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第十五話   訓練3  Side Syouki and Kiku

今回は計3182文字です。

 焦りは失敗を呼び、失敗は焦りを呼ぶ。何年も同じ事を繰り返し、その度に失敗をして焦る。だから、落ちこぼれと言われ、劣等感を抱き、それでも馬鹿の一つ覚えのように努力をした。ここに来て何かが変わるだろうか?


 力を持たずに普通の家庭に生まれたかった。血筋が僕を束縛し、僕を力へと縛り付ける。力が必要だけど、僕は力を好きになれない・・・・・・。









Side  Syouki




いつものことだ。何度繰り返しても、何度も同じことが起きる。


「【力をもって踏み荒らせ『赤の舞踏』】。」


杖の先から炎が放出され、前方にある草木を燃やし尽くす。


というのが、俺の中でのイメージ。


現実は杖の先からライターと同じくらいの火がともり、前方へと進んでいって草木に当たると少し焦がしただけで消えてしまう。


どんなイメージを思い描こうとも現実ではほんの小さな火を出すことしか出来ない。


何度やってもだ。そのせいで俺は一族の落ちこぼれとして、何度も悔しい思いをした。


年下の子供が俺よりも大きな炎を出しているところを見たときなんかは自分が惨めでならなかった。


それが焦りを呼び、その焦りが更に失敗を呼び寄せる。分かってはいるのだけど、この焦りを自分では止めることが出来ない。


「順調、ではないか・・・・・・。」


「銀牙。」


この異常発達した草木を作りだした銀牙が俺の杖の向けられた先にあるほんの少しだけ焦げた草木を見て言葉を濁した。


芒さんにこいつのところに行けと言われたときは不満がなかったわけじゃなかったが、同時に仕方の無いことだとも思った。


今までも何人もの人間が俺の才能の無さを見限って俺を見放してきた。今回もまた同じことだと分かっていた。


だけど、そうじゃないとすぐに分かった。


こいつが一般人じゃないことはこの『ハンターガーデン』を見てすぐに分かった。それも『焔神えんじん』の分家筋である俺よりも深くこちら側の世界に関わっているのだろう。


「なぁ、さっきからあっちのほうででかい音がすんだけど何かあったのか?」


「あれは悠璃だ。何のアドバイスもなしに開花するんだから天才なんだろうな。」


天才。俺が最も嫌う人種だ。あいつらは何の苦労も無く、俺が必死に手を伸ばしている場所を軽々と越えていく。


「まぁ、他人は他人。お前はお前だ。あまり気にすることもないだろ?」


「・・・・・・そうだな。」


他人と比べて自分の才能の無さを嘆くのはもう飽きた。


「さて、はっきり言わせてもらうが俺からお前に言えるアドバイスはない。」


「おいおい。」


「だから、感覚で覚えてもらう。もう一度、力を使ってみろ。」


そう言って俺の背後に移動する銀牙の言葉に訳が分からないが従ってみる事にする。


「【力をもって踏み荒らせ『赤の舞踏』】。」


さっきと同じように杖の先に小さな火がともり前進していく。


「【誰の意思も汲まず災禍は広がる『バーサーク』】。」


銀牙が俺の肩に手を置き詠唱をすると、小さな火がイメージで作り上げた炎と同じくらいの大きさに膨れ上がり前方の草木を燃やしながら進んでいった。


「・・・・・・。」


「まぁ、こんなもんだろ。あとはこれを再現できるように頑張れ。」


俺がこの結果に驚いていると銀牙が俺の肩から手を放して去っていこうとした。


「ま、待てよ!何をしたんだ?」


「何、少しお前の力に干渉しただけだ。そういうことが出来る特性クオリティーなんでな。」


銀牙が去っていった後、燃やした草木を見ながら他人の手を借りたとはいえまともに術を行使できたことに喜び、あの光景が脳裏から薄れないうちに再び、訓練を再開した。







Side  Kiku




僕は生まれたときからこの力が好きじゃなかった。


生来から気弱な性格である僕は誰かに対して傷つけるような行為はひどく苦手だった。


もちろん、力が誰かを傷つけるためだけのものではないことは知っている。


けれど、やはり力というものはその大半は誰かを傷つけることが出来るものであり、傷つけない力だとしてもその力によって与えられた情報や結果を元に別の誰かが誰かを傷つけてしまうと考えるとどうしても好きになれなかった。


