第十一話 『事象技能《イマジン》』 Side Ritu
私生活が忙しくて更新が出来なくて申し訳ありませんでした。やっと落ち着いてきたので執筆を再開しました。期間をあけたので出来が落ちているかもしれませんがご容赦下さい。
そして、アンケート締め切りに伴いタイトル、キーワードの変更、そしてあらすじもついでに変更しました。
君がいなくなってからボクは剣にすがった。稽古をしながら君と稽古をしていたときのことを何度も思い出した。いつもいつもボクの練習に付き合ってくれた君を一番鮮明に思い出せたから何度も何度も剣を振るった。その剣を通して、いなかった君を見ていた。そして、今君は剣を通さなくてもここにいてくれる。それならこれからのボクの剣は君のために捧げようと思う。今は贖罪でも、いつかは別の意味でこの剣を君のために・・・・。
Side Ritu
動きやすい服装に着替えて無駄に広い構内を歩いて第三訓練場に辿り着いたときにはすでに多くの生徒たちが集まっていた。
「わっ、すっごい広いっ。」
悠が言うように一クラスが大体40人だから、三クラスで約120人近くいるにも関わらずまったく狭くないというか、向こう側の壁すら見えないって広すぎじゃない?
「地図ではこんなに広くないはずなんですが・・・・。」
絢香も持っていた生徒手帳に記されていた構内の地図との誤差に首を傾げた。
「空間を捻じ曲げて拡張してるんだ。その証拠に壁にびっしり魔術刻印が刻んである。・・・まったく、これだけのものを使ってどれだけ金をかけてるんだか。」
「魔術刻印?」
「魔力を注ぐと一定の効力を表す図形だ、魔法陣のようなものって言えば分かるか?」
「何とか・・・。これだけの金って言ったけどそんなに高いの?」
「魔術刻印が刻まれた物質を刻印素材っつうんだが、作るのに馬鹿みたいに労力が必要なんだ。そうだな・・・・、このだけの質のものならここから十メートルでざっと百万か?それを地図縮尺の通りの空間の囲いに使ったならここだけで少なくとも一兆は確実にいってるだろうな。」
「一兆!?」
「俺も専門外だから詳しくは分からないが最低限それぐらいはあるはずだ。」
『講義を開始しますので生徒はこちらに集合してください。』
予想外の金額に驚いているとそんな声が響いてきたので、ボクたちは生徒たちが集まっているところに向かった。
「皆さんの実技の講義ではそれぞれのクラスの担任である三名。私、1−Fの芒 沙羅と1−Cの仙木 樹先生、1−Eの九十九 一二三先生が担当します。よろしくお願いします。」
「仙木だ。これからお前たちに教える力は一歩間違えれば大きな被害をもたらす。それをよく覚えておけ。」
「・・・・(九十九 一二三。よろしく。)」
芒先生の紹介を受けていかつい顔をした大男である仙木先生と無口無表情で文字が書かれたスケッチブックを持った白髪の幼女、九十九先生が自己紹介をしたんだけど・・・・、
「何でスーツとジャージとゴスロリ?」
何故か芒先生がいつもと変わらないスーツ姿、仙木先生はそこらへんに売っていそうなジャージ姿、九十九は白いゴスロリ服で何ともおかしな組み合わせだ。
「生徒相手に真面目な装備を整えるわけないだろ?だから、あれが普段着なんだろうが・・・・。悠、お前確か一二三のクラスだろ?いつもあの格好なのか?」
「ゴスロリじゃないけど、ひふちゃんはいつもコスプレだよっ。」
「そういえば、以前に九十九先生は学園長とゴスロリ服について話し合っていたことがありました。」
「あれの同類か・・・・。」
くーちゃんが呆れたように息をはく。
「では、まずはすでに力の使用の経験がある人は仙木先生のほうへ集まってください。」
そう芒先生が言うと集まっていた生徒の半数以上が仙木先生のほうにいってしまった。
「え?こんなにいっちゃうの?」
「親が力を持つと子も力を持つことが多いからな、親にでも習ったんだろう。むしろ、親がそうじゃないのに力を発生させることほうが珍しい。」
「あれっ?くお君はいかないのっ?」
「別に俺は焦って上達させるつもりはないからな。自己申告制ならお前らと一緒にいるほうがいい。」
「やったっ。くお君と一緒だっ。」
悠が嬉しそうにくーちゃんに抱きついた。
「さて、こちらにいる人達にはまずは自分の特性を知ってもらいます。」
特性?えっと、前に別の講義で聞いたような・・・・。
「魔法、魔術、法術、仙術、妖術、超能力、神秘、様々な名称があるが、魔力を使ってイメージを具現化する現象は総じて『事象技能』と呼ばれ、『事象技能』の発動には『事象技能』によってどのような事象を起こすことに向いているか、いわゆる優性属性を示す特性が必要・・・・。律、こんなことも覚えてないのか?」
「あはは・・・。そ、そんなことよりどうやってそれを確かめるの?」
「沙羅が説明するだろ。」
沙羅って、さっきの九十九先生のときも呼び捨てにしてたけど先生を呼び捨てにしていいの?
