投
「アーネスト殿、すまないがその二匹のデセマニバスがでた場所まで案内してもらえないだろうか?」
赤髪からそういわれ、了承の意として首肯で返したのち、船室へと繋がっている入口から中に入り、何度目かの金属製の大扉を通り過ぎ、その二匹を確認した場所へと向かっていく。
道中、やはり熱による影響なのか、壁自体が変色し始めている場所が目につきはじめおり、少しばかりの焦げ臭いにおいが通路に充満し始めていた。
「此処まで熱さの影響が出ているとはな。自然発火になっていないだけマシなのかもしれないか‥‥‥」
そういうつぶやきが後ろから聞こえてはきていたが、その口調に暑さに参る様な雰囲気が感じられはしなかった。
が、幾度目かの扉を開けた際に吹き込んできた熱風を受け止めると「ココまでとは‥‥‥」と、驚きともよべる感情がようやく漏れ出し始めていた。
そうして、最後の扉を開けては、貨物区画へと続く通路へとやってくると、さすがにその表情には曇った表情が出されていた。
なにしろ、表示されている気温は120℃を超えている。
燃え盛る火元付近では200℃を超えている部分も存在するほどであったが、そのほとんどは燃え尽きたかの様に火の元すら見えない状態になり始めていた。
その燃え尽きた後には、元の形状が解らないほどに変形している物がチラホラと炎の中に見え隠れしていた。
そんな火の海とも呼べる貨物室の中には、まるでその熱気や炎の影響を受けているのか、はたまた受けていないのか、まるで意に介する様子もなく、二つの存在が見上げる天井付近をフワリフワリと優雅に浮かんでいる状況だった。
「かなり大きいな、あの二匹。この温度でさえも存在できるというのが、腹立たしいものだな。まぁ、本格的な消火は火消しに任すとしてだ。あれをどうやって引きずり落とすかだ」
「そういえば、他の倉庫で仕留めた方法は?」
「単純な話だよ、高く積み上げられた荷物の上を足場にして近寄ったまでだが、アレの様な大きさではなかったな」
話を聞けば、至極単純な答えだった。
確かに、足場があれば浮いている対象に届くよなぁ‥‥‥と。
ただ、今現在の場所でいうなれば、そんな足場になる荷物は燃え崩れてしまっており、一番近い場所としても、ここよりさらに上の通路が高さ的に近いという感じだろうか。
「足場になりそうな代物が全くないと来ている。さて、どうやってアレを下すかだが」
「アレを退治するときは、普通どうするんだ?」
「ああ、それは飛び道具で魔封具を撃ち込み能力を封じた後、遠ければ魔法を使って落とすなり倒すなりが主だな」
「なるほど‥‥‥」
「ただ、今現在の飛び道具になりそうなものといえば‥‥‥ソレだな」
そういいながら、視線をめぐらされたのは、最初ここに来る際に渡されていた一本の銛。
たしかに、これならば形状的に投擲することは可能だろうが、というかやれるかもしれない。
なれば、行う事にしたとして、狙いはどこにするべきか。
「刺さる場所はどこでもいいのか?」
「そうだな‥‥‥狙えれるならば、触手の根本にある魔力核が望ましいが、体のどこかに引っ掛かりさえすれば問題はない」
「了解した」
視覚の倍率を上げて確認すると、確かに、頭髪ともよべるウヨウヨ動いている触手がついている部分を頭部とすると、そのくびれともいえる付け根の部分には、その透明な肌部分から透けるように、赤黒く変色している何かが存在しているのがうっすらと見え隠れしていた。
「あれか‥‥‥それじゃぁ……」
その場所をターゲットとしてチェック。
軽く助走をつけるべく壁際へと移動したあと、通路と踊り場を活用してのギリギリまでの距離として、槍投げの構えの要領で構えて‥‥‥
トッ!タッ!トン!!
