閑話?:その名は・・・
案内されるがままにホールへと赴き、そこにある大きな扉から外へと・・・いや、なんというか、この外に出るまでの間、心ここにあらずというぐらいに冷や汗ものであった。
なにしろ、自分を中心とするかのように、先ほどの三人の他に周囲を固めるように集まってきている鎧姿の生物たちがワラワラと追従してきていたからである。
そんな集団に囲まれている状況から内心、"誤魔化せれたんだよな?そうだよな?"という不安に駆られていたりして、はやくこの場から離れたいという思いしかなかったため、外にでるやいなや
「こ、ここまでで結構」
「よろしいので?門はまだ先ですが・・・」
「問題ない」
と、追従してきそうな生物たちから逃れるように、浮遊装置を起動させてはふわりとその場に浮かび上がる。
浮かびあがったとたん、周りから"おおっ・・・"などという声が聞こえてきたが、無視して上昇をつづけては、今までいた建屋の屋根上にまでようやく到着する。
そうして、今度は飛行装置を展開して離れるだけである。
離れる・・・
あっ、このまま普通に小屋に向かってしまえば、居場所がバレる恐れがあるかもしれない。
こんな場合は、ワザと違う方向に行ってから、こっそり戻る方が相手を上手にまく方法とか何とか。
それならば、いったん正反対の場所へ向かってから迂回して向かえばいいか。
飛行装置展開、行き先は小屋のある反対側だから・・・あっちの森林やら山岳がある方と・・・お、ちょうど夕陽が沈む方向だな。
そうして、山岳へ日が沈みこもうとしている方向へと加速させていった。
* * * * *
私たちの公武部隊、といっても今は中隊の人数しかこの地方にはそろってはいないが、今はアーネスト様をお見送りするという形で、この聖公殿から外へと続く通路にて整列をして送り出していった。
こちらで行える最大の礼をという形で、公武部隊式典用の迎賓牛車で迎えを行ってはいたが、片道しか活用されなかった事で、後から隊内公家派からは何かしらの箔が付くとか付かないとか何かしらの愚痴は聞かされるかもしれないだろう。
が、この状況を目にしてしまえば、少し口元が綻んでしまうというものだろう。
見送りの場には、その隊内の派閥関係なく駐在隊員のほとんどが気を利かせたのか、私が下した指示でもないのに、一同に集まっては一糸乱れぬ正装儀礼をしていたのには
そうして、正装儀礼を行っている中を進んでは、聖公殿の外へと出られると「ここまでで結構」と告げられると、その場で天に浮き上がるかの様に"フワリ"と浮かび上がらせたあと、その背には銀の翼を広げては、激しい音とともにその姿を日が沈む方へと消え去って行かれた。
そうして、飛び去られた後に残った隊員を解散させ、二人と伴いながら執務室へと向かう道中、お互いが確認しあうかの様に話が漏れ出す
「それでアレらは、貴方たちの指示でしょうか?」
付き従っている二人に、正装儀礼を行っていた彼らの部下たちの件を問いただした。
「いえいえ、私の方は"英雄殿がお帰りになる"としか伝えていません」
「自分も、その様な指示はしておりません。ただ、"帰られる"と」
「貴方たち・・・」
「我が隊には、少なくとも最低限の礼節は叩き込まれていますからね」
「もし、ワカってない奴がいたら再教育してやりますよ」
かたや無表情に応え、かたや握り拳をたたいては笑顔で笑って答えている。
二人ともが、格式という点だけで隊長へと選ばれ、経験のないまま就任させられざる得なかった自分に対しての、足りなかった部分をサポートしてくれていたというのは理解している。
今回も、それとなく礼を尽くす行為と動いた結果がアレなのだろう。
「今後、至らない点があれば、指摘していただければ助かります・・・」
「御意」
「了解しました」
形式的な感想を述べると、お互いが形式的な回答を返してきてはいたが、その内心は思うところがあるのだろう。
「が、それとは別に・・・個人的に"ありがとう"と、言っておきます」
ただ、私のためにと行動をとってくれた点に関しては、個人的な感謝を伝えることは忘れない。
そう感謝を告げると、二人は言葉ではなく表情で返答を返してきていた。
* * *
部隊員を解散させてから執務室へと戻っては、さっそくとばかりに先ほどまでの事に関しての話を詰めていくが、おのずと話はユーロス様の件からになってしまっていた。
「やはり、あの様な龍の翼で稲光とも呼べる音を発しながら飛翔される姿は、まさに物語の"世の騎士"、いえ我ら聖公教が伝え聞いている"導きの龍騎士"と言わざるを得ませんね‥‥‥」
「自分もこの目で見る限り半信半疑でした。ですが、この目であの鳥人族とは異なる飛翔を見せられてしまっては、あの方をユーロス殿であると信じるしかありません」
「しかし、ユーロス様に今後のご助力を頂けないかと多少は思うところはありましたが・・・やはり協力を得る事すらできませんでしたね」
