プロローグ・2 〜喪失の悪夢と迫る再開の時〜
それは遥か昔のこと・・・。
あるところに一匹の妖魔がいました。
その妖魔は温和で人間達を温かく見守っていました。
しかし、長い間人間を見守っているうちに同じ種族同士で醜く争い、人あらざる者の存在を忘れ、傲慢に世の中を闊歩する人間達に愛想を尽かし人知れぬところに住むようになりました。
ある日、そんな妖魔のもとに一人の人間が迷い込みました。
その人間は妖魔を見ると怯えたが、妖魔が無害であると知ると帰り道を教えてくれないかと頼みました。
妖魔は礼儀正しい人間の願いを無下にすることもなく人間の道案内をしました。
その道中で人間の住む村が干ばつで苦しんでいて、この人間は別の街に仕事を探しに行くところだったことを知り、人間に優しい妖魔は雨を降らせてやろう、と言いました。
人間は最初は半信半疑でしたが、人里に戻った次の日に雨が降り始め干ばつで苦しんでいた村が救われると人間は妖魔のおかげで救われたのだと言いまわりました。
その人間は他の人にも優しい妖魔のことを知ってほしくて言ったのですが、悪い人間達はそれを聞いて妖魔を利用しようして捕獲しようとしました。
妖魔は押し寄せて来た人間を蹴散らしましたが、いつの間にか妖魔は悪い妖魔ということになっていて全国各地から人間が集まって来て妖魔を退治しようとしました。
悪者にされた妖魔は抵抗しましたが、数で圧倒的に上回る人間に敗れて、封印されてしまいました。
それから長い間封印されていた妖魔は人間に対して憎悪を覚えるようになり、更に月日が過ぎました。
〜〜〜〜〜
少年と少女か゛しばらく歩くと広場のような場所に出た。
広場の中心に小さな祠がある以外特に何もない場所であるため少年と少女だけの秘密の遊び場にしている。
少女は広場に入ると走って祠に近づき、白いリボンを手に取るとホッと息をつく。
「忘れ物あった?」
少年が少女の手元を覗き込むが少女は見せないように慌ててすぐにポケットにしまった。
「勝手に見ないでよ!」
「ご、ごめん。」
少女に怒鳴られて一歩後ずさると少年の目に祠が入った。
祠には全面に何枚も複雑な字が書かれたお札が張ってあり、少年はこの祠を見るたびに何か恐ろしいものを感じて避けているのだが、今は辺りの暗さも加わってより一層恐怖を掻き立てた。
「り、りっちゃん。早く帰ろう?」
「くーちゃん、こんなのが怖いの?」
一方、少女はただの祠にしか見えず、怖がる少年を見て悪戯心がわいてきて、祠にあるお札を掴むと一気に引きはがした。
「ああぁ!!り、りっちゃん!?」
少年は目の前でお札を投げ捨てる少女に戸惑いの目を向ける。
「だ、駄目だよ!そんなことしたら怒られちゃうよ!」
「大丈夫だよ。ボク達しかこの場所は知らないんだから。」
「で、でも!いけないことはしちゃ駄目だよ!」
「くーちゃんは男の子なんだからこれくらいでビクビクしないの。」
「た、祟られたりしたらどうするの?」
「祟りなんてあるわけないじゃん。」
「で、でも・・・。」
少年は祠と少女を交互に見て戸惑う。
少女はそんな少年の様子を見て満足して
「そんなことより帰ろ。」
少女は先に来た道を戻っていった。
「ま、待ってよ。」
少年も少女に置いていかれたくないので後を追った。
誰もいなくなった広場で異変が起きはじめたことに気づかず・・・、
ソレは長い呪縛から解き放たれた。
まだ祠に張り付いていたお札は次々に破れていき、祠は徐々に震え始めた。
異変を感じた辺りの生き物は一斉に逃げ出し、祠が崩れはじめると祠を中心に複雑な字が広場全体に浮かび上がった。
しかし、何かが割れるような澄んだ音が響くと同時に陳の一角が淡い光を放って消える。
音は断続的に鳴り響き、陳が次々と消滅していく。
そして、陳が一際大きく輝き、何かが割れるような音も耳が壊れそうなほど大きく響いた。
その音は広場から離れていた二人にも届いた。
「り、りっちゃん。今の音は・・・。」
「は、早く帰るよ。」
予想外の事態に少女の声にも動揺か゛混じっていて足も自然とはやくなっていた。
何かから逃げるように帰り道を行くと突然、
『グオォォォォォ!!』
「うわぁっ!」
「キャッ!」
文字通り大地を揺るがすほどの咆哮が響いた。
「りっちゃん!逃げるよ!」
恐怖で固まった少女を危機を察知した少年が手を掴んで引っ張る。
少年に引っ張っられた少女は恐怖で顔を真っ青にして、掴んだ手から震えが少年に伝わり彼は自分がしっかりしないといけないと自分を奮い起こす。
少年の心は恐怖に染まっていくほど冷静になっていた。
「く、くーちゃん。」
「大丈夫。りっちゃんは僕が護るから。」
「・・・///」
先程とは違う少年の凛々しい表情を初めて見た少女はこんな状況にも関わらず見惚れてしまった。
「っ!危ない!」
少年は危険を察知して少女を引き寄せて横に跳び、少女が傷つかないように自分の体を下に入れて地面を滑る。
ズドン!!
