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Chapter2:ジャナの占い

 考えた末、まずはこの先どこへ行くかを決めるべく、占い師の知人の家へ向かうことにした。


 知人はこの城下で占い屋を働いている女性である。彼女とは数年前に一度会った以来で、そのときはまだ自分も占いなどというものを真に信じていなかった。でも彼女はペテン師でもなんでもなく、魔法を使って正当な占いを行っている。そういえば、自分が魔法という存在を知り魔法という神技を手にしたのは、彼女と出会ったからだった。今となっては魔法なんて奇跡でもなんでもないが、当時はたいそう驚かされたものだ。


 彼女は今も元気に、占い屋を続けているだろうか?当時の自分のように、占いなど嘘八百並べたペテン師だと思う人間ばかりで収入が行き詰ってはいないだろうか?といった心配が頭の中に浮かび上がるが、あの不気味な笑いとまるで滲み出るかのような黒いオーラを思い出すと、その影も綺麗にかき消されてしまうのだった。


 ファルフォークは城下町の大通りに出た。大通りでは、商品の売買やおばさんたちの会話、力自慢大会や大道芸人など、お祭り騒ぎといった感じでたいそう賑わっていた。そのおかげで町を流れる穏やかな水道や小川、風になびく木々さえも踊っているように感じられた。ファルフォークは一瞬顔を歪ませると、人で溢れた大通りの中を歩いていった。


 「それにしても……この城下町は年中無休でお祭りか?」

ファルフォークは皮肉っぽく言った。この城下町に来て四日目になるが、大通りが静かになった姿を見たためしがない。ここはそういう町なのか、と暗黙のうちに納得していたものの、やはり連日でざわついているとなるとうんざりしてくるものだった。

「用が済んだらさっさと町出るか」

彼は自分に言い聞かせるように呟いた。そして、はっとため息をついた。


 ファルフォークは、大道芸人がお手玉十個を巧みに回している隣を横切り、湿った空気が漂う路地へと出た。占い屋はこの路地の中にあり、それだけでも陰気くさいと思えるような場所である。


 やがて人の声が聞こえなくなったころ、前方に小さな水晶の看板が見えた。まさしくここが占い屋。わかりやすくていい。

「あーあ、久しぶりだなぁ。あのばあさん元気にしてっかな〜」

ファルフォークは看板を見上げながら、占い屋の扉に手を触れた。何の模様も無い、逆に不気味さを感じさせる扉である。


 ガラガラという鈴の音と共に、彼は扉を押した。するとすぐに中から声が聞こえてきた。

「いらっしゃい……?」

部屋中、青紫色の布が天井まで敷き詰められていて、ちょっぴり暗い感じ。

「おやおや、どこかで見た顔だねぇ」

そしてその真ん中に座る、ローブで顔を隠した女性こそ、この占い師の知人、ジャナである。

「さすがのあんたも、年をとると記憶力が衰えちゃうんだな」

「ははは、相変わらず口が悪いガキンチョじゃ」


 数年の間に身も引き締まり、身長も見違えるほど大きくなったファルフォークに対して、ジャナはおなじみのローブと口調であった。

「そいで、今日は何しにここにきたんじゃ?」

「今日はちょっと聞きたいことがあってな」

ファルフォークはジャナの向かい側の席に座った。

「星影の花についてなんだけど」


 このとき、ジャナは急に真剣な目をしたような気がした。ゆっくりと顎を引くと、下目つきでファルフォークを睨んだ。ファルフォークは続けた。

「何か知ってることはないか?」

「なるほど、そういうことか……あいにくじゃが、あたしゃあんまり星影の花には興味なくてな、知ってることといえば……そうじゃな、{過去に何万人とその花を捜し求め旅をしたが、結局誰一人としてその花を見つけることは出来なかった}ということくらいか」


 ファルフォークは二回頷いた。それと同時にジャナは、ファルフォークが何を言いたいのかを察したらしく、すぐさま手元から水晶玉を取り出し、机の上に置いた。

「じゃ、頼むよ」

「ああ……うまくいくかわからんがな。なにせ、存在するかどうかもわからないものを調べろというんじゃから」

ジャナはぼんやり光る水晶玉を手で覆い、まるでさするかのように手首を動かし始めた。そして彼女は何かを唱え始め、瞳を灰色にして水晶玉を覗き込んだ。すると、水晶玉はジャナの不思議な力に反応したように揺れ始め、光り始めた。


 呪法透視が始まった。


 「見える……見えるぞ……これは……文字か……?ナナ……カゼ……の……ナナ……」

おぞましい声でぶるぶると言った。水晶玉から闇の煙が噴き出している。

「文字……ナナ……カゼ」

「ナナカゼ?」

「ああ……ああ……」

どうやら、{ナナカゼ}という文字を見たらしい。しかしそれがどういう意味をもっているのかさっぱりわからなく、ましてや星影の花とどういう関係があるのかさえもわからなかった。


 「他には、何が……?」

ファルフォークは息を呑んだ。いつ見ても恐ろしく、そして凄まじい。おそらく水晶玉から湧き出る闇の煙は、彼女が消費している魔力の昇華したものであろう。

「何も……見えん……」

その瞬間、ふっとジャナの力が抜けた。水晶玉はゴロゴロと机の上を転がり、やがて床へと落ちてしまった。


 「小僧よ」

ジャナはふうっと息をはいた。

「もしも星影の花というものが実在するとすれば、おそらく{ナナカゼ}というものが発見の鍵を握っているだろう」

「ナナカゼか……聞いたこともねえや」

ファルフォークは椅子に大きくもたれかかり、ボソっと呟いた。ジャナは水晶玉を拾った。


 「ナナカゼか……よし、ありがとな。俺今日からそれ探しに行ってくるわ」

いつもはもっと詳しいことまで透視できるはずなのに、ここまで曖昧なものしか視えないとなるとやはり相当見つけにくいものなのだろう。そして、もうこれ以上は呪法に頼ることも出来なさそうだ。


 ファルフォークはウエストポーチからお金を取り出した。そして、机の上に80ラム(1ラム=100円と考える)を差し出した。

「はい、これお金」

「金はいらんよ」

「そうか……わりぃな」

ファルフォークは差し出したお金をかき集めるようにして戻した。お金をウエストポーチに入れる途中、ジャナは目を鋭くしていった。

「小僧、これからどこに行くかは知らんが、できればやめておいたほうがいいぞ」

「ん?なんで?」

ファルフォークの手が止まった。

「以前のアディン戦でおぬしの名は世に聞こえた。{世を震撼させた少年}とな。これが何を意味するか、おぬしならわかるじゃろう?」

「ああ」

彼は何事も無かったかのように、またお金を直し始めた。

「大陸中の猛者たちが俺の首を狙ってくるということだろ?」


 「心配はいらないさ」

ファルフォークは立ち上がり、振り向いた。

「気にかかったら透視でもして俺の生死の確認をすればいい。もう行くぜ」


 そしてジャナを背後に、彼は占い屋を後にした。



なんとか2話目投稿!

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