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お題31『水』 タイトル『メゾン一国 ~導かれし屑たち~』

 ……はぁ。なんでこんなことに。

 無飼レイコ(むかい れいこ)は溜息をつきながら辺りを見回した。これも全て、旦那を失って自棄やけになった結果だ。

「あはは、いい飲みっぷりね、ケイゴ君」

「ほんと、仕事もできないのに酒だけ一人前とは生意気ね」

「いやー、ただで飲める酒は美味いですなぁ」

 ……どうして私はこんなメンバーで魔王討伐を目指しているのだろう。

 我に返りながらも魔族の刺客を睨む。最初の町で敵の幹部が来るとはこの世界は理不尽だ。

 ……何とかしなければ、でもこの絶望的な状況で何ができるのだろう。

 再び彼女は回りを見渡して気を落とした。

 自分の仲間達が敵の罠ではなく、己自身で酒に酔って溺れてているのだ――。

 

 時は大ファンタジー時代。

 この世のすべてを統治した男・勇者の死に際に放った一言は人々を異世界へかり立てた。

「オレの遺産か? 欲しけりゃくれてやる。探せ! 魔王が住む場所に全てを置いてきた」

 男達は魔族が住む場所を目指し、夢を追い続ける。

「この国の未来を頼んだぞ、勇者・レイコ」

「はい、お任せ下さい。王様」

 この話は女主人公・無飼レイコ(むかい れいこ)が勇者として旅立ち、そして『魔王』になってしまうまでの話だ――。


 ……まず仲間を集めなくちゃ。

 レイコは王の助言通り、ルイーダの酒場に向かった。一人で魔王を討伐することは不可能だ。まずバランスのいいパーティーを作らなければ町を出ることもできない。

 早速酒場に行き、情報を集めようとしたが、亭主に門前払いされた。

「あんた、金はあるのかい?」

「一応、王様から頂いた120Gならありますが」

「そんなんじゃ、一人も雇えないよ」亭主はがっかりした顔を見せた。「いいかい、皆仕事でここに来ているんだ。魔王討伐という夢だけじゃ飯は食えないんだよ」

「それではお一人、おいくら払えばいいのでしょうか?」

「500Gだね、一ヶ月で」

「えっ?」

 レイコが驚くと、亭主は溜息をついた。

「いいかい、あんたみたいな勇者は五万といる。まずは一人で身を守ることに徹することだね」

「……そうですか」

 レイコは落ち込みながらも、酒場を見回した。そこにいたのは昼間から飲んだくれた四人の男女だった。

「……あれは?」

「あれはただの冷やかしだよ」亭主は顔をしかめながらいった。「冒険に出るという夢を持つだけで酒を飲んでいる屑野郎達さ」

「もしかしてあちらの方達も500G掛かるのですか?」

「いや、それはないね」亭主は首を振った。「彼らにお呼びがかかることはないよ。いつもああやって座っているだけだ。まあ、うちとしては酒を飲んで小遣いが稼げるから問題ないんだが……」