という形で、三歩分の勢いをつけて、その手にした銛を目標に向けるが、あの突剣の元になったキモイカジキマグロもどきみたいに弾かれるという事が脳裏に浮かんだため、全力で投げると意識して投げ飛ばす。
そうして、その手から離れた銛はといえば、その赤黒く変色している部分に、まるで吸い込まれるかの様に一直線の軌跡を描いてはその赤黒く変色している部分へと突き刺さったかと思えば、その勢いが殺されることもないままに、その浮遊していた存在と一緒に移動していったかと思えば「ゴウン‥‥‥」という音と共に、貨物室の壁と天井とが交わる隅へと突き刺さっていた。
「‥‥‥へっ?」
予想していた内容とはまったく異なる結果が起きた状況に、逆の意味で驚いている自分がいた。
その予想外の結果となった投擲目標になっていた対象といえば、突き刺さっている部分より上側に存在する、その頭部の部分にある触手が、あわただしくウネリウネリと頻繁に動かし続けており、何というか、その下の炎から照らし出される灯と伴って、まるでSAN値がゴリゴリ減っていきそうな‥‥‥そんな気持ち悪さを醸し出していた。
「‥‥‥普通、威力を重視した投槍となると、命中精度があまり期待できないモノなのだがな‥‥‥アーネスト殿のは、それ以上のモノすぎだと思うぞ?」
その声が聞こえてくる方へとゆっくりと振り返ってみると、赤髪は少々呆れたという表情をしており「とりあえず、一匹は無力化できたな」と、慰めにもならない慰め言葉をかけていてくれた。
「それよりも、あの核とかの場所で相手が倒せれるのでは‥‥‥?」
「生命核は、そのさらに上……口の中、見た目でいえば頭部分の中央の場所になる。今、狙ってもらったのは、あくまでもアイツの魔力器官みたいなモノになるぞ?」
「さらに上‥‥‥」
「まぁ、その周辺は触手の付け根が邪魔して、外部からは到底ねらえないが、直接叩くならば‥‥‥どこかの誰かみたいに、飛びついて片腕でもあの触手に絡まれながらやらなきゃならないだろうが、さすがの私でも、それは勘弁願いたいがね」
そういわれ、そういえば見知った顔の一人が飛びついてとか言ってた様な‥‥‥
むさくるしい男が、あの触手に絡まれながらその核を直接攻撃したとか?いや、まさか‥‥‥
‥‥‥
よし、想像するのはやめておこう。
「普通は、その表皮にでも、その魔封具が引っ掛かれば、それだけで魔法の発動が阻害されて使えなくなるが、その魔法器官に直接魔封具が傷をつけたのなら、アイツは魔法を使う事自体が出来なくなるから、あとはじっくりとじかんをかけてやれば問題はないが‥‥‥さて、もう一匹をどうするか」
そう指摘されて、もう一匹いた事を思い出し、その存在を‥‥‥
見渡して視界にはいるのは、あの突き刺さっては余計に気持ち悪さを主張してくる存在しか見つからない。
「いな……い?」
「いや、この壁沿いの上だ」
そういって手すりから乗り出すように上を除きあげている赤髪に続いて、そこには先ほどまでいた大きな気持ち悪い存在と、その見える上の通路からは形状の違う一、二匹の触手を生やした透明なオウム貝とでもいう様な存在が貨物室へと飛び込んで‥‥‥
「違うのがいる?」
「アレは幼生体だ。あの二匹、卵を産み付けていた親だったとでもいうのか?」
「幼生体……」
「ああそうだ。幼生体は身を守るすべとしてその体が硬く、飛び道具や直接攻撃が通りにくい厄介な奴だ。だが、その逆に魔術による反撃が伴わないために楽な部類なのだが‥‥‥」
その視線の先には、あの気持ち悪い存在と同じ大きな物がユラユラと泳ぎ泳いでいた。
「あれが、邪魔してる訳か‥‥‥」
「ああ、そうだ。あいつさえ何とかできれば、あとはスムーズにいくだろうが」
何とかできる方法……何とかする方法……何とか……
手持ちで何とかできるのは、この突剣を突き刺すことであるが、これは投擲に向いているという代物でもなさそうである。
何しろ、その大きさに対してあまりにも軽すぎる質量である。
これでは、まっすぐに飛ばすという行為が難題すぎる。
ならば、これが突き刺せれる状況に持っていくのが正道だろうが、相手は高く飛んでいる存在……
天井だけでなく、あたりに使えるものが何かないかと視界を一巡させ、そのむき出しになっている貨物室の貨物だったモノや、その壁に見える配管周りなどの状況を確認し始めていき、だいたいの部屋内の構造を把握したところで、ふと、使えそうな手だてが思いつく。
‥‥‥やってみるか
行う内容から、使用するモノになる左腕の内臓兵装を起動する。
起動状態が発生すると、その装甲部分からはあのアンカーワイヤーが姿を現し、射出可の表示が映し出される。
問題は、長さが足りるかどうかといった所だろうが………そういえば、このアンカーワイヤーの長さってどれくらいだったかの仕様を知らないままだったが、あのデカブツだったカジキマグロモドキの一本釣りができた距離からいえば、下手すれば数百m単位いけたはずと思い返す。
大丈夫、たぶん長さは足りる。
「一体何をしようと」
こちらの行動に何かしら感づいたのか、赤髪から声がかかってくる。
「あいつを引きずり下ろそうかと」
「それは、どうやって?」
「こう‥‥‥やって‥‥‥」
とにかく今、相手がいる位置が良い場所でもあった為に、今から行おうとしている行為の説明を省略するかの様に、そのほとんど炎が消え始めていた貨物室の床に向かい、その左腕を構えては「射出!」と意識しすると、ボウッという軽い衝撃と共に、その床に向かってアンカーが射出されていった。




