目覚めてみるは
「アーネストさーん!朝ですよー!」
そんな、自身の名を呼ぶ声により、意識というか認識が覚醒するという感じというか、まぁ、そんな感じで目覚めたのは良い、良いのだが・・・視界というか視認しているはずの場所に浮かび上がっているモノに、少々悩みが入っている。
なにせ、視認していると思われる場所に映し出されているのは、
Ernest Ernest Ernest Ernest Michael Robert
という文字列が真っ黒な背景の中、まるでフワフワと浮かんでいるかのように映されているのだから。
その浮かんでいる文字列のうち、「Michael」と「Robert」は、記憶にある倉庫キャラの名前につけていたものであるので、そのまま倉庫キャラの事で確定だろう。
で、他に出てくるErnestという名前が四つ。
元々、プレイしていたVRMMOは、キャラクターを登録IDで管理されていた為に、キャラクター名称が重複しても問題ないという代物であった。そのため、調子にのって1st以外にも空・海Verという感じでバージョン違いというか、目的違いで作成した同名のキャラクターたちだとは推測できる。
ただ・・・どれがどれかが解らない。
ゲーム上であるならば、外見が表示される選択画面が一緒に表示されていた為、見た目で一発でわかったものの、今現在は文字表記だけ。
しかもリング状に並んでるために順序がどうなっているかとすらわからないと来てる。
つまり、どれが1stキャラなのかがさっぱりわからない。
しかし、このまま悩んでいても仕方がない。
ええい、儘よ‥‥と、リング状に配置されている中で、最も右側に表示されているErnestという文字を選択したという感じで意識すると、"Your Welcome"という文字が中央に表示されたと思えば、昨晩の藁のベッドから眺めていた馬房の風景が視界に入ってきた。
よっし!よっしゃぁぁぁぁ!
とりあえず、スリープモードに入った前のまんまだ!
機械生命体になれたままは夢じゃなかった訳だ!!
夢でなくてよかったぁ、ほんとよかったぁ
と、軽く感動していたら、扉がガラガラと開けられ
「アーネストさ‥‥ん?えっ…?あ、あの、どちら様・・・ですか?」
「ん?アーネスト だが?」
と、この部屋の仮設扉を開けた少女が、こちらを見て驚きながら聞いて来た。
それに対して、普通に答えを返し…ん?あれ?声が昨日とはうって変わって普通に聞こえる。
そして、自身の名をつげるという解答を行ってみれば、なぜか静かな間が起きたかと思えば、
「ええっ!?アーネストさんって、女の人だったんですか!!」
・・・女の・・・人?はて?
と、疑問を抱いて首を傾げたあと、おもむろに下へと視線を向けると、その視界にあったのはデフォルト装備となる黒いインナーっぽい状態のままでさらされている二つの大きなふくらみ。
・・・なんだ・・・これ・・・?と、触った感触はプニプニというぐらい柔らかすぎでもなく、かといって金属的な硬さという訳でもなく・・・ふむ、この絶妙な生物を意識したかの様な弾力は・・・ってぇ、おっぱいだコレ!!
というか、2ndキャラだコレぇぇぇ!!
「しかも、すっごい美人さんじゃないですか!それならそうと早くいってくださいよ!もぅ!」
その言葉を放っている方に再び視線を向けると、まるで"プンスコ"とでもいう擬音が聞こえてきそうな表情でいたが、
「あぁ!そうそう、朝ごはん準備できてます。ただ、あと少しで朝食時間が過ぎちゃうので、すぐに来てくださいね」
と、扉をピシャリと閉めると、駆け足でもするかの様に去っていった。
…えーっと、どうする?
再びスリープモードにして1stキャラに戻すか?いやそれをやって再起動する為に時間がかかるとかいう落ちがあったらまずいよな、それにこの2ndキャラは、水着コンテスト大会用としていかに機械生命体でありながら、生物に近づけるかを追及しまくった力作キャラだ。1stの様なマウントユニットを多数配置して多方面に対応できる要塞クラスの兵装をあきらめ、機動力(特に水中・水上戦)をただただ追及して内臓火器や機能を組み込ませつつ、そうして機械生命体では単体では不可能ともいわれてもいた潜航遊泳能力すらもできる様にと胸部と臀部にバラストタンクを配置する事により、浮力を得る構造にした代物である。あの時は苦渋の決断したよな。脳内議会において、おっぱいミサイル派と揉めに揉めたのに、バラストタンク化により軟化する胸という方法はどうだろうかという立案がされた途端、"おっぱいミサイル派としても、バラストタンクは必要であると判断する。"と、クルーリと手の平返して賛同しはじめたのはどうなのかと思った次第でもあったけか。いや、いまはそれよりも、フェイスに関しても同じ様に軟素材で皮膚を使って、口内に食道機関にと、内蔵部も人型のアンドロイドという概念で作り上げたキャラでもある。そのため、もしかしたらもしかして、前回疑問に思った食事を摂っても昨日みたいな気持ち悪いという感触が無いのかもしれない。というか物は試しともいうし、試してみる価値はあるはずだな。うむ、男は度胸ともいうだろう、ここはやってみる価値があるはずだ(現在見た目は女型だが)