でも、好きになれないからと言っても『水都みなと』の一族の一員として力と付き合わないわけにもいかない。


嫌々ながら力を使っているからだろうか、力はいつもうまく発動しない。


「【染み渡れ、潤いと癒しの雫『キュアドロップ』。】」


目の前の枯れている草木を術によって発生した水の膜が包むが、その水が草木に吸収されても枯れていた草木は依然とそのままで変化が無い。


いつも術が失敗したときはホッとしたような、残念なような変な気持ちになる。


術が使えないのは僕個人の好き嫌いとしてはよかったのだが、一族の一員としては力を上手く使えなくて残念に思ってしまう。


同じように力がうまく使えない瀬木寺君は僕とは真逆の理由、力をうまく使いたいがゆえの焦りによるミス、だと知ったとき力が好きではない僕は曖昧に相槌を打つことしか出来なかった。


「はかどってるか?」


「ぎ、銀牙、君。ご、ごめん、その、あんまり。」


「別に謝る必要はない。」


銀牙君を九十九先生に紹介されたときはあまり積極的に力を学ぶつもりはなかったので正直ホッとした。


自分のペースでゆっくりと必要最低限の力を覚えられれば十分だった。


そういう点では銀牙君の放任的なやり方はすごくありがたい。


「もう一度、力を使ってみろ。」


「わ、分かった。」


僕の背後に回った銀牙君の言葉に従ってもう一度力を使う。


「し、【染み渡れ、潤いと癒しの雫『キュアドロップ』】。」


水の膜が枯れた草木を包み込む。


「【誰の意思も汲まず災禍は広がる『バーサーク』】。」


銀牙君が僕の肩に手を置いて詠唱をすると、さっきは何の変化もなかったのに今度は水が吸収されると枯れていた草木がみるみると元気になっていく。


「あ・・・・・・。」


術が成功して嬉しいような、残念なような複雑な気分になる。


「菊?」


「あ、えっと、その、ど、どうも、ありがとう。」


「・・・・・・力は嫌いか?」


「え!?えっと、その、いや、」


「そんなに慌てなくても別に嫌いなのが悪いっつってるわけじゃない。」


僕がいきなり思っていたことを当てられて動揺していると銀牙君は苦笑した。


「俺だってこの力をあまり好ましく思ってない。力があるから争いが起こるし、力を持つものは争いに巻き込まれる。本当は力のことを知らないまま田舎で平凡な生活を送っていたかったさ。」


「じゃ、じゃあ、どうして・・・・・・?」


「知ってしまったから、だろうな。力の存在を。それで俺の大事な奴らが傷つくかもしれないことを。あとは生きるために必要だったってこともある。・・・・・・力を嫌うならそれはそれでいい。だが、お前の血筋が争いから遠ざかることを許さないだろ?」


「あ、み、『水都みなと』のことを・・・・・・?」


僕の疑問に銀牙君は頷いた。


「いざというときに何も出来ない、大事なものを護れない。そうなったらそのときのことを一生後悔するのはお前だ。そうならないためにも嫌いなままでいいから受け入れられるようになればいい。」


「き、嫌いなままで、う、受け入れる・・・・・・。」


「俺はそうやってきた。・・・・・・さて、また律でも見てくるか。頑張れよ、菊。」


去っていく銀牙君を見送って、しばらく彼の言葉を反芻していた。


ほんの少し、ほんのちょっと、ほんの僅かにだけ、前より頑張れる気がした。





というわけで、今回は新キャラの鐘紀と菊の話でしたがほとんど会話がなくてすいませんでした。

 何だか最近はネタがなくなってきて段々と難産になってきました。今後は更新が今まで以上にゆっくりになったり、内容が薄くなったりするかもしれませんが頑張って更新していくつもりです。

 ご意見・ご感想のほうは随時お待ちしています。

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