第七話 妹の想い Side Yuuri
何時からか君の背中に例えようも無い安堵感を覚えて、何時からか君の温もりをどうしようもなく求めて、何時からか君の幻影に何度も涙を流して、それがどうしようもない想いだと気づいたとき君がいないことがとても苦しくて、帰ってきた君を見て私はこの想いをは止められなくなっちゃうと思った。
Side Yuuri
今までの人生を悲観するわけじゃないけど、今がどうしようもなく幸せだと思ってしまうのは仕方の無いことだと思ってしまう。
「・・・なぁ。」
「な〜にっ?」
ずっと、ずっと、私の願いは叶わないと思っていた。
ずっと、ずっと、会えないと思っていた。
ずっと、ずっと、何時からか抱いたこの想いを確かめることが出来ないと思っていた。
でも・・・、こうしてまた会えた。
「離れてくれないか?周りからの視線が痛い。」
「え〜!別にいいじゃんっ。ほらほらっ、周りに悠ちゃんとくお君のラブラブっぷりを見せつけよっ。」
その温もりを確かめるように、その存在を確かめるように私はくお君に抱きついてますっ。
「ラブラブって、兄妹だろうが。」
「血の繋がらない、ねっ♪。」
それを聞いたとき、私がどれだけ嬉しかったか、どれだけ悲しかったか、分かる?
私が自分の想いに気づいて、兄妹という壁に阻まれて受け入れることが出来なかった気持ちを受け入れていいのだと嬉しかった。
そして、その想いを永遠に届けることが出来なくて悲しかった。
「そういえば、そうらしいな。」
「ありゃっ?何で知ってるのっ?」
「ここに来る前に母さんたちに会ってきた。そのときに色々聞いたんだ。俺のいない間のこととか俺と悠のこととか、お前たちがここにいることをな。」
あ、そうなんだ。くお君の驚く顔を見たかったのになぁ。
「ふ〜ん、他にお母さんたち何か言ってたっ?」
「そりゃあ、何年も連絡なしに姿をくらましてあの人が黙ってるわけないだろ?」
私はそういうことを聞いたんじゃないんだけどな。
お母さんは私が自分の想いに潰されないように色々と助けてくれたから何かそういうことをほのめかしてたかもしれないと思ったんだけど・・・、こういうことは自分で口で伝えたいからねっ。
「怒られたんだっ?」
「まぁ、最初はそうだったんだが、酒が入ってくると泣き始めて、普段のあの人じゃ絶対言わないだろうっつうことを俺にしがみつきながら延々と言い始めて、蘭さんとおじさんもそれを煽るし・・・、正直、そっちのほうがかなり堪えた。」
「でも、くお君が悪いんだから自業自得だよっ。」
私には見せようとしなかったけど、お母さんはくお君の命日になるといつもに比べて無理をしてる感じになってたからね。私にはどうすることも出来なくて歯がゆかった。
けど・・・、あのお母さんが人前で泣くなんて私が思っていたよりよっぽど辛かったんだろうな。
くお君もそれが分かっているのか困ったような、申し訳なさそうな感じになっている。
「しかも、次の日から俺が家を出るまで今の悠みたいにずっと引っ付いてきて困ったんだが、ああいう弱いところを見せられた後に無下に振り払うことも出来ないし、結局、ずっとそのままで蘭さんに、新婚みたいですね、ってからかわれて、街の人から生暖かい視線をもらって、男共には嫉妬のこもった視線を浴びせられるはめになっちまったんだ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お母さん?
お母さん、応援してくれるって言ったよねっ?叶わない想いだったけどそれでもお母さんは認めてくれたよねっ?
「流石に風呂は勘弁してもらったが、寝るときまで一緒で断ろうとすれば急にしおらしくなって捨てられた子犬みたいな目をするもんだから添い寝はしたんだが、寝ぼけて体を押し付けてきて理性が切れそうで危なかった。」
ふ、ふふふっ。そうかっ。そうなんだっ。お母さんも敵なんだっ?敵なんだねっ?
まだ若いからいい人を捕まえて幸せになってほしいとは思ってたけど、くお君を狙うなら話は別だよっ?
というか、実の息子に手を出そうとするなんて何を考えてるんだろうねっ?
くお君は知らないみたいだけど、お母さん寝付きが悪いから絶対にわざと体を押し付けてくお君を誘ってたよねっ?