「今はまだその時ではない。という事なのでしょう」
「協力を頂けれないわりに飛び去られた方向は、今代の勇者たちが向かわれた公都の地。何かしらの事が起こるのか・・・それとも・・・」
「心配しすぎだラナン。あちらには公室直轄とあのハンターギルドのオヤっさん達がいるから大丈夫だろ?それに、さらに言えば英雄候補達も同道している。戦力でならば過剰かもしれんぞ?」
「そうだといいのですが・・・前回は、わが部隊が分散していた時に襲撃された格好に近いですからね、どこからか情報が漏れ出ているというのも間違いではないでしょう」
確かに、今回の事件においては、極秘の護送という形でことを進めていたのだが、その各部隊においても似たような襲撃が起きていた。
今回の件に関しては、内通者といえる者が精神が壊れた状態で生存していたために、そこから洗い出しを行っていけば、その連なりから複数名があがってきてもいた。
そこから芋づる式にと進めていったのだが、ある一定のところからプツリとその足掛かりが消え去ってしまっていた点も、今後の不安要素の一つとなりえた。
「ま、そんときゃそん時で、その為に第一公武隊が残る形になっているんですし」
そういうロックウェルは、どこからくるかわからない自信あふれる笑いを飛ばしてきていた。
「それと話は変わりますが、両名もユーロス様との話を聞いていたと思うが、あの方は"今はアーネスト"という名である。と告げられた点に関して。その点について何か思うところはありますか?」
そう、あの時今はという言葉とともに異なる名前を出してきていた。
物語では"世の騎士"として活躍をしている存在であるが、その物語の元となった伝承が、この聖公教にも"導きの龍騎士"として伝えられている。
しかし、その存在が表れたどの年代に対しても、それぞれ記されている名は"ユーロス"という名でしかなかった。
また、その年代において何かしら接点を持つ団体や一族、はては個人と、そういう特異ともなる存在が現れたりもしていたが、それらとも伝承・伝記に出てくる名称とも異なっていた。
「・・・もしかしたら、"今代"という奴ではありませんか?過去の代における名がユーロスであり、今代がアーネストという」
「たしかに、"代替わり"とでもいう話なら可能性が。異なる年代を渡って存在し続けていたという事は、何かしらの"長命種族"であるけれども、"今の代では"。と、考えられるでしょうが・・・」
一部の長命となる種族であるならばいざ知らず、人族に連なる種族はたいてい100年単位が寿命である。しかし、年代をまたいで現れる"かのモノ"は、400年、1000年を超えてという人族の寿命以上の年代が過ぎ去っては表れていた。
だが、逆にいえば"長命種"であるといえば、その話も変わる。
特に、1000年、2000年単位で存在するといわれる精霊族や龍族など、そういった存在であるならばと仮定の話は存在してもいた。
そんな長命種の代が"ようやく変わった"という話でもあるのかもしれない。そう仮定じみた内容を思い浮かべてはいたが・・・
「アーネスト・・・アーネスト・・・どこかで・・・」
「ラナン、その名に覚えがあるのですか?」
「少し引っかかっていたのですが、ここ最近その名を見た覚えが・・・」
ラナンは執拗に"アーネスト・・・アーネスト・・・"という名をつぶやき続けながら、執務室に積まれている資料の山へと手を伸ばしては、一つ一つ確認をしては放り出してと繰り返したと思えば
「あぁ、ありました。たしかにこの報告書に同名の人物が・・・」
そう言われて手渡された"報告書"
例の事件、一応は"死者が出ていない"事件でもあったが、行方不明者というのは存在していた。
そして、その"行方不明"として処理されている人物名リストの中にその名が存在していた。
「行方不明・・・?」
「はい、そしてなぜか"その人物だけ"追加の報告書があがってきており、そちらの方には現在"療養中"と」
「"療養中"といえば内通者どもみたいになってるアレか?」
「そこまでは記載がなされていませんが・・・あの事件での療養が必要となっている件といえばそれぐらいしかなかったとも」
内通者と言われる者たち、程度の差はあるが治癒班がいうには、精神と魂が汚染されており、浄化も修復も完全には不可能と匙を投げていた内容である。
酷い症状の者は、拘束具で拘束し続けなければならず、他にも視点があわずに呆け続けている存在もいる。
しかし、その療養が必要な者たちはみな、こちらの監視下に置かれている状況であり、"行方不明"という事はないはずである。
「では、なぜ行方不明のリストに?」
「それが・・・そういう報告をしてきている者がいると」
「ほぅ・・・」
その追加となる報告書を見れば、それはハンターギルドから上がってきているモノであった。
