食後
「ちょっといいか?」
食事を終わらせ、サービスとして渡された果実水といえる飲み物を飲みながら食後をくつろいでいた時、対面に現れたのは、よくあるファンタジー世界でいえば"さえない冒険者"風の恰好をしている生物の雄が現れてきた。
「ん?何か?」
何かしらの面倒ごとをやらかしたっけ?という思案を巡らせては、何もなかったという結果がでてきてはいるが、それなら、これから面倒ごとが起きうるのか?という警戒を強めていると
「そう警戒しなさんなって、こちとら礼を言いたくてな」
「礼?」
礼を言われるほど何かしたっけ?という新たな疑惑から、ここ最近の出来事を覚えている範囲で思い出してはいるが、一向におもいつく事がない。
「ちょいと失礼するよ」
「ん?ああ」
思案しながら、流れるままに返答している時にも、相手といえばテーブル席の向かい側へと座り、手に持っていたカップからは泡立っている汁、たぶんエールらしきものを呷りながら話を続け‥‥‥様としていた背後、ゆらりと聳え立つ存在が視界に入る。
その視界に入った存在の、そのバイザーに隠されているはずの視線が、まるで汚物をみるかの様に雄を睨みつけている様にも見えており、まさに雑菌は抹殺だ!とも言わんばかりであった。
さらにいえば、手に持っている食器という名のナイフが、その手の中に綺麗に隠されているのを、自身の視覚情報がはっきりと捕らえており、まさに暗器の様な扱いになったかと思えば、音もなくそして周囲からも何故か気取られることもなく、今まさに目の前の標的を排除しようとしている暗殺者Sがいたが、こちらは冷めた視線で"止まれ"という意味合いを込めた視線を送ると、その事に気づいたのかピタリとそのまま停止してくれた。
これから行おうとしているその行為を咎めるべく、冷めた視線とジェスチャーで仕事してろと合図を流しすと、何か納得しなさげに雄の方とこちらをチラチラと伺いながらも「ああ、その冷たい視線もイイ‥‥‥」などという小声がしっかり聞こえてしまい、こちらへの精神的ダメージを加えてくれながらも、しぶしぶと給仕の仕事に戻っていくのを確認してから、話を続けていく。
「ふぅ・・・」
「ん?なんだ?」
「いや、こっちの問題だ。で、礼とは?」
こちらの行動に対して、自身の背後へと振り返ってはいた雄だったが、その時にはその存在は平常運転をしており、こちらとしてもそれ以上は聞いてほしくないために話を続けてもらう。
「この前のご馳走はあんたからの提供って言うじゃないか。俺たちとってみれば、滅多にお目にかかれない、下手すりゃ一生お目にかかれるかどうかわからない代物だったんだ。礼ぐらい言っとかないと罰が当たるってもんだ。だろう?みんな」
そう周囲へ顔を回して話をふると、「おう、そうだそうだ」「ありがとよ。姐さん」「ごちそう様ッス!」と、いたるところから感謝や礼ともいえる言葉が投げかけられていた。
そんな周りの中に一人、腰に手を当てて「あたりまえです!慈悲に感謝しなさい!」とでもいわんばかりの給仕係Sが視界に入ったが、そこはスルーしておく。
まぁ、配ったというか分けた理由なんて単純かつ明快な答えなだけで
「あまりにも多すぎだったから、腐らせるのが勿体ないと思っただけだ」
「どんだけ‥‥‥という事はデカかったって訳か、どうみても相手は大系みたいだな」
そういいながら、テーブルと座席の間に立てかけておいたあの刺突剣をみて反応を変えていた。
「ああ、海の魔物ってのは俺たち陸のハンターにとっては難敵も難敵、相性が悪すぎる魔物だからな。しかもその剣のサイズからみれば、仕留めたガーランってのは大系だったというのも解る」
「これで解るものなのか?」
そういってその刺突剣を持ってみせてみる。
みすぼらしい冒険者の雄は、通りがかった元気娘へ追加の注文をしながら、こちらの問いに首を振ってこたえていた。
「ああ、ガーランってやつはそいつの角の長さで大体の大きさがわかるからな。その長さだと、単純に5、6m程度は軽く超えてたんだろ?それだともう大系ともいわれる区分で災害級とも言える相手だ」
確かに、この刺突剣は1mと少しぐらいだったから、単純に5倍すれば5mくらいになる話である。確かにそれぐらいの大きさでもあった。
