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肖像画  作者: くたち
第一章『不変』
3/17

2 ”彼ら”との顔合わせ

 保健室に到着し、ベッドに誠次郎を寝かせた。ベッドの淵からだらりと力なく垂れる左手を見て、自然と唇が震え、目頭が熱くなっていくのを智博は感じていた。

 一体、何が起こっているんだ。

 さっきから何度となく頭を巡った言葉が再びもたげてくる。

 保健室に設置されている電話の受話器を取り、119番を押した。

しかし、耳に届くのは携帯電話と同じ。どこか高い所を、風が吹き抜けていく音がするだけだ。

 おかしいだろ、普通、通話中の音がするかどこかの消防署に繋がるはずだろ!

乱暴に受話器を叩きつけ、誠次郎に布団を掛けに行く。顔色は相変わらず白く、体を温めなくては危ない。しかし、応急処置を施したところで病院に連れて行かなくてはこの状況が良くなるとは到底思えなかった。

 保健室から飛び出し、職員室へ走る。誰か、誰かいるはずだ。大人が、助けてくれる人が。

心臓がばくばくと激しく脈打つ。

 弱くなっていく呼吸、鼓動。冷えていく幼馴染の体を思い出し、喉が震えた。

教室棟から渡り廊下を走り抜け、特別教室棟を抜け本校舎へと入る。

 目の前の職員室の扉の前で、足が、自然と止まった。

 全身を、悪寒が走り抜けた。

心を支配していた焦燥が一気に鳴りを潜め、得体の知れない恐怖が満ちてくる。

訳が分からないまま、智博は引き戸に手を掛け、ゆっくりと滑らせた。

 中は薄暗かった。カーテンがすべて閉められ、昼の光が、ぼんやりと薄いカーテンを透かして部屋全体を照らしている。

その中に、一人男が立っていた。背中を見て分かる。あれは、隣のクラスの水野先生だ。

「せ……っ!」

 発しようとした言葉が、喉元で詰まった。水野が持っているものが目に入ったのだ。

 それは、刃渡り三十センチほどの、包丁のようだった。

何であんなものを、思う間もなく、智博は扉を閉めて全速力で職員室から離れていた。

 背後から、扉を開く音がした。その時には、渡り廊下を渡りきり、特別教室棟を抜けるところだった。

ただの、直感だ。恐ろしい程激しい憎悪を感じ、吐き気を催しながら保健室に駆け込む。

 ダメだ。職員室も近寄れない。

外の大人に助けを求めるのはどうだ。気持ちを落ち着けた後、窓辺に寄り思いっきり窓を引く。しかし、昇降口と同じく鍵も掛かっていないのに、開かない。

一か八か、保健室のパイプ椅子を持ち上げ、窓に叩きつけた。

無情にも、激しい打撃音と共に弾き飛ばされ驚愕する。

 智博は痺れる手を抱え込み目を見開いて、唇を戦慄かせた。よろよろと歩を進め、窓に掌で触れる。

冷たく硬い感触が伝わってくるだけだ。何が、俺を阻むのか。

どうして

「どうして……っ ここから出してくれよ! じゃないと」

そうじゃないと、誠次郎が死んじまう!

 はっきりと自覚した恐怖に、体の震えが止まらない。

震える指先で、携帯電話を開きボタンを押す。

 電話とメールは誰にも繋がらない。ブックマークからつぶやいたーやウィクシー、フェイスムックを開き書き込みをしてみるが、ほとんどが文字化けを起こし自分が打った文章だけでなくタイムライン上の文章すら読めない。

