞かせていた


だが、思いもよらない人物から連絡がきた


それは僕の隣の席だった杉下(すぎした) 優子(ゆうこ)からの電話だった


杉下は成績も良く、スポーツも万能でルックスも悪くない

波多野よりも可愛いと思ったが、僕には単なるクラスの女子の1人としか思ってなかった


一体何の用だろう、と思い受話器を取った


「小野っち、あの卒業したけどまた連絡とかしても大丈夫かな?」


僕は何の事だか解らず


「うん、大丈夫だよ」


とだけ答えた


すると杉下は


「小野っち、あのさ、第二ボタンてまだある?」


第二ボタン…学ランの第二ボタンを卒業式に後輩とかにあげるとか何とかよく言うが、実際第二ボタンをあげたヤツなんているんだろうか?と不思議に思っていた


そんなもん欲しけりゃいくらでもくれてやる、どうせこのボタンなんてもう用は無いんだから、そんな事をよくクラスの何人かと話をしていた

「大体さぁ、後輩のツラと名前すら一致しねぇヤツらばっかじゃん?そんなヤツらがオレたちのボタン欲しがるワケ無いって!」

てな事を言ってたけど



まさか、僕が第二ボタンをあげる立場になるとは


「ボタン?あの学ランはまだそのままだけど」


「良かったらアタシにくれないかな?」


はぁ、第二ボタンを杉下にあげるのか


「うん、いいけど、いつ渡せばいいかな?」


「明日でもいい?」


「いいよ、いつでも」


「じゃあ明日、学校の近くの公園で待ってる」


「何時に行けばいいの?」


「んー、午後イチで…」


「解った、じゃまた明日」


そう言って電話を切った


第二ボタンを杉下にあげるのか…


まぁ悪い気はしないけど、どうせ要らなくなったボタンだ、一個と言わず全部あげるか、そう思い僕は学ランからボタンを外した


(はぁ、またこの学ラン着て通う事になるのか…)


今でも学ランは好きになれない…

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