 レイコは目を閉じて覚悟を決めた。

 金はないのだ。ならば、後は自分の情熱で彼らを動かすしかない。

「お、おいあんた。まさかあいつらを……」

「ええ、私にはこうするしかないんです」

 レイコは彼らの前に立ち、ゆっくりと頭を下げた。

「すいません、お話があります」

「何だい、あんた」背の低いエプロンを着た中年の女性がこちらを鋭く睨む。

「私は勇者のレイコといいます」

「へー勇者様だって、皆、聞いた?」中年の女性の隣にいる、露出の高い女性が高笑いしながら酒を呷っている。

「今時、いたんですなー勇者という職業が。趣味はタンスを調べることですかな」角刈りの着流しを羽織っている中年男性が自分の体を嘗め回すように見ながらいう。

「あんたじゃないんだから、そんなことしないでしょ」中年の女性が彼を叩くと、場が一瞬にして盛り上がった。

 ……これはひどい。

 レイコは苦虫を噛み締めるように立ち尽くした。冒険に出るという所の話ではない。まともに働いている様子もない、ただのニートの集まりだ。

「ほら、あんたもいってやりな」中年の女性が若い作業着を着た男を叩くと、彼は照れながら目線を反らした。

「いやー、いいんじゃないですかね。勇者。憧れます」

「何をいってるの、あんたまさか一目惚れしちゃったの?」

 男性の視線が私の体に突き刺さる。妙に扇情的で思わず腕で身を隠してしまう。

「ち、違いますよ。ただ、純粋に、ぼかぁこの人を応援したいと思ったんですよ」

「何いってるの、昼間っから酒飲んでるプータローがさ」

「プータローじゃありません。きちんとバイトしてました。ただ会社が魔王に潰されて……」

「結局、人のせいじゃなくて、魔王のせいにしてりゃ世話ないよ、あはは」

 再び笑い合う四人を見て、レイコは奥歯を噛みながら一歩前に出た。

「あなた、お名前は?」

「け、ケイゴといいます」

「ケイゴさん、お願いします。私と一緒に魔王討伐に出て下さい」

 彼の手をぎゅっと握る。自分にはもうこの人しかいない。

「わ、わかりました。お付き合いしましょう!」

「本当ですか?」

「ええ、あなたを守ります。守らせて下さい」

 そういって彼は両手を合わせてきた。

「じゃあ、いきましょうか。二人で」

「え? 二人?」

 レイコが放心状態で彼を見ると、彼は嬉しそうな顔で続けた。

「ええ、そうです。だってこの人たちは屑で動かないんですよ。その点、僕はきちんとあなたをサポートします。もちろんよかったら、夜のサポートも……」

「何いってんの、このスットコドッコイ」中年の女性が彼の頭をハリセンのようなもので叩く。

「わたしゃ、あんたの心意気に惚れたよ。そこまでして魔王討伐に向かうたぁ、感心した。私も行こう。私の名前は一倉、よろしくね、勇者さん」

「あ、ありがとうございます。一倉さん」

「しょうがないわねぇ、この野獣を連れていったらあんたの身が持たないだろうし、女として見過ごせないわ」ネグリジェを着た若い女がいう。「あたいは六奥むつイザヨイ。イザヨイでいいわ、よろしく」

