シラフで行けなかった卒業式
何せ30年以上前の事を書いているから話しは前後しているが、思い浮かべた事を書いているので、そこら辺はご容赦願いたい
最後の給食の時、メニューにトマトがあった
波多野はいつものように僕の給食の更にトマトを置き
「小野っちにあげるトマトこれが最後だね…」
と言われ、僕はその時【卒業】という2文字がリアルに感じ、あぁそうか、もうこういう事も無くなるんだよな…と
トマトがメニューに出る度に僕にくれた波多野、その波多野ともあと数日でお別れになるのか
(やっぱり告白するべきか)
僕の頭はその事でどうしようか悩んでいた
好きなのは事実だ、でもそれを言ったら断られるだろう、フラレるのはイヤだ、それなら言わないでこのままで自分の中に閉まっておく方がいいのだろうか、どっちにしようか迷っていた
寝ても覚めてもその事ばっかだった
結局、答えは出なかった
そして卒業式を迎えた
僕は毎朝コーヒーを飲んでいた
インスタントのコーヒーに砂糖とミルクを入れた甘いコーヒーだ
ふと、居間の棚に父親が飲んでいたウイスキーに目をやった
何故か僕はウイスキーを開け、コーヒーの中に入れて一気に飲み干した
身体はカッカして、鏡を見ると顔が真っ赤になっていた
今でも何であんな事したのか、自分でも解らない
そして何とも言えない陽気な気分になり、僕は家を出た、まるでジャッキー・チェンの酔拳みたいだ
自分自身のやった事だが、今でも不思議だ
ちょっと不思議ちゃんなとこがあったのかな、やっぱり
酒の勢いを借り、テンションが高いまま卒業式が行われる体育館へ向かった
「小野っち顔赤いぞ、酒飲んだみたいな感じだな」
誰が言ったのか忘れたが、ヤバいバレたか?と思いつつも
「えー、んな事ないよ~多分風邪気味なんだよ」
とテンション高めで僕は答え、椅子に座った
全校生徒と先生、父兄が体育館に集まっていた
卒業式とあって、涙をこらえる者もいれば、号泣している者も多数いた
僕は酒のせいか、終始ヘラヘラしながら壇上に立ち、卒業証書を受け取った
あおげば尊しを歌ってる頃には女子のほとんどが泣いていた
校内で問題ばかり起こしていた男子達も泣きながら歌っていた
僕はその連中を見ながらヘラヘラとあおげば尊しを歌っているフリをしながら口パクしていた
そう思えば、とてもシラフで卒業式なんかに出られないって思ってコーヒーの中にウイスキーを入れたのか…
もし、ウイスキーを入れてないでシラフで卒業式に出ていたら号泣してたのかも…
で、ふと歌ってる途中である事に気づいた
(そうだ、波多野に告白しようか?いや、待てよ!酒臭いのバレたらヤバい、今日は無理だ!)
そう思い、僕は3年間通った中学の校門を出て、別れを告げた
波多野とは、会話を交わす事無く、卒業式は終了した
いつもの仲間と一緒に帰り、卒業という曲が頭の中を駆け巡り、帰りの道で歌いながら僕の中学生活は幕を閉じた
(高校か、行きたくねえな)
もう少し中学生でいたかった、でも今日で終わりだ…
後悔しっぱなしの校舎を思い浮かべながら僕は家に帰り、酒のせいもあってか、すぐに寝てしまった




