船団長
「ダメだ」
船団長からはすぐに否定といえる言葉が発せられた。
「被害が増える可能性がある時点で許可できない」
立て続けに理由を出されてしまい、確かに一理あるためそれ以上の言葉をすぐさま言う事が出来なくなってしまった。
たしかに、普通に考えてみればその通りすぎる内容である。
ただ、あの程度の火災ならこの身体だとまったくもって大丈夫といえるのだが、というか今まさに出来上がっているシチュエーションが勿体なさ過ぎて、一刻も早く潜り込みたいという衝動にかられてしまう。
しかし、こういう職場においても上下というのは大事である為に、許可なく勝手に動くというのはあまりお勧めもできる事でもないのはわかっている。
というか、下手すりゃクビになりかねない。
食い扶持として見つかった職場でもあるし、機能を使えば結構楽な仕事内容でもあるので、ここをクビにされるのは考えていない。
そうなると、この場合は許可をもらって突入する為には、どうやって今の責任者を説得すればよいかという点になる
何かないかと思いだしつつ、先ほど作業員と話していた会話の内容を思い出し
「陸にいる時がチャンスなんだろう?それにほら、コイツもある。一応は条件がそろってるんじゃないか?」
そういいながら突剣を鞘から再度取り出してみせ、説得を試みる。
この鞘から抜かれた突剣が、その条件に当てはまるという事は船団長の説明から確認済みでもあるために、見せつけるという意味も込めて手を打ってみたが、それでも渋い顔を崩さない船団長のため、さらに追撃を放ってみるかと、心意気を刺激してみる方向を加味してみようと
「それに、海の上にいるなら、助け合うのが大事なんじゃ?」
「‥‥‥」
ダメか‥‥‥
ありふれすぎた説得では失敗か?と思いながらも、船団長を見てみるも、その船団長は腕を組んだまま、眼を閉じては何かしら思案をしている恰好だった。
こうなれば単独で乗り込む方向でいくかと考えていたら、周りの作業員たちから船団長に対して声がかけ始められた。
「そッスよ、アネさんのいう通りッスよ船団長。オレら海の男ですゼ?」
「アネさんにそこまで言われて、オレらがここで手をこまねいてたら、海神様に笑われちまわぁ」
「ハーヴェンスの海の男は肝が小さいなんて言われたかぁないですぜ?」
「おぅその通りだ」
「ちげぇねぇ」
「「船団長!」「船団長!!」「船団長!」」
周囲の作業員から船団長へつめよるかの様に、船団長を中心とした円陣を築きつつあるなか、その中心となる船団長は、ゆっくりと目を開けては周囲を見渡したのち、
「・・・うるせぇぞ、お前ら!」
「ですが・・・」
「ハァ・・・親方には全部拾ってこいと言われたな・・・」
そういう船団長は、"諦め顔"というよりも、機嫌のよい表情をし、再度周囲の作業員を見渡すと
「一班は陸に戻って親方に連絡いれてこい、そしてありったけの道具もって戻ってこい!二班は消火機材で消火準備に当たれ!で、言い出したアネさん、まずは上に登ってはしごを確保してくれ!確保できたら二班は搭乗して作業に当たれ!余った奴らは海上確認と補佐だ!」
いきなり早口状態で指示が飛んできた状況に、自分も含めて回りが騒然としていると
「なんだ?お前ら不服だったのか?」
「ハイ!」「おうさ!」「わかりました!!」
「なら急げ!」
一拍の静寂のあと、船団長からの言葉で、各人からは喝采ともとれる形で返事が返ってきたかと思えば、各々はこの場から自身の船へと急ぎ戻っては指示された事をこなそうと動き出した。
自分が戻るべき船は、今現在陸に向かっていったので、動くこともままならず船団長のいる船の上に置いてけぼりの感じで残ってしまっていた。
そんなどうしようかと思っていた矢先「でだ、アネさん」と船団長から声がかかり
「上に登る時、コイツをもっていってくれ」
「これは?」
と、船団長が両手で抱えて作業船の甲板に置かれた物。
それは何かしらを布というよりも縄の束というのを丸めた恰好という代物だった。
「縄梯子だ。で、こいつのココを舷の近くに引っ掛ける場所に引っ掛けて、あとは外へ放り投げてくれりゃぁ梯子の完成だ。結構長いタイプだからちょっと重たいが、いけるか?」
なるほど、確かに見た目は大きめのリュックという恰好だったけれども、手にもってみるもそんなに重量を感じない。というか重たいという恰好でもなかった。
「って片手で持てるってどういう力してんだ。って、アネさんだしなぁ」
「それはどういう意味で?」
「種族的な違いって奴だ、深い意味はねぇよ。ほら行った行った」
そういわれては、追い出される様に甲板へと昇り始めていき、船団長といえば作業船の道具入れから何やら色々と道具の確認を始めていた。
* * *
指示通りに甲板に到着して縄梯子を下したあと、一人また一人と登ってきては、機材を吊るし縄で引き揚げ始めたりと、それぞれの準備作業が始まっていった。
「こりゃぁ‥‥‥ひでぇな‥‥‥」
甲板に降り立った船団長は、周囲を見渡したあとそう一言をこぼすようにそう呟いていた。
何しろ、大きく黒煙が立ち上がっている場所には、貨物が大きく散乱しており、見るからにその場所に大きな穴という口が開いていた。
そして、その周辺の貨物にもその黒煙の煙が舞い降りたのか、火の粉の様なものが降りかかっており、一部では白い煙を上げ始めていた。
「周りの貨物にあまり延焼してはなさそうだが、時間の問題だな。よし、まずは延焼を止めるぞ」
「ウッス!」
そういって持ち込まれた機材、というかナニコレ?
