閑話:〇月□日 午後 1時XX分 港湾工事事務所 小会議室
大柄な女性が退出し、入れ替わる恰好で入ってくる小麦肌の青年が一人。
その青年に対して、部屋にいた人物から声がかけられる。
「クァン、まぁ座れ」
「はい…」
クァンと呼ばれた青年はそう促されるまま、まるで命令を受けたかの様に席についた。
その向かい側には先ほどまで何かしらを行っていた二人が座り続けてはいたままなのだが、その面持ちは何かを熟考しているかの様な、そんな悩みを示している表情でもあった。
「それでだクァン、嬢ちゃんの事どう思った?」
「ええと・・・どうと言われましても・・・」
考え事をしていた一人の人物からは、"何かを知っている事があるのならば、全て答えろ。"とでもいう意味合いが含まれている程の圧力が込められていそうでもあった。
その圧力に気圧されたのか、クァンはしどろもどろという恰好でその質問に答えようとするが、その解答とする言葉が出てくる気配がなかった。
そんな気配を察したのか、隣に座っていた人物から、こんどはその圧力から解脱させるかの如くに会話がなされる。
「親方、以前から言ってますが、そういう圧力をかけるのはやめましょう」
「ぬ・・・ぬぅ・・・なら、お前がやれ」
「はぁ、わかりました。では、ここからは私が」
そうバトンを渡されたもう一人の人物、助手と呼ばれている存在は、コホンと軽い咳払いをした後
「そうですね、色々案内して頂いたとは思いますが‥‥」
「は、はい」
前置きとして、自分に与えられた職場の案内という事を伝え、クァンからの相槌をもらいつつ、助手はさらに続ける。
「私たちの職場に関して、何か言われましたかね?」
「は、はい?」
部屋の雰囲気というものは、先ほどの圧力さとは一転し、今度は軽快とでもいうぐらいであった。
「いえいえ、ほら、私たちの職場は殆どが男ばかり、ですよね?」
「は、はい」
「そうなってくると、その中に女性がいたら……こちらでは気づかない事があるのではないかとね」
「あ、あぁ、なるほど」
たしかに、男ばかりの職場の中に、女性という異性が存在したら、何かしらの事が起きる可能性はあるという事を、クァンという青年は感じていた。
なにしろ、まさにその事が案内をしている最中にも発生していたために、クァンは今日の出来事を思い出しながら話を始めていった。
「そうですね、案内する先々でちょっかいを受けてましたね」
「ふむ、まぁ、あの容姿では仕方ないでしょう。こういう職場ですからね」
助手の方からは軽い笑いがこぼれていたが、その隣にいた堅物からは、真逆ともいえる感情を垂れ流してきていた。
「‥‥‥アイツら、もう一度シメ直さなけりゃならんな」
「親方、落ち着いて。今はその制裁はおいておきましょう。それで何か悪い印象を持たれたみたいな?」
「え?え、ええっと・・・何か、前にいたところと、同じ雰囲気だとか」
「同じ?ですか」
「はい」
「なるほど、以前は似たところにいたんでしょうか。となるとあしらい方も解っていそうですかね」
「たしかに取りつく島も無いという感じでしたね」
「なるほど。じゃぁ、他に何か、そうですね、例えば‥‥‥仕事に関してとか?」
"ふむふむ"という恰好で、助手は内容を確認した後にほかに気づいたことがなさそうかと、クァンという青年へと続けて質問を投げていた。
「仕事、ですか?・・・ああ、潜水具を使わなくてもよいと言ってましたね」
その質問に対しての回答の内容が発せられた途端、二人の視線が一瞬鋭くなった気がしたが、あくまでも一瞬だけであったが、そのまま話が続けられる。
「潜水具がいらない。とは?」
「ええと、なんでも自前があるとか何とか言ってました」
「自前、ですか・・・ほうほう・・・」
クァンとしても、その二人の雰囲気が変わった事と、自身がその時に考えてしまった事から、言って良かったのかどうかと一瞬あせってはいたが、
「道具に関しての経費をどうしましょうかね‥‥一応申請書類を準備しておきますか」
この助手からの次の言葉で、その不安とよべる警戒感は抑えられる形となった。
なにしろ、自腹で道具を持参してくるという人夫がいるのは今更な話でもあるが、大抵は有用とみなされない限りは完全な自己出費になりえ、今回のように潜水という作業具となれば、業務用とみなすことも可能となる。
そのため、その道具に対しての保守点検用の経費計上が可能でもあり、クァンとしてもそれらに類する道具を持参しては使用していたりするため、同じ事だと思い込んでいった。
「あとは、その道具を使用してガーランを仕留めたという事でしょうかね親方」
「ふむ、そうかもしれんな、それなら話は変わってはくるだろうな」
「となると、道具があるというなら、どこかでそういう経験をしていたとも」
「そういえば、そういう経験はしてないって言ってましたね」