「ありがとうございます、イザヨイさん」

「で、あんたはどうすんの?」一倉が聞くと、角刈りの男は悩む素振りを見せながらも頷いた。

「ここにいては酒代が掛かりますからな。ご同行しましょう」

「ありがとうございます、ええと……」

「四見といいます」

「ありがとうございます、四見さんっ」

 酒場を出ようとすると、亭主の顔が見えた。彼は手を擦り合わせながらこちらに向かって念仏のようなものを唱えていた。


「では、まず装備を固めましょうか」

 レイコが提案すると、他の者一同頷いた。

「120Gしかないのですが……」

「それだけありゃ、なんとかなるよ」一倉が高笑いしながら袖を引っ張る。「武器を固める前に防具からだね」

 防具屋に向かうと、防具屋の店主がいきなりシャッターを閉めた。

「え? まだ店じまいじゃないですよね? まだ夕方にもなってないのに」

「きっと売るものがなかったんだよ。仕方ない。武器屋へ行こうかね」

 武器屋に向かうと、こちらに気づいた店主が店から出て行った。

「どういうことでしょう?」

「何か思い当たることがあったんだねぇ。仕方ない、道具屋で薬草でも買おうかね」

 道具屋へ向かうと、こちらに気づいた店主が店の商品にかぶりつき始めた。

「……」

 ……明らかにうろたえているわね。

 レイコは回りを見て判断することにした。この中の誰かが何か問題があったのだ。

 もしかすると、全員かもしれない……。

「仕方ない、今日は休もうか」

 宿屋に行くと、案の定、泊まることはできなかった。こちらに気づいた宿屋の店主が夢中になって布団を破き始めたからだ。

 一同は皆で、町から離れた森で野宿をすることにした。この時期なら外でも寒さを凌ぐことはできる。旅の初日から宿なしとは冒険心に溢れている。

「うう、少し、寒いですね」

 身を震わせると、ケイゴが斧を取り出して薪を集めだした。

「どうしたんですか、ケイゴさん」

「いやあ、勇者さんが寒そうにしているから、暖めてあげようと思って」

「でも誰も火を持っていませんよ?」

「大丈夫です。任せて下さい。ね、一倉のおばさん?」

「おばさんは余計だよ」一倉はそういって手に持った扇子を広げながら念仏を唱えだした。「いー火、火、火。こうやってこれを点けて……ファイア」

 ……普通に点けたらいいのに。

 レイコは心の中で一倉を突っ込んだが、目の前の焚き火を見るとどうでもよくなった。

「はぁ、暖まるわねぇ」イザヨイも両手を焚き火にかざして暖を取っている。

「いやーいいですな。ここでお酒があったら芯まで暖まるでしょうねぇ」四見はイザヨイを見ながらいう。

「上げないわよ。これはあたいのだから」

「ケチですねぇ。減るものではないでしょう」

「減るもんなの」

 イザヨイは舌を出しながら四見に抗議する。その姿が仲睦まじくほっとする。家族団らんのようで楽しい、久しぶりに腰を下ろした感覚が胸を一杯にする。

「一倉さんは魔法が使えるのですか?」

「ああ。そうだよ。私の属性は『火』だからね。あんたは勇者だから『光』だね」

「そうなんです。今の所、皆さんのお力になることはできませんが、少しだけ灯りのようなものを出すことはできます」

 レイコが答えると、ケイゴが力瘤ちからこぶを作りながら続いた。

「いいですね、僕は『土』ですよ。こう見えても力はあるんです」

「力だけでしょう。この人、土方なのよ」イザヨイがそういうと、三人は笑い出した。「いっぱしの作業着身につけておいて、仕事がないたあ大変だねぇ」

「そういうイザヨイさんだって、仕事してないじゃないですか」

「あたいはいいの。男引っ掛ければ、それで暮らしていけるんだから」イザヨイはそういいながら手から水を出しコップに注いだ。「勇者さん、ほら、どうぞ。こうやってあたいは『水』を出せるわけ」

「いいですなー、私にもどうぞ、お恵みを」

「四見さんは『風』でも作って飲み込んでおけば?」

「厳しいですなぁ。私も水を飲みたいのに」

 そういって四見は手首を捻りレイコのコップを手繰り寄せた。「あー美味い。生き返りますなぁ。これがお酒だったらどんなにいいことか」

「あんたは節操ないねぇ……」一倉がぼやくと、再び場が盛り上がった。

「何だかこうしていると楽しいですね……こんな時間は久しぶりで」

「そうかい? ところであんた、どうして魔王討伐なんか始めたんだい?」

「それは……」

 答えようとすると、後ろに物音が鳴り人影を感じた。皆、警戒を強め音のなった行方を探る。

「それは僕も聞きたいですね……」

「誰だい?」

「三浦リュウゾウと申します」角が生えた男は行儀正しく頭を下げた。「勇者様ご一行と見て間違いないでしょうか? 偶然ここを通り掛かったのですが、勇者と名のつくものは全て殺すよう命じられているのです」

