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第九話  罪の在り処  Side Ritu

思ったより長くなりました。

嬉しいけれど納得できない事もあってまだくすぶるものはあるけれど、そんな顔を見ていたらそんなことはどうでもよくて、どんなことがあっても受け入れる覚悟を決めた。だって、それはボクが歩ませてしまった道なのだから。










Side Ritu






「俺を眷属種に転生させてまず主人はあの封印が解けたことを察した追っ手が来る前にあの場所から逃げた。いくら主人が強くても長い間封印されていたせいで力が弱っていたからな。」


ボクが知らないあの日から今までの空白の時間をくーちゃんは語りはじめた。


「そして逃げ込んだ先が今現在、俺が所属している、剥離世界(チャイルド)『裏平安京』だ。」


剥離世界(チャイルド)?」


「それもまだ知らないのか?」


ボクが首を傾げたのを見て、くーちゃんが絢香に聞いた。


「いえ、律さんが聞いていなかっただけだと思います。」


「悠ちゃんも知ってるよっ。」


絢香が苦笑しながらそう言うと、くーちゃんに抱き着いたままの悠も同調した。


というか悠、さっきからくーちゃんにくっつきすぎ。くーちゃんも注意すればいいのに昔から悠に甘すぎだし。


そんな思いでくーちゃんを見ていると呆れたような安心したような顔をしていた。


「そういうところは相変わらずのままか。」


「別にいいじゃん。」


そう言うとくーちゃんは溜息をついた。


「・・・今俺達がいるこの地球という世界が全ての世界の中心である、始まりの大地(マザー)。そこから独立して生まれた世界が剥離世界(チャイルド)だ。」


「つまり異世界?」


「異世界というほどでもないな。剥離世界(チャイルド)は地球上の何かしらに影響を受けて存在しているし、行き来もさして難しいことでもない。そうだな・・・、地球とは隔絶した環境、文化を持つ地域ぐらいの認識でいいだろう。」


えっと、かなり遠い外国ってことでいいかな?


「何で『裏平安京』なんて名前がついてるのっ?」


「あそこは世界の中心は平安京を再現して創られているからだ。住んでるのが日本由来の妖魔ばかりでトップが平安京を気に入っていたからってのもあるがな。」


「妖魔ばかりって、そんなところに住んでいたんでですか?」


「俺は元は人間だが、そのときは既に眷属種、半妖という存在だぞ?まぁ、便宜上、半妖と名乗っているが本来の半妖の定義から外れているから人間でもある妖魔、というのが正しいんだがな。」


くーちゃんは自嘲を浮かべていた。


「人間と妖魔の間に生まれた半妖でもなく、作り替えられたこの身体は人間でもなく、元が人間であるだけに妖魔でもない。真の意味で中途半端な存在。誰が言い始めたのかいつの間にかついた名が『一匹狼アウター』。・・・中々に洒落がきいてる。」


声にも自分を嘲るような色が混じっていて、その声が痛かった。


「洒落がきいてるっ?」


悠もくーちゃんの様子を敏感に感じとって暗いものを払拭しようとさっきより明るい声を出した。


「これだ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・イヌミミ?


突然、くーちゃんの頭から銀色の毛並みの犬の耳のような生えてきて思考が止まってしまった。


「わっ!尻尾も生えてるっ!」


悠が騒いでボクもくーちゃんの犬耳?と同じ銀色の尻尾に気づいた。


「眷属種は主人に影響されやすい上に俺は足りない部分を主人の力で補って転生したから特徴が自然と主人に近くなったんだ。・・・ここではやらないがその気になれば狼に変化も出来る。」


「だから洒落がきいてる、ですか?」


絢香の問いかけにくーちゃんは頷いて答えた。


「くお君がワンちゃんっ?」


悠が揺れ動く尻尾を目で追い、片手でミミをいじりながら少しズレたことを言うと、くーちゃんは少し口を綻ばした。


「間違ってはいないが流石にワンちゃんはよしてくれ。」


くーちゃんがそう言いながら頭を撫でると悠は恍惚とした表情でそれを受け入れる。その姿を見ているとどちらかというと悠の方がくーちゃんに甘える犬みたいに見えてくる。


「・・・『裏平安京』で目覚めて自分の状態を把握したとき真っ先に元の場所に帰してくれと頼んだが・・・、眷属種として生まれ変わった俺の力は野放しにしては置けなかった。主人という強力すぎる存在の眷属となればその力の利用価値や希少性は決して低くはないからな。少なくとも自分の力を扱えるようにしてある程度の脅威をはねのけるだけの力が必要だった・・・。」


