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Chapter3:旅支度

 「さっさと支度して、出発するか」

ファルフォークは路地を歩きながら、あっさりとした口調で呟いた。


 実はまだ、彼は食料や水といった必需品の購入を終えていない。そして、彼のペットであるユルルの飼料も。当然どれもこれも城下町で手に入るが――――といった思いがある。


 ファルフォークは静かなところが好きだ。それは彼の出身が人気の少ない山であり、静かな自然の中で育ったところにある。そんな彼からすれば、楽しいかなんだか知らないが、都会(この場合は人気が多い場所という意味)の空気は荒んでいるように見える。だから嫌いなのだ。


 路地を出たすぐ目の前に、{Petペット Foodフード Shopショップ}と書かれた看板が見えた。無駄に探し回ることもしないで済んだファルフォークは、ラッキーと呟いてそこへ向かった。


 ファルフォークは店の暖簾を退け、中へと入った。やはりここは占い屋と違って、数人の客がいる。通路にはたくさんの餌が立ち並んでおり、そんな中でも立ち話を楽しむ女性の姿が見受けられた。室内は全体的に少し暗く、天井に一つだけ青い光を放つライト以外は全てろうそくが明かりを保っていた。

「いらっしゃい!」

飼料を探すのもめんどうだ、と思ったファルフォークは早速カウンターの店員へと声をかけた。

「あの、{ドクダケ}を5つください」

ドクダケ……猛毒性の小さなキノコ。人間にとっては砕いて粉にした一粒だけで致死量に至る。

「ドクダケかい……なんだ、あんた、何する気だい?」

店員はいぶかしげな表情でファルフォークを見つめた。どうせそうくるだろうと、彼は思った。

「ペットの餌です。俺のペット、それしか食べないんで」

どこの店に行っても、こうして疑いの目で見られる。そして何度か店員の一問一答を繰り返した後、ようやく売ってくれるのだ。


 「オーケー、五個だから10ラムね」

毒物にしては割と安価で手に入る。(日本通貨で直すと1000円)


 ファルフォークは疲れたようにドクダケを受け取り、ウエストポーチに入れた。そのとき、においにつられたのか、ペットのユルルが顔を出した。

「おおっと。今日も元気だな、ユルル」

ユルルは肩の上に乗り、チュチュと鳴いた。毛だるまのような黄色い小動物で、その身体には翼がついており、まるでハムスターとスズメを融合させたような動物である。目はくりくりして可愛く、赤ちゃんの指のような手もまた可愛い。大きさは人間の手のひらに収まるような大きさで、いつもファルフォークの服の中に入っては、食事のときなどに顔を出すのである。微笑みを浮かべたファルフォークは、ウエストポーチに入れかけのドクダケを一個、ユルルの口に運んでやった。

「へえ……これは驚いた。今まで何故ドクダケのような猛毒キノコをうちに販売させるのか疑問だったが、ほんとに動物の餌だったとはね」

店員は感心したように頷いた。ユルルはドクダケをガリガリかじっている。

「よく店員に疑われて、毎回困ってるんだ。でもよ、売ってくれてありがとな」

ファルフォークはそれ以上、店員と話すのはやめてフードショップを後にした。



 それからファルフォークは、しばらく食料を探すハメになったが、日が暮れるまでには全ての支度を終えることが出来た。今は夕方、人気もだいぶ少なくなり(それでも多いが)ずいぶんと見通しがよくなった大通りを、城門(城下町出口の門)を目指して歩いた。


 城門には二人の兵士と、何やらゴツイ体型の大男が、世間話を楽しんでいた。ファルフォークとこの大男は数年来の知り合いで、アディン戦があってからは一度も会っていなかったが、城下町にいるという噂は聞いていた。彼は旅の経験が豊富で、何年も何年も旅を続けて各地を徘徊している。ただ、ファルフォークと少し違うのは、目的もなく、ただ楽しいことを探しに旅をしているという点だろう。

「おうお!?ファルフォークじゃないか。いやあ久しぶり」

先に声をかけてきたのは大男のほうだった。どうやら彼は目ざといらしい。

「驚いたぞ?あのアディンを倒したんだってな!酒場ではお前の話で持ちきりになってたぜ」


 最近はどこへ行ってもこの話を持ち出される。ついさっきも占い屋のジャナに同様の話をされたばかりで、ファルフォークは深いため息をついた。

「俺は脚光を浴びるのは好きじゃないんだ。だからその話はよしてくれよ」

「……ああ、そうだったな。わりいわりい」

この男は人がいいのは長所であるが、能天気なのがたまにきずである。


 「それでお前さん、これからどこへ行くんだ?まさか旅に出るわけじゃないだろうな」

大男は真面目な顔をして聞いた。

「ああ、その通りだけど?」

「むー……」

やめておけ、危険だ、と言うのだろうとファルフォークは思った。しかし、そうではなかった。

「そうか、はっはっは、お前も一人前に旅できるようになったんだな!感心感心」


 そういえば、この男は旅の同士が好きだった。身分の差もない、旅人という立場で仲間のように語り合う人が、この男は好きだった。

「ま、お前のその実力があれば心配いらねえよ。そんで、もう行くのか?」

「ああ」

「そっか。じゃ、今度会ったときはお前の旅日記を聞かせてくれよ」

こういう人柄の人だから、たとえ能天気であっても親しみやすい。いつも笑っているし、人の意見を尊重するし。ファルフォークは少し晴れ晴れとした心地になり、ふっと微笑んだ。

「ああ、それとよ」

大男は背負っていた巨大なリュックを下ろし、中から何かを探り始めた。

「ん?」

ファルフォークはリュックの中を覗き込みながら、大男の様子を見つめていた。


 大男はリュックの中から、一枚の紙切れを取り出した。

「これはせんべつだ。受け取れ」

この紙切れは、約1000ラムに相等する(リアルにいえばお札)ものである。

「おい、これ……」

「いいっていいって!受け取れ!収入ないんだろ?」

大男は強引にファルフォークの手に紙切れを握らせた。そして男はリュックの口を閉めると、逃げるかのように立ち去ろうとした。

「じゃあ俺はそろそろいくわ!良い旅するんだぞ」


 ファルフォークは立ち去る大男の背中を見つめながら、静かに微笑んだ。




あんまり名前たくさんあると、覚えづらいと思ったので大男の名前は控えました!


そして、いよいよ旅が始まります!ご期待ください!

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