これがそんな指針みたいな物だったのかと、「へぇ・・・」といった言葉をこぼしながら少し感嘆してしまった。
「そんな大系の災害級を一人で仕留めたっていうじゃないか。大盤振る舞いもしてくれたってんなら、礼でも言って多少なりともお近づきには成りたいっていう魂胆があるってモンさ」
「お近づき…ねぇ…」
そういいながら、いぶかしげにその生物を睨むと…
「おっと、別にオタノシミを狙ってるわけじゃねぇぞ?俺たちゃその"ガーランの剣"を入手した経緯をを知ってるからな。ぶっちゃければ、腕の立つ奴とは知己になっておくって話だ。直接であるにしろないにしろ、何かしらの繋がりで助かる事があるのを知ってるからな」
「なるほど…ね」
「ま、その剣を持っているにも関わらず、オタノシミを狙って声をかける奴がいるなら、それはモグリか新人か、はたまた大馬鹿か豪気か、それとも頭が働いていない酔っ払いってとこだしな。それに、俺らはアンタから上物の飯という"貸し"ができちまってる。その"貸し"を無下にするほど腐っちゃいない奴らばかりだ。そうだろ?みんな」
その問いかけにも、周りからは好意的に「おう」「だな」「ウスッ」などなど、酒精をおびた様な声もまじってはいるが、カップを持ち上げたり、おおむね同意的な意見が出ていた。
「おっと、そういや自己紹介がまだだったな、一応ハンター業を営んでる"ロクェ"だ。ここにいる奴らのまとめ役みたいなことをやってたりしてる」
そう言いながら、ちょうど元気娘から追加のエールを受け取り話を続けてくる。
「ロクェさん、ほどほどにしておいた方がいいですよ?」
「へいへい、ご忠告ありがと、シルビィちゃん」
「あと、そろそろツケも払ってくださいね?」
「お・・・おぅ・・・」
ジト目を投げかけられ、視線を外しながら新たなエールを口にしているみすぼらしい冒険者が一人、そこにいたりし、元気娘はため息を吐きながらも厨房の方へと消えていった。
なんというか、ダメ人間という印象を受けるのだが、それでよいのだろうか
「ま、まぁ、そのなんだ‥‥‥
ここにいる奴らのほとんどは、同じハンターをやってる奴らで顔なじみというか、腐れ縁というか、そういう付き合いの奴らが多くてな、それに長いことこの街というか、この宿で世話になってる奴らも多いから地元に顔も結構利く。
でだ、あんたの見た目が…その……アレだ、結構目立つからな。この街での些事的な事が起きやすいだろうと……ま、いらぬ節介かもしれねえが、何かしらあるなら言ってくれ。それぐらいは協力させてもらうからよ」
ダメ人間と評価してはみたものの、何気に義理堅い生物達といったところなんだろうか?「ツケをちゃんと払ってやれよ」「な?シルビィちゃん」「本当ですよ。まったく」という周囲からの軽い罵声の様な声に対しても「うっせぇ、今度入ったらちゃんと払うわ」と返し、「みんな聞きましたね?」「おう聞いたぜシルビィちゃん」「俺も俺も」「オレっちも」「お前ら‥‥‥」という、元気娘にさらに一歩上をいく対応をされながらも、周りもまんざらでもないという感じで笑いあっていたりする。
何かいいね、こういう雰囲気。悪い気はしない。
こういうのは、持ちつ持たれつといったところなんだろうな。
「わかった。その時はよろしく頼む。それと自分の事は”アーネスト”でいい」
「おう、まかせときな。よろしく頼むな、アーネストの姐さん」
「姐さんというのはちょっと…」
「じゃぁ、なんだ?姉さんがいいのか?」
「いや、そういうのではなくて」
「じゃぁ、嬢ちゃんか?さすがにそれは無理すぎだろ‥‥‥」
「それはそうだが」
自身としては中身が男の為に、異性ともなる呼称をどうやっても付けていこうとする相手に、どうにかやめてもらおうと、小さな戦いから始めるしかなかった。
「(むっきぃ、あの雄は何ですか!何なんですか!!シーのお姐様をぉ!!)」
「はい、シーちゃん、これ4番テーブルね」
「わかりました(ぶっ殺してやるですか?それとも…)毒で苦しめてやるですか…」
「ん?何か言った?」
「4番テーブルですね!いってきます!
(どうすれば気取られずに消せるのか)ブツブツ‥‥‥」
「・・・?」