くーちゃんの顔に一段と暗い陰がさした。


「・・・絶対に帰る決意をした俺はある人物に勧められ力をつけるために『裏平安京』の戦闘機構『警邏』に入隊した。・・・それからは、毎日が、殺し合いだった・・・。」


「・・・。」


その声に押し込められた苦痛に心が張り裂けそうで今すぐに謝り倒したい思いがボクの中で駆け回ったが、今はそのときじゃないと思いとどまった。


「最初は、人でなくても殺すのには抵抗があった・・・。だが、何時からか殺すことに何の感慨も湧かなくなった・・・。人を初めて殺した日には胃の中のものを全部吐き出した・・・。だが、何時からか人を殺すことにも抵抗はなくなった・・・。泣いている子供を非常になりきって殺し罪悪感に押しつぶされそうになった・・・。だが、何時からか無慈悲に切り捨てることが出来るようになってしまった・・・。一つの集落を殲滅せんめつし作り上げた惨状を見て自分の罪深さを思い知り己を嫌悪した・・・。だが、何時からか割り切ってしまっている自分に気づいた・・・。血塗れになって立つ自分を見て愕然とした・・・。だが、何時からか『俺』は、もう、『僕』に戻れないことを理解していた・・・。」


・・・・・・・・・・・・ごめん、なさい。


「もうあの頃の自分には身も心も戻ることが出来ないと自覚した日から俺は何のために戻るのか、その疑問を抱きながら殺した。迷いを抱きながら戦場に立った。答えを探しながら暴れた。行き場のない慟哭の叫びを雄たけびに変えた。」


ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。


「腕を振るった。その腕で肉を切り裂き骨を砕いた・・・。足を踏み出した。その足で亡骸を蹂躙し新たな死を引き寄せた・・・。声を上げた。その声で破滅を導き死を与えた・・・。目を開いた。その目で数多の屍を見下ろし生きている者には恐怖を植え付けた・・・。」


何て、ボクは、愚かなのだろう。謝って全てが許されるとでも思っていたのだろうか?彼を地獄へと突き落した罪がその程度で洗い流されると思ったのだろうか?


「誰かが言った。アレは人であるがゆえに同胞の命を奪うことに何の躊躇いもない、と。誰かが言った。アレは人に害をもたらす獣であり、人であるはずがない、、と。誰かが言った。アレはどちらにもなれぬ哀れなもの、戦い続け、血を浴び続け、屍を作り続けていながらもなお過去の思い出に縋らなければ自己を保つこともできない弱者である、と。」


許されない。許されてはいけない。ボクはあの日にくーちゃんを殺してしまった・・・。その罪は未来永劫消えることはない。罪の十字架を背負い続ける義務がある。


「・・・俺は、何のために戦っているのか分からなくなった。ただ与えられた任務を遂行して殺し続けた。だが、ある日、ふと思った。『俺』は『僕』には戻れない。なら、『僕』の想いは何処にいく?ただ大切な人たちの傍で笑い合っていたい、という想いは?・・・俺はそのときに誓った。『僕』の想いの中に自分はいなくとも『俺』は『僕』の想いを引き継ぐことを。『僕』が護りたいと思ったものを命に代えても護り抜くことを。『僕』が幸せを願ったものを自分の全てを賭けて幸せにすることを。」


ボクの人生を全て捧げてでも罪を償わなければ


「だから、そんな顔は止めてくれないか?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


「こんなことを話すとお前が自分を追い詰めるだろうってのは幼い頃の付き合いで理解してるつもりだ。だけどな、一度お前を極限まで苦しめても俺は自分の罪を、自分の心の内を言う必要があったんだ。・・・お前を罪の幻から解放するために。」


幻?何を言ってるの?君を殺したのはボクでそれは許されないこと。


「お前のせいじゃない。」


「ッ!!」


「あの日に肉体的に『僕』を殺したのは他の選択肢を選ばなかった『僕』自身だ。そして、空白の月日の間に『俺』が苦痛から逃れるために精神的な『僕』を殺した。・・・お前は誰も殺しちゃいない。」


「違うッ!!」


ボクが殺した。ボクがくーちゃんの命を奪った!


「違わないさ。お前はただ怯えているだけだ。あの時には死の恐怖に、今までは『僕』の存在が消えてしまうことに、今は俺がお前の中の『僕』を塗りつぶしてしまうことに。」


「違うって言ってるだろ!!」


「律さん!」


絢香が殴りかかろうとしたボクの邪魔をしてくる。


「りっちゃんは、臆病だよ・・・。」


悠の静かな声にボクは彼女を睨みつける。


何も分からないくせに!この罪の重さを何も!


「どうして、くお君のことを否定しようとするの?」


「どうしてって、間違ったことを言うからに決まってるじゃないか!!」


悠が首をゆっくりと横に振る。


「そうじゃないよ。どうして、今のくお君の存在を否定するの?そんなにくお君を殺したいの?」


「どういう意味!?」


ボクがくーちゃんを殺したいなんて思うわけがないじゃないか!


