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Chapter6:エイナの苦しい日々

 ファルフォークたちは湖のほとりに移動した。それはおじいさんの提案で、あまり人のいないところがいいという意見からそうしたものであった。そこでファルフォークは、おじいさんから少女の背景について、詳しく語り始めた。


 彼女はローベルジャン(村の豪壮の主人)家に仕える執事メイドで、名前はエイナというらしい。ローベルジャン家は代々この地域一帯を占める権力者で、エイナがまだ幼かった頃はパーズ・ローベルジャンという名の男が家を継いでいたのだ。しかしパーズは四年前に他界し、家はパーズの息子、ディアン・ローベルジャンが継ぐことになった。そのとたん、以前まで優しかったディアンの性格は一変し、対人関係で横柄かつ傲慢な態度をとるようになり、さらにはまだ当時9歳だったエイナをメイドとしてこき使うようになったのだ。

「わしはそのとき、何も知らなかった。所詮他人事と目をそむけて、彼女を苦しめてしまった」


 しかし、ディアンにはかつて味わったことの無い疲労と緊張が彼を襲った。今までパーズが支えていた荷物を、ディアンが背負うことになったからだ。そして、彼は疲れの発散ゆえの暴力をエイナにするようになった。それは二年前のことで、当時の彼女の顔は赤く腫れ上がっていたほどだという。そして一年前、たまたまローベルジャン家のそばを通りかかったおじいさんはあることを知った。それは、エイナが自分の孫娘だったということ。おじいさんの娘が遠くの町で産んだ孫娘だったということだ。

「わしも最初は驚いた。わしの娘は二十歳で家を出て、それから一切の連絡を絶っていたからだ。しかしそれよりも先に、エイナの身を心配した。わしは気が気でならなくなり、ついにディアンに話をつけようと決心したのだ」


 おじいさんはローベルジャン家に押し入り、ディアンからエイナを返してもらおうとした。まるで嘘のように話が進み、ようやくエイナを解放してやれると思ったときである。ディアンは大金の要求をしてきたのだ。

「今もまだ、エイナは解放されないまま暗闇の中をさまよい続けている。ローベルジャン家にもう一度押し入ろうとしても、門前払いを受けてしまうが、エイナがどんな目に遭ってるのか、エイナがどんな扱いを受けているのか、安易に想像できる」

「なるほどな、だからあざがどうとか言ってたのか」

「ああ……。旅の者、他人の話につき合わせて悪かったな」

おじいさんはその場でお辞儀した。やはりまだ悲しい目をしていた。


 たとえあの女の子とローベルジャン家とおじいさんの中に複雑な関係があるにしても、ファルフォークにとっては他人事に過ぎない。手助けもしなければ、仲介もしない。ファルフォークは、ただ話をじっと聞くだけだった。





 こちらはローベルジャン家内。


 小太りで傲慢そうな態度の男が昼食を採っているところであった。

「フン、ジャッカス(大富豪仲間)の野郎、俺をコケにして大金を独り占めしようとしやがった」

男はブツブツと文句を言いながら、フォークで突いた肉にかぶりついた。


 彼の名はディアン。現在ローベルジャン家を担うローベルジャン家の主人である。獰悪な風貌で、小太り体格に、はち切れそうな洋服。品がなく、お金持ちでありながら食事の仕方がまるで乱暴で、肉汁がそこかしこに飛び散っていた。

「それに……」

ディアンは今にも飛び掛りそうな目を、メイドのエイナに向けた。

「大切な書類を汚したらしいな、エイナ」

「え……?」

エイナは服が汚れないようにエプロンをつけ、ディアンが食事を終えるのを待っていた。そんなときにふと声を掛けられ、さらに失態を指摘されたので、びっくりしてしまったのだ。

「……」


 エイナは怯えるばかりに震えて頭を下げ、申し訳なさそうに謝った。しかし、ディアンは立ち上がると、下を向くエイナを頬を強くひっぱたいた。

「きゃああ!」

「今度失敗したらどうなるかわかってるだろうなって、前に言ったよな?何度も何度も失敗しやがって、まったく使えない女だ」

ディアンは目を大きく見開いて低い声でうなった。彼はふんと鼻を鳴らすと、何か無いかと周りを見回し、半分かじられた肉のほうに目を留めた。


 「お前にはちょっとしたオシオキが必要なようだ。よし、ではこの肉を……」

ディアンは肉を皿から地面に落とし、靴で踏みつけた。そして、まるですい終わったタバコを足の裏で消すように、肉を靴の裏ですりつぶした。

「食べてもらおうか」

肉はもはやグチャグチャになって、肉とはいえない何ものかに変化していた。もちろん、とても食べられそうなものではない。

「一つ残さず食え。絨毯についた汁はなめろ」


 エイナは一瞬ためらった。しかし、ディアンの恐ろしい表情をみるとその気持ちさえも畏縮してしまい、目の前で散らばる肉片に視線を戻した。

「仰せのままに……」

エイナは目に涙をためて、肉片を手に取り口に運んだ。吐き出しそうになる気持ちをぐっと抑え、噛まずにそのまま飲み込んだ。

「ははは、ははははははははは!」

自分に服し、どんなに屈辱的な行為をも受け入れるエイナを見て、ディアンは高らかに笑った。






 




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