衝立に囲まれた空間
「ウチの子たちが大変ご迷惑をおかけした様で、ほんとに申し訳ありません」
「あ、いえ、別に気にされなくていいので、とりあえず何か食べさせてたら静かになってましたし、そんなには・・・」
「ははは。お恥ずかしい限りで・・・ですが、確かにあの年の子らはそうかもしれません」
現在いる場所といえば、孤児院といわれる場所の玄関ホールともいえる入り口、その隅にちょっとした仕切り板?衝立?だけで区分けされただけの応接?応対?のための席とでもいう場所。
そして、設置されているテーブルをはさんだ対面に座っているのは、恰幅の良い肝っ玉母さんというのが一番シックリとくる院長と呼ばれている存在だった。
その院長といえば、礼ともいえる言葉を放ったあと、賑やかな声が響いている部屋へと視線を巡らせては、その騒音ともいえる元となっているガキんちょたちの方を優しくみやっては、すこし困ったような顔をしながら
「あの時は、配給されるはずの物資が事故で来なくてなってしまって、何とかあるモノと貰い物でやりくりしようとしてたんですが・・・あの年頃の子たちの食欲というのを甘く見ていました。あの子たちには、申し訳ない事をしていたと思っています」
困った風な表情をしてからは、再び窓の外で走り回ったりで遊んでいるガキんちょたちの声が聞こえる方向に温かい視線で見やっていた。
「大変なご迷惑かけていたとは思ってはいます。ですが、元気に走り回ってる姿の要因を作ってくれた事には感謝しかありません。本当に、助かりました。ありがとうございます」
再び深々と頭を下げてくる院長
どう対応していいのやら・・・
そもそも、どうしてこうなった・・・
* * *
「やっぱ、ねぇちゃんだよ。エルがねぇちゃんからユーロス様の匂いがしてるって言ってるし」
「うん、おねーさんから、ゆーろすさまと同じにおいしてる」
そういってガキんちょはテクテクとこちらにやってきては、スンスンと鼻を動かしては「やっぱり、ゆーろすさまと同じにおいがするよ?」とクソガキに伝えに元の席へと戻っていった。
「ほら、やっぱり」
「まぁ、恰好云々がどうかとか知らんが、先週ぐらいにお前らみたいなガキんちょに飯を食わせてた覚えはあるぞ。ただ、お前らかどうかは・・・」
『はい、いました。最初期に接触を図ってきた者たちの中に確認ができています。こちらで記録したターゲットマーカーがありますが、確認されますか?』
唐突に入ってくるヒョウさんの声。
そっか、接触してきた相手にターゲットマーカー付けて‥‥‥
って、てぇぇぇ、ヒョウさんんん!
あなたいつの間に何やってんのぉぉ!
こんなガキんちょ相手に、照準印つけてどうすんの!?
というか、そもそも、あなたその場にいたの?
あの異教徒Sがいた小屋にいたんじゃないの?!
『常にアーネスト様へ向けられる害意を監視させて頂いております。ご安心ください』
『いや、安心?って、えっ?』
『ゴ安心クダサイ』
『アッ、ハイ・・・』
なんだろ、すぐそばに笑みを浮かんでそうなヒョウさんを錯覚してしまった。
というか、ヒョウさんの位置がさっぱりわからない。
一体どこにいるかとレーダーを確認してみても完全に消え去ってるとかどうなってるんですかと。
あと、そのMAP表示にヒョウさんからターゲットマーカーのデータリンクの申請許可送られてきてるし・・・
これは、うん、却下だな・・・うん・・・
少なくとも、YES-NO表示枠から、NOを選択するニホンジンぐらいの勇気はあるし
「ん?ねぇちゃん、どしたん?」
「い、いや、ナンデモナイよ。ナンデモ・・・ちゃんとNO選んだから」
「?そっか?けど、やっぱねぇちゃんだったんだな。あんときのは」
「ほら!やっぱりおねーさんだったんだよ!エル嘘ついてない!」
「ああ、わかったわかった。正しかったよ」
「えへへへへ」
目の前で頭撫でられてるケモ耳っこが笑っていた。
そういや、今から思い出せば、3rdの時にワラワラと群がってきた存在に、このガキんちょのようなケモ耳がいた様な、いなかったような・・・たぶん、いや、きっと・・・
『座標位置のデータリンクだけではいけなかったと思い、接触を図ってきたモノ達をリストとして再編しましたが閲覧なさいますか?もちろん、その二個体も含まれています』
『いや、いいです・・・』
そんな記憶を探していた中、ふたたび唐突にヒョウさんから声がかかる。
お仕事が早いですねヒョウさん・・・
いや、NOを選択したのはそういう事じゃないんだけどね・・・
あぁ、まぁ、うん、なるほど・・・接触してきた中にいたんだ・・・そっかぁ・・・
「じゃ、そういう事で、院長先生に会ってほしいんだけど」
「は?」
「いや、さっき言ったじゃん。オレ、その人連れてこいって言われてるって」
「そういや、そういってたな」
「なんで、とりあえず孤児院に来て院長先生にあってくんね?でないとオレ、また尻ひっぱたかれそうだし」
「知らんがな」
「えぇ・・・オレやだよ。だから、このとーり、オレを助けると思ってさ・・・」
* * *
という事で、連れてこられた施設。
"行かない"という選択肢を選ぼうと思ったら、来てくれるまでタカってやる。とか、あることない事を警邏に言ってやるとか、ある意味脅迫めいた事を言いはじめる始末で・・・ウザイ事この上なかった。
ので、無理に付きまとわないからという言葉を引き出す恰好で、しぶしぶという感じでこの施設へと赴くことになった。
「いや、別に気にしていないので」
「ですが・・・」
「正直な話を言えば、慈善活動とかそういう事すら考えた事も無かった訳で、ただ、付きまとわれていたので、どうにか振りほどけないかと思いついただけの行動で・・・」
「付きまとわれ・・・?」
「えぇ、頭の上に登ってきたり、腕にぶら下がったりという感じとでもいうか」
「あ・の・子・た・ち・・・」
ヒェッ
な、なんか、とてつもなく空気が冷えるというか、院長の表情がガラリと変わり
ガタっ!
