甲板
重傷者ともいえる怪我人を背負いながら、扉を開けてはその足を止めることを一切せずに来た道を戻っていっていた。
時折、背負われた人物からはうめき声が発生してはいたが、それでも様子を見る限りは何とか持っている感じであったために、そのまま速足で開けた扉を駆け抜けてつづけ、金属製の大扉を過ぎては船長や鎧姿の面々がいる通路へと踊りでると、尖り耳たちと船長とがこちらを出迎える恰好で近寄ってきては、
「おお、無事だったか」
「リーダー!無……事?」
「(ヒュ~」
「ああ、何とかな。けど、この人の状況がよろしくない」
そう返しているリーダーは、背中に背負っている生物を下すこともなく、その状況を周りに見せるかのようにその体をひねって示していた。
そうして、背負われた人物の顔が現れると、それぞれがそれぞれの事を口にしていった。
「隊長!!」
「隊長さんか、こりゃぁ熱にやられてるな、火傷も酷い……」
「リーダー。何?その背中の人は……」
「リーダーも隅におけねぇ……って、おぉ怖っ」
鎧姿の面々からは、その背負われた存在を見やっては隊長と呼び、尖り耳の面々はリーダーに対して何かしら思うことを口にしていた。
そのうちの一人は、もう一人に対して鋭い視線で何かしらの抗議を意見している風でもあったが。
そんな状況が関係がないという風に、リーダーからは
「ラウザすまない、この人とオレに水を纏わせてくれないか、特に火傷の箇所を念入りに頼む」
「わ、わかったわよ……」
「なら、いったん甲板に出ようと思う。この人を早く治療に回したい」
「それはわかるが、なぜに甲板にだ?」
「ああ、それは港湾から救助班が来ているから、そこから陸の治療班へ搬送して貰った方がよいからな」
「確かに、それならそっちの方が良いだろう。ここじゃぁ限度があるからな」
「リーダー、終わったよ。ただし、数十分しか持たないからね」
「ああ、それで十分構わない。それじゃぁ、このまま甲板に向かわせてもらう」
「それならば、我々も……」
薄い水の羽衣ともいうべき物が、背負った人物を覆いかぶさるかのように纏われており、また、酷い火傷の場所にも、まるでそこに引っ付くかの様な恰好で水の膜が形成されていた。
そうして、そのまま水の膜で包まれた存在を背負った恰好で甲板に続く通路へと速足で進みだすと、そのあとを追うように各面々が追随するかのように続いた。
その道中では、リーダーと船長との間で「倉庫区画に関しては、第一区画はあれ以上は広がらないと思う。燃えるモノがモエつき始めていた」「なら、あとは冷ませば何とかなるか……」「それよりデセマニバスが2匹いたからな、あれらを排除しないと大々的には……」「そうなると準備がいるな。複数だと人手が乏しいか…‥」そんな会話がなされているのが耳に聞こえていた。
* * *
陽の光が差し込んでくる空きっぱなしとなっている扉を潜り抜けると、そこには甲板上に設置されたスペースに、見知った顔が木板に転がる様に横になっていた。
「アネさん、そっちの方は無事だったか?」
「無事だった?」
「ああ、こっちから行かせた倉庫にデセマニバスがいてな、ソイツを引きずり下ろした後に少々な」
そういって視線を向けた先には、先ほどの木版に乗せられていた存在が「よーし!おろすぞー!!」「おうよ!!」という掛け声の手元の担架に乗っており、その担架は船外へと降ろす作業を行っている最中であった。
「あのアホが一人、魔封具を持って飛びついては叩きおろして」
「その時に大怪我でも?」
「うんにゃ。あとは地べたでもがいているデセマニバスを、一斉に刺突で仕留めてな。そのあとに延焼を防ぐために、燃えてない貨物を移動させてた際、消火液に足を滑らせては担いでいた貨物の下敷きにな」
話を聞いていけば、なんというか……そういえば、消火に使っていた薬液はそういう風な代物ものだったなぁと。
