測定
一緒にいた人達と共に、召喚の儀式を行った部屋?もしくは間?みたいな場所を後にして案内されている間、状況確認として自身の記憶を掘り返してみたが、
"仕事から帰って真っ先にアップデートかけておき、その間に飯食って風呂入って準備万端でゲームへログインした。"
やはり、この行動しか思い出せない。
そして、
"ログイン画面の後、いつものゲームへと転送される表現が終わった先が先ほどの場所だった。"
記憶をいくら掘り返しても、現在発生している突拍子もない事を再確認するだけに終わるしかなく、先ほどの場所から連れ出されて通路を歩いている状況へと記憶が続いているという事以外に変わりは無かった。
正直に思っている事と言うのなら"訳がわからない"という表現しか出てこない。
出てこないが、場の空気の流れ的に、同じ様に召喚されたという人たちの最後尾に付いて移動するしかないとでもいう雰囲気が充満しており、そんな雰囲気に流されるままに行動するしかなく、そうして行きついた先は豪華と表現するしかない一室であった。
* * *
これ、本当に客間と言っていい場所なのだろうか・・・
えらく派手ともいうか‥‥大きなシャンデリアが余裕をもってぶら下がっている広さの中、それぞれの壁には立派な装飾が施された家具が並んでおり、その一角に日の光が差し込んでくる大元をみてみるは、これまたステンドグラスがその空間に神秘性を出してきており、何というか、客間というよりも広間という表現が正しいんじゃないか?と思えるぐらいの場所だった。
それよりも、自分の知ってるVRMMOにこんな部屋なんて見たことがない。
似た所を思い出してみても、生物フレンドの一人が、"僕の考えた中世の貴族部屋"みたいなのを凝りに凝って再現していた時がこんな感じだった、というのが記憶に引っかかった程度であり、それは、あくまでも個室とも呼べる小さな部屋で、この部屋の様な広間的な広さを兼ね備えてはいない。
それどころか、この部屋に来る道中の建物の構造とか、ゲームの設定からは逸脱している様に見えて仕方が無かった。
そんな広間に設置されている椅子へと各人が案内される中、自分としては場所を取りまくる体系の為、拒否的なジェスチャーをしつつも各人が座った椅子の後ろに立つ恰好にさせてもらっている。
そういや、その"僕の考えた貴族部屋"の生物フレンドの自慢の椅子に腰かけたら、ぶっ潰した事があるからなぁ・・・
あの時は"弁償だ!"とかマヂ切れされたっけか。もちろん、弁償はしたが、今度は耐荷重に耐えるものにしてやる!と、どう見積もっても素材代金を数倍吹っ掛けられた気もしないでもなかったが、結局代金よりひと狩り行こうぜ!なノリのまま、素材で支払った懐かしい思い出がある。
なお、完成した椅子を前にしては、試し座りしてみろと言われて座ってみて、なおかつ荷重に耐えきった椅子をチェックしては、二人してやり切った感をかみしめあったっけか・・・
そんな過去の思い出に浸っていると、相手から事の事情が語りだされていった。
* * *
説明がされ始めたのだが・・・
その内容というのが自分がプレイしようとしていたVRMMOのバージョンアップの前に公開されていた新章情報と、これっぽっちもひっかからないし、ひっかかる要素や単語がまったくもって上がってこない。
そもそも、説明された内容が真実であるならば、バージョンアップの内容とはまったくもって"別物"、としか言えない内容であった。
彼らから説明されている世界の名前など、新バージョンアップで明らかになっていた新しい星系とか、その星系内にある惑星や大陸の名前とか、そういう名称に微塵もかすりもしないし、探査船の名前や宙域名すらも出てこない始末である。
それに、話を聞けば聞くほど、どうみても中世世界を基調とした、よくある王道ファンタジー物語っぽいとしか思えない。
なにせ、魔王が復活して云々とか出てきており、そこまで王道的なRPGというか、テンプレというか、そういう話が出てくるとは思いもよらなかった。
そして、その勢力を拡大する魔王に対抗する為、過去の歴代の方々は勇者召喚の儀を行って救世主ともなる"勇者"とよばれる神具を扱える存在を呼び出すとの事らしい。
そんな内容が延々と流されている中、自分と言えば"前情報と違わない?"とか"これもイベントなんだろ?そうだろ?"と、頭の中に疑問符を浮かべては並べている状態で話を聞いてはいたが、最終的には"ありきたりのテンプレ設定、乙"と心の中でツッコミすら開始していた。