「へぇ……そうかい」一倉が足を震わせながら小声でレイコに告げる。「……こいつの角は魔族の中でも上位階級の貴族だ。今のあたしらじゃあ、手に負えないよ」

「どうすれば?」

「……逃げるしかないねぇ」

 この森の中、逃げるといっても町しかない。町に逃げれば貴族の攻撃によって壊滅するだろう。一体どこに逃げれば……。

「中々強そうな相手ですねぇ、よっと」四見が立ち上がり笛のようなものを取り出した。「では前座に私が余興に笛でも吹きましょうかね」

 四見の周りに風が集まる。凄い魔力だ。レイコはしゃがみながら彼の行方を見守った。

 四見の纏った風が一斉に竜巻のように上昇し、リュウゾウの方へじりじりと近づいていく。だが彼が動じる気配はない。

 リュウゾウは風を撫でるように右手で触ると、その風は彼の手の中に吸い込まれていった。

「なかなか気持ちがいい扇風機でした。ですが風力が弱すぎますね、これじゃあ全く楽しめない」

「……それはどうも。お酒が入っていませんので物足りなかったかもしれませんね」

 どうやらリュウゾウは魔法を吸収できるようだ。私の光魔法では掻き消されてしまうに違いない。

「……じゃあこれはどうですかね?」

 ケイゴが近くの木を切り倒し、それを槍のように振るう。しかしリュウゾウは左手で軽く受け流した。

「魔族相手に力で勝負をしようというのですか、面白い」

 二人はいがみ合いながら戦うが、ケイゴの方が不利だ。リュウゾウは武器を使わず最小限の動きで彼と対峙しているからだ。

 彼は全く動かず赤子をあやすようにいなしているのだ。

 ……レベルが違いすぎるわ。

 レイコは絶望しながらもその行方を見守った。ケイゴがここで死ぬ姿を見たくない。できることなら何とか助けたい。

「ほら、早く。あんたは下がって」

「い、嫌です」レイコは頭を振りながらいった。「せっかくできた家族をここで失うわけにはいきません。私も戦います」

 ……逃げちゃ駄目。

 レイコは何度も心の中で呟いた。ここで逃げても逃げ場はないのだ。なんとかしてこの場を乗り越えなければ、自分の明日は来ない。

 ここで逃げたら夫と同じようにまた家族を失うのだ。それはできない。

 ……一体、どうすれば。

「大丈夫、下がっておいて」イザヨイが杖を取り出していう。「ここは私がなんとかするわ」

「そんな、相手は貴族なんですよ? あなた一人じゃあ」

「何いってるの、あんたも戦うのよ」そういってイザヨイは魔力を貯め始めた。「あんたは下がって魔力を貯めなさい、いいわね?」

「……わかりました」

 レイコが頷くと、イザヨイは口角を上げて微笑んだ。頭にマジックハットを被り直し杖を半回転させる。

「……ねえ、男ばっかり相手して楽しいの?」

 イザヨイがリュウゾウを挑発するようにいうと、彼は魔法を使いケイゴの丸太を切り裂いた。さきほど四見が見せた風を使いこなしたようだ。

「……いえ、そんな趣味は持ち合わせていないんですがね。次はあなたですか?」

「ええ、こんないい男と勝負できるなんて、嬉しいわ」

「それはこちらとしても嬉しいです。気合が入りますね」リュウゾウも左手に禍々しいオーラを作りこちらに近づいてくる。どうやらオリジナル魔法で勝負を掛けるらしい。

 お互いにエネルギーを高め合い、睨み合っている。はたしてイザヨイには勝算はあるのだろうか?

 レイコがイザヨイの後ろで身構えていると、彼女は前を向いたまま呟いた。

「勇者さん、私の合図でありったけの光をあいつに放出して」

「……わかりました」

 リュウゾウに気づかれぬようゆっくりと魔力を高める。準備は万端だ。後は合図を待つだけでいい。

「勇者さん、今よ」

 そういった瞬間に彼女は魔力を放出した。だがリュウゾウの右手に吸い込まれていく。

「……お見通しですよ」そういってリュウゾウはこちらの魔力を吸っていく。「ほう……いい魔力だ、上質過ぎて人間のものとは思えない。あなたがやはり勇者で間違いないですね。このまま全て吸い尽くさせて頂きます」

 ……い、息ができない。

 首を掴むが圧迫感を解除できない。魔法を通して魔力を吸われていくことで体の自由がきかない。このまま死ぬしかないのだろうか。

「ふん、引っ掛かったわね」イザヨイが杖を振り回してリュウゾウの方向に水の気泡のようなものを送り出す。

「あんた、魔法を吸い込んだら、それが体内に残るのでしょう? 滞在時間は5分といった所ね。意図的に出したわけじゃなく、出さなければ自分の魔法は使えない。だから左手で木を触った、違う?」

