プロローグ 〜運命の分岐点〜
その日は特に暑い、夏休みになって半月も経った日のことだった。
「ねぇ、りっちゃん。もう帰ろうよ?」
前を行く竹刀を背負った少女の服の裾を掴み小さな声で少年は聞いたが
「何言ってるの!あともうちょっとじゃん!」
「でも、もう真っ暗だよ?」
不機嫌そうな少女の声に少年は怯えながら自分達の周りの暗い森を見る。
「そんなに帰りたいならくーちゃんだけ先に帰れば。」
少年の手を振り払って先に進んでしまう。
「ま、待ってよぉ。」
少年は小走りで少女のところまで行き、再び彼女の服の裾を掴む。
「帰るんじゃなかったの?」
「こんなところから一人じゃ帰れないよ。」
少年は少女に涙目で訴える。
「情けない。それでも男の子?」
「お、男の子だよ。りっちゃんみたいな度胸はないけど・・・。」
「それはボクが男の子っぽいってこと?」
「ち、違うよ。りっちゃんは可愛いけど、かっこよくもあるってこと。」
竹刀に手をかけた少女を見て慌てて訂正する。
家が古流剣術を伝える道場である少女はそれを習っていて、少年は練習台にされているためその痛みはよく知っている。
「本当にそう思ってる?」
首を縦に何度も振って肯定する。
それを見てやっと竹刀から手を離し、少年はそれを見てホッとする。
「と、ところで、こんな時間になってまで探しに行くなんて何を忘れたの?」
昼間、この先で遊んでいたときに少女が何かを忘れてしまったらしく、家に帰る直前になって思い出し、そのとき傍にいた少年を引っ張って来たのだった。
強がってもやはり少女も一人で来るのは怖かったらしい。
先程は少年を突き放すようなことを言ったが少年が帰れないことを見越してのことだ。
「べ、別に何でもいいでしょう!」
忘れ物は少年にもらったリボンで大事にしていた物だ。
ほんの数ヶ月しか違わないが少年の前では頼りになるお姉さんでありたい少女は何だかその事実が恥ずかしく感じて、話しを打ち切って足を早めた。
「あ、置いてかないで。」
少年はその後について行った。
この先に運命の分岐点があるとも知らず・・・。
初めまして。虚言の騙り手です。初投稿なので拙い文章ですが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします。