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維新〜総員決起せよ〜  作者: 棚瀬 賢
甲章
4/18

第3話 黒い素肌か白い化粧か【中編】

前編に続き同時刻 尖閣諸島接続水域まで15キロ


灰色に塗られた1隻の艦が荒波を切り裂いて驀進していた。佐世保近海での個艦訓練から、海上警備行動発令を受け現場へと急ぐ護衛艦『あまぎり』。

目標はレーダーにも、もちろん水平線にもまだ見えないが、リンクシステムを介して哨戒機から送られてくる目標の詳細な位置情報により把握していた。


CIC(中央情報指揮所)に詰める『あまぎり』艦長は複雑な心境でそのデータを見つめていた。

海保の巡視船と航空機を攻撃し、悠然と居座るその目標に対して激しい憤りがあるのは間違いないが、それでもどこか不安を感じていた。

もし戦闘になればこちらが有利だ。目標の視覚外からSSMハープーンを打ち込むか、76センチ主砲を叩き込めばいい。口径は相手と同じ。むしろ発射速度で有利だ。

しかし、それは相手がこちらを攻撃してくるときに限る。相手が撃たない以上、海上警備行動の範疇ではこちらからの先制攻撃は認められない。だから、相手が撃たなければ、こっちは永遠に睨み合い続けるか精々威嚇程度の射撃しか許されない。その威嚇も司令部(ひいては政府)からの命令がなければ撃てない。

ただ、そんなことはどうでも良かった。最も気になること。それは相手が「白い船」であることであった。



1時間後 都内のある家庭のテレビ


毎週この日のパートが休みであったこの家の夫人は、毎週の通りワイドショーを見ようとチャンネルを合わせていた。すでにテレビを1時間程度付けっ放しであったが、ニュース速報に関しては気づいていなかった。

14時になりワイドショーのオープニングが始まる。

と、大阪訛りで有名な男性司会者のアップが映る。すぐに若干早口で男性司会者が話し始めた。明るめのスタジオと後ろの画面に映る「政府、海上警備行動発令へ!!」とのテロップと官房長官の写真。

「さぁ、今日も頑張っていきたいところですが、その前に速報です。ニュースセンターの伊藤さんどうぞ」

と、映像が切り替わり、後ろで男達が右往左往しているニュースセンターの状況をバックに、若干つり目の女性アナウンサーが口を開く。

「1時間ほど前に梶官房長官が緊急の会見を開き、尖閣諸島近海にて海上保安庁所属の巡視船、並び航空機に対し、中華人民共和国海警局所属と思われる船舶によって攻撃を受けたことを発表しました。攻撃を受けた巡視船、航空機の乗組員の生存は絶望的であるとしており、政府は午後12時50分、自衛隊に海上警備行動を発令したことを明かしました。これによって複数の自衛艦や航空機が急行しているとのことです」

また、場面が変わり、今度は壇上に上がって会見台に立って話す少し禿げた初老の男が映る。テロップで『梶 峯一官房長官』の文字。

「この攻撃は、我が国に対する明白な挑戦であり、これ以上の犠牲を防止するためにも自衛隊を派遣することにより、一種の抑止力となることを期待して派遣いたします」

「海上保安庁の能力をすでに凌駕しており、自衛隊に警備行動を発令し派遣することは法制上問題なく、さらなる事態悪化、もしくは周辺事態に備えて政府は必要な対策を現在検討しております。また政府は中国政府に事実関係の確認と、該船の早期離脱を要求するものであります」

(記者:この行動に周辺各国からの戦果拡大を懸念する声も上がると思われますが)というテロップ。

「民間船舶や我が国の領土、領海、国民を守るためにも必要な措置であるという自覚を持って臨んでおります。周辺各国に説明と配慮をしつつも、毅然とした態度で事態に対応して参ります。そのためにも周辺各国の理解を求めるものであります」


画面は変わりスタジオ。大阪訛りの司会者が話し始める。

「さぁ、とんでもないことになってきましたけど、酒井さん、これはどんなことになりますかね?」


『経済評論家 酒井敏夫』のテロップともに映る中年男性。

「いやー、戦争になるかはともかくとしても経済的打撃は大きいでしょうねー。すでに東証の株価も軒並み下がってきていますし、これで戦争ともなれば大変ですよ。そこまでの覚悟をして政府は自衛隊に行動を命じたのか気になります」


司会者に画面が切り替わる。

「いやね、やっぱり経済的被害ともなればデカイものになるんと思うのですよ。ただやっぱり、一番気になるのは周辺国がどんなことを言ってくるか、ということですよね柳さん」


と今度は『国際ジャーナリスト リュウ 正姫ジョンヒ』というテロップと若い女性が映る。

「すでに日本政府は「周辺事態に備えて政府は必要な対策を現在検討している」と発表していますが、まだ周辺国に必要な説明が行われているとは到底考え難いですし、どこか過剰に反応している気がします。撃沈されたのは大事件ですが、相手は海警局、日本の海上保安庁と同等の機関ですし、なぜこちらが自衛隊なのかという疑問もありますし、これは周辺国に余計な気遣いを求める結果となると思います」


頷く一同。そして司会者。

「結局、行き過ぎな面もあるかと思いますが、国民はどう思っているのか。街の人に聞いてきました」


『街を歩く人は?【自衛隊出動について】』というテロップと、それに答える街の人々。背広を着た爽やかな男性を最初に次々とインタビューの映像が流れる。

「え?本当ですか?怖いです。何をする気なのでしょうか」

「えー、沈めたんですか?でも元々領土問題で揺れていましたもんね。どうなちゃうのかな...戦争だけは避けてほしいです」

「やっぱり自衛隊動きますよね。私の彼氏が自衛隊なんですけど、どうなちゃうのかな。ええ、できれば行ってほしくないですが...」

「さっきラジオで聞きました。でも、やっぱり怖いですね。またミサイルとか撃たれたらどうなるのかな」


再びスタジオ。中心に映る司会者。

「やっぱりみんな怖いと思うのですよ。そこで迂闊に自衛隊を出すよりもここは話し合いで何とかなりませんかね...」


同刻 秋葉原電気街

彼女は驚いた。さきほど取材を受けて自分のインタビューの映像が電気屋のテレビコーナーで流れていたからではない。自分が話した内容の多くがカットされていたからだ。彼女はインタビューを受けた時のことを思い出した。

「やっぱり自衛隊動きますよね。私の彼氏が自衛隊なんですけど、どうなちゃうのかな。でも彼もそれが任務ですし、私も覚悟して一緒にいます」

とまで言った後に記者が質問してきたのだ。

「しかし、我がまま言えるとすれば行ってはほしくないですよね?」

「ええ、できれば行ってほしくないですが...。でも、そんなこと言っては逆に心配かけます。私は彼の無事を心から祈って、いつ帰ってきてもいいように準備していたいです」



同刻 衆議院予算委員会


一言でいうならば、荒れていた。議会の途中で総理と副総理が途中退室するのは仕方がない。が、なんで野党関係者が「委員会の一時休会」を要求したのか。「党内における対策」という理由の意味は想像がつく。

案の上、いざ戻ってきてからの発言も聞いていると明らかに自衛隊出動に抗議している。同じ野党の「維新の会」はダンマリ決め込んでいるが、それでもこいつらは現実を分かっちゃいない。

胸の奥の怒りを我慢して、自民党青年局の若きホープはそう思いながら椅子に座っておいた。

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