ぞっと背筋を凍らせ、次にインターネットの接続を試みる。

「!!」

 検索画面が、表示された。検索ワード欄にも、文字が打ち込める。

 まず、最優先は誠次郎だ。その次に、この状況。

校舎から出られないなど、はっきり言って異常だ。

 うまく二つを相談できる場所は、あるだろうか。智博は考えを巡らせる。

ちえ袋など、ダメだ。もっと不特定多数の、善人も悪人も集まる、様々な知恵が集まる場所。

『あしかびちゃんねる』

 検索ワードとして打ち込み、ホームページを開く。

 あしかびちゃんねる…通称『あしちゃん』とは、この国最大の匿名の書き込みが出来る掲示板である。

 様々なスレッドが立てられ、それこそ、様々な人間が集まり交流している電脳の世界。

 スレッドテーマを実況に設定し、決定ボタンを押す。

スレッドタイトルは、【友達が】助けてください【意識不明】。

書き込み画面が表示され、智博は深呼吸した。

 あまり、深刻な様子で書き込まない方が良い。深く勘ぐられ、釣りだと断じられて捨てられるのがオチだ。

 絶対に、助けるからな。

智博は唇を噛みしめ、文字を打ち込み始めた。



 理和は、肩を揺さぶられた気がして目が覚めた。

耳鳴りのせいか頭痛が酷く、しばらく硬く目を瞑っていると、優しく、髪を指で梳かれるように頭を撫でられた。それから、嘘のように頭痛が引いていった。

目を開けば、遠ざかる学生服姿の青年の後ろ姿が見えた。

「……竹崎君?」

 呟かれた声に反応する事無く、青年は机の角を曲がって姿を消してしまった。

竹崎君に見えたけど、違ったのだろうか。

 理和は流し台が据え付けられている机を支えに立ち上がる。立ち上がって、見渡せば調理室だと分かった。

周りに、クラスメイトの姿はない。どうやら一人、調理室まで移動させられたらしい。

 誰が運んできたのか分からないが、教室棟である北舎から特別教室棟までは渡り廊下を通って結構な移動距離がある。

 とにかく、調理室から出ようと歩きだした時だった。

背後から、べちゃりと何か水気を含んだ物が移動した音がした。

スポンジでも落ちたんだろうか、振り返って理和は硬直する。硬直せざるを得なかった。

 そこには、奇妙な恰好をしたモノが横たわっていた。

男、だろうか。短髪の刈り上げた側頭部が見える。衣服をまとっている腕や足は明らかに不自然な方向に曲がっていて、首はへし折れ裂けた場所からは液体が流れている。

木の床にはそれを中心に水たまりが出来、こちらに流れてこようとしていた。

それがずる、と、理和に向かって動いた。

「……はっ」

 知らず息を止めていた。じりと後ずさりしながら気色の悪さと得体の知れなさに鼓動を早くしていると、突然すさまじい速さでこちらに向かってきた。

「……っ!!」

 叫び声も出せず、同時に駆け出す。

途中調理棚にぶつかり中のものをぶちまけた。しかし、そんなもの構っていられなかった。

あれに捕まったら、いや、触れられたら、きっと、私は。

妙な胸騒ぎが襲う。

 醤油や、塩がそれの上に落ちた。耳障りな悲鳴が響き渡り、理和は思わず足を止めて振り返る。

 視線の先では、塩に塗れて化け物が動かなくなっていた。

しばらく理和に近付こうとじたばたと手足を動かしていたが、不意に水たまりを残して宙に消えていった。

