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維新〜総員決起せよ〜  作者: 棚瀬 賢
甲章
2/18

第1話 始まりと終焉

施錠が解かれる音が鳴り響いた。大雪が残したお土産は融雪剤を撒いているとはいえそれでも多かった。

が、その上を3人の男達は歩んでいった。展望台に戻ると、背負ってきたリュックから双眼鏡とレーザーポインターを取り出す。

今日もほんの遊びのつもりでここに訪れていた。普段から小煩い「殺人機」の排除が目的だが、それでもこの平和な百里を脅かす敵がもはやここから動かないことは分かっていた。それでも若い頃は学生運動に身を捧げ、新東京国際空港でも建築妨害をしてきたこの老人達にとっては目の前の敵をこのまま野放しにはしたくなかった。

普段は昼間にやっているが昼間の雪かきで疲れ昼寝をし、目覚めれば夜中であったが眠ることができず、この夜中にやってきた。それもこれもこんな時間に轟音をたてて飛び立った2機の殺人機を懲らしめるため。


まるで自分達を迎えるかのように止んだ雪を好機とばかりに男達はワンカップを煽りつつ夜空を眺めた。

2019年 冬 航空自衛隊百里基地



「HL」と書かれてた赤い電話機が鳴ると目の前の椅子に腰をかけていた初老の男が受話器を慣れた手つきで素早くとる。

相手のセリフを頭の中で理解する前に男は叫んだ。

「ゴー!スクランブル!!」


サイレンが鳴り響く中、待機室を飛び出した男達は隣接する格納庫ハンガーに悠然と身構えているF−4EJファントム改に走り寄る。整備員が機体のチェックをする中、パイロットが乗り込む。

コックピットはアナログ計器で埋め尽くされているが、老練なパイロット達は最新のディスプレイ式よりも慣れ親しんだアナログの方が機体の繊細な変化に気付きやすいと好む。わずか30秒でチェックを済ませると、整備員の指示に従いエンジンを始動させた。

と、格納庫の扉が開くなり白い塊達が吹き込んできた。それを物ともせず2機のファントム改は管制の指示を受け、滑走路に向かって歩んでいった。


茨城県全域に大雪警報が発令され、隣接する茨城空港が閉鎖されているのを横目に見つつ、2機のファントム改はアフターバーナーを全開にして雪を溶かしながら漆黒の闇へと消え去った。


数十分後、先程の様相が嘘であるかのように晴れた夜空を背にスクランブル任務を終えた2機のファントム改は帰ってきた。部隊マークである「蛙」は「無事に帰る」という意味もあるらしいが、無事に帰ってきたその姿がどこか安堵して見えるのはそんな意味を知る者の勘違いか。

つい先程改めて除雪された滑走路に脚を付けて、速度を落とし誘導路に入り込むファントム改。そのステルス性という概念が全くない機体は重いエンジン音を吹かしながら百里基地独特の"くの字"型の誘導路に差し掛かった。

先行するファントム改のパイロットの目に突然強烈な光が飛び込んできたのはその時であった。


緑色の光を見た47-8341号機前席パイロットは左目が全く見えなくなるのが分かった。思わずうめき声をあげる。直ちに後席レーダー員は前席から後席に操縦系統を切り替えると、咄嗟に足元のラダーを踏み込み機首を左へと方向を変え停止させる。そして、エマージェンシーを宣言。後方の僚機にも警告を発する。

通告を受けた管制は直ちに基地業務群に救急車の出動を発令し、基地警務隊と茨城県警には緑色の光の発光場所と思われる「百里平和公園」付近の警戒を要請した。


翌日、地元の新聞には小さく「百里基地にて謎の光線」と題し報道された。が、詳細な場所は報道されず、あくまで「百里基地付近」とだけ付け足されていた。

あの後、茨城県警と警務隊は犯人の捜索活動を実施。警務隊は基地内での捜査権限しかないため、ほとんど茨城県警頼みとなってしまった。

それでも茨城県警は「治安維持機関」としての責務はしっかりと全うしていた。平和公園は個人管理で、中に入るには管理人の許可と施錠された門の解鍵が必要だ。だから県警はまず管理人に任意で捜査協力を依頼したが、「個人情報にあたる」として管理人は協力を拒否。それを予想していた県警は今度は令状を用いて問い詰めても「メモを持っていない」とか「勝手に入られたかもしれない」と有力な情報は出なかった。

もちろん、管理人の犯行も疑ったが、たとえアリバイがないにしても証拠がない以上追求はできず、お蔵入りの気配が早々と漂っていた。

そもそも「平和公園」が百里基地の誘導路に食い込む形で存在している理由を考えれば、その管理人が友好的に自衛隊に協力するわけがなかった。自衛隊の存在を違憲と唱え、今までの自衛隊全体の功績さえも認めない管理人は陳情に着た百里基地高官にこれとばかりに怒鳴り散らすと、散々待たせた挙句近所の「平和団体」関係者数人を呼び抗議運動を展開。終いには諦めて帰途につこうした高官にゴミを投げつけて追い散らした。

車に乗り込んだ高官の握られた拳は、まるで何かを堪えるかのように強く握り締められていた。


光線を受けたパイロットは左目の視力は完全に回復せず、もはやパイロットとしての勤務どころか健常者としての人生も無理であった。他部隊への転勤も勧められたが「どう考えても周りの足を引っ張ってしまう」とこれを拒否し、入院先の病院で退官式を行いそのまま自衛隊から去っていった。


後日、同じ社の新聞にひっそりと元自衛官の自殺が報じられた。

病院から転落死した男は遺書を記していた。決して報道されることはなかったが、妻と死別し、子供も居なかったためその遺書は最後の所属原隊の隊長である二等空佐に手渡され、それを読んだ二佐は涙を流した。


「パイロットとして、そして自衛官としての人生を絶たれ、妻と死別し空白を埋めてきたくれた愛機に二度と触れられないなど絶望しかなく、最後は自ら命を落とすこととなろうとはこの上なく悔しい。が、私はそれ以上に亡くなった妻と同様に人生を賭けて守ってきた国民によって我が身の人生を崩されたことこそ最も辛く絶望している(一部省略)」


後日、通常の飛行訓練として百里基地上空を飛行していた4機のファントム改は綺麗な鏃の編隊を組んでいた。と、先頭の1機が上昇し、残りの3機はそのまま直進して飛行していった。日常のように百里基地の訓練風景を撮影していた航空ファンの中でも知識がある人間はすぐにこの特異な飛行が「ミッシングマン・フォーメーション」という慰霊飛行であることを察して黙祷した。


季節に不似合いな温かな風が吹き抜けた。それは新たな季節の訪れを予感させる風でもあった。

話はまったく本来の小説からズレますが、寒い中iPhoneで文字を打っているため、完全に指が凍えています。

本編では雪が降っていますが、まだまだ寒い季節が続く今日この頃。風邪をひかぬようにみなさんも気をつけてくださいね。

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