組合《ギルド》
以前の世界でいうならば職業安定所、別名ハローワーク。
賃金を稼ぐ為には、何かしらの職にありつかなければならない事には変わらないため、訪れるのは仕事を斡旋してくれる所を探してみようと考えたわけで。
VRMMOの時は、依頼斡旋所が設けられており、その依頼をこなす事で賃金を得るという社会的なシステムが存在していた。
他には、農業惑星にて各人が手塩にかけて育てた食材を販売する農業プレイというのをやってる人たちもいれば、同様に惑星一つを酪農特化し六次産業にまで手を掛けた大規模な畜産惑星までもってる農業組合まで存在していた。
で、いま自分がいる状況からいうと、ファンタジー色が強い世界っぽいので、お約束的な所があるだろうと、探しに探していたのだが・・・
それらしいのが一向に見つからない。
よくありそうな剣とか盾とか、そういう類の看板を見つけては向かってはみるが、看板どおりの商品を取り扱っているお店ばかりで、目的としている斡旋所らしきものがみあたらない。
大通りからはずれて横道まで探してはみたものの、やはりそれらしいのが見つかる訳もなく、まいったなぁ・・・と、歩き続けながら、困っているといったところである。
こうなれば致し方ない、人に聞いてみるのが手っ取り早い。
「スイマセン」
「は、はいっ!?」
「ギルド ドコデスカ?」
すぐ近くに丁度良く道行くヒュームタイプの生物がいたので声をかけ、ギルドの場所を聞いてみたが・・・
「えっ?えぇ・・・?」
ちらちらを横を見てから「ここ、です‥‥‥よ?」と、親切ご丁寧に教えてくれた。
その方向を見てみると、そこにはあるのは"店"というよりも"倉庫(?)"みたいな入り口の隣に、ポツンと民家の様な建物が存在していた。
看板も何も掲げておらず、見た目がまんま、”ザ・民家”とでもいうぐらいに周囲の建物の一つとして溶け込んでいる。
そりゃ見つからない。
「ドウモ アリガト・・・ウ?」
こちらが感謝の言葉を出しながら先ほどの人物へと向き直ったのだが、その場にいたはずの人物は存在せず、少し遠くの方に速足でその場から去っている後姿だけが確認できた。
とりあえず「礼はきちんとしておいたぞ。」という自己満足的な納得をし、さっそくとばかりに、その建物の中へと入るべく、扉にあるドアノブに手をかけ引っ張り・・・引っ張り・・・押しつけ・・・引っ張り・・・
何だこりゃ、ガタガタと扉が揺れるだけで、開こうとする気配がない。
こりゃ、どこか錆び付いてるのか?立て付けが悪いのか?と、少し強めに再びガタガタと押し引きを繰り返していたのだが、それでも開こうとはしていない。
まさか、休日?というわけでもなさそうである。
なにしろ、熱源センサーには内部に人がいる事が感知できているのである。
よし、こうなりゃ勢いよく開けてみようと思い、ふたたびドアノブに手をかけてはガタガタと震わせた時、
「扉!壊さないでください!!横です!横!!」
と、慌てた様子で中から聞こえてきた。
というか、横って・・・どうみても、押し引き的な丸いドアノブなのに、まさかの引き戸?と思いつつ、言われた通り横にスライドさせると、今度は簡単に開いていく扉。
しかも異様にスムーズに動くものだから、すごく興味がわいてくる。
開けては閉めて、閉めては開けて、ナニコレ、すごく気持ち良いぐらいにスムーズに動くでやんの・・・。
まるで球体がうまくかみ合った回転機構の玉軸受でも入ってるのか?という機械的興味が沸いてくるのだが、こういう世界でそういうのはどうなんだろうか。
ううむ・・・気になる。興味がわいてくる、どうなってるんだ?
「あのぉ・・・何をされているのでしょうか・・・」
おっと、目的を忘れてしまいそうだったが、その声のおかげで思い出した。
とりあえず、当初の目的を達成するべく開いた扉から中にはいってみると、そこは狭くもなく、かといってかなりな広めというわけでもないロビーと、その場にむかってカウンター的な受付らしき所が視界に入ってくる。
「い、いらっしゃいませ!?職案組合へ・・・ようこそ」
その声を発した人物は、綺麗という言葉が一番ぴったりに当てはまる女性であり、その一挙手一投足までも洗練されている動きとでもいうのだろうか、その動きをみると、"こいつぁプロだ"という認識が真っ先に出てきており、そういう趣向の方々は見惚れてしまうなり、お近づきになりたいと、別の声をかけるものではなかろうか。
だが、相手は生物である。
機械的な動作面が完璧である故に、その生物成分が邪魔すぎて、おしい!という感想なだけである。
それよりも、あまりにも聞きなれた現代の言葉が混ざってる様に聞こえたのだが・・・?うーん・・・とりあえず、今は仕事にありつけるかどうかの問題がある訳で、疑問はいったん棚に上げておこう。
「シゴト サガシテイル」
「はい、お仕事ですね。失礼ですが、組合員でしょうか?」
「イヤ」
「はい、でしたら、まずはご登録の方からとなりますが、よろしいでしょうか?」
「トウロク シナイト?」
「そういう訳でもありませんが、ご登録していただければ、ご自身の職業履歴を管理させていただき、ご自身に見合ったお仕事を紹介するサービスを行っております。」
「フム」
まさにハローワークだな・・・
「また、年会費をお支払いいただければ、案内させていただいた仕事中に対して不慮の事故が発生しては、お怪我をなさった場合に治療費の一部と、治療期間で働けない時の生活資金の一部も組合からも支出される形となります。」
「フムフム」
「その為、組合員でない方には、組合員になっていただく事をおすすめしております。」
「ナルホド」
これはアレか、福利厚生的なアレも管理してくれているという認識でいいのか?
会社勤めに近い恰好になるというので構わないのだろうか?
それなら、組合員になっても良いかもしれない。
「ただし」
「ン?」
「こちらからの、ご指名依頼や強制招集には止む負えない場合を除いては、かならず受諾していただくことになります」
まぁ、そりゃそうだな、何かしらあるとは思ったが、そういったシステムで囲むという事をやってるという物なんだろうか。
「いかがなさいますか?」
こういうのには、何かしらの制約があるが、守ってくれるという物があるとみたほうがよさげだろうが、先ほどの説明にあった医療費云々がひっかかる。
なにせこの身体には、魔法的な要素が一切働かない。つまり回復的な魔法が一切きかないという事になる。
それに、一般的な医療という物があったとしても、それはあくまでも生命体であることが前提であろう。
そういう事であるならば、機械生命体にとって生物的な治療すらまったく意味をなさないし、そういった点では利点がほぼ無いに等しいとしか思えない。
斡旋仕事サービスも、自分で選んでしまえば問題は無いし・・・
「ヒカニュウ デハ マズイノカ?」
「はい、非加入の方になりますと、先ほどの治療費や生活費の補助は一切うけとれなくなります。また、達成時報酬からの手数料が割高となる形となります。その他に関しては、招集などの強制にも自由意志という形となり、組合からの強制権が発揮しませんし、保護の対象からも除外されます」
「ジョガイ サレル?」
「はい、何らかの問題が発生したさい、組合は一切の関知をいたしません。基本は街の法律を準拠となりますが、あとは当事者間でという形となります」
「フム」
あー、これはあれか?組合という後ろ盾がなくなるという意味で良いんだろうか。
なら、いままでの内容を踏まえても、この身体での恩恵はそこだけとなるが、いまいちどういう力関係かがハッキリとわからんしなぁ・・・確認してみるか。
「アトカラ カニュウハ カノウカ?」
「はい、非加入の方が、後ほど加入されることも可能です。ただ、その場合の手数料の計算が、年度が繰り越しまで若干割高になる恐れがあります。登録時に一緒に済まされた方が、ある程度お安くできる形にはなります」
ふむ・・・後からの加入も可能と。ただ欠点は手数料が若干かかると。
うーむ・・・ここは様子見も含めておいた方がよいか。
「フム、ナラバ、ヒカニュウ デ」
「はい、わかりました。非加入ですね?」
「アア」
「では組合員証明ではなく、就労者証明を発行しますので、こちらの用紙に書ける部分で記載をお願いします」
と、手渡されるは簡易的な用紙と筆記用具・・・というか、インクと羽ペン?マヂかよ・・・学校教材で使ったっきりだぞ?コレ・・・
まぁいい、えーっと何々・・・?名前か、これはどうするか、実名かそれともキャラ名か悩んでしまうが、やはりここはキャラ名だろう。実名でする必要はないな。生まれ変わった自分という奴でいればいいだけだしな、という事で、ここは"アーネスト"っと、これで良いだろ。次は出身地?んなもん・・・どうする?機械生命体の本星の大十三恒星群A802とか書けばいいのか?どうしようもなくかけないから白紙だ白紙。次に年齢っと・・・おいおい、この機械の身体の設定年齢書けばいいのか?まぁ、それでいくか、"3742才"と。生物換算だと37歳ってとこだっけか。この機械生命体の寿命は、下手すりゃ1万年単位という設定だからなぁ。で、次は得意とする技術?何がある?基本は火器兵装系だが、通じ・・・そうでもないような・・・ならば無難な所はなんだ?ここ、かなり難しいぞ?範囲が広いようで狭いな、ならば・・・ええい、"力仕事"としておくか、というか、文字をオートでと認識すると、勝手に腕と指が動いて文字を書くとか、ちょっと驚きだわ。
「デハ、コレデ」
「はい、確認します。えっ?3742才‥‥?これは?」
あー、普通に考えてをみれば、そんな年齢とかあるわけないよな。
とりあえず、換算年齢にしておけばいいか。
「マチガイダ 37ガ タダシイ」
「あ、そういう事ですか、解りました訂正は此方で行っておきます。出身地は・・・不明というのは良くあるので未記入としておきます。あとは、力仕事・・・ですか。」
そういうと、受付嬢はこちらをちらりと見上げてから書類に目を戻し、
「たしかに、そういう力仕事は向いてそうですね。建築作業も行えそうですね」
