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Chapter8:朝霧に潜む人影

 その一日は、適当に時間を潰すはめになってしまった。


 湖に石を投げたり、木の上から湖を俯瞰したり、剣を研いだり、その剣で水を切ったりして時間の経過を待った。途中で何人もの村人がやってきて、湖の水を汲んだり洗濯物を洗ったりしたが、その途中で見掛けた外来種には目も向けることは無かった。どうやらファルフォークは、村人からみれば湖とその背景に映る景色の一環らしい。おかげさまで声を掛けられることは一度もなかった。


 その間ユルルは湖の隅々まで土を掘り返し、あるだけのコケを口に運んだ。掘り返されてめちゃくちゃになる水辺を直す仕事も、ファルフォークの暇潰しの一つとなった。


 そんなこんなで、夜が訪れ、月と星が空を覆いつくした。(この世界の夜は夜中でも明るく、綺麗な青色の空をしている)彼は湖のほとりに立ち竦む小さな木にもたれ、じっと水面を見つめる。水辺には宙を舞う虫(蛍)が、月の光を反射した湖の光を吸収し、発光していた。この村は昼も夜も寂しいくらいに静かであった。


 夜、月明かりが湖に落ちる水面を見ると、星影の花の伝説を思い出す。その伝説の中の世界が眼前にある湖ではないということは百も承知だが、もし伝説の中の世界が実在するとすれば、今眼前に見えるこの風景とそっくりだろうと思う。足元の草原、背後の小さな木、星空、水面に光を落とす月、それを受ける湖、もしこの半径約50Mほどの空間以外の外界を排除するとすれば、きっとそっくりなのだろう。


 夜はいろいろな思いが渦巻く時間である。特に月を見ると、まるで自分の思いが必要以上に煽り立てられているような気持ちになる。その代表例としては、狼男だ。あの話が現実かどうかはさておき、あれは月の光には人の気持ちを不安定にさせるものがあって、それの影響で男が狼(おそらく狂暴になった男をたとえているのだろうけれど)になるという現象が起こったものだとか。

 

 ファルフォークはそんな夜空と湖を見つめながら、木の下で一夜を過ごした。




 早朝、まだあたりが薄ら白い霧に包まれている頃、エイナは水汲み用の桶を持ち、屋敷から出た。


 彼女が朝まだき、ないし朝ぼらけにする仕事は三つ。一つは、その一日を過ごすのに必要な水を汲んでくること(桶三杯)。次に、主人のための朝食の準備をすること。そして、その朝食を食卓に並べることだ。もちろん、他の雇用人は朝寝している。


 エイナは眠い目を擦りながらも、黙ってその仕事を毎日こなしていた。寝坊すれば殴られる、ただそれが嫌だったからだ。


 彼女は屋敷のとなりに広がる、湖へと向かった。


 草原についた朝露が靴や足首についた。この時間帯の空気や水滴は冷たく、ひんやりとした感触が身体に走る。また、連日の疲れと薄ら白い風景のせいで立ち眩みが起こった。彼女は重い瞼を上に向け、なるべく倒れないようにした。


 といっても湖はすぐそこである。いや、彼女のときだけは言い方を変えよう。彼女はすぐ眼前に迫ったため池の前でしゃがんだ。

「寒い……早く済ませて帰ろう」

思わず出てきた言葉だった。湖の冷え切っていそうな水を見ると、余計に身震いしてしまう。彼女はかじかむ指を擦り、そして水を汲んだ。




 ジャポン、ジャジャ、という水に何かを浸けた音と水に水が撥ねた音に、ファルフォークは目を覚ました。

「ん……なんだ?」

一瞬視界がぼんやりともやに包まれているのを見て、ここはどこの異空間かと思った。彼は目を擦った。

「朝霧か……ん?」

そのとき、またジャポンという音がする。どうやら湖から聞こえてくるようだった。こんな朝っぱらから水汲みなんて、どんな能率的な人だろう?


 ファルフォークは眉をひそめて霧の中を見つめた。その中に水を汲む人影が見える。浅葱の服に白い布、髪の毛は黒いストレートヘアで……。

「ん?あの後姿、どこかで見たような……」

と、そのとき向こうもこちらの存在に気付いたようだった。その人が驚いてばっと振り向いたとき、ファルフォークはあっと声を上げた。

「お前は……昨日の?」

「……?」

どうやら存在に気付いただけで、ファルフォークが昨日自分と衝突した相手だということまでは気付いていないようだった。ファルフォークはふっと微笑んだ。


 ふとそのとき、あたりを覆いつくしていた霧がすっと消えていった。




 

ふう……なかなかリズムが合わなくて更新がやや遅れ気味になりました><楽しみにしていた読者様には申し訳ありませんでした。

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