第十三話 訓練1 Side Kuon and Ritu
今回は計3719文字です。
それは償いの第一歩。それは自分を御する第一歩。それは愛しき者への第一歩。それは成長への第一歩。それは変化への第一歩。この一歩が彼らにどんな未来を及ぼすのか、それは誰にも分からない・・・・・。
Side Kuon
『ハンターガーデン』の中央、草のクッションで作られたベッドの上で寝そべっていると人が領域内に侵入してきたのを感知したのでここまでの道を草木を操作して作り上げる。
「随分と派手なことをしましたね。」
「別にたいしたことじゃないだろ?」
「私達から見ればそうでも生徒達から見れば十分派手ですよ。」
沙羅が呆れたような表情で俺を見る。
「他の生徒の指導はいいのか?」
「指導できることはもうしましたから後は本人達が感覚を掴むのを待つだけです。何かあれば九十九先生もついています。」
「で、俺のところに来たのはあの二人のことか?」
「それもありますが、橘さんとあなたのことです。」
体を起こして沙羅に向き直る。
「・・・・・まぁ、流石に知ってるか。」
「ええ。六法家のうち遠い昔にその姿を消した封魔の『断刃名』。彼らに流れる血に宿った血統特性、『封魔相克』。それが彼女にあらわれたということは、」
「ああ。あいつは『断刃名』の末裔だよ。あいつ自身は六法家や血統特性に関しては何も知らないけどな。」
「・・・・・彼らが姿を消す直前、最後に関わった事件は『四柱』が一角、『魂』との戦闘。『四柱』で唯一その姿を現したかの存在は狼をかたどっていたと言われています。」
「そうだな。実際、主人は狼の形態をとっていたよ。」
「やはり、あなたは・・・・・。」
「推測どおり、『魂』の眷属だ。」
別に隠しても意味のないことなので素直に吐いた。
「『一匹狼』・・・・・。」
「俺のことを知ってもらえているなんて光栄だな、『滅亡の空』。」
「噂は流れてましたから。『四柱』の眷属が現れた、というものが。そして、あなたと戦場で戦ったこともありますしね。」
「戦った、か。『ヘブンズドア』による一方的な攻撃で俺が逃げ回っていただけだろ?」
「その間に部隊を三つも潰され、目標も奪取されました。」
「目標を奪ったのは警邏じゃなくて『神々の近衛』だ。」
「それでもあなたがあの部隊を潰さなければ私達、『大地の御子』のものでした。」
「俺だって目の前で掠め取られて悔しいのは一緒だ。・・・・・それとも、俺がそのときに殺した奴らの仇討ちでもしたいのか?」
いつでも襲いかかれるように『ハンターガーデン』をスタンバイさせる。
「・・・・・まさか。そんなわけないでしょう?この世界にいる以上、命を失うことなんて皆覚悟の上です。恋人でもいたならまだしも生憎、私には長年そういう人が現れませんでしたから。」
「・・・・・仇討ちに来た奴がわざわざ敵のテリトリーに何の準備もなく入らないか。」
「そういうことです。ただ思い出して愚痴の一つでも言っておこうと思っただけです。」
緊迫した空気をといて『ハンターガーデン』の警戒態勢もとく。
「そういえば、あの二人、鐘紀と菊だが、あいつらの特性、まさか六法家と関わりがあるのか?」
「ええ。『焔神』と『水都』の分家筋にあたります。といっても、末端の末端ですが。『断刃名』をみるならついでにと思いまして。」
「けど、あれは・・・・・。」
あの二人のことを思い出して眉をしかめる。
「ええ。血は引いているので血統特性は受け継いでいるのですが、どうにも・・・・・。」
「才能がない・・・・・、というより、精神面に問題があるのか、あれは。」
「そうです。改善を何度も試みたそうですが、それもことごとく失敗に終わって環境が変われば何か変化があると思ったらしいのですが。」
「それだと俺にはどうしようもないぞ?」
「先生方による教育も既に試みて失敗しているので、力を覚えたばかりの同世代の子と一緒にしてみればいいんじゃないかと思いまして、まぁ、しばらくは様子を見ましょう。」
「結局、俺がしばらく世話をしないとならないのか。」
面倒を新たに抱えて、これからの苦労を考えて溜息をついた。
「・・・・・あいつらの様子を見てくる。」
「どうぞ、頑張ってください。」
沙羅に背を向けて、草木を操作して出来た道を歩き始めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