学生さん達の中からは「勇者と魔王ってゲームみたいだな」とか言ってるのだが、現在、無口系ロボRP状態の自分としては、"何言ってんだ?これゲーム世界だろ?常識的に考えて。"と心の中でさらにツッコミを入れている状況でもあった。
そうして、一通りの説明という物が終わった時、
「それで、僕たちが勇者となるのですか?」
学生さんの一人が、この状況を理解したのか、はたまた流れを汲んだのか、先ほどの説明を始めていた人に質問をしていた。
確かにそうだわな。
呼び出された人数は自分含めて総勢7名。
全員が全員勇者様だったら、それはそれでスゴイ話だ。
過剰戦力ともいえる内容で、魔王軍に勝ち目なんて出てこなさそうではある。
それよりも、これ新章の仕様と違う事を聞いた方が良いのではないのか?と思ったりはしたのだが、進行役NPC相手にそんな臨機応変な回答が返ってくる訳ないから無理だろう。
それならば、ヘルプサポートの窓口を呼び出してみようとしては、視界に移っている画面表示を見ていたのだが、いままでそんな事した事が無いために、一体どうやったらよいのかとメニュー画面と格闘しながら聞いていたら
「過去にも複数人が召喚された事例はあります。
複数の方が召喚に答えて頂いた場合、その中のお一人が真の勇者様でありました。
また、一緒に召喚に応じられた方々も、それぞれがその道の英雄になられている事が記されていたりもしました・・・」
最後の方、だんだんと言葉が小さくなってるが、この機械生命体の仕様だと聞き取れたりするんですけど、その聞き取れた内容は「もしくは、一市民として扱わせてもらい、そのまま生活してもらっていた」と。
えーっと、その内容から察するに、英雄になれずに余生を過ごした人もいるという事が伺えるのだが・・・?
それよりも何だ、何かひっかかるというか・・・
なんだろう、この気持ち悪い引っかかり方は・・・
「真の勇者?」
「はい、魔王を倒すために必要な神具、その神具を扱い、真価を発揮できる方をそう呼んでおります。」
そんな自身が何かに引っかかった疑惑を他所に話は進んでいた。
その進んだ話を要約すると、魔王を倒すためには専用の神具やらが必要で、その神具の真価を発揮できるのは召喚された勇者様でしか扱えないと。
その神具が無いと、魔王の討伐、または封印する事も叶わないとかなんとか、まさに王道ど真ん中を突き進むファンタジー系RPGだなと感心させられる。
「それで、その勇者というのはどうやってわかるのでしょうか?」
「はい、それは宣託の間においてわかります。これから案内させていただきます」
そう言われるや否や、その場所へ向かう為にと席をはずし、自分を含めて全員がついていく形になっていった。
ついていく形で歩いてはいる中、いままでの説明を聞いている感じで言えば、個人的に言えば"王道テンプレ"といった印象でしかない。
なにせ、判定する方法もあるとか、ご都合主義ここに極まれりといったところでもある。
ふむ、そうなるとあとは・・・
これで自分がもしも勇者に選ばれたりたら、"勇者がロボ"という、これはあれだな?追加兵装と合体して大型ロボに変形しなきゃダメな奴だな。あと2ndマシンにも乗り換える形にしておかなければならないだろう。そうなると、最重要な点としては1stマシンと合体した際、名前に"グレード"なり"スーパー"なりを名前の前につけ加えて変えなきゃいけないって点だろうか。そこは譲れない重要なポイントだ。その点なくして"勇者がロボ"という事は認められる訳がないだろう。もちろん、ロボキャラのお約束としては別キャラはそういう仕様で作ってあるしな。そういや、キャラチェンできたっけ?いや、それよりも次に重要な点として、そうなってくると支援メカともなる仲間となるロボとかが欲しくなるな‥‥そういや、支援ユニットとして各キャラ人数分製作して育てたユニットがあったな。ただ、サポートユニットの一部除いてほとんどは人型にしてないからなぁ・・・獣姿で機械の形にするのもアリだろ?と、惑星がZなんとかとかいう所を模して、そいつらも機械生命体で作っちまったからな。あいつら3体合わせで1体の合体ロボができる様には設計仕様はしてあるし。よし、勇者がロボになったら、とりあえずの当面はそれで抑えておくとして・・・って、おっと、もう到着か?