見た目がウォーターサーバー?みたいなタンク型とでもいうのか、ただ、ついているタンクの中身は入っていない。見るからに空という代物だったのだが、何かしら操作をし始めるとみるみる液体が充填されていく。
ナニコレ
「船団長!準備できました!」
「よぉし!周りの延焼を抑え始めろ!!他の奴は貨物庫の入口探してこい!そこから火元は中へくべてくぞ!」
「了解!」
その機材のホース先、そのノズル?みたいな先からは白い泡?みたいな液体が垂れ流されていく。
延焼しそうな火の粉が降りかかっている部分に、その液体がかぶさっていくとみるみるうちに赤い色が消えていった。
「これは・・・みず?」
「水というか、液体だな。海生魔物の体液袋が鎮火しやすい液体ってことで、こういうのでつかわれている奴だな」
「へぇ・・・」
「欠点としては、多少のヌメりと少々慣れないと厳しい臭いが残るというところだな・・・だが、鎮火性能と延焼抑制には折り紙付きだがな」
たしかに、液体が付着した箇所は何かしらのヌメリというかテカリというか、そんな感じで光っており、その場所へと再び火の粉が降りかかってきても燃え移る事もなく、その赤い光が包み込まれては消えていった。
そして、何かしらの焦げ臭い‥‥‥いや、これ、正直な事をいえば生臭いというか磯臭いという臭いがし始めてきており、それと共にくすぶっていた白い煙が出てくる事は無くなっていった。
一部、嘔吐の様な声が聞こえてきたりするが、そこは聞こえなかった事にしておこう。
「いつ嗅いでも慣れねぇ奴は慣れねぇからななぁ・・・これ。アネさんは…まぁ、いつも潜ってるから大丈夫か」
「これ、他の消火装置として船に積んでるとか?」
「いや?一般には使われてなくなった代物だな。消臭費用がかさむとか何とかで」
確かに、こんな臭いがこびりついたままというのは、慣れていないと厳しいと
「ま、まぁ、これで火の元の方は何とかなるとして、あとはデセ‥‥‥デセ‥‥何とかを」
「デセマニバスな。まぁ、追っていった奴らがヘマした感じだったから見てきた方が良いだろうが、そこがいまだに判断付きにくい」
「見てきますよ?コレもありますし」
そう言いながら、突剣の柄を叩いてみる。
その叩いた先を船団長は一瞥した時、
「船団長!貨物庫の階段口、開きました!」
「わかった!アネさん、あくまでも追っていった奴らと合流するのが先だ」
「了解」
「それとだ。もし、デセマニバスに出会っても下手に刺激する事は避けてすぐにその場から移動しろよ?今頃は、相手の気が立ってる可能性がある。そうなると見つかって認識された時点で魔術を撃ってくる事がある」
「怒りで我を忘れてる的な?」
「違う気もするが、だいたいそんな感じだと思っても間違いない」
その魔物に関して対峙したときの対処方法をこちらに伝えたあと、船団長はふり返っては甲板へ向きなおると
「よーし、二班の数名は貨物庫の火元を抑えてこい!アネさんと手の空いてる奴は追ってった奴らの捜索!デセマニバスに出会っても、手ぇだすなよ?!あと、何かあったらすぐに戻ってこい!おら!行って来い!」
各人から、再び「うぃっす」「了解」「はい!」などなど、了承したという返事が返っており、そのまま言われた指示の通りにと、タンクを背負っては数人で向かうモノ、口に布を巻いては棒らしき物を持ち出しては進んで行くもの、そのまま甲板にて作業を続けるモノ‥‥
それらが進んで行くのをMAPで確認できているので、ついでに各人にマーカーを付随させておく。
最悪、もしもの時の為にと付随しておこうと思って付けていったのだが、一つだけ最初からマークが付いていた生物がいたりしたが、何かしたっけ?という記憶をたどろうとしていると
「アネさん、どうした?いかないのか?」
「いや、なんでもない。じゃぁ、こちらも行ってくる」
そういって、船倉・・・・・・ではなく、船内につながる扉へと向かう
「おいおい、あっちじゃ?」
「いや、追って行ったという話の時、こっちを見てたから、此方から追おうかと」
「それを早く言ってくれよ・・・アイツらどうすんだよ・・・」
そういって、船団長が貨物庫方面に向かった方に目をやったとき、
「船団長!ケガ人だ!まだ下にも何人かいる!」
そういわれて、担ぎだされた今度は水兵の恰好をした生物が現れる。
その服装は切り刻まれたかの様な裂けた後と、破片が多少なりとも刺さっている恰好であったりするが、息をしているのが見られるので、一命は助かっているという恰好がわかる程度だった。
「負傷者は一度ここに集めろ!一班が戻ってきたら吊り担架で降ろしていくぞ!」
「それじゃ、こっちから追っていくよ」
「ああ、わかった。何かあったらすぐに戻って来い」
手を挙げて了承の意を送ったのち、船内へと入っていった。
今週は出張の為、今週分の投稿はできたらする程度で。