そうして、バカをやった張本人といえば、担架で降ろされそうになっている顔見知りからは、こちらに向かって親指を立てた右手を空に向かって掲げてはいたが、降ろされるままにその腕は船縁から消えていった。
「ま、あんだけ元気なら大丈夫だろ」
船団長は、消えていった存在を鼻で笑いながら見送った後、こちらへと視線を向け
「これはまた、大所帯が残ってたな。俺は港湾所属の船団長を務めているウージだ。で、そちらの責任者は……」
「この船の船長を務めているシムオンだ」
「とりあえず、火災に関してはこちらでも鎮火し始めているが、どうもこの暑さが止まる気配が見えねぇ、何かあるか?」
「第一倉庫の貨物が燃えているという報告は聞いている。第四倉庫から消火に向かわせているが鎮火報告は受けていない。あとの、第二と第三は……そこの吹っ飛ばれた様な搬入口が開かれている場所だが……」
「ああ、あの穴から薬液を放り込んでいるから、だいぶ煙は落ち着いたな」
そういって視線を向けた先といえば、甲板に開いていた穴からあれほど大きく立ち上っていた黒煙が、みごとにその規模を小さくしており、その周辺には例の薬液がヌメリのようなテカリを光り輝かせ「あの薬液を使ったのか……背に腹はというが、清掃費用が……」とつぶやいていた。
「っと、その前に船団長」
「なんだ?アネさん」
「この重傷者を先に降ろして治療班へ送りたいのだが……」
そう言っては水の衣に包まれた様な重傷者を船団長に指し示すと
「こりゃぁ酷い火傷もしてるじゃねぇか、そういう事は真っ先に言え!おぉい!!次の担架はこの重傷者を下してくれ!」
「へーい!船団長!!」
そういっては、担架を担いだ数名がこちらにやってきては、その重傷者を乗せ換えては船縁へと移動し、降ろす準備をし始めていた。
「ほかに負傷者はいるか?いるなら先に降ろして治療班に回すが……」
「ならば、我が隊の数名を頼めないだろうか」
そう答えたのは、荷物を背負っている存在であり、その荷物役からは、肩を支えながらもここまで来ていた数名に対して、治療という名目で下船命令を下そうとしていた。
下された方といえば「まだ大丈夫です」と、反論をしてはいたが「なら一人で立ってみろ?」と、一人で立たされていたが、ちいさく揺れる船上に振り回されるかの如く、ふらふらとし始めたかと思えば、その場で尻餅をついていた。
それでも、と食い下がる相手に対し「そんな足腰の状態では逆に邪魔になる。貴君らは先に隊長とともに陸に上がり、行動をともにせよ」と命令を下すと、しぶしぶといった感じで吊るされては一人、また一人と降ろされていった。
「さて、火災状況の話だが、こちらで火災が残っていることが確認できたのは第一倉庫と第四倉庫。第一は荷物が少なく隔壁が効いている為に延焼云々が起きる事もなさそうと報告は上がっている。が、第四倉庫からの報告がまだ来ていないから状況がわからない」
「こちらは、そちらで言う所の第三倉庫から入った奴らからの報告で、第三倉庫の火災はほぼ沈静化した。あとは第二倉庫だが、扉から入り込む事が出来なかったということで、その広がっている搬入口から薬液をどんどん放り込んでいく作業で、だいぶ煙は収まったが、火元がどうなっているかがわからねぇ」
船団長と船長は、火災に関しての情報交換が始まったが、どちらも鎮火方向に進んでいるという話でまとまり始めていた。が、
「で、魔物だが、キッド」
「ああ、魔物はデセマニバスで間違いない。第一倉庫で2匹確認できた。ただ、火災による熱気でそこでどうこう出来る事でもなかったから、確認だけにとどめていた」
「こちらは第三倉庫で1匹いたことが確認でき、一応は仕留めてはいる」
「当初、炎弾を撃ち込んだのは我々の隊だ。此処まで被害が広がるとは思いもよらなかったとはいえ、本当にすまなかった」
「起きちまった事はしょうがねぇ。いま現在とやかく言っても始まらん。この後をどうするかが大事だ」
鎧姿からは、謝罪の言葉が出されたが、そのことに対しては今現状問われることはなかった。