「特性を知ると言ってもそんなに難しいことではありません。一度『事象技能』の感覚を捉えれば自然と自分の力が頭に思い浮かびます。」
「え?そうなの?」
またボクだけ分からないのかと思ったら悠と絢香も知らなかったようで不思議そうにしている。
「久遠君は何でだか知ってますか?」
「そういう法則だからだ。」
「くお君も知らないのっ?」
「そういうことじゃない。全ての世界の礎、至高概念とも呼ばれる『四柱』のうちの一つ、万物の法則を司る『法則』がそういう風に法則を世界に定着させてるんだ。だから、そこに余計な因子も過程も含むこともなく『イマジンの感覚を捉える』=『自分の特性を理解する』という方程式が1+1=2と同じように簡単に定まっている。」
よく分からないけど、難しく考える必要がないってことだよね?
「特性を知るためにはまずは『事象技能』がどのようなものであるかを頭で知り、次に感覚で理解してもらう必要があります。今まで勉学だけをさせていたのはそれが理由です。」
今までさせてくれなかったのにもちゃんと理由があったんだ。
「今回、感覚で理解させることで皆さんの力を目覚めさせます・・・・。【彼方より来たれ祝福の光、此方より去れ災いの闇、眠り子に目覚めの時を与えよ、息づく者に安息の眠りを与えよ。『ヘブンズドア』】。」
言葉が終ると同時にボク達の上から大きな光が瞬き、上を見上げると大きな光の雲が広がっていた。それを呆然と見上げているとそこから光の雫が雪のようにひらひらと舞い落ちてきたのでそれを手に乗せてみると雫はその手の上で溶けるかのように消えていった。
「これは・・・・。まさか『滅亡の空』だったとはな・・・・。」
「『滅亡の空』?」
「沙羅の通り名だ。といっても、沙羅がそうだとは思わなかったが・・・・。そんなことより感覚は掴めたか?」
「え?えっと、どうしたらいいの?」
「さぁな?俺のときは自然と知っていたからどうしたらいいかと聞かれても分からない。」
「光の雫に意識を集中すればいいみたいですよ。」
絢香が困っていた私にそう言ってくれたので私も降り注ぐ光の雫に意識を集中した。
「絢香はもう終わったのか?」
「はい。知っていたものと『先見予告』という力みたいです。」
雫に意識を・・・・。
「重複者だったのか。」
「重複者、ですか?」
何か不思議な感覚が・・・・。
「特異特性を複数持つ人間をそういうらしい。俺も複数持っているが、人という定義を考えると外れるな。」
これが『事象技能』・・・・?
「くお君っ、私は『魔力回収』っていう力なんだってっ。くお君はっ?」
「ん?俺か?元から持っていたのは『位相微剥』だ。」
私の力は、『魔法行使』と・・・・、
「『封魔相克』・・・・?」
浮かんだ単語がつい口から漏れた。
「りっちゃんの力は『封魔相克』っていうのっ?」
「え、うん。あと、『魔法行使』っていうやつ。」
「『魔法行使』は固有特性だから言わなくても分かってますよ。」
「固有特性?」
「やっぱり覚えてなかったんだっ。」
ってことは、それも授業でやったことなんだ。
「種族ごとに必ず生まれ持つ特性のことだ。人間は『魔法行使』がそれに当たる。」
「それなら」
「ただ、『魔法行使』はそれ単体では『事象技能』を使えないっつう欠点があってな。もう一つ特性を持たなければ機能をしない。」
人間全員が『事象技能』を使えるんじゃないかと言おうとしたのだが、それを予測していたかのようにくーちゃんに遮られた。
「そして個別に目覚める特性が特異特性と言って『事象技能』を使う大抵の奴はこれを持ってる。少数だが血統特性っつう遺伝する特性を持つ奴もいるがな。」
「へぇ〜〜〜。」
「それと自分の特性はあまり言いふらさないほうがいい。特性は優性属性を示すこともあって知られれば、手の内を明かすようなものだ。」
「・・・・(その通り。)」
「あ、ひふちゃんっ。」
何時の間にか近くに来ていた九十九先生がスケッチブックをこちらに見せながら立っていた。
「・・・・(編入生?)」
「ああ。一応自己紹介しておこう。銀牙 久遠だ。敬語は必要ならつけるが?」
「・・・・(別に。あなたは何でこっちに?)」
「知り合いの近くにいたいだけだ。別にいいだろ?」
九十九先生はくーちゃんのその問いに頷く。
というか、さっきからスケッチブックに文字が勝手に浮かんだり消えたりしてるんだけどあれも『事象技能』なのかな?
