結論:アリだー!
朝の騒動が終わりを告げていた頃合いには、もうどうにでもなれというか、どうでもいいという心境でラジオ体操的な動作確認を軽くしたのち、何かしらの集団という塊を無視して宿のロビーへと赴いていた。
「おはようさん。昨晩はありがとうな、ウチのも楽しめた様だ」
「おはようございます。それは、とても良かったです」
ロビーの掃除をしていた親父さんから無骨な言葉が投げかけられたが、なぜか癒しを感じてしまっていたのは思い違いではないのだろう。
先ほどまで行われていた騒動の内容が内容なだけに、精神的な癒しを内心では求めていたからかもしれない。
「それで、朝食は今からでも?」
「ん?ああ、大丈夫のはずだ。先に食堂に行っててくれ、ウチのに言っておく」
ここは、シンプルな朝食をとって、この荒んだ心を癒す必要があるだろう、否、癒すべきである。
そうして、その癒しを求める行為が出来るのだろうかと問い合わせると、その方法が行えれるという事で促されるままに、食堂に足を運ぼうとすると
「お姐様ぁ!なんでシーをほっといて行くんですか!!」
裏庭へと通じる通路から騒音Sが現れ、こちらへと小走りになって駆け寄ってきており、その後を追いかける様に元気印少女とふくよかな女性とが一緒に入ってきていた。
駆け寄ってくるのはまぁいいとする。
いいとするが、そのまま両手を広げてはそのまま勢いよく抱き着かんとして来たので、
「いい加減にしろ」
「フゴッ」
と、その勢いを強制的に停止させる為に、左腕一本で突進Sの頭部に掌底を突き当ててやっては、つっかえ棒のごとくを抑え込んではそれ以上近づけさせない様にしすると、へんな音声が発生はしたみたいだが、気にしないでおく。
「な、なんだ?嬢ちゃんの連れか?」
「アーネストさんを追っかけて来たシーちゃんっていうそうよ」
「今日からうちの宿で働いてもらうんだって」
「え?オレは何も聞いてないんだが‥‥」
「さっき、私が決めました」
「え?」
「わ・た・し・が、決めました」
「‥‥‥」
ふくよかな女性が綺麗な笑顔で"決めた"と発言した時、その笑顔の先にいる親父さんはというと、それ以上何も言えないまま硬直していた。
というか、発言は許されていません的な、そんな雰囲気をあたりに充満させており、ガタイがデカイわりに、敵対できなさそうな相手に対し、なんとなくその存在が徐々に小さくなっていく姿に見え、ああ、こういう尻に敷かれる代物というのは、どこの世も変わらないんだろうなと察したりもした。
「あ、あぁ、わかった‥‥」
「やった!おとーさんからも許可がでたよ!」
「ね?私が言ったら、大丈夫だったでしょ?」
「うん!」
そんな女性陣二人(というかほぼ一人)の精神的な攻撃を直撃している男性陣一人というのは民主的にも敗北をせざる得ない状況で、その中でようやく絞り出された言葉が空しい争いが今まさに起きたかとおもえば、主張する余裕もなく全面的にあっけなく敗戦したのだと察する。
「‥‥ごくろう、さま‥‥です」
「ん‥ああ‥‥わかってくれるなら、多少は救われる‥‥」
お互い、先ほどの見えない戦争で主権を握った陣営に聞こえない様に小声で親父さんを慰め、大きくため息をついたと思えば、大きく肩を落としながら布巾を片手に奥へと消えていった。
その背中には、女系家系に嫁いでしまった婿養子的な寂しい背中とでもいうのか‥‥その哀愁漂う背中に向かって"頑張って生きるんだ!"と、空いている右手で"こぶし"を握って応援してしまいそうになるほどだった。
「ん?お姐様、どうされました?」
「いや、何でもない。それより朝食をいただきたいのだが‥‥」
自身の抑え込んでいる左腕から逃げ出そうと、両手で取っ組んできいたモノが不可能であるとわかったのか、両手を下げてあきらめの態度と共に状況に対して質問してきたが、こちらとしてはその中身を伝える必要はないので、そのまま、先ほどの勝利者に対して朝食がとれるのかと聞いてみると
「あら、そうね、そんな時間でしたね」
「おかーさん!急いでしたくしないと!シーちゃんも行こ!」
「わかりました!お手伝いさせていただきます!では行ってまいります!お姐様!!」
主権者二人と左腕から解放した新人Sは、いそいそと食堂の方へと消えていった。
取り残されている自身一人が、空しくロビーに立っている状況というのが、なんともはや…‥
そんな気持ちを直しては、昨日の様に朝食を取りに食堂へと歩を進めた。
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「お待たせしました、モーニングセットです!」
自身が座りだしてからは、食堂にぽつりぽつりと人が増え始め、朝という中でもそれなりな喧噪状況になり始めていた。
一応、朝方急に決まった不安要素Sの就職先ともなるこの宿においての働き具合が、昨晩からの言動を想定すればするほど"きちんとやれるのか?"という疑問が肥大してしまったために、多少なりとも気になってしまうと、朝食をとった後に他の客に気づかれにくく邪魔にならなさそうな隅の席に座っては、しばらくその働きぶりを観察していたりする。
そんな中、客が増えてきたにぎやかな中を元気いっぱいに朝食メニューを運ぶ元気少女Sと、その恰好は頭部にあるバイザー部分はそのままに・・・
(って、そのバイザー的な部分をどう説明したんだ?というか外さずに着替えれたりできたのか?)
