オカエリナサイ
「あら、お知り合い?ロクェに春が来てたのかしら?」
「ちげぇよ、同じ宿んとこの客だよ」
そういわれて、院長は何かを考える格好で首をかしげたあと、「あぁ」という感じで思い出したとでもいうアクションをとっては
「最近、急においしい料理を出す様になったっていう"ギルの宿"、だったかしら」
「ああ、そこだよ。ついでに言えば、それ以上もそれ以下も、関係はなーんもねぇからな」
「あら?そうなの?ようやくと思ったのに・・・ホント残念ね」
「そんなあからさまに残念と思ってない顔をしておきながら、何が"残念ね"だよ」
「そんな事は無いことも・・・ないわよ?」
「へぇへぇ、んで、これが搬入品リスト、とっとと確認を頼む」
「はいはい」
実際に"残念"という様な表情はしていない院長。
しいていうなれば、からかうネタじゃなかったのが"残念"といえる感じとでもいう雰囲気を、笑顔交じりで返しているといったところだ。
それよりも、いま隣に来ている冒険者風の存在を思い出せない状況を何とかしなければならないという心境で、記憶媒体から何かしら思い当たるモノを探し出していく
(そういえば、同じ宿と言っていたような・・・)
検索する内容を宿に限定し・・・『アーネスト様が宿泊されておられる宿において、面通しをされた現地民の一人です。こちらの記録でも、"ロクェ"という名で記録されております』・・・て、記憶を手繰ろうとしていたら聞き覚えのある音声通信から新たな情報がもたらされてきた。
『えっ、ああ、そう?宿で面通しね。なるほど、そう、そうね、うん、ありがとう』
『・・・差し出がましかったかもしれず、申し訳ありません』
『いや、助かったよ、十分役に立ったよ?』
「ところで・・・オレは邪魔だったか?」
「いえ?私の要件はちょうど終わりましたから、大丈夫ですよ…ね?」
「えっ?ええ・・・」
「ね、大丈夫みたいよ」
「大丈夫"みたい"とか・・・まぁ、そっちがそう言うならそれでいいから、確認してサイン頼むわ」
「はいはい」
そう言われて冒険者風の男から木製のリストボード(?)を受け取り、一枚一枚確認しだし、その間に 冒険者風の男は、隣の席へと近づいて来ては「よっこらっせっと」という感じで勢いよく隣の席へと座ってきていた。
「久しぶりだなアーネストの姉さん。元気に・・・って訳じゃなかったっけな、もう身体の方はいいのか?」
「とりあえずは」
「そうか、それならよかった。それで、なんでここに?」
「なんでというか、ここにいる子に無理やり連れられたというか、捕まったというか・・・」
「捕まった?なんだそりゃ、ここの奴らが何かしでかしたのか?そんな手グセが悪い奴がいたりしたか?」
「ロクェ。うちの子たちにそういう子はいませんよ?手は"こちらからは"出さない様に、キッチリ躾てますからね」
「お、おぅ・・・」
「今回は私からのお使いみたいなものですよ」
「ふーん、お使い・・・ねぇ・・・」
「何か?」
「いや、なんでも?」
一覧表を確認していた院長は、何やらペンらしきものを持ちだしてきては書面に何かしら文字を書き込んでは冒険者風の男へと返していた。
「はい確認しました。ただ、小麦の量が少ない気もしますが・・・」
「そりゃ知らねぇよ。荷揚げ場にあった物がそんだけだったのは確かだ、手伝ってくれたココの年長どもが、ちょろまかす事なんてしないのは知ってるだろ?」
「ええ、そうね。となると・・・支給量が下がったと見た方がよいのかしら・・・何か知らない?」
「そこらはオレの管轄じゃねぇよ。その辺はそっちでやってくれ」
「それもそうね」
何か場違いとも呼べる掛け合いが行われていた気がしないでもないが・・・このままこの場にとどまる必要せいがある様にも見えない。
なら、もういっそのこと"おいとま"しても問題・・・ないかな?