「なら、デセマニバスが確認できているのは、3匹か」
「いや、4匹だな」
船長から、確認された数を発せられるが、その数を否定するかの様に、確認の為に船長と船団長、そしてリーダーという顔ぶれがいる足元に、ゴトリと球状の物が投げ落とされた。
「こりゃ‥‥‥デセマニバスの核……か?」
「て、テオーネの姉さん‥‥‥?」
その投げ落とされた代物に対してその代物が何かという回答と、その投げ込まれた方向に皆が視線を向けるとリーダーからはその対象の答えが発せられた。
そこには赤毛のクセのあるショートカット的な髪型に、赤い瞳がこちらに対して険しい視線を投げつつも、此方に歩みよってはこちらの会話の輪に入ってきていた。
「オルキッドか、久しいな。いつも一緒にいるアイネスと、あの暑苦しいダットはどうした?まぁ、アイツにこんな場所で出会うとなると、余計に暑苦しく感じるだろうがな」
「ハハ‥‥‥ハハハハ‥‥‥」
一部背後からは「誰、あの人……」という声が聞こえながらも、その赤髪から視線を外しては乾いた笑いをしているリーダー。
そんなリーダーから、こんどは此方へと視線を向けてくると
「それと、アーネスト殿も久しいな。壮健でなにより」
「まぁ……どうも」
「それで、ハンターギルドの副所長様がこんなところに何用で?」
「そういうなウージ。私も今回は仕事で来ている身なのだからな」
「仕事、ねぇ……」
船団長からは、何かしらのトゲともいえる語気が含まれた言葉を、その赤髪へと投げかけていたが、そんな赤髪は気にもせずにその問に対し
「所長命令でな、この船で運ばれてくる護衛された荷物を受け取る為に遣わされただけだ。入港する前から待ってはいたのだが、そうしたらその船から煙が上がって停船しているときたからな、何かあったのだろうと。それに、荷物は"何があろうと絶対に回収しろ"という所長命令でもあったからな。確保しに上がらせてもらったまでだが‥‥‥」
そういって、鎧姿の一人、その背中に背負っている木箱のような代物を見ては
「こちらが探しに向かった方向とは、逆だったみたいだがな」
と、どうやらその目的となる対象の物を確認していた。
「そっちの話はあとでやってくれ。それでだ、この核を持っていた奴はどこに……?」
「その核を持っていた奴は、船尾側の倉庫にいた奴だ。それ以上の数はいなかったが、あいかわらず空に浮いているとメンド……手のかかる奴だな、あれは」
先ほどの船団長とのやり取りに関して、一切の興味がないという感じで、その核の元となった存在がいた場所を船長が聞き出していくと、赤髪はその存在がいた場所へと目くばせをしていた。
その視線の先には、煙があがってはいるが、その量ははくすぶっているという程度の煙が空中に一本の線を描く程度の量であった。
「船尾側‥‥‥第四倉庫か、それで、火の手の方は?」
「火の手は一部に固まっていたが、船尾側から延焼を防ぐために、その周囲の配置を変えていた集団がいたのは確認している。私はその倉庫の船首側から入ったので、細かく人数などは見ていないが………デセマニバスを片づけた後、それ以上進むのは厳しいと判断して戻ってきてみれば、見知った顔が雁首揃えているのを見つけたのでな。ここに来たまでた」
船長からは、情報がほしかったのかさらに状況を聞き出そうとし、それに対する答えを返していたが。
「それで、これからどうするんだ?船長とウージ‥‥‥っと、いまは船団長か。私はその荷物さえ手に入れば、あとは‥‥‥まぁ、流れ的に私個人として、手を貸すぐらいはしてやるぞ?」
そう言われて、この場における最高責任者ともなりうる二人が、顔を合わせ思案に入りだした。
しかし、その横では"手を貸す"と言ったその赤髪が笑っている顔を見ては、「げぇ……」という声が発せられ、そのさらに後ろからは「何様よ、アイツ……」という怪訝な声を上げている、リーダーと尖り耳がいたりした。