ハンターギルドといえば、あの時の事件にも副所長が事件解決に関与したという報告が上がってきていたはずである。
「もしかしたら、ハンターギルドが"あの方"に対して、何らかのアプローチを試みているという事がありますね・・・」
「その可能性は、大いにあります」
あの方が出された名が"偽名"にしろ"今代"にしろ、偶然にも同名となる名を別の方向から出てきている以上、何かしらの関わりがある可能性が否定できない。
"偶然"というには"出来すぎている"と、自身の経験則がそう語りかけてきていた。
「・・・ではラナン。"あの方"に関連する事でハンターギルドの再調査を」
「はい」
「そして、この件は"その調査次第"という事で一時保留としておきます」
あの方の件に関しては、今の段階ではこれ以上を求めるのは尚早と結論付け、まずは外堀ともなりそうな場所から埋めていくしかないと保留という判断を下す。
そうして、一つの案件の方針が決まっては、「ふぅ」とため息をつきながら深々と椅子へと座り直すと、
「それにしても、ここ一年でいろいろと起きすぎてはいやせんか?」
「"魔王の復活"に"国の崩壊"、その復活の予言に合わせて"勇者降臨"に"英傑の資質者"達、そして伝承にある"災厄の神"に"導きの龍騎士"、さらに"兜の聖女"‥‥‥」
一つ一つ指折り数えていくが、あまりにも短い間に物事が起きすぎていると痛感させられる。
事の発端を上げれば、一年以上前に突如として"魔王"と呼ばれる存在が現れた事から続いている。
その"魔王"と呼ばれる存在は遠く一つの国を消滅させた後、それ以上侵攻する事もなく、ここ数ヶ月でその滅ぼした国そのものを、まったく別の存在へと作り変えてしまっていったという。
独自に放った草からの報告でも、その滅んだ国自体が"まるで異界化している様だ"という、到底信じられない報告すら上ってきている始末である。
そうして、その存在に呼応するかの如く、遠く離れたこの地において"預言書の通り"に勇者が降臨し、それに伴うかの様に英雄の資質者たちがこの地に現れることになった。
また、その予言書とは別に、伝承に語り継がれる内容と同じ"災厄の神々"なる存在と"導きの龍騎士"も現れた。
「特異な要素が発生し続けている点に関しては否めませんが・・・。しかし、魔王と勇者に関しては皇女様派に一任するしかないのが・・・心苦しいですね」
「まともに動けれるとしたら確かにあの皇女様しかいませんしね」
「その他に関しては、我々が対処するべきでしょう」
「そう・・・ええ、その通りです・・・」
皇女様はその生まれとその力、そして予言書に沿うように選ばれた"人身御供"でもある。
少なくとも、その身命が封印の礎になる事も、本人も理解し覚悟をもって行動している。
その役割を覚悟を持って行っている皇女様に対して、幼少の頃から知っている身としては、そうせざるえない権力というものに、無力というものを痛感させられていた。
しかし、自身で行える範疇、そんなには大きくは動けないが、何かしらの力にはなってやれたらと、行動するのみである。
「それでは、その手立ての一つになるかもしれない"兜の聖女"の件に関して進めましょう」
「"兜の聖女"・・・ですか?隊長の一命を救ったといわれる・・・」
「私だけではありません。外傷を負った者たちを見た事も無い治癒術で、ものの瞬時に治癒されていたのは誰しもが見ています。あの様な治癒術の使い手ならば、何かが起きた際に協力を願う必要があります」
そう、自身の半身が焼けただれ、肉が黒く焦げ落ちてしまうほどの重度の火傷。
そんな傷を救命所に突如現れた"兜の聖女"の治癒術で、その傷が見る影も消え去り、肉体として欠落していた部分すら再現され、そして、消えることがなかった古傷ですらも治されていたからだ。
これほどまでの治癒術を行使できうる者など、歴史上に現れた"英雄"や"聖女"と呼ばれた方々の記録に残されている物でだけある。
しかし、その"兜の聖女"も、ユーロス様が"災厄の神"を退けたという時には、その姿を忽然と消してしまい、残っている情報としてあがってきたのは、とある宿で働いていたという事と、海人族と巨人族のハーフと思しき女性を慕っていたという情報しかなかったが・・・ん?
何かしら引っ掛かる・・・
慌ててその引っ掛かった感を信じて、束ねられている報告書を漁りだす。
「急にどうされました?」
「その聖女の報告書があったはず・・・・・・これです・・・これ・・・えっ?」
その、"兜の聖女"に関する報告書を読み取っていくと・・・その文面には、先ほどから見慣れた、聞きなれた文字が記載されていた。
「その"兜の聖女"が慕っていた人物の名・・・"アーネスト"・・・」
「はっ?」
「その名前は・・・」
その報告書の内容を読み上げると、驚きの声を上げる二人。
偶然なのか必然なのか。
ふたたび表れたその名前に、三人が三人ともに、それぞれ驚く事しかできなかった。