「そういえば、母さんが弟か妹、出来るならどっちが欲しいんだ、って言ってたんだが、誰かそういう対象になりそうな相手でもいるのか?まだあれだけの容姿なら引く手数多だろう?」
「さぁっ?悠ちゃんには分からないけど、そういう人がいるなら悠ちゃん達は応援してあげようねっ?」
「当たり前だ。今までの分も親孝行しないといけないからな。」
とりあえず、お母さんがいない今のうちにライバルを蹴落としながらリードを広げておかないとねっ。
「で、だ。話は戻るが、いい加減に離れてくれないか?母さんもそうだが、お前も自分の容姿くらいは把握してくれ。周りからの視線が嫉妬まみれだぞ?」
「お母さんはよくて悠ちゃんは駄目なのっ?」
「あれは短い期間で親子だからだ。今、ここで許せばお前はこれからずっと引っ付くだろ?それに、今はお互いに兄妹じゃないっていう認識があるんだ、なおさらまずいだろ?」
容姿を褒めてくれた上にちゃんと私を女として認識してくれてるのは嬉しいけど、な〜んか言葉の節々から天然の感じがするなぁ。
「そうだよ。くーちゃんも困ってるしいい加減に離れたらどう?」
「そうですね。女性として少し慎みが足りないんじゃないですか?」
親友にして、ライバルであるりっちゃんと絢香ちゃんが頬を若干引きつらせながら私たちの会話に割って入ってきました。
りっちゃんは罪悪感のせいで自分では気づいてないみたいだけど、絶対にくお君のことを好きだろうし、絢香ちゃんは多分、一昨日の人がくお君で好きになりかけてるんだと思う。
一日で女の子を落とすなんてお母さんのことといい、くお君もしかしてすごい女たらしになっちゃってるっ?しかも、無自覚の?
確かに容姿も大分変わってカッコいいし、こうやって抱きついてると分かるけどかなり逞しいし、一部が銀色になってる髪や片目だけ紅いのも似合ってて凄くいい。
現にすれ違った女子のうち何人かはくお君に見惚れてたし・・・、油断してるとライバルがまた増えそうだねっ。
「え〜っ。別にいいじゃんっ。ねぇ、くお君は悠ちゃんが嫌い?」
「嫌いじゃないが、少し困る。」
「じゃあ、我慢してっ。」
「ちょっと悠!」
絢香ちゃんは何も言わないけれど、さっきより機嫌が悪くなっているような気がするなっ。
「りっちゃんが怖〜いっ。」
二人に見せ付けるようにくお君に抱きつく力を強くしてみました。
すると、くお君は肩をすくめて苦笑をすると抱きついているのと反対側の手を私の頭に乗せましたっ。
「まぁ、何年も寂しい思いをさせたからな。今日ぐらいは多めに見てやるよ。」
そう言いながら優しく髪を梳いてくれて、あっ、ヤバッ。凄い気持ちいい。
何か、凄い手馴れてる感じ。無意識のうちにうっとりしていくのが自分でも分かっちゃう。・・・病み付きになりそう。
「あ・・・。」
その手が離れていくと名残惜しくてつい声を出しちゃった。
「妹分の我侭を聞くのも兄貴分の役目だしな。」
「・・・。」
変わって、ないなぁ・・・。
『妹のお願いを聞くのもお兄ちゃんの役目だから。』
昔も私が我侭を言って困らせたときはそう言って私のお願いを叶えるために頑張って可能な限り叶えてくれた。
言葉遣いや姿、雰囲気が変わってもそんな優しいところは変わってない。
お母さんが女の子には優しくするように小さい頃からくお君に言い聞かせてたのも理由の一つだと思うけど、やっぱりその温かい優しさはくお君の生来の気質なんだと思う。
そんなくお君だから、私はこんなにも夢中になってしまう。くお君の優しさという甘美な麻薬が私を絡みとって離さない。
「くお君。」
「ん?どうした?」
だから、もう置いてかないで。くお君の行くところなら何処にでも着いていくから。選んでくれたら嬉しいけれど、選んでくれなくても私を連れて行って。
私が何も言わずにくお君を見つめてると彼は今度は少し乱暴に私の頭を撫で回す。
「そんなに急いで答えを出すもんじゃない。まだ若いんだからもっとゆっくり考えろ。・・・少なくともそれまではお前の前から姿を消すような真似はしないから安心しろ。」
「でも・・・、」
「でもも何もない。急いで答えを出せば何かを見失う。急ぐ必要のないお前はゆっくり考えて自分にとって最善の道を選べ。・・・お前まで道を踏み外す必要はないんだ。」
その言葉にはどこか懇願のような切なる思いが宿っている気がした。
くお君は急いで何かを見失ってしまったのかな?それで後悔、ううん、何かを諦めてしまったんだ。
私にその道を歩んで欲しくないからこんなことを言うんだと思う。けど、じっくり考えた先でなおその道を進もうとするならくお君は応援してくれるはず。
私のことを大事に思ってくれるのがたまらなく嬉しい。今すぐこの嬉しさをくお君に伝えたいけれど。
「・・・うん。そうしてみる。」
それを伝えるのは答えが出たときにしようと思う。
この心の内に秘めた想いと一緒に・・・、いつか、くお君の傍で寄り添っていけるように。
けどね、どんな答えが出てもくお君を想う気持ちはず〜〜〜っと、変わらないってそれだけは自信を持って言えるからねっ。
せっかく魔法的な要素があるのにあまり出せていないことに少し悩んでいます。自分の構想でこのままいくとその本格的な出番が随分先になると気づき、どうしようかと思っています。試行錯誤を繰り返してみますが、それが読者の皆様に満足していただければ幸いです。