などと、脳内で"勇者がロボ"のRPプレイの妄想全開しながら、流されるままに選択の間に連れてこられた召喚された人たちと自分。
そんな移動の道中に自信がそんな妄想全開しながらも、自分以外の召喚された人たちが話込んでいるのを何気に聞いてはいたのだが、その会話を聞いていくと、現実味?みたいな感じがヒシヒシと感じ始めていた。
なにしろ、召喚された学生さんたちは事故に遭遇してるらしいし、スーツ姿の女性の方も同じ。割烹着の兄さんも、これまた事故による巻き込まれてという・・・アレ?
その事故って数年前に起きた火災による商業ビル崩落事故の奴ですよね?
たしか、一時ニュースで大々的にやってて、火災から逃げ遅れた人がビルの崩壊に巻き込まれてお店ごとペチャンコという痛ましい報道が流れ、その後には防火装置の不備やら耐火性能の不備やらとかで連日ニュースなどで取り上げられていったぐらいであり、現場はかなりひどい状況だったとかいう事故内容に聞き覚えがあったため、出てくる名称がそっくりそのまますぎて、えっ?という驚きの内容の話していた。
そういえば、なぜに連日ニュースになっていたかといえば、防犯カメラに写っていたはずの人数と、遺体の数が合わないという不思議な事が起きており、実際にはっきりと写っていたのにも関わらず"行方不明"扱いになったとかで、ネットでも本当はいなかった説やカメラのゴミとか、日付間違った説とかいろいろと話題を呼んでいた為に、記憶に残っていた。
その行方不明になったと思われるのは、学生四人と大人二人とかだったはず、まっさかぁ・・・けど、状況は完全に一致というレベルでピタリとはまり込むし、これじゃぁ、どこかの海と大地の間に飛ばされた的な状況とかになるのか?
いや、それは無いだろ、あったらあったでそんな世界ならそういう人型のマシンがあったりして、それは別の意味で最高なんですけど、勝手な妄想に走っていたのだが「あなたの場合は?」と…、その話の矛先が自分に向けられて引き戻された。
しかし、何気にそういう重たい話を、こんな空気の中で"ゲームをする為にログインしただけ"とか言っていいものだろうか。
ここは、何もいわなくてもいいかと、ここはダンマリで通しておいた。
まぁ、ここまで一言も話していないのが功を奏してよかったのか、学生からは「何だよあいつ」と何も言わない事に文句を言われたりしたが、大人の二人からは、「言いたくない事もあるでしょう」と宥められていた。
というか、いまいる場所は現実な世界でいいんだろうか?
目の前にいる6人は、よくある死亡事故的な内容からの転移とかいう、某テンプレ的な内容にそっくりであるし、そんな中、自分と言えばVRMMOのキャラの姿でここに存在しているという訳なのが、何とも確定材料としては乏しい。
確認してみようと、頬をつね・・・れないし、ログアウトなどが無いかと、いつも通りの操作をしてみても、ログアウトの文字そのものすら存在すらしていないという。
VRな世界に閉じ込められた的な物語とかならばログアウトの表示があるけど、選択できないって奴が定番なのだろうけど、その項目すら表示されないし、スリープモードがあるのを確認できたぐらいである。
この状況では、まだ、本当に現実なのか仮想なのかすら何ともいえない。
周りの召喚された人物たちが本当にそうだとしたら、自身だって生身でという話になる訳で、そうなると実はガワだけで、中身生物という代物という事だってあり得るわけだし‥…どういう状況なのかが判断がしづらさすぎる。
そんな思考がグルグル回る中「こちらになります」と"宣託の間"という場所に到着する。
その間は、仰々しいといえた。
なにせ、周囲には鎧甲冑の兵隊さんたちにダボダボな服を着ている人までスタンバってるとでもいう状況で、仰々しいというか物々しいというか、そんな中を先ほど案内していた女性から
「では、お一人づつ、あの水晶へと触れてください」
そう促されるままに、まずは学生さんたちが一人一人水晶っぽい球へと触れていく。
一人が触ると赤く光り、次の学生さんは青く光り、次の学生さんは緑に光り、次は黄色に光りと、それぞれの色が違っていたりするのだが、なにかその宣託の間の水晶の傍にいる人がいうには「素晴らしい魔力の素養をお持ちです」と言葉を発していたので、そういう事らしい。
けれど、どう聞いても勇者という言葉を聞くことはなかった。「四人とも勇者ではないのか・・・」「いや、まだ三人残ってるではないか」「しかし、四人がダメでは・・・」「勇者でなくとも、英雄としての資質は持ち得ているのだ、現状の維持ぐらいは行えるはず・・・」などと、落胆ともいえる声が漏れ出していた。
つまり"勇者"という存在ではないけれど、学生さん四人はかなりの実力者であるという事で良いのだろうか?