Side Ritu
くーちゃんに課題を言い渡されて、大分経った。
「【朽ち落ちろ、事象は虚に還る『還元』】。・・・・・何で何も起きないかな?」
くーちゃんと同じようにやったのに力が発動した気配は微塵もしない。
「はぁ・・・・・。ちょっと疲れてきたな。でも、座れないし。」
そう言いながら自分の足元を見ると地面から生えた草がボクの足を縛り付けて動けないようにしている。
木刀で切りすてようとしてもその草は強化の術がかかっているらしく、全然びくともしない。
くーちゃんに与えられた課題はこの草にかかっている術をとくこと。ただそれだけなのだが一向に成功しない。
集中はちゃんとしている、イメージもしっかりと構築した。なのに、成功しない。何が悪いのかも分からないのでただ闇雲にやるしかない。
「よし。もう一回。・・・・・・【朽ち落ちろ、事象は虚に還る『還元』】。」
・・・・・・変化なし。
「はぁ・・・・・。ほんと何でだろ?」
「当たり前だ、馬鹿。」
顔を上げるとくーちゃんが呆れた顔をして立っていた。
「馬鹿はひどくない?」
「いや、馬鹿だ。俺が何て言ってたか聞いてなかっただろう?」
「ちゃんと聞いてたよ。集中だってした、イメージだってちゃんと作った。でも、ダメだったんだよ。」
「それだけか?」
え?まだあったっけ?
「・・・・・同じような術を使うにしても術者が違えば詠唱は変わる。自分のイメージをそのまま口にすればいいって言っただろうが。お前が使ったのは俺の詠唱、俺のイメージ。それじゃあ、術が発動するわけないだろ。」
そういえば、そんなことを言っていたような気もする・・・・・。
「お前にとっての力を打ち消すイメージ、そして、それを表す言葉じゃないと力は発動しない。それを考えるんだな。・・・・・俺は他の奴を見てくる。」
くーちゃんはボクに背を向けて歩き出そうとする。
「ま、待ってよ。そんなこと言われたってよく分かんないって。何かヒント頂戴よ。」
「・・・・・そうだな。お前がおじさんから習ったことでも参考にするといい。」
「父さんから教わったこと?」
くーちゃんはそのまま去っていってしまった。
「父さんから教わったこと・・・・・。剣?」
剣術が何でイメージの役に立つのかな?・・・・・ううん、それだけじゃないはず。剣を通してボクは父さんに何を教わった?・・・・・・あ、
『いいかい、律。僕らが振るう剣は誰かを傷つけるためにあるんじゃない。降りかかる災いを振り払うためにあるんだ。全てを焼こうとする炎が迫ろうとするなら火種がなければいい、全てを押し潰そうとする濁流が押し寄せようとするなら水が流れないようにすればいい、全てを吹き飛ばそうとする風が襲い掛ろうとするなら風が吹かないようにすればいい、全てを崩そうとする地震が起こりそうなら地震が起きなければいい。え?何が言いたいのか?ははは、ちょっと分かりにくかったかな?殴られそうになったら殴られないようにすればいい、蹴られそうになったら蹴られないようにすればいい、要は何か災いが迫ったらその原因を無くせばいいってことだよ。僕らの剣は災いの原因を無くすためにあるんだよ。』
原因を無くす・・・・・。
足に絡みつく草を見る。
この草がボクに絡みついている原因は?くーちゃんがそういう術を使ったから?・・・・・いや、違う。・・・・・草にそういう術がかかっているからだ。じゃあ、術が発動している原因は?・・・・・くーちゃんが使ったから?・・・・・それもあるけど、求めている答えはそれじゃない。・・・・・魔力?
「魔力を、無くす・・・・・。」
そうすればこの草はただの草だ。
あとはそのイメージを形作ればいい。
剣を構えて集中力を高める。
原因を無くす・・・・・魔力を・・・・・どうやって?・・・・・ボクの剣で・・・・・魔力を無くす・・・・・魔力を振り払う・・・・・魔力をふりはらう・・・・・魔力を振り祓う・・・・・。
「・・・・・【災いよ、去れ『断禍』】。」
イメージを乗せた一振りを絡みついた草に向かって振り下ろした。
訓練風景を書いてみました。前半の関係ない部分が一度説明したことをもう一度説明したりして長々となってしまい、申し訳ありません。
次回は律を除く面々の訓練風景を書こうと思います。楽しみにしていてください。
ご意見・ご感想の方は随時お待ちしてます。