「あ、お邪魔になりそうなので、そろそろ戻ろうと思います」
「あらあら、もう少しゆっくりなされてもかまいませんよ?」
「いえいえ、ながらく開けていた宿の方にも戻らないと、と思いますから」
「あら、そう・・・」
「そういやそうだな、・・・だいたい二週間ぐらいか?開けてたのは」
「それぐらい・・・かな?」
「なら、お引止めするのは・・・では、ロクェ」
「ん?」
「ちゃんと宿まで送り届けてもらえますか?」
「はっ?あぁ、まぁ、そのサインもらったらいいけどよ」
「では、よろしくお願いします。それと、そちらの品はどうぞお受け取り下さいね。私はこれからちょっと急用が出来ましたので、これで失礼いたします」
院長はそういっては、席をたっては礼をしたかと思えば、速足で奥へと消えていった。
残された自分は何かあったのか?と思っていたが、冒険者風の男は渋い表情をしながら「ありゃぁ、悪巧みを考えてるな・・・」という言葉をつぶやいてはいたが、すぐさま普通の表情にもどったかと思うと
「それじゃアーネストの姉さん、ギルんとこに帰るとすっか」
そう言われて連れ出されるように、孤児院と呼ばれる場所から離れていった。
* * *
宿へと戻る道中、冒険者風の輩に先ほどの院長とのやりとりから、どういうつながりかと聞いてみると、なんでも同郷という事で現院長とは顔見知り、というか腐れ縁というか、村のガキ大将・・・もとい、逆らってはいけないといえる存在だったという。
その存在が、成人になって村から出ていったまではという事だったが、自分が成人になったときに働き口(口減らしとも言ってたが)としてこの街に来た時、偶然にも出会うことになってがらは、使いっ走りやら雑用係として、こき使わ・・・ではなく、手伝わされるという事だった。
「まぁそんなオレん事はいいわ。んで、アーネストの姉さんはいつ頃戻ってきたんだ?」
「ん?今朝からだな」
「今朝ねぇ・・・」
そんな当たり障りのない日常的な会話をしながら、エスコートされるがままに帰路へとついている。
ただし、冒険者風の男からいろいろと会話が投げかけれ、それらに対して投げかえす度に、
『アーネスト様に慣れ慣れしい人物ですね。排除致しましょうか?』
『いっそのこと、物言えぬ躯にしてしまいましょうか?』
『いえ、存在そのものを抹消するべきでしょうか?』
などという、だんだんと危なっかしい意見という陳情とでもいうのか、そんな恐ろしい連絡が逐次いれられてくる始末である。
その度に「やめろ」「却下」「NO」etc...と、NOと言える日本人を発揮し拒否する言葉を返しつづけている始末である。
「それにしても治癒水晶を使ってるとなると、相当ヤバイ状態だったんだろうな。髪の色も少し色抜けして変わっちまってる?」
「ん?クォーツを・・・使う?」
「額に埋め込まれてる水晶みたいなやつだよ、結構上物つかってそうだぜ?」
冒険者風の男は、そういいながら自分の額へと指をさししめし、ここら辺にあるという意思を表示していた。
その部分になる額へと指を当ててみると・・・確かに何かしらの固いものが・・・
「あぁ、これか。何か状態が酷いとかで埋め込むとか何とか言ってた様な、勝手にやってたような・・・」
えーっと、記憶を手繰り寄せるように思い出してみる。
たしか、簡易的な神棚(?)に飾られていた生首には、その額にぽっかりと空いた穴があったが、何時のころからか、その穴をふさぐように宝石?鉱石?の様な物が埋め込まれていたっけか。
それで「何したんだ?」と作業者Sに問いただした時、狂信者S曰く、
『代替部品で改善しようと思いましたが、ただそれではお姐様の美しい顔立ちを完全・完璧・十全・全美に戻すには少々苦しく、それならば、別の方向からアプローチをと、何か方法がないかと思案していた時に、そういえば治療としていた場所で見かけた生命体の意匠を思い出した途端、こう"ピピピッ"とインスピレーションを掻き立てられ、それを思い出したらお姐様に適合する"美"が、さらに数段階引き上げる事が可能であ・・・・』
とまぁ、うんたらかんたら、どーたらこーたらと、目のハイライトが消えた状態で(バイザー越しだから目なんて見えないけど、そんな感じ的な状態で)生首を愛おしそうに両手で掲げながら説明をしはじめる始末。