覚悟が完了したところで、エネルギー補充をしていたライフルのケーブルが、このキャラにも接続されていたままという不思議現象は置いておくとして、とりあえずエネルギーが補充されたカスタム銃は共通格納にしまいこみ、この2ndキャラの専用装甲となる軽装装甲へと変更して、アーム装甲とレッグ装甲を身に着けながら本体の活動エネルギー残量を確認する。
表示される残量グラフ的には昨日食事で増やした分の半分近くを目減りしているので、早急に摂取しないとまずいか?と、それよりも、なんかグラフが2ndキャラでもなんか容量が共通ぽくもある。そんなこんなと思いながらも2ndキャラのまま食堂へと足を運んだ。
食堂へ向かう途中、ロビーともいえる受付の場所を通るのだが、その場所で少女と親父さんが何やら話しており、自分がそこに現れたとたん
「・・・あんた、誰だ?」
「おとーさん!アーネストさんだよ!アーネストさん!さっきも言ったでしょ!中身は美人さんだったんだよ!」
「へっ?ホントだったのか?」
と、少女の主張と共に、宿の親父は嘘だろ?という表情をしながらこちらを見定めているが・・・
「あ、あぁ、アーネストだ」
「本当かよ・・・こりゃぁ驚いたなぁ・・・」
いや、驚いたのはこっちだよ。
昨晩は、ほとんど見下ろす恰好になる1stなので気にしなかったが、こちとら全高195cm(ヒール込み)で作った2ndキャラなのに、すこし見上げなきゃならない大きさって・・・親父さん、あんた十分にデカいわ。
「まぁ、いい、食堂で空いている席にすわんな、朝食を準備する様に言ってくる」
そう言われ、親父さんはカウンターから奥の部屋へと消え去り、自分はと言えばそれに従う様に食堂の方へと向かう。
この宿の1Fには、食堂となっている場所があり、その食堂で空いている席へと座るのだが、あたりを見渡すも他の宿泊客が全然見かけない・・・
「アーネストさん、遅すぎですよ?
他の方はとっくに食事を終わらせて出かけてますよ?」
と、水が入っている木製のカップを置いてくる少女がそう答えてくれた。
えっ?本当に?と時間表示をと認識すると、視界の中に10時という表示がなされていた。
というか、この時計あってんの?まぁ、自動調節付きな時計らしいから大丈夫だとは思うが・・・
それより、今日はどうしようか。
まずは組合にいって、手続きの続きをして、あとは登録できれば就労先を探して・・・と、腕組みながら予定を考え・・・ようと組んだ腕の内側に二つの山がぶつかるとか、邪魔だなぁとその下で腕を組ませて乗っかるっていう状況にしていたりと苦心し、なんというか邪魔だなコレ・・・と思いはじめていたとき
「お待たせしました、朝食メニューです」
と、見慣れない大人の女性が食事を持ってきた。
「娘のシルビィが綺麗な人だと言っていたものですから、どんな方かと」
そういいながら、食事をテーブルへとおいてくる女性はニコリと笑顔で答えてくれる。
見た目で言えば、少女を素直に成長させ"ふくよかさ"を持たせたら、たぶんこの様な恰好になるんだろうなぁという雰囲気の女性であった。
そうなると、この宿の女将とでもいうのだろうか。
「ほんと、綺麗な肌ですね。羨ましい限りです」
とまぁ、「はふぅ」という擬音が聞こえてきそうに、頬に手を当てていた。
そりゃ、人工物だし生物とは違うんですよ生物とは。という代物だしなぁと思ったりもしていたが、それを生物に対して口にするのも何か違うだろうと思い
「それは、どうもありがとう」
「いえいえ、今度、その秘訣教えてくださいね」
と、無難というレベルの回答をしておくと、そそくさと去っていった。
というか、その秘訣に対する答えを教えても生物では実践できないよな・・・と思いながらも、目の前におかれた朝食を見る。
そこには、パンと少し焼かれたハムの上にチーズが少々溶けており、さらに野菜が入っているというスープという面々が、まさに、かかってきてみろや!という風に挑発している風にも見える気がした。
・・・
昨日の嫌な気分がよみがえる・・・今からあの気持ち悪い戦いに赴かなければならないのか、しかし食料摂取でしかエネルギーが回復しないというのがこの身体の欠点としか言えない・・・
なぜ"青狸"と"ネギぼうず"は平然とこの作業をこなせれるのか、大いなる疑問を抱きながらも、ええぃ、腹は決めてるんだ!と、一口放り込む
・・・
あれ?普通に味がある。
さらにハムとチーズを一緒に口に含むも感じる感触としては普通。嫌悪感とか気持ち悪さはどこに?といったふうに普通に旨い。
というかまんまハムとチーズの"味"がしっかりと感じ取れた。
えっ?マヂ?そりゃぁ生物に近づけるというコンセプトもあった為に、内臓部分までもある程度はこだわりにこだわって作ったけれど・・・えっ?
野菜スープも普通にうまく、パンを浸して食べるも旨い。
食事って、こんなに旨いものだったんだ・・・とちょっと感動し、そして昨日は心の中でぶん殴っていた過去の自分に対し、拘った事に関してグッジョブと称賛を送っておいた。