「何……今の」

 理和は呼吸を整えながら、改めて周りを見る。

窓から、中庭を飛び越え教室棟が見えた。そして思わず身を乗り出して目を瞠る。

校舎の屋上から、何かが落ちた。それは地面に激突する直前に姿を消し、再び屋上に姿を現す。

 この高校の制服を着た、女子生徒のようだ。

手すりを乗り越えた場所で、中庭に背を向け、屋上に向かって手を伸ばしている。風に、長い黒髪が靡いている。

そして、伸ばした手をゆっくりと降ろすと、あっと声もあげる間もなく宙へ体を投げ出した。

思わず顔を背け、少ししてから恐る恐る目を戻せば、女生徒が屋上に立っている。

 ああ、繰り返しているのか……

どういった想いが彼女を屋上から落としているのか分からないが、その時から、彼女は動けないのだと悟った。

 それと同時に、あれや、先ほど目の前に現れたものの正体に行き着く。

 信じ難いが、幽霊、というものではないだろうか。

 理和はそう結論付けるとすぐに、調理棚に近付く。水たまりを避けながら、買い置きされている塩を数袋取り出した。

窓の手すりに掛かっている雑巾を数枚拝借し、ボウルで水と塩を混ぜて雑巾を浸す。

それを、掃除道具入れに入っていた箒の柄に凧糸で巻きつけた。そして、教室の隅に立てかけてあった教員用のパイプ椅子の背凭れにも雑巾を巻きつける。

髪の毛をしばり直し、肩にかけていたサブバックに塩袋とビニールラップを入れて背中に背負い、パイプ椅子と箒を担いだ。

念のため、雑巾の部分に更に塩を塗りこんでおく。

「これくらいで、いいかな」

 何故ここまで重装備にしているのか自分でも不思議だが、念には念を入れよ。母の教えだ。

 調理室は特別教室棟の一階に位置している。一応、鍵を外して窓が開かないか試してみる。

しかし、開かない。昇降口と同じことが起こっているのだと、理和は溜息をついた。

気を取り直して、調理室から出ようとしたその時、遠くから悲鳴が聞こえた。

階上から、だった。

 聞き覚えのある声に、ざわりと焦りが心に滲む。

「裕子ちゃん……!」

 理和は迷うことなく、駆け出していた。



 加藤裕子は走っていた。普段、走るなと怒号を飛ばされる廊下を、ひたすら走っていた。

学級委員などという立場なんて関係ない。小学生の頃から女子バスケ部で培った自慢の脚力と持久力を駆使し、それはもう全速力で走っていた。

 学校帰りに自主練をしようと、外履きのバッシュを持ってきていて良かった。ジャージも持ってきていて良かった。

目の端から零れる涙を拭いながら、胸の中で心臓が命の危険を感じて暴れているのをなんとか抑え込もうとしながら、裕子は振り返った。

 追い掛けてくるものがあった。しかし、それの足は動いているようではない。相手は走っていないのに、振り切る事はおろか距離を離すことが出来ない。

 誰なのかは分からない。性別すら、判然としなかったが、もしかしたら女性かもしれない。

 浅黒い肌に、煤けたざんばらの髪を振り乱し、落ち窪んだ空洞と化している双眼でこちらを真っ直ぐ見据えて追い掛けてくる。

 それがふらふらと動くたびに、裂けた足の膝と太ももから血が零れ落ち廊下を汚した。耳障りな音を必死に意識の外に追い遣り、裕子は再び前に向き直り左へ足を向けて階段を駆け下りた。

