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原文の本筋はそのままですが、役割やら設定やらを変更しています。
事務所から出て向かった先は、工事用の資材置き場。
簡単な説明を聞く限りでは、入り江の方に防波堤となる石垣を建設する予定という形であった。
そのため、建材として石材が幾重にも運び積まれており、その資材場となっている場所には多数の人夫たちが木枠と石材をひとつづつ運び込んでは、必要な分を運び出しては専用の貨物船に積載しているという作業をこなしていた。
というか、横目で見えた船があるのだが、どういう動力で動いてるんだ?煙突もなければ帆もない、オールかと思えば棒らしきもので接岸調整しているだけだし、それなのに離岸して沖合に向かっている船はそういうこともなく静かにスイーっという形で進んでいる。
すごく不思議であり、どうなっているのか興味がわいてくる。
外輪船的な構造でもなく、スクリューのような泡が発生しているわけでもない、何がどういう風にして動いているのかが興味ありすぎる。
VRMMOではフロートみたいに浮いていたりしたが、そういう代物か?と思いきや、海上に触れていなければ発生しないほどの引き波が発生しているし、一体全体どうなっているのか‥‥‥船自体はよくみる構造物なのに‥‥
そんな貨物船の機能がどうなっているのかと視線で追いかけていた先、音もなくその場で静かに旋回をしては後進で入り込んだ作業船の専用係留場らしき場所には、さきほど別れた親方ともう一人何かを話している格好の人物がいるのに気づいた。
その二人がいる場所に向かって、「お待たせしまた」という声とともに同行していた助手の方から、手を上げて呼び出すと親方の方もそれに気づいたのか、こちらへと軽く手を挙げて返答をしていた。
「おまたせしました・・・?」
「おう、邪魔してるぞ」
「あれ?クヴァルさんがどうしてここに?」
「コイツに昨晩よばれてだな」
「親方、また何かやったんですか?」
「おいおい、今回はそっちの嬢ちゃんだ。倉庫の修理とアレの件だ」
「あぁ‥‥なるほど‥」
「修繕見積もり、いつもの様にそっちに回しておけばいいか?」
「ええ、それでお願いします。あとは此方で処理しますので」
「わかった」
何やら自分がしでかした事と、修繕とかを言われて、何の事かと思い返しつつも その三人が向けている視線の先には、入り口が半壊している倉庫が目に‥‥‥あ、そういえば倉庫群へ突っ込んだ時、あのエイリアンもどきが暴れていろいろとぶっ壊してた場所はあそこだったな‥‥
これ、もしかして弁償とかって‥‥‥まずい、まずいぞ、働く前から借金こさえるということになるのか・・・?
あれは、不可抗力と主張するべきだろうか?それとも、ここは素直に謝ったりで誠意をみせて減額を求めるべきだろうか、いや、そうしておかなければ今後の活動に支障がでてくる違いない。
ならばさっそく実行あるのみ
「あの・・すい
「今更だが、すまなかった」
「ハイ?」
「"あんな事になるとは思いもよらなかった"というのは言い訳にもならんだろうが、それでもああいう事態を招いた責任はこちらにある。本当にすまなかった」
「えぇと‥‥‥」
こちらの謝罪を遮るかのように、深々と頭を下げる親方がいた。
周囲の人夫たちからは「おい見ろよ、親方が頭下げてるぜ…」「おぉ」などと茶化す様な野次がとんではいるが、それらに動じる事もなく、頭を下げ続けていた。
少し驚きもしては助手の方に視線を向けると「不器用な親方なりの誠意なんです。受け取ってもらえないでしょうか?」という、助手の方から耳打ち‥‥にもならない小声でそう伝えられ、
「あー、それはもう良いですよ。気にしてませんから」
「そう言ってもらえれるならば、助かる」
そう親方が心底申し訳ないという雰囲気を出しながらその顔を背後の作業場へと向けると、こちらを見ていた数名の男手たちが急ぎ顔を背けては作業へと戻っていた。「あいつら、覚えておけ…」という声が聞こえたりしたのは気にしないでおこう。
「それとだ、詫びにもならんだろうが、回しておいた奴が返ってきた」
「おうさ、嬢ちゃんがヤったんだってな?しかも、かなりの一品モノだったぞ」
「大抵は獲物がボロボロになってるために使える場所が限定されて小さいものだったり、参加した物で分配という形で小物化しますからね」
「そうそう、なんでそんなに手を加える必要もなかったから、朝飯の前にやっといた。ほらよ」
そういって、先ほど親方と話していた人物が、何やら布にくるまれた長尺物を取り出し、それを手渡してきた。
それを黙って受け取ると「ほどいてみな」というのを頷きで示されたので、そのまかれている布をめくっていくと細い鞘に包まれた一つの剣と思われるモノが現れた。
その人物に視線を向けると再び「抜いてみな」という視線と首肯で返されたので、恐る恐ると抜いてみると、その刀身は淡い藍色をしており、どこかで見た様な代物という印象だった。
「そいつは、昨日嬢ちゃんが仕留めたガーランから作ってもらった突剣だ」
そう親方に言われて、どこかで見たというモノを理解する事ができた。
確かに、カエリのある部分が後付けされたツバの手前に存在しており、新たに存在している握り手には滑り止めとなる処理が施されていた。
「モノが良すぎたんでな、柄と鍔と鞘だけで済んだから、ほんと楽だったわ」
「海の中じゃ普通の剣なんて使い物にはならん。大抵は小回りの利く短剣か、突く事に特化した代物の方が有用だからな」
「そう言われれば、確かにそうですね」
確かに水中でよく使われる得物と言われれば突く系統が多い。横に切り抜くにも刃が長ければ、それだけ水の抵抗を受けてしまう為、思うように振れないのは確かな話でもある。
この剣を見てみても、確かに斬るというよりも貫く事に特化しているのは確かである。
あとは、ひっかき傷みたいな扱いぐらいしかできないか?