その説明を行っている時なんて、こちらへ顔を向けるそぶりを一切みせずに、掲げた生首に向かって語り始めたため、静かに、邪魔しないように、気取られないように、戦術的な後方進軍を行うよう、"そっとしておこう"にするべく、小屋の外に出ては音もたてずにその扉を閉めたっけか・・・
今にして思えば、病んでるSが何かやらかしてた気がしないでもないが、正直、"ヤンデル相手にまともに関わりたくない"という心の主張が勝ってしまったために、それ以上の確認をすることはなかった。
が・・・やっぱり、あの時の聞いとけばよかったのだろうか
「ま、その治癒水晶ってやつは、たいていは呪術系の治療や対呪用にお護り効果、ほかだと宗教的なのや治療師の能力底上げ?みたいだったりするけどな」
「ふーん」
呪いとかあるのか・・・たしかVRMMOの時には、そんな呪術的なデバフであろうと、バフであろうと、この種族には一切効かなかったために、あまりそういった体験をした覚えがないので、いまいち、どういうものかの感覚がわからなかったりしたものだ。
「実際、呪術とか呪い云々ってのは迷信(?)みたいなものもあるけどな、なんで厄払いのお護り?って感じでやってる風習のとこもあるぐらいかな」
「風習ねぇ」
「ま、小さいものから大きいものまで、あとは埋め込む場所も手の甲とか胸元とかいろいろあるし、昨今じゃぁ埋め込まなくてもアクセサリーとして身に着けても問題ないって話でもあるし。今でも残ってるのは宗教の信仰みたいな類なのと、治療師なんかが治癒能力の向上を求めてってのがほとんどだしな」
「なんだかすごいのか、すごくないのか、よくわからないな」
「すごいのかどうかは知らないけれど、呪術に関しては確実に効果は期待できるってのは通説だな」
「そんなもんか」
「そんなもんだな」
そうこうしてると、見慣れた景色の場所、見慣れた建物が視界に入ってくる。
その建物の入り口では、何かしらの看板らしき板を持ち出しては、小さい方の生物が、設置しおわってはこちらへと振り返り、驚いた表情をしたかと思うと、
「アーネストさん!?おかえりなさい!!あ、あとロクェさんも」
「おぃおぃ、オレはついでかよ・・・」
「えー、そんなわけないじゃないですかぁ。やだなぁ」
「ほんとか?」
「ほんとほんと」
「なら、晩飯に何かサービスし・・・」
「それとこれとは違います」
「ちぇ・・・ちゃっかりしてるな」
「ってそれより、お隣にいるのは、やっぱりアーネストさんですよね?」
「ん?ああ、そうだが?」
「というか、どうしたんですか、そのクォーツ!?というか、なんかアーネストさんがつけて髪色までなんか変わってて・・・なんというか、すごく似合いすぎてて、まるでおとぎ話に出てくる人みたいですよ!!」
なぜか、フンスッとでもいう感じで目を輝かせながらこちらによって来る元気っ娘。
何気に、普段以上にテンションが高いような気が
「あー、そういえば、そういう感じのおとぎ話とかあったな」
「そうですよ!そうですよ!!凛々しくて、かっこよくて、まさに戦乙女って感じで・・・ハァ・・・」
どこかにトリップしたかのような、そんな表情をしだしては、どこか別の世界に旅立ったのか、こちらを凝視しては、停止しているる始末。
「おーい、そろそろ帰ってこーい」
「もぅ、ロクェさんは邪魔しないでください」
「いや、そこに立ってられると、入れないんだが?」
「え?あ・・・ごめんなさい」
「ま、いつでも会えるんだから、今日はそれくらいにしとけって」
「そ、それもそうですよね!」
一人で納得するかの様に、ウンウンと頷いていると、「あっ」という声とともに何かを思い出した表情をしたかと思えば、ふたたび此方に向き直っては、
「ところで、アーネストさん」
「ん?」
真剣な表情で、元気娘がこちらを見上げながら訪ねてきた。
「シーちゃん、見かけませんでした?」
・
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「・・・あっ」
『・・・アッ』
嘘:次回予告
忘れられたシーが目覚めたのは、天井すら存在しない空間であった。
その空間には、遠くに光る満点の輝きが彩られ、
その周囲には、知的生命体の気配が一切なかった。
そんな、闇夜が支配する場所で目覚めたシーは、
愛すべき存在が、近くに存在していないことを感じるや否や、
すぐさま嗅覚を使った行動に移すのであった。
閑話:シーの大迷惑冒険 ~きみ、人(?)やめてない?~




