第五話 恋愛事情 Side Ritu
夏休みの間、更新をせずにいてしまい申し訳ありませんでした。本編のほうも執筆の期間を空けてしまったことで質が落ちているかもしれませんが、どうかご容赦下さい。
償うことが無意味なら、苦しむことしか出来ない。なら、苦しむことが与えられた罰なのだろうか・・・?
SIDE Ritu
一昨日、絢香が帰ってきてから妙に機嫌がいい。
何かあったのかと聞いても何でもないと答えながら頬を緩ませる状態で何かがあったとしか思えない。
それ以外にも時折鼻歌を歌ったり、ぼーっと何もないところを眺めていたりして明らかに様子がおかしい。
「ずばりっ!恋だねっ。」
「恋?」
「うんうん。りっちゃんがそういうのに疎いのは相変わらずだねっ。悠ちゃんはそんなりっちゃんの将来が心配ですっ。もしものときは悠ちゃんがお婿にもらったげますよ〜?」
笑顔でありがたいお言葉をくれた悠に同じく笑顔で拳骨をくれてやった。
「ぐにゅう。ひどいなぁっ。」
「人を男扱いするほうが悪い。で、実際どうなの?」
「・・・え?何の話ですか?」
学園に向かう最中に一緒にいる悠に絢香のことを相談したのだけど、当の本人はどうやら聞いていなかったらしい。
「一昨日何処かに行った絢香が恋をしてるって話。」
「こ、恋ですか!?い、いいえ!そんなことないですよ!?」
「そんなに顔を真っ赤にしたら説得力なんてないと思いますよ〜?」
「あ、あうぅ。こ、恋だなんて、その、私は、そういうことではなくて、ただ、そのですね、えっと、感謝というか、なんというか・・・。」
顔を赤くして俯いて恥ずかしげに視線を彷徨わせる絢香を見て悠は更に笑みを深くして絢香に近づく。
「絢香ちゃんが恋〜。悠ちゃん、びっくりですよっ。」
「だ、だから、そういうのではなくて。」
「絢香ちゃんぐらいの美人さんだったら告白すれば男の子はすぐに落ちると思うよっ。」
「えうっ。あの、その、り、律さん。」
「悠、いい加減にしな。」
絢香が本気で困っているようなので悠の首根っこを捕まえて引き離す。
「ぶぅ〜。いいじゃん、いいじゃん。面白い話なんだし、りっちゃんは興味ないの?」
「興味があるかないかで言えばあるけど、」
「じゃあ、もっと根掘り葉掘り聞き出して絢香ちゃんの恋の応援をしようよっ。」
「馬鹿言うんじゃない。」
「みぎゃっ。」
目を輝かせた悠の頭に再び拳骨を落とす。
「興味はあるけど、無遠慮に聞きだす気もないよ。悠だってそうなった時に同じようにされたら嫌でしょ?」
「むぅ〜〜〜。だって、だって、だってさぁ。りっちゃんだとそういう話全然ないんだもんっ。中学のときだって、ファンクラブとかあったのに、あったのはレズ疑惑だけなんだもんっ。悠ちゃんだってそういうお話をお友達としたいんだよっ。」
「ちょっと待って!ファンクラブも初耳だけど、レズ疑惑って聞き捨てならないんだけど!」
「全生徒周知のことだよ?ちなみに、正妻は悠ちゃんだよっ。」
「全生徒にそんな根も葉もない噂がっ!?しかも、正妻ってことは他にもいるの!?悠も嬉しそうに言わない!!」
何でそんな噂が流れたんだろう?今、思い返せば確かに妙に熱っぽい目で見ていた女生徒が多かったような・・・、というか、後輩に至ってはそういう子しかいなかったような気がする。いやいや、そんなことはないはず。
仲がよかったあの子は勉強でよく分からないところを教えてくれたし、・・・必要以上に体が近かった上に息が荒かったような気もするけど。そ、それに剣道部の先輩や後輩は一緒に熱心に部活に取り組んでいたし、・・・よく体を密着させて型の稽古をしていたり、ボクが汗を拭いたタオルの取り合いをしていたりしたけど。く、クラスの人達とも仲がよかったし、・・・体育のときとか着替えをするときに妙に視線を感じたり、唾を飲む音が聞こえたけど。し、知らない生徒でも挨拶をすれば笑顔で返してくれたし、・・・たまに恍惚としていたりしたけど。
・・・そ、そういえばバレンタインのときに何故か大量に義理チョコをもらっていたなぁ。
「な、何でボクが?自分で言うのもあれだけど、結構男勝りな性格してるし、可愛くないと思うんだけど?」
「りっちゃんは自分を卑下しすぎだよっ。りっちゃんって姉御肌なのに初々しいところもあるし、容姿も悪くないからねっ。年上からも年下からも大人気だったんだよっ。知らぬは当人ばかりの高嶺の花ってね。悠ちゃんもりっちゃんのこと大好きだよっ。もちろん友達としてだけどっ。」
「あ、ありがと。」
正面からこうやって好意を向けられると流石に気恥ずかしくて視線を逸らす。
「そういうところが初々しくていいんだよねっ。ねっ、絢香ちゃん?」
「はい。可愛いと思いますよ。」
絢香にまで言われて顔が火照るのを感じる。それを誤魔化すように慌てて
「そ、そういう悠だって恋の話はないじゃないか?」
お返しのように聞き返したのだが、ボクはすぐに後悔した。
「うん。だって、悠ちゃんの初恋はまだ終わってないからねっ。」
さっきまでと同じように明るい笑顔、しかし、何処か寂しさも見え隠れするのが分かってしまった。
「そうなんですか?」
「うん。ずっと、ずっと、遠いところに行っちゃったけどそれでも悠ちゃんはまだ忘れられないんだっ。きっと忘れられるまで新しい恋は出来ないだろうし、悠ちゃんは忘れたくないからこれから先、恋は出来ないだろうししたくもないかなっ。」
悠はくーちゃんのことが好きだった。
何時か同じ歳の兄妹ということに疑問を覚えて、おばさんに尋ねたことがあった。
悠は本当はおばさんの子ではなく、おばさんの夫の兄夫婦の子ということだった。なかなか子供が出来なくてやっと間にもうけたのが悠だったのだが、悠がまだ親の顔を覚えるより前に不慮の事故で偶然一緒にいたおばさんの夫と共に二人とも亡くなってしまったらしい。
それからおばさんは悠を引き取り、兄妹として育ててきたが悠はくーちゃんを兄としてではなく何時しか一人の男の子として見るようになっていた。
当時はまだそれが恋とは分かっていなかったようだけど、心が成長するにつれてそれが恋だと自覚したらしい。だけど・・・、そのときにはもう、彼はいなかった・・・。
「・・・。」
ボクは悠の友達でいていいのだろうか?ボクは悠から兄と想い人を同時に奪った。悠はそれを許してくれているけど、ボクはその好意に甘えていていいのだろうか?
改めて突きつけられた罪に心を押し潰されそうになりながらそのまま足を進めた。
その悩みがその日のうちに解決するとは露とも知らずに・・・。
休み明けの第一作ということになりましたが、物語の展開事態はあまり進まない結果に終わり申し訳ありません。次回の話で久遠と三人を合流させたいと思います。再開のシーンをうまく書ける自信はありませんが、読者の皆様方に少しでも満足していただけるように努力いたしますのでよろしくお願いいたします。