「さっきから自分がくお君を殺したって、その罪を償わないといけないと思ってるよね?」


「それがどうかした!?さっきから本人も死んだって認めてるじゃないか!!」


「・・・確かに『里見 久遠』は死んじゃったよ。でも、『銀牙 久遠』としてくお君は生きてるんだよ?」


「だからボクはくーちゃんに罪を償わなきゃいけないんだ!!」


「・・・一度死んで、生まれ変わってもこうしてここにいるのは『里見 久遠』が『銀牙 久遠』になっただけでくお君はくお君のままなんだよ?・・・りっちゃんが言ってるのは『里見』と『銀牙』を別の存在として見てるとしか思えない。ここにいるくお君を否定して、過去のくお君に縋っているようにしか見えない。」


「ッ!!」


とっさに言葉が出なかった。それは今まで見てきたどんな目より悠の目が冷ややかだったからだけでなく、どこかでそれを認めている自分がいるから。


「・・・さっきからくお君が言ってるのは概念的な死。私達だってそうだよ?くお君がいなくなって私はただくお君に甘えていた自分を捨てて今の私になった。過去の私は死んで今の私として生きてる。・・・くお君が言ったのは、過去の子供のままの『里見 久遠』の死と肉体的に一度死んだという重傷とかと同じ肉体的損壊の事実のこと。でも、ここに今の『久遠』、『銀牙 久遠』として生きている。・・・りっちゃんがくお君に殺してしまった償いをしたいっていうのは『久遠』という存在をあの日に殺して、その彼に一番近い存在に許しを請う行為。つまり、死んでしまった人に対する償いを代わりにその遺族にしようとしてるのと同じじゃないかな?」


そんなことは・・・


「でも、それは、逃げてるだけだよ・・・。『久遠』という存在を『里見』で終わらせることで『銀牙』の味わった苦痛から、くお君を変えてしまったという事実から、りっちゃんの罪の姿から、『久遠』を殺したというありもしない罪に逃げてるんだよ。」


そんな、こと・・・


「・・・俺がこうして会いに来なければお前は俺を殺してしまったという罪に苛まれ続けるだろうし、俺の過ごしてきた日々を知ればその重さに目を逸らしたくなるとは思ってた。だが、俺が一度でもお前に殺されたって言ったか?一度でも恨んでいると言ったか?・・・俺はお前の存在を支えに心を保った。お前に会うために心を奮わせた。俺が腐らずにこうして心を保っていられるのはお前のおかげだ。」


・・・・・・・・・そんな、こと


「そんな、こと、いわないで、よぉ・・・。」


顔を俯けるとぐちゃぐちゃになった頭の中を複雑な想いが渦巻く。


分からなくなる。どうすればいいのか。


泣きたくなる。悲しみではなく。


甘えたくなる。その優しすぎる言葉に。


「ボクはぁ・・・、ボク、はぁ・・・。」


「何も悪くないさ。ただ、俺の身勝手な行動で苦しめられただけだ。」


ボクが、くーちゃんを、傷つけた・・・。


ボクが、くーちゃんを、苦しめた・・・。


ボクが、くーちゃんを、変えてしまった・・・。


なのに・・・、


「どうしても罰を受けたいって言うなら、この数年間ずっと罪の幻に苛まれてきた。それで十分だろ?被害者である俺がそう言ってるんだ、何の問題もない。」


どうして、そんなに優しいの・・・?


どうして、許してくれるの・・・?


どうして、こんなに温かいの・・・?


「ひっく・・・、ごふぇ、ん・・・、ごめん、なざぁ、い・・・。」


ふと・・・、温かい何かに、包まれた・・・。


「ん・・・。気にするな・・・。」


かけられた温かい声が。


背中を撫でる温かい手が。


寄りかかった温かい体が。


「う・・・、」


どうしようもなく・・・、ボクの心を、溶かす・・・。


「うああぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあ!!」


一度破れてしまった心のよわさは容易くボクの心の全てを吐き出し、ただただ、この温かな体に縋って、この温かな腕に抱かれて、この温かな優しさに全てを委ねてしまう。


恥も外聞も罪も後悔も全てを投げ出して、ここにある優しさに、与えられた免罪符に、霞んだ罪の向こう側に、この温かい場所に、この人に、ずっと抱かれていたかった・・・。









書いていて、これは言いたいことがうまく伝わるだろうか?とも思いましたが、他に言い回しが思いつかなかったのでそのまま投稿しました。

 とりあえず、これで律の罪の意識は大分軽くなりますが、完全に無くなったわけではなく負い目を感じています。そのせいで恋心にも素直になれず・・・、という展開を考えています。それと、魔法チックなものを早く出したいです。

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