まぁ、見た目そうだよな。そうとしか見えないわな。というか、建築だと?おおう、こなしてみせるぜ?まさにうってつけだしな!建機ロボ・・・ああ、何とも素晴らしい響きとシチュエーションではないか!そうなってくると、クレーンアームとか三つ爪型のマニピュレーターとかがあれば完璧かな?あとはドリルはどうか、建築だとボーリングか?ああ、だがあれは地盤調査に使うだけだし、あとは有るとすればショベルユニットとドーザーユニットの方が必要か?ううむ、それなら黒と黄色のストライプ模様の塗装としていないのが悔やまれる・・・くっ
「では、最後に本人認証用の記録を取りますので、こちらの魔道球を触れてください。」
おっと、いかんいかん、少し妄想の世界へダイブしていたが、受付の下から水晶球を受付テーブルの上へと・・・って、これどっかでみたような・・・まぁ、いい、とりあえず、触れてみてと・・・
「あれ?おかしいですね‥‥壊れてしまった?」
と、受付がふれると、こんどは水色に光りだす。
「壊れては‥‥ないですね。おかしいですね‥‥もう一度お願いできますか?」
と、再び水晶球にふれるもまったくもって反応なし。さっきからデジャヴを感じたが、これあれだろ、宣託の間においてあった奴の小型版みたいなやつだろ。
「あの‥‥申し訳ありませんが、魔力が無い方なのでしょうか?」
恐る恐るという形で小声で問いてくる受付嬢に対し、大きく首肯して答える。
「あぁ、やっぱりそうですか。少々お待ちくださいね」
そう伝えてきては、パタパタといった感じで受付嬢は裏の事務室?みたいな方へと急ぎ足で向かっていく。
そうして、こんどは小さな四角い受け皿のようなものを持ち込んでテーブルに置き、
「では、こちらに血液などを数滴お願いします」
と、伝えてくる
血液・・・?いや、そんなものないよ?これはアレか?どう説明すればよいのか。
そうだ、"血液など"と言ってたし、これは変わりの物でも良いよな?そうなると、これでどうだろうかと、やや赤みがかった潤滑系オイルを垂らしてみる。
垂らしてみたが、何も反応みたいな物が起きない。
「あれ?これも、反応がありませんね‥‥」
なんだ?オイルではアカンのか?
「昔の機材ですから、放置している間に壊れてしまったかもしれませんね・・・う~ん、困りましたね・・・」
おおう、なんか勝手に納得されてくれたぞ?
「アレを使うしかないかな・・・?けど、許可と準備が必要だし・・・あの部屋、物置になっちゃってるしなぁ・・・」
受付嬢は、さっきからブツブツと独り言を唱えながら悩んでいる素振りをしていたが、結論が出たのかその素振りを振り払うと
「すいません、他の方法があるのですが、機材の準備と確認を行うために時間をいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ドレクライ カカル?」
「明日には使える様にはなると思いますので」
明日か、明日までは無職のままという事か、まぁ、1日ぐらい全力で活動さえしなければ、何とかなる懐具合でもあるし、それはそれで致し方ないか。
「リョウカイ シタ」
「ご理解いただけ、ありがとうございます。では、とりあえずは仮の証明札をお渡ししておきますので、明日までは其方で対応の程お願いいたします」
と、金属枠に囲われている木札みたいなモノを手渡される。
これが、一応の就労証明書(仮)という奴らしい。
「とりあえず、その札で職案組合と提携している各お店のサービスを利用できる形になります。明日、本証明書と交換しますので、その時にお持ちください。ただ、仮札では、依頼の受諾は行えませんので・・・申し訳ありません」
と、深々と頭を下げてくる受付嬢だったが、まぁ、この身体だし都合よくいくわけないかと割り切っている。
それに、これは仮免許みたいな物だが、クーポン券の役割もあるという事だろうか。
まぁ、仕事探しで来ているわけだし、それぐらいのサービスはありますよといった所なのか、それとも店側の集客用の為なのか、とりあえず、今日のところはここまでといったところか。
「リョウカイシタ。デハ、アス」
「はい、明日、お待ちしております」
とりあえず、ここでの要件はこれ以上は無理だろうし、次は必要な事はなんだろうかと思案しながら、その組合から路地へと赴いた。
「あぁ!・・・扉を壊さないでください!!」
ドアノブ型だから、無意識で押してしまった。
というか、この丸ノブ型を回して引き戸ってなんという嫌がらせかなにかか・・・?