ほぼ同時に後ろから轟音が発生した。
体を起こすと少女を後ろに庇ってソレに立ち向かう。
『グルルルゥ。』
「ひっ!」
後ろで少女が息を呑む音がしたが少年の目はソレにくぎづけだった。
ソレは大人を丸呑みしそうなほど巨大で銀色の毛並み、血のように紅い瞳を有する狼だった。
「・・・りっちゃん、竹刀貸して。」
「え?」
「早く!」
少年に急かされて少女は背負っていた竹刀を慌てて渡す。
「竹刀なんかじゃ役に立たないよ?」
「何もないよりはマシだよ。」
少年は周りを見て使えそうなものがないか探し、そして後ろが崖なっていることに気づく。
「(うまくいけばあれだけを落とせるかも・・・)」
『グオォォ!』
「っ!」
「キャア!」
狼が吠えてその迫力で少女は腰を抜かし座り込んでしまう。
少年も驚いたが怯えている場合ではないと自分に言い聞かせていた。
少年が恐怖を感じても、体は震えることもなく、頭はこの状況を打開するために働き続ける。
「(けど、確実に落とすには・・・)」
狼が一歩踏み出す。
「ひっく・・・えっぐ・・・いやだよぉ。死にたくないよぉ・・・。」
「(こうしたほうがいいよね・・・)」
泣いている少女を見て少年は決心する。
「大丈夫。りっちゃんだけは助けるから。」
「ひっく・・・?くー、ちゃん?」
少女が様子のおかしい少年を見ると同時に
『ガアァァァ!!』
狼が飛び掛かってきて
ドン。
「さようなら。」
グシャア!!
ズシャ!
『ガァァァ!?』
ガラ。
『グオォォォォォォ・・・』
狼が崖下に落ちて少女はしばらく呆然として
「え・・・?」
ゆっくりと脳が事実を認識し始めた。
狼が飛び掛かってきて少年が少女を突き飛ばし、狼が少年をその巨大な顎で捉え、少年がカウンターで左目に竹刀を突き刺して、痛みに悶えた狼が足を踏み外して崖から少年をくわえたまま落ちていった。
「くーちゃん・・・?」
涙も止まり、少年がのまれた闇を呆然と見つめ
「くーちゃぁぁぁん!!!」
絶叫が響き渡った。
〜〜〜〜〜
「くーちゃん!」
叫びながら飛び起きた女性は荒い息を整えながら周りを見る。
「夢・・・?」
未だに慣れない寮の自分の部屋を見て現実を認識する。
あれから長い月日が過ぎ、少女は成長したがたまにあの時の夢を見てしまうことがある。
大事な幼なじみを失った夜の夢を・・・。
枕元に置いてあるずっとお守り代わりに持っている白いリボンを胸元でにぎりしめ
「ごめんね・・・。」
小さな呟きと共に涙が流れた。
何処かの草原で横になっている青年がいた。
その青年のもとに何処からか烏が飛んできた。
「起きろ、坊。」
「ん・・・。ふぁ、クロか。どうかしたか?」
「次の仕事だ。移動するぞ。」
「移動って、まだ夜だろ?明日の朝にしようぜ?」
青年は面倒臭そうに言って二度寝をするために目を閉じる。
「我は別に構わんが、もうすぐノルマが終わるからと言って張り切っていたのはお前であろう?」
それを聞くと、青年は体のバネを利用して飛び起きる。
「さぁ、早く次の仕事場に行くぞ。」
「・・・そういうところは相変わらずだな。」
「まぁ、こうでもなくちゃやってられないしな。」
「確かにな。さて、次の仕事場だがーーーだ。」
青年の目が細まる。
「へぇ、最後の仕事場がそことは気を遣ったのか?」
「知ってるのか?」
「故郷の近くだ。・・・やっと帰郷が出来るかなもしれないな。」
さっきまで見ていた懐かしい夢を思い出し笑みがこぼれる。
過去に分かたれし二つの歯車が再び噛み合うときは近い・・・。
こんにちは。
虚言の騙り手です。
第二話の投稿となりましたが、いかがでしたでしょうか?二つに分けようかと思いましたが、プロローグを早く終わらせたかったので一話にまとめることにしました。次から本編に入り、人物の名前もどんどん出していきます。視点も第三者視点から変えるかもしれません。拙い文章をご覧頂きありがとうございました。