契約
午後の賑わいで混雑している路地を、職安組合へと向かって進んでいる自分がいるのだが、その道中は生物たちが作り出す、人波というものが不規則な流れに見えてはいるが、実際にはあちらこちらにと流れいってもいた。
そんな流れの中に、進行方向に逆らわずに進んでいる間にもかかわらず、その流れの方向に逆らう形で自分に接触しては、流れに乗って消えていくという小さな物盗りの様な存在が、羽織布の隙間から胸元や腰辺りめがけて攻略を仕掛けられていた。
当初は、金銭や書類などは倉庫に仕舞い込んであり、着こんでいるというのは軽装装甲と、腕部と脚部の装甲に腰元にしっかりとぶら下げてみた突剣ぐらいしかなく、簡単に盗られる様な代物でも場所にあるわけでもない為、まったく気にすることもなく完全無視で放置でいたのだが‥‥‥
が、それらが露骨に何度も何度も現れてきたため、いい加減にしろといった感情で、それらをさり気に躱したり、なおかつ手や剣の柄で触れた手を払っていたりしているのだが、それでも小さな生物たちはそれでも執拗に探りという感じで手を入れてくる始末。
人込みという中なのだから、辺りには他の生物たちがワラワラといるのにもかかわらず、こちらばかりに何度もやって来るのは何なのだろうか。
"なんで毎回こっちにくるんだよ"
と言いたくなりそうな時に、
『アーネスト様、先ほどから執拗に接触して来ているモノらを、"排除"いたしましょうか?』
脳裏に唐突に入ってくる言葉に驚きはしたものの、その声の聞き覚えがあった事から発生源はヒョウさんだとすぐに気づいたのだが、一部の単語に対して何かしらの意味ありげに伝えてきていたりしていた。
そもそも、一体全体どこにいるのかとMAPを見てみるれば、上空?いや、建物の屋根らしきところにマーカーが付いていたりしていたので、視線を向けてみるも普通に見えなかったが、まぁ、あそこにいるんだろう。
っていうか、今更思ったが、さっき"排除"ってところの語気が強かったのは気のせいかな?というか一体何する気なのかな?結構物騒な言葉に聞こえたのは気のせいだよね?
こちらとしては、そういうフラグとかは遠慮したいし、面倒ごとに巻き込まれるのも簡便願いたい。
こういうのは、問題が低いレベルなら完全スルー推奨で十分である。ので
『いやいやいや、いいから、別にいいから、盗られた物もないから』
『そう、ですか‥‥‥』
なに、そのイヌ科みたいなキューンという風な悲しい様な言葉で返してくるの?あなたのベース、一応ネコ科だったと思うんですけど、というかゲーム内でもそんな事いうキャラじゃなかったじゃないですか。
『ほ、ほら、ヒョウさんは、例の監視をしてもらえれば』
『その件に関しては継続中です。依然、一定の距離を保持しています。ターゲットマーカーのマーキングも完了しており、いつでも撃てます』
『・・・』
Oh...いつも通りの"言われた仕事はきっちりこなす派"のヒョウさんだった。
『ま、まぁ、こっちの事はいいから、そっちの事をしっかりやっててくれればよいから』
『‥‥‥わかりました』
何か、"納得はいかないが無理やり納得しました"という、そんなやり取りをしている最中にも、小さな相手との小さな格闘をしながら、人込みという流れのある場所からようやく抜け出すことに成功する。
人込みの中であそこまで執拗に狙ってくるとか、この町の治安とかって大丈夫なんだろうか。
宿に戻ったら戸締り方法を考えておこうか‥‥‥あ、バカSとヒョウさんいたらいらないかもしれないか・・・
などと今後の事を少々考えながらも、そこからは特に接触してくるのは店番の店員程度で問題もなく、すんなりと目的の場所となる職安組合へとたどり着く。
そうして、相変わらずトラップとしか思えない握り玉型のドアノブを使って引き戸を開けて中へと入っていくと、
「いらっしゃいませ!職案組合へようこそ!」
何度もお目にかかっている人物から、こちらを伺う事もなく定型文の声がかけられていた。
そのホールに入ってみても、にぎわっているというわけでもなく、閑散というぐらい人の気配が数人しか見かけないといういつもの風景だった
「あれ?アーネストさん?」
ようやくこちらに視線を向けてから気づいたんだろうが、やっぱりさっきのは定型文だったんだろうな。
「書類を持ってきたのだが・・」
「はい、お預かりします。確認に回すので、しばらくお待ちください」
そういって、受付嬢は背後にある事務室?らしき場所へと先ほどの書類を持っていき、ふたたび戻ってきた。
「手続き処理に回しましたので、しばらくお待ちください。ところで‥‥‥」
「ん?」
手招きされる形でこちらを呼びつけたかと思えば、周囲を確認してから耳打ちをしてくる。
「アーネストさん、ですよね?ガーランを討伐されたのって」
「え?あ、ああ、一応そうなるな」
「やっぱり!で、では、あの、お肉とか全部卸しちゃいました?」
「いや、今は処理できなかった分は日持ち用に処理をしてもらってるところだが……」
「それでもいいです!うちに卸してもらえませんか!?」
何の事はなかった。商談の話だった。
一瞬、何か公にできない事でもあったのかと勘ぐってしまった自分が馬鹿だったなぁと。
なんか冷めたので、
「宿で樽漬けにされてるやつがあるが、一つなら良いが引き取りに来るのか?」
「ありがとうございます!では、それで手配しておきます。手配料はこちらで対応しますので大丈夫ですよ。あ、そろそろ処理がどうなったかみてきますね」
と、再び事務室(?)の方へと向かう受付嬢だったが、事務室に入っていった後に"みんなー!手に入りそう!""やった!""なら処理は最優先だ"などなどの、ちょっとした歓声の様な内容が聞こえてきたのは気にしないでおく。
というか、なんなんだあの肉、あまりにも反響が良すぎるのだが
そんな小さな喧騒が聞こえてきたと思えば、少々待ったぐらいで再び現れてくるが、今度は袋らしきものを複数携えていた。
「アーネストさん、お待たせしました」
そういって受付台にひとつづつ載せていく際、それぞれの説明がなされていった。
「こちらが、契約手続きの件に関しての基本契約金です。また、こちらが作業手当分の追加報酬分になります。さらに、港湾事業部から賞与?としてがコチラで、先ほどの樽1の購入費がコチラになります」
そこには、何気に小さな袋の山が出来上がっていた。
それは、追い出された際に渡されたあの袋よりもそれぞれが一回りも二回りほど大きい代物でだ。
ただ、一番大きかったのが一番最後に説明されながら置かれた代物という事実があったりした。
いや、だからあの肉っていったいどんだけなんだよと。
「えーっと、いつもこんな感じなのか?」
「いえ、いつもはこんな事はないんですが、たまに半年契約の方でこういう方はおられますね」
「そうなのか・・・」
「日雇いの場合は、こんな事にはならないんですけれどね」
予想外に斜め上すぎる金額であったためと、賞与なんて今日初めて仕事にもならない職場体験という点を考えてみれば、これがあの口止め料的な代金が加味されたという事なのかな?と少し考えさせられもした。
が、もらえるものはもらっておけばよいという精神で貰っておこうとは思ったが、ここまで現金が山積みになっているのを見せられると、こういうのはいったいどうしてるのかと疑問に思い
「とりあえず、大金になっているけど、こういった場合は殆どはどうして?」
「ああ、はい、長期に利用する事が無い場合で、大口では手形化する事が出来ます。いかがしましょう?」
「手形?」
「はい、金子では大金の場合はどうやっても嵩張ったりします。そこで、商業組合にも通用する証券手形を職安組合でも発行もできるので、それを代替にされるという場合があります」
「ああ、たしかに嵩張るもんな」
「ただ、欠点としまして、証券手形から金子に変換する場合は、確認の為に手数料がかかってしまう点があります。なので、証券手形の場合は金子にはせずにそのままでやり取りするのが、通例という感じとなりますが、それはあくまでも大口な契約にとどまりますね。あとは国内や同盟国でしか通用しないといったところでしょうか」
「なるほどね・・・というか、そういう証券手形なら複製や偽証される事とか」
「それは魔術式の手形になりますから、複製できないといわれてはいます。もし複製品と発覚または製造にかかわった場合、またはその手形を偽証を行った際にも基本的には一族すべてに対して重罪の扱いになります」
「・・・急に重たい話に」
「はい、なのでそういう行為は行わない方が賢明であると思います。いかがしましょう?」
説明を聞いた限り大金を持ち歩く事は危険って事なのだろうか、確かに先ほど物取りと思われる行為をこの身で体験していた訳だし。
ただし、その危険に関しては一般的な生物の話、なにせこの身体には標準仕様で倉庫機能が内包されているのだから!
フゥハハハ!ビバ!機械生命体!
・・・おっと、つまりそういう事なのであるため、自分がとる選択というものは
「いや、そのままで構わない。で、樽の引き取りはどうしておけば?」
「それでしたら、此方から手配しておきます。夕刻までには伺うとは思いますが、宿はどこになりますか?」
え?宿…宿・・・えーっと、えーっと・・・まずい、宿の名前が出てこない。
えーっと、えーっと、たしか・・・
「活発そうな子と、その子を成長させてふくよかにした女将と、自分より背の高い親父さんがやってて、馬房と裏庭があって、三階だての・・・えーっと名前なんだっけか・・・」
「・・・あ!ギルさんの宿ですかね?」
「あぁ!それ!たしかそんな名だった、それ!」
「では、夕刻までには伺うように手配します」
「わかった、宿にもどったらそう伝えておくよ」
「よろしくお願いします」
と、話は終わったので、とりあえず頂いた代物は一つつまんで羽織布にひっこめては倉庫へ、二つつまんで羽織布にひっこめては倉庫へと、それぞれはとしまっておいた。
仕舞う際に、受付からは"?"マークが浮かんでいそうな表情をされたが、そこは気にしないでおいた。
〇路地裏の"ひこう"少年たち
「柔らかかった・・・めっちゃ柔らかかった・・・何あれ・・・」
「マヂかよ・・・」
「すんごく、こぅ・・・香りも・・・ふぅ・・・」
「お、おい、しっかりしろ!」
「あの少し触れただけでも、こぅ・・・つつみこまれそうな・・・ボク、この手洗いたくない」
「くそっ、なんでお前らばかりなんだよ!オレだけ躱されたり遮られたりされ続けるんだよ!というかお前ら今日のシノギどうすんだよ!」
「いや、もぅいいや・・・ほんと・・・」
「うん、ボクもいいや、なんか、こぅ・・・思い出しただけでけ飛べそう・・・」
「はふぅ・・・」
「お、お前ら!戻ってこい!いいから戻ってこぉぉい!」
* * *
(キュピーン)
「ハッ!?("憩い空間"堪能者の気配が!?これは、制裁をしなければ!(使命感))」
「シーちゃん、こことそこのテーブルの片づけおわったら、ゴミの処分もお願いねー」
「はーい、わかりましたー!ゴミの処分に行ってきまーす」
「って、どこいくのかしら?それとゴミ箱忘れてるわよー、はい、これねー」
「ア、ハイ(チッ」