 どうしてこんな事になっているのか。

 昇降口で、裕子は血塗れの女がこちらに歩いてくるのを見ていた。悲鳴をあげ、目を瞑った途端、耳鳴りに襲われ昇降口のタイルの地面に倒れこんでしまったのだ。

 耳鳴りが収まり、目を開いた時には、何故か理科室にいた。

 意識が遠のく直前に見たものを思い出し体が震えた。無意識のうちに肩にかけていたエナメルバッグからバッシュとジャージを取り出していた。

あれは、なんだったんだろう、と改めて疑問に思う間もなかった。

 首筋と二の腕を這うような、寒気がする。はっきりとした、視線を感じたのだ。

バッシュとジャージを履き終え、化学実験台から顔を出すが誰かがいる様子もなかった。昇降口まで一緒にいたクラスメイトもいなくなっていた。

 ぐるりと室内を見回すが、窓際に実験道具が干されているのと、壁に寄贈された水彩画が立派な額縁に入れられて掛かっているのが見えるだけだ。

 開いたままの出入り口を背にしながら、辺りを見回し視界の隅を掠めた異様なものに、体が強張り全身を悪寒が襲った。

 何故、そこにいるのか。

 震える足を叱咤し、ゆっくりと、扉まで後退る。

 きっと、気付いていると気付かれている。乱れ、引き攣る呼吸に全神経を注ぎながら体を反転させ廊下に一歩踏み出した時だ。

 何かが落ちて潰れたような嫌な音が背後から追い掛けてきた。その時には裕子は理科室から教室一つ分離れていた。

振り返らなかった。出来なかった。背中に、嫌というほど視線を感じるからだ。

 視界の上部に見えたもの。

それは天井に張り付いている、生きているとは思えない異形の姿の人間だった。

 スカートを翻し、踊場を体を捻って駆け抜ける。下に、見慣れた姿を見付けて目を見開く。

「裕子ちゃん!!」

 彼女の手に持っている物に違う意味で戦慄しながら意図を瞬時に察して脇へと避ける。

異形はやはり真っ直ぐと裕子を追い掛け、彼女には目もくれていない。

そして異形は、彼女が目の前に振りかぶったパイプ椅子に、その醜悪な顔面をぶち当てた。

「……っ!!」

 思わず振り返り、目を見開く。パイプ椅子が当たった場所から、異形が消えていく。耳を塞ぎたくなるような悲鳴と、血に塗れたパイプ椅子と、それを持っているクラスメイトだけがその場に残った。