そんな周囲の反応と自身の考えをしている中、今度はリクルートスーツ姿の女性の番になり、その徐栄はまるで恐る恐ると触れる格好で水晶へとその右手が触れると、今度は先ほどとは一転して、水晶が強い光を放ち始めた。それも純白に。
周りの人たちもざわつき始め、「勇者様だ…」「勇者様がおられた」ざわつきが始まる。
これは勇者様確定したか?と思いながら、続いて割烹着の兄さんがとりあえずの様相で水晶に触れてみると、先ほどのリクルートスーツの女性と同じ様に純白の強い光を放ち始めていた。
周囲からも「おぉぉぉ!」「お二人もおられるのか!?」というどよめきまで上がっている始末だ。
「勇者様がお二人も・・・」
いや、小声で言われても聞こえてますから、自分の聴音機能ではっきりと。
とりあえず、あの純白の光が出れば勇者確定が明らかな様だ。
そして、ついに最後となる自分の番が訪れ、周りが見守る中、その水晶球に触れてみると・・・
触れて・・・
ん?触れ・・・
何も反応しやがらない。
もうね、触れても撫でてもコロコロしようと思ったら止められたが、なにも反応しない。
この水晶球の計測機?みたいなので各人の魔力というもの?を測定する器具っていうのは、勇者以外にも魔力の有無も測定するものらしいのだが、反応が一切ない、ということは、魔力が無いという事にイコールでつながる。
つまり、自分は"魔力無し"をたたき出したという事で・・・
よっしゃぁぁぁぁぁ!
勇者とかはオマケ程度というかどうでいいわ!!
ああぁ、ついに念願のモノホンの機械生命体になれたんだよな?と。
もう心の中でガッツポーズまでして感動してしまった。
現実でもヴァーチャルでもどっちでもいいよもう。
生身の彼らに魔力があって、この姿の自分に魔力が無い。
つまりこの瞬間、あのVRMMO世界観設定のまま、ちゃんと魔力無しの機械生命体としているって事が確定的に明らかになったわけだ!
つまり、ロボだよ?ロボ!
念願だったんだよ?機械の身体になれるなんて最高じゃないか!!
某9が3つ並んでる機関車にだって乗り込んでしまいたいと思える程だったからな!
しかも設定どおりに魔力無しとか、こりゃもうロボRPしてもいいんだよね?
いいよね?いいよな!
ならば、ここまでついつい無口キャラでRPしてたし、このままでもアリかも?
しかしそれではコミュニケーションがとりづらいだろう、やはり言葉は必要だ。
そうなると、喋る時は目を光らせるべきだろうか?
というか、発光方法ってどうやんだ?
それが解るまでは人前で喋るのは禁止だな。うむ。
などと、今の今迄一言も言葉を話さず、状況が状況で何もわからないままで、確信も得られていないままで、もしかしたら?もしかして?という疑心暗鬼な一面から一転し、自分の趣味爆発させて感動していたのだが、そんな自分の空気とは裏腹に、現地人の人達から、何か冷たい視線が投げかけられている事も知らずにいた。
このとき、気づいていればよかったかもしれない・・・
お約束?なのか、魔力が無い=無能というか、役立たずというレッテルを貼られ、路銀ともいえる端金を渡され、勝手口とも裏口とも呼べそうな扉からあれよあれよという間に放り出された始末であった。
そうして、一人寂しくポツンとたたずみながら
「ワァオ・・・テンプレ オツ・・・」
と、このときボソッと放った初めての独り言が、機械音声と目が光るという事が発覚し、放り出された事よりも、そっちの方に感動した自分がいた。