「それが何だというのです?」

「それだけ訊ければ上等よ」イザヨイは微笑しながらレイコの方を向いた。「あんたにはいってなかったわね、あたい、水は水でも『お水』の方だから」

 イザヨイの透明な液体がリュウゾウの右手に吸い込まれていく。

「何だ、これは? く、苦しい」

「私からのサービスよ、チャージ料はあなたの体になるけどね。どうぞ好きなだけ溺れて」

 急激にリュウゾウの体が赤くなっていく。そのまま彼は言葉を発さず倒れた。

「驚いた。あれだけアルコールを摂取しといて、まだ息があるとはねぇ。さすが魔族ね。さ、彼を縛るわよ」

 イザヨイの指令でケイゴと四見が彼の体を拘束した。

「イザヨイさん、あなた……」

 レイコが尋ねると、イザヨイは得意げな顔で微笑んだ。

「そう、あたいの能力は『水』だけど、それをアルコールに変えることができるの」

「ほんと、いい能力ですなー。私の『風』と変えて欲しいくらいです」四見が羨望の眼差しで彼女を見る。

「あんたには必要ないわよ。いくら飲んでも酔わないザルなんだから」

「ええ、そうみたいですね。私の体は風通しがいいみたいですな」

「褒めてないわよ」イザヨイはそういってリュウゾウの体を物色し始めた。「お、中々もってるじゃん。さすがいい男は財布もいいわね」

「これも中々いい時計ですなー、これで当分働かずにすみそうですな」

「やりましたね、勇者さん」

「あはは、今夜もぱーっとお祝いしようかねぇ」

 財布の中身だけで10万Gを超えている。貴金属を合わせれば総額はどれくらいになるかわからないが、一年以上は仲間の給料を払えるだろう。

「はい、あんたの分け前」イザヨイが10万Gの札を手渡してきた。「金属類はあたい達で分割するから、これで別の仲間を雇ってもいいわよ?」

「え?」

 レイコが立ち止まっていると、イザヨイは続けた。

「あたいらじゃ、あんたの役には立てない。今回は運がよかったけど、次はそうはいかないからね」

 彼女の瞳は真剣だった。もちろん他のメンバーを雇った方が魔王討伐の成功率は上がるだろう。

 しかし……。

「ありがとうございます、でもこれはいりません」レイコは受け取らず首を振った。「代わりに皆さんで魔王討伐にいきたいです。そのお金で皆さんを雇いたいのですが、だめですか?」

「あたい達でいいの?」

「はい、皆さんがいいです」

 レイコが再び頭を下げると、ケイゴが手を合わせてきた。

「ありがとうございます。勇者さん、共に昼夜とわず戦いましょう!」

「勇者さん、こんなろくでなしをパーティーに入れるとは中々肝が据わってますな」四見が手を合わせる。「私も一つ、よろしくお願いしますね」

「ろくでなしにはあんたも入ってるからね」一倉が四見に突っ込みをいれながら手をかざす。「あんたの心意気、やっぱり好きだわ。あたしゃ娘ができたみたいで嬉しいよ、あはは」

「……後悔しても知らないからね、よろしく」

 イザヨイの手が触れた後、レイコはパーティーの絆を確かめ合うように両手を握り合わせた。だがそこには各個人の腕にリュウゾウのブレスレット、時計、指輪、などが勢揃いしている。

「よし、今日はあたいが奢ってあげるわ。こんだけ貰ったんだ、奮発しないとね」

「いよー待ってました。姉さん、いただきまーす」

「さすがイザヨイさん、太っ腹ですねぇ。私もお供しましょう」

「あはは、楽しいねぇ。キャンプファイヤーでもしながら宴会芸でもしようかねぇ」

 ……しかし勇者がこんなことをしていいのかしら。

 レイコは訝りながら裸で拘束されているリュウゾウを見た。彼は気持ちよさそうに身包みを剥がされながら寝転んでいる。

 ……何とかしなければ、でもこの絶望的な状況で何ができるのだろう。

 彼女はキャンプファイヤーをしているメンバーを見渡して再び気を落とした。

 自分の仲間達が敵の罠ではなく、己自身で酒に酔って溺れているのだ。貴族が倒されて第二の刺客が来るかもしれないのに、こんな所で悠長に酒を飲んでもいいのだろうか。

 ……まあ、今更考えても仕方ないか。

 レイコが空を見上げると、そこには十六夜いざよい月がぼんやりと輝いていた。月見で一杯にしては飲みすぎだろうなと変に冷静になっていた。

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