「だ、いじょうぶ、裕子ちゃん」

「う、ん……ありがと……」

 目の前の少女、田中理和は肩で息をしながら、興奮冷めやらぬ様子でパイプ椅子を下に降ろした。

裕子は驚きを隠せなかった。

彼女は日頃からしっかりしていて、でもどこかのほほんとしていて、まさかあんな正体も分からないものを消すとは思いもしなかった。

 乱れる呼吸を整えながら、理和に近付く。

「どうやって、あんなの……」

「私ね、調理室に飛ばされたんだけど、さっきみたいな変なのが、教室にいたの。慌てて棚にぶつかって、塩ぶちまけちゃったら、それが怯んで消えたから」

 対抗する手段になるんだって気づいたんだ。

そう言ってほっと胸を撫で下ろす彼女は、いつもの穏やかな彼女だ。

「パイプ椅子の背中にね、塩水染み込ませた雑巾を巻いておいたんだ。裕子ちゃんが無事で良かった」

 そう言って、椅子の背を見れば背もたれに雑巾が巻かれている。

理和の笑顔に一気に全身の緊張が緩んだ。

目から、追い掛けられていた時とは比べ物にならないくらいの雫が零れる。

「裕子ちゃん!? 大丈夫? どこか怪我とか」

慌て始める理和に、俯いて目を押さえながら裕子は違うのだと首を懸命に横に振った。

「理和が無事で、良かった……私……」

生きてる……

 あれに気付いた時、目の前が真っ暗になった。

驚き、からの感情だったのか、パニックに陥ったのか。どちらも違うように思う。

 先が全く、見えなかったのだ。

自分のこれから先が、すべて消されてしまう。その予感が、全身を駆け抜けたのだ。

 自分は、死ぬ。理不尽に、奪われるのだと直感した。

だからがむしゃらに走った。生まれて初めて自覚した生存本能だった。

危機を脱して、安心が体中を支配した。

 理和は俯いてしゃくりあげ続ける裕子を真剣な表情で見詰める。そして辺りを見回して開いている教室を見付けた。

「裕子ちゃん、とりあえず休もう? 塩、持ってきたから何か武器を作ろう。まだ他にもいる気がする」

 聞き捨てならない言葉を聞いた気がしたが、裕子は否定出来なかった。

顔を上げれば、理和は強い瞳で裕子を見詰めていた。

「私、今日は大事な約束があるの。だから、皆で一緒にアイス食べてから、皆で一緒に帰ろ?」

 大事な約束がある。その言葉で、一瞬にして悟る。約束があるのに、彼女は帰らない。

窓も、扉も開かないのだ。昇降口と同じように。

私たちは、この校舎から出る術がないのだと。



 スレッド上では、比較的穏やかな空気が流れていた。

智博は看護師の名無しさんの言う通り、誠次郎の気道を確保し、体を温める為に毛布を探し出した。

幾分か、呼吸が維持されているように見えてほっと息をついた。スレッドの様子を見ながら、応急処置の教科書をめくる。

 掲示板など正直、あまり関わりたい世界ではなかった。

しかし、この閉塞状態で、見ず知らずの人たちが見捨てず自分たちを気に掛け励ましてくれる。

所詮、彼らにとっては他人事だ。そう分かっていても素直に嬉しかったし、彼らとの会話が心強かった。

不思議な感覚だった。

 スレッドのアドバイスで、保健室の鍵を閉めに行った時だ。外から、凄まじい衝撃音が響いてきた。

驚いて振り返ると、窓際のベッドに寝かせていたはずの誠次郎の姿が、消えていた。

「……は?」

 知らない内に書きかけのコメントを送信していたようだ。スレッドからの呼びかけに答えつつ、ベッドの下や大きな布団棚の中を探す。

 一瞬、意識が戻ったのかと期待したが、どうも違う。

血の気が引いていく。同級生三人や一年生の後輩たちだけでなく、誠次郎まで奪われてしまったと思った。

 探しに、行かなくては。

 しかし、そう伝えれば、あしちゃんの住人達は止めろと必死に止めに入り、諭してくる。

 所詮他人事だから、そんなことが言える。俺達の何を、お前たちが知っているのか。

 燃え上がるように熱い呼吸を必死に落ち着かせ、扉の引手に掛けていた手を外した。

そうだ。今、外界を接触出来ているのは俺だけかもしれない。外に出て、この状況が持続するとも限らないのだ。

 礼を述べて書き込みを読んでいると、不思議なコメントが入力された。

明らかに、この学校を知っている人間の言葉だった。

 まさか。

コメントに書き込みしてきたのは、ちくわ2号こと竹崎凛太郎と主食こと早稲瑞穂だった。

 突然のことに、目から熱いものが流れた。

 菊も書き込みはしていないが無事で、今は花霧大社にて情報収集をしているらしい。

 良かった。

 途方もない安堵感に、胸の内から吐息が長く漏れる。

良かった。三人が無事で良かった。こんな、得体の知れない場所に閉じ込められていなくてよかった。

 同級生たちの居場所は、全員分からなくなった。でも、この三人が無事なら。

微笑ましい会話を見て、時折書き込みをしながら、立ち上がる。

 三人は、外界で情報を手に入れてくれていたらしい。

 この学校には、七不思議がある事。その七不思議の中で、敷地内で人が死ぬと神隠しが起こるという事案がこの怪現象と関わっているのではないかという事。

二十年以上前に、女子生徒が一人、屋上から転落死しているという事。

 テンポのよい推測と否定の行き来に、ふっと笑みを浮かべた。

 その時だった。

保健室の一つしかない扉が激しい音を立て、智博は体を大きく震わせて瞬時に視線を走らせる。

 擦りガラスの向こうに、黒い影がぼんやりと見えた。

 誰だ。徳市たちか?

しかし、すぐに違うと否定した。彼らだったら、声を出すだろう。

黒い影が、中の様子を窺うように擦りガラスに顔を密着させた。思わず、叫びそうになり口を両手で押さえる。

生きている、人間の肌の色ではなかった。真っ白で、色味など少しもない。長い髪がずるりと擦りガラスを這う。

口と目の部分は黒く影になっていて、奥が知れない。もしかしたら目が、ないのかもしれない。

 急いで、打ち込みをする。だんだんと激しくなるノック音に涙が再び滲んