暑
船内に入ると、視界に入ってくるのは漆喰の様な白い壁と板張りとなっている床という物であり、その通路は何かしらの明かりとなる照明が所々で薄暗く光っている恰好だった。
火災による煙の臭いや、先ほど経験している独特なかほりなども臭う事もなく、普通の船の通路という印象であったが、それらとは異なる部分があるというのなら、人の反応が一切でてきていないという事ぐらいだった。
そんな印象ではあったが、捜索を行うのならばと全体MAPを表示させては進んでいくと、そのたびに確認がとれた情報がオートでMAPが記載されていくのだが、それほど入りくねったという構造でも無く、通路に対して部屋が枝葉の様に存在しているという単純な恰好であり、その部屋の中を確認してみるは人が存在はしていた形跡があるだけの部屋と、倉庫の様に物が乱雑に置かれてある部屋というモノばかりであった。
そうやって最初の一層の各部屋を確認しては階段が現れてくるのだが、上と下へと続いている階段であるが、今回の目的は自身の機能を堪能する‥‥‥いや、要救助者を確保する事であるためと再認識し、迷いなく下へ降りる階段を選択しては降りていく。
下の階層に降りきると、再び同じようにMAP上にて一つづつ通路と部屋を確認してはMAPデータを更新していくという感じで探索している状況が続くが、人影?というモノというか人らしき反応が一切なく、ただただ波に揺られている床の上を低いうねりというか、軋み音と共に歩いているという感じであった。
そうして、何も人という存在を確認できないまま、もう一層と降りていったのだが、
正直な話を言えば、何というかホラーゲーム的な要素になっているような‥‥‥
そんな印象をうけるぐらい、今度は通路を照らしている照明が、チカチカと不規則な点滅を繰り返す照明となって薄暗い通路を作り上げていた。
さらに言えば、周辺の空気という"雰囲気"が暑苦しく感じて……‥って、暑苦しい?
感覚的な話が出てきたとき不思議と違和感を感じた為、すかさず周囲の状況を細部確認をしてみると、
[53℃]
先ほどまでの状況とは明らかに違うと思われる数値が状況表示に示されていた。
自身の身体が身体だけに、そういう暑さ寒さ的なのを感じないままだったのどうか?とにかく、違和感という感じで、視界に入っていた漆喰と思われる壁を階段の上でのぞかせている色合いと見比べてみると、すこし黄ばんだ色になっていたために、そういう違和感を感じたのかもしれない。
ただ、はっきりとわかっている事といえば、この階層から火災の影響が出始めている。という事である。
そうなってくると、そろそろそれらしい人物が現れてくるのだろうか?と思いながら、進んだ先の通路を曲がった先に、第一生物が大き目の扉の前にいるのを発見する。
その生物といえば、倒れているという訳でもなく、その大きく開いた扉の先を覗く様な姿勢で片膝をついた状態で様子をうかがっているという恰好に見える。
その姿を見た目でいえば、制服らしき物を着用している恰好だったために、たぶんこの船の関係者か何かか?と声をかけてみる
「おい、大丈夫か?」
「!?誰だ貴様は!どこから来た!」
こちらの問いかけに気づくとすぐに立ち上がったかと思えば、こちらを訝し気に睨みながら警戒をして怒鳴り声で問いただしてきた。
「えぇっと‥‥‥港湾関係の者で」
「港湾関係者?ハーヴェンスのか?そんな怪しい恰好でか?」
いきなりの怒鳴り声で問われたが、とりあえずの所属とする場所の名前を出してみると、こちらを上から下へと観察するかの様に視線を上下に動かしたかと思えば、すぐさまそういう風に返してきた。
そういえば、手足の装甲であとはこの軽装装甲しか身に着けていない。
客観的な第三者視点でみてみれば、怪しい事このうえない恰好ともいえる。
「ああ、これは自分の港湾作業時の仕事着の様なモノで‥‥‥ってそうじゃない」
「?」
「えーっと、一応、火災処理として一緒に乗り込んできたんだが、船内に残ってるモノがいないかと捜索に入ってきている。それと、貨物の消火作業にも何人も貨物室の方へ甲板から乗り込んで消火作業を行ってもいるし、けが人も回収して陸の方で手当に回してもいる」
そう説明してみると、先ほどまで警戒していた生物は、コチラをしばらく睨みつけたかと思うと、表情を変えてこちらにきちんと向き直り
「そうか・・・すまない、助かる。私はこの船を預かっているサーナムだ」
「アーネストだ、それでこちらとしては状況がはっきりと解ってない。一応はデセ・・・デセ何とかとかいう魔物に襲撃されて、火災が発生したという事ぐらいしか・・・」
「デセマニバスか・・・確かにコチラもそういう報告で聞いてはいるが、実際に確認できた話ではない」
「確認できていないとは?」
「魔物の対応として数名の腕の立つ奴を乗せているが、そいつらが言うにはデセマニバスであろういう報告を聞いているというだけだ。それとお客さん方が確認を取らずに突っ込んで・・・」
「お客さん?」
そう問いただすと「ああ、お客さんだ」と、苦虫を噛み潰したような表情をしてから話し出す。
「今回の貨物を運ぶ際に、10数名近いお客さんが一緒にくっついてくる事になってな、そいつらが"積んでいる貨物が壊されるのは困る"と真っ先に突っ込んでいきやがった。こちとらそういう海生魔物用の得物は準備できてるし、そういう相手用の腕の立つ奴らからも静止をされてても無視してな。そしたらドンッと、奴さんに吹っ飛ばされるわ、ぶっ壊されるわ、穴をあけられるわ‥‥‥ほとほと参っている始末だ」
忌々しいという風に、先ほどまで覗き込んでいた扉の先に目をやり「ほんとにアイツらは、荷物よりも酷い邪魔なモノにしかなってねぇ…」と愚痴をこぼしていた。
「で、この熱さが収まらない状態だからな、どうなってるかも確認しようにも誰かが向かうしかない、そこでその腕の立つ奴らに確認に向かわせたんだが‥‥‥」
そう言っていた頃合いに、噂をすればという恰好で覗き込んでいた扉から数名の生物たちが、大量の汗をかきながら飛び出してきた。
「ダメだ船長、暑くて貨物室にすら近寄れねぇ」
「魔法を使って冷やそうと考えましたが、相手が相手なので気づかれる可能性も」
「アイツら、ほんっと厄介な事するよね。刺激する前に無力化しちゃえば良かった相手なのに」
「暑すぎてたまらん‥‥‥水はないか?」
「ぬるくなってますけど、今はこれぐらいしか」
五者五様とでもいった感じで、それぞれがそれぞれに汗を拭いながら船長と言われた生物に声をかけており、その内容は暑さによって先に進めないという話が大半であった。
暑いという事らしいので、先ほど出てきた扉の先の壁を調べてみると、温度表示が70℃近くにまで跳ね上がっていった。
「って、誰だ?このでっかいねぇちゃんは」
その声をかけてきたのは真っ先に船長に向かって意見を述べていた人物で、こちらを上から下へと視線をめぐらしてから聞いてきたが、それに答えたのは船長と呼ばれた生物だった。
「ああ、その人はハーヴェンスの港湾関係者で派遣されてきたアーネストさんだ」
「あー、港湾に入ったら停船するとか言ってたっけか」
「とりあえずは、港湾の方から消火班が出てきてるとの事だから、そういえば、こちらの消火班も船底通路から迂回させてはいるが、今ごろどこで消化にあたっているかもわからんからな‥‥‥」
そんな折、再び"ゴゥンンゴゴゴゴ"という感じで響く低い音、それに伴い周囲が大きく揺れたかと思えば、徐々にその揺れは収まっていったのだが、
「なっ?!」
「あいつら、またやりやがったのか!?」
全員が扉の方に視線を向けては各々が愚痴をこぼしだしていたその時、その扉の奥から数名分の足音が聞こえてきたと思えば、三名の鎧甲冑を着た生物たちが息を切らしながら飛び出してきたかと思えば、まるで転がるように床へと次々と転がっていっては息を切らしており、必死に整えようとしていた。
「お前ら!!またやりやがったのか!?」
「ハァ‥‥‥ハァ…ハァ……」
船長やリーダーらしき生物から問い詰められる恰好で詰め寄っているが、どこかで見た鎧甲冑を着ている人物たちからは、呼吸を整える声しか聞こえてこなかったが、その中の一人だけ、問いかけに対して呼吸にかき消されながらも答えていった。
「今の‥‥‥は、我々‥‥‥では‥‥‥ない‥‥‥はず・・・」
「じゃぁ誰が?」
「わから‥‥‥ない‥‥‥手出し‥‥‥禁止と‥‥‥伝令‥‥‥は‥‥‥あった‥‥‥から‥‥な‥‥」
呼吸を乱していた一人から、ようやく回答を得られたが、その解答は期待していた内容でもなさそうであり、他にも目を向けてみても、それぞれ一様に「アツイ」という言葉ばかりをつぶやくだけで、あとは必死に呼吸を整えようとしており、その状況ながらも首を横に横に振っては答えている事しかできないでいた。
そうしたやり取りの後、船長とリーダーはお互いが顔を見合わせながら「やっかいな事になってねぇか?」「厄介事以外にあるのか?」「で、どうするの?リーダー」「あのまま放置という訳にもいかないだろう」「だが、認識されたら闇雲に魔法が飛んでくる状態になっちまってるしな」と、それぞれに今後の対応を検討し始めていた。
なんというか、完全にコチラの事が置き去りにされている気がするのは気のせいだろうか‥‥‥