「にしても、三人とも面倒な特性だな。」
「面倒って何で?」
「優性属性が分かりにくい。」
そういえば、確かに。
「そうだな・・・・・・・・・。絢香は解析系、悠璃は大規模系、律は封印系と俺は見たんだがどう思う?」
「・・・・(里見ちゃんは吸収系、魅宗ちゃんは幻術系、橘ちゃんは解呪系も大丈夫だと思う。)」
「どっちにしろ最初に何をさせるかに悩むな。」
振り仮名までつけた細かい芸を見せた九十九先生が頷く。
「そういうくーちゃんの優性属性は?」
「俺は作用系と解呪系だ。」
「だったら、解呪系の何かを見せてよ。」
「そうだな・・・・。一二三。」
九十九先生が頷くと同時にスケッチブックに鎖が浮かび上がったかと思うと、次の瞬間には鎖が実体化してくーちゃんに巻きついた。
「喋らないから予想してたがやっぱり無声行使か。」
「無声行使?」
「『事象技能』は普通はさっきの沙羅みたいに詠唱をするんだが、今みたいに詠唱を省く高等技能のことを無声行使っつうんだ。」
「・・・・(詠唱はイメージを明確にするための自己暗示。低、中位の事象技能なら省くことも可。)」
「かと言って、今みたいに系統の中でも高位の創造系を無声行使でやるのは普通は無理だから一二三の特性が関わってるんだろうけどな。」
「・・・・(黙秘。)」
「で、だ。解呪系はイメージ自体は難しいことじゃない。ただ解呪する対象がどれだけ強固にイメージされたか、特性がどれだけ解呪に優性を示すかに大きく左右され、解呪に優性を示さない奴と優性を示す奴では大きく効果に差が出る。」
「・・・・(解呪系の優性者は重宝される。)」
「俺も解呪系に優性を示しているとはいえ、結界、魔法陣への効力に特化しているからな、優性を示さない奴が百の力、俺が十の力で『事象技能』を打ち消したとしたら律は一の力で同じことが出来るだろうな。代わりに俺は何もしなくても結界、魔法陣を無効化できるがな。」
「・・・・えっと、つまり?」
言われたことをうまく理解できなかったので聞き返した。
「お前は解呪の力がとびぬけてるってことだ。俺が今からやることももっと簡単にこなせるだろうな。・・・・【朽ち落ちろ、事象は虚に還る。『還元』】。」
くーちゃんに巻きついた鎖が粒子に分解されて消えた。
「と、まぁ、こんな感じだ。練習には誰か術をかける奴がいないとならないから俺が付き合ってやろう。」
「悠ちゃんにも教えてよっ。」
「あの、私もいいですか?」
悠は不満そうな顔で、絢香はおずおずとくーちゃんに頼んだ。
その申し出をくーちゃんが断るわけもなく、三人でくーちゃんに教わることになったのだが二人きりで教わることが出来なくて内心、がっくりしたのだった。
久々の更新になって今回はやっとこの作品での魔法、『事象技能』を登場させることが出来ました。前書きでも書きましたが、前半と後半を書くのに期間が空いたために文章が変化してるかもしれませんがご容赦下さい。
さて、今回、アンケートを集計した結果、タイトルは圧倒的に『狼の誓い』に決まりました。といっても、アンケート全体の票数が少なかったんですけどね。まだ十話でアンケートを実施したのが無謀だったのでしょうか。こんな拙い作品を呼んで頂いている人達のためにももっと精進したいと思います。
ご意見・ご感想を随時お待ちしております。