「やっべ!逃げろ!!」
バタバタバタバタ!!
という騒音が衝立の向こうから退避の声と共に、MAP上に記されていた存在達が、まさに蜘蛛の子を散らすという格好で、方々に散っていった
「まったく・・・あの子たちには、後できつく言い聞かせておきます」
「ま、まぁ、こちらは気にしてないので、穏便に・・・穏便に・・・」
笑顔だけど、全然笑ってない。
よく言う、笑顔というのは云々という表情は、こういった事を言うのだろうか‥‥‥
「ところで」
「は、はひっ」
「ん・・・んっ・・・大変失礼しました。此度は多大なご迷惑をお掛けした様で・・・迷惑料、いえ、お礼という訳でもないのですが、これをお受けとりください」
どこからか取り出された布で包まれたものをテーブルの上においては、その布を開けていく。
そうして現れたのは、黒い色をしながらも虹色に光る親指ぐらいの石。
形状としては正八面体とでもいう形状をしている宝石・・・というよりも、見た目どうみても鉱石?で、その表面に何かしらの幾何学模様らしきものが描かれている。
「えーっと・・・これは・・・?」
「先代の院長から、"困ったときは売り払って資金にでもあてろ"と、そう言われて受け継いだ代物です」
「えっ・・・それじゃぁ、結構高価なものでは・・・?」
「私もそう思い、宝石商に鑑定を依頼した事があるのですが、宝石ではなく鉱石という事で、また、そんなに珍しい鉱石でもない物を装飾品として加工しただけのものという事で、そんなに高価という物でも」
「あぁ・・・」
これはアレか、シルバーなアクセサリー的な感じで作られたみたいな?
「価格にして金貨1枚あるかないかという事ですので、お礼になるかどうか・・・」
「いや、それならば余計に"本当に困ったとき"に置いておくべきな代物では?」
そういうと、院長は首を横に振り
「たしかに、そうかもしれませんが、これは恩を受けた礼としてお渡ししたいのです」
「しかし・・・」
「この孤児院では"恩を受けたなら必ず礼をする事"そういう教えを受け継いでいます。大人である私たちが、子供の前でその教えを示さないと、まぁ、本心でいえば建前になるのですが、それでも示さなければいけません」
「はぁ・・・」
「ですので、お気になさらずお受け取り下さい」
「ですが・・・」
「お受け取り下さい」
笑顔をこちらに投げかけてくる院長
いいから受け取ってください。というプレッシャーをヒシヒシと感じ取れる。
さてはて・・・受け取るとしても、どう活用しようかと悩んでいると
「院長、搬送終わったぞ。って、来客だったか・・・すまん邪魔した」
背後になる玄関ホールから院長に向けての声がかけられた。
何気なく、その声の主の方へと振り向いてみると、そこには"よくあるファンタジー世界でいえば"さえない冒険者"風の恰好をしている生物の雄"が、こちらを視認したとたん大きく目を開けては驚きの表情をしていた。
「って、えっ?アーネストの姉さん・・・だよな?えーっと、ちょっと見違えたというか・・・じゃない、いつ退院したんだ?」
「あら、お知り合い?」
「ん、あ、あぁ、まぁ知り合いっちゃ知り合いだな」
そう言いながら、ボリボリと頬を指でかきながら、こちらを驚きとも不思議ともいえる感じで見やってくる・・・えーっと・・・えーっと・・・
・・・誰だっけ?
コッソリ(?)追加