という、疑問を多々に思ったりもしたが、元のバイザー的な帽子をかぶってはいるものの、その姿はまさに給仕服という恰好であった。
だが、ああいう姿で働いているのを見ていると"とあるジャンル"を思い出す。
いわゆる"メイドロボ"といわれるジャンル。
給仕特化もあれば戦闘も一応はこなせれるタイプ、そしてリペアも行えるなど、見た目は大体似たような恰好そのままに、その持ち得る機能は千姿万態なジャンルとでもいうのか。
その中において、当の本人を区分するとなると・・・これはあれだな、戦闘が出来るという点をみれば"えちぃのは駄目だ"とか言う区分に類するのだろうか。
いやまて、当の本人の頭の中にある代物といえば、煩悩というウィルスに汚染され尽くされている為に、"お前が言うな"状態になるというか、絶対に言わなさそうなセリフだろうけど。
惜しいなぁ・・・ほんと、惜しいわ・・・
自分が2ndキャラじゃなかったら、たぶん完璧なんだろうけど、ほんと、惜しいわ・・・
そんな事を考えながら、とりあえずは飲食店用の姿恰好で働いている行動を観察し、ちゃんとやれて‥‥
「お待たせしました。朝食セットです」
「お待たせしました。朝食セットです」
……いる?
何ダカオカシイ。
一字一句まったく同じ言葉を放ってはいるはずなのに、男性客に対してはあからさまに無骨な態度というか冷めきったものと感じるのに対し、女性客に対してはこれでもかというぐらい笑顔を向け、まるで媚びを売っている状況にしか聞こえない。
ただ、そんな態度で給仕をやっているにも関わらず、その男性客女性客ともに受けはよいのか、「君、かわいいねー」「名前は?」「今日からなの?」などとチヤホヤされている事に、まんざらでも無さげ(ただし女性限定)なのも見え隠れしてはいるが、一応は問題もなく働けているから、これ以上関わらないでおくのが精神的な疲労を回避するために必要だろうと、そそくさと席を立っては食堂を出ようとしたとき
「あ、ちょっとまってください!お姐様!」
呼び止められ"何だ?"と足を止め、一応の襲撃という名の抱着き行為に警戒を行っていたのだが、急ぎ足でこちらに歩いてきたかと思えば、その数歩手前で立ち止まり
「行ってらっしゃいませ、お姐様」
と、これまたお見送り挨拶という物を完璧に近い礼でおこなってきた。
そんな給仕姿でそう言われてしまうと、さきほど思い出したメイドロボという存在のおかげで"アリ"だろうという思いがよぎってしまったが、あの性格を知っているが為にコイツではナシだよな・・・と再認識してしまっていた。
やはり、給仕系は完璧かつクールなのが一番だというのが持論なため、あの性格ではやっぱりナシだな、いや、ドジッ娘のメイドロボというのもあったな、ただこれはドジ成分が含まれないと、その派閥からは顰蹙を買いかねないよな‥‥
まぁ、百歩譲ったとして、その姿で"ご主人様"とか言われてしまっ
「あ、この場合は"ご主人様"の方が良かったですか?お姐様?」
「‥っ!?」
そんな思考に苛まれていたまさにその時に、その姿で"ゴシュジンサマ"とい、うこちらの心臓に直撃を食らわせてくる不意打ち的な語句が・・・・これでは、先ほど"ナシ"と評価した物が"アリ"へと認識が持っていかれる‥‥
コ、コイツ…ゼッタイ、ワカッテヤッテルダロ……
くそ‥‥コイツには動揺を悟られてはいけない、その点で攻められたら不味い、非常にまずい・・・平静だ、平静を装うんだ‥‥
「イ、いや、何でもナい。じゃぁ行ってくる‥‥」
「はい!いってらっしゃいませ!ご主人様!」
「!!?」
動揺した内心を隠す様に、そそくさとその場を離れるべく、急ぎ先日の現場へと向かうべく宿を後にした。
「(ふむ、この姿で"ご主人様"呼称の反応は良好っと・・・メモメモ)」
「シーちゃん、何してるの?」
「お姐様の事でちょっと、ありまして…」
「ふーん‥‥?」
「さぁ、お仕事がんばりますよ!次は何でしょうか?」