カエリのある部分も、柄よりに残ってはいたりするが、それがある意味模様ともいえる恰好で様になってるのも、なんともはや‥‥
それより、手でもってみて思ったが、見た目に反しすぎて軽すぎる。長さ的に1mと少しといったぐらいにもかかわらず、細い枝木をもった程度というぐらいときている。
なんぞこれ‥‥
「アーネストさん、その剣の意味合いはご存知‥‥‥ではなさそうですね」
"ほへー"という感じで見分していたら、今度は助手の方から声がかかる。
「意味合い?」
「ええ、何かしらの大系を仕留めた者は"海の戦士"として認められる。というのが我々の業界、というか海の掟みたいなものでして、その証として特徴のある部分を何かしらに細工するというのがあります」
「はぁ……」
「ガーランの場合は、あの特徴のある剣を使っては、ナイフサイズの物にしたりするんですが…」
「物が大系でしかも良質ときていたからな、ほぼ原形のままで問題なかったからな、そして嬢ちゃん一人という事ならばと剣サイズに仕上げといた」
「さながら"海の細剣士"とでも言ったところだな」
そう言われながらも、自身は刀身を再び眺める。
これがそういう意味合いを持つとかそういう代物とか、ふーん…といった感じで、感心という意味で色んな方向から眺めていると、日の光に照らされたその刃は、その光が当たる角度によっては虹色に光る部分が幻想的とも呼べる不思議さを醸し出していた。
「嬢ちゃんにはソレを持つ"一人前の海の戦士"としての資格がある。だからソレ以上の物はなかろう」
そう言われると、何故かズシリとした重みの様な感触を感じざる得なくなる。
"海の戦士"ねぇ…そういわれても、こちらとしてはそんな意識は無かった訳で、そもそも近接戦闘なんて得意でも何でもないズブの素人なのだが……いや、そんな大それた事になって大事を呼び込む呼び水になるのが恐ろしいんですけど‥‥‥?
しかし、くれると言っているのなら貰っておこうじゃないか、近接武器コレクション表がまた一つ…‥埋ま…‥‥るのか?まぁいいや。
「わかりました。では、いただいておきます」
「そうしてください。護身用としても役には立つと思いますし、どうも色々とありそうですし」
「色々・・・?」
「いえ、それはこちらの話で」
一瞬、鋭い視線でどこか遠くを見てから、此方へと向き直ってはニコニコと笑っている助手の人と、視線をずらしてそっぽを向いている親方、いい仕事したという表情の人物が一人というそれぞれが対象的な態度を取っていたりする。
先ほどから、場の空気がコロコロ変わっている気がしないでもないが、この後どうすりゃいいのか‥‥
「ええと…、仕事の話とかは‥‥?」
「‥‥‥ああ!忘れとった」
「はぁ・・・」
「お前らしいな‥‥じゃ、オレは店に戻るから、書類はウチのモンに後から送らせておくわ」
「はい、それでお願いしますが、値段のほどは‥‥」
「まぁ、うちのモンにも旨い肉に在りつけたしな、嬢ちゃんの顔に免じてやっとくよ」
「ほんと、すいません、あ、それとちょうどよかった、この前の道具の追加を‥‥‥」
何やら助手ともう一人とが、仕事の話をし始めていたが、「お前、便乗値引きとか相変わらずというか‥‥‥」「こちらも上から色々いわれてまして、タダでさえ低い出費をさらに抑えないと‥‥」などと、完全にワーキングモードな話が聞こえてきていたが、
「ああ、そうだ親方。その剣の加工代金は?」
「昨晩ので何とか‥‥」
「おいおい、問題起こしたんなら、お前が払えよ」
「…‥経費では、落ちんか?」
「無理ですね。給金から引いておきます」
「…‥…‥」
「そういえば昨晩、ヴァクルさんたちも同席されてたのは、偶然ですかね?」
「あれは旨かったが、まさかそれを出汁にするとかはなかろう?」
「んぐ‥‥‥」
「まぁ、色々とやるのは良いですが、一言いって下さいと毎回言ってますよね?」
「あ、あぁ……」
四面楚歌とでもいう恰好で、だんだんと威厳というモノが小さくなっていく存在がそこにあった。