「ん?」
「ええと、していないとは?」
「はい、ハンターとかやった事もなく、なんか生まれつきの種族的なモノとか言ってました・・・から・・・」
クァンとしては、普通に会話をしていた事を話していただけなのだが、二人の食いつきが思う以上にあり、話してよかったのかと、先ほどの警戒感が再び高まるのを感じていた。
「・・・クァン」
「は、はい」
「たしかお前、極東の出身だったよな?」
「え、極東でも南部諸島ですけれど‥‥あ、まさか…‥」
クァンの頭の中に想定していた事と、今この場にいる人物たちとの思惑とが、少しかみ合う恰好になった瞬間でもあった。
クァンがいた出身地となる地方においては、若干、神聖視されている伝承を持っていたりはするが、近代ともいえる現代においては、そういった保護対象でもあるという事も、その出身地においても聞かされてもいたことであり、この職場にくる際にも極東出身という点で、その存在が主に暮らす地域の方面であるからと、当時クァン本人も確認されてもいた事でもあった。
「まぁ、そのまさかを確認しているという事です。クァンさんならば事情を知っていそうですしね」
「あぁ、なるほど、わかりました」
「でだ、それ以上の事は何か聞いたか?」
「い、いえ・・・もしかしたらと思って、それ以上、聞くのはまずいかなと」
「たしかにな、どこに耳があるかわからないからな」
と、真剣な面持ちで、考えている二人であった。
お互いの認識から、ようやくこの会議室に呼ばれた意味合いと、お互いの隔たりが無くなった事により、クァンは先ほどまで行っていた緊張から解放されていた。
そんな心境を察したのか、それとも察していないのか、質問が続けれられて行く。
「クァン、それでだ。お前から見て、どうだった?」
「ええっと‥‥‥わかりません」
「わからない?」
「わかりませんが、自分が知ってるのとは違うところがあって、話しているとそうじゃなさそうでもあるしで‥‥‥」
「そうか」
「私たちの中で、東方出身はあなただけですからね、何かしら感じるモノがないかと期待はしましたが‥‥‥」
ようやくクァン本人も、なぜこの場に自分が呼ばれたのかを理解し、先ほどまでの警戒していた心構えがようやく降りる恰好になった。
そこからは、各人の情報のやり取りともいうべき会話が続いて出されていく。
「親方、可能性は低くはないでしょうね。本人が自覚されていないか、それとも、身内からはそう伝えれられていないか。それでいてある種の種族的な特性としてみれば」
「いまのところの可能性があるというだけだ。本人の口からは一切出ていないからな」
「で、でも、本物を見た事はないですけれど、地元ではあんなに大きいというのも聞いた事が無いですよ」
「そこは、混血という線もあるでしょうね。例えばそう、巨人族とのという事ならば、可能性もあるとは思います」
「ふむ、たしかに巨人族の血があるならば、その大きさというモノが顕著に表れるというからな」
「先ほどの話も考えるならば、今まで女という事で厄介ごとを避けるために巨人族で通していたかと思ったが、本人がそういう自覚がなかったという事もありうる。何せ海の掟に関しての知識がなかったというから、陸の内地ばかりで外海に訪れた事が無いとかで説明はつくしな」
「ええ、それは十分にありえそうですね」
「ただ、結局のところ、どうこういったというのは何ともいえないだろうな」
「そうですね、例え混血の場合とかでしたら、かなり微妙なところですしね」
「毎度思うが、厄介な話だな」
「厄介ですが、まずは、本当に種族的な特性なのか道具的な補助具なのかを確認にしてからの方がよいかもしれません、どこかの誰かさんを早合点して、上からどやされるのは避けたいですし、これ以上この職場で問題を起こしたくないですしね‥‥」
「あの時のは、そういう事だったんですか‥‥」
「うぐ、ぐぅ・・・」
助手から、恨みがましい視線を浴びてしまっている親方から、その視線の矛先を変えるべく、正面に座る人物へ言葉のキャッチボール相手として切り替えるように
「という事でだ、クァン」
「は、はい?」
「お前も、どういう事かというのは知っているはずだが、今のところは巨人族で通す事としてだ、とりあえずは職務中は相棒として、色々と見てもらえるか?」
「え、あ、はい、それは・・・・・・」
「そうそう、何かあったら親方よりも私の方に一報を入れてくださいね」
「わ、わかりました」
「って、おい」
「親方だと、間違った判断で行動を起こすかもしれませんし」
「待て、お前な・・・」
「代金支払いは自腹でお願いしますよ?」
「うぐっ・・・」
「?」
こうして、三者による方針とも二者間、といっても主に一方的な愚痴り合いとも罵り合いともいえる話し合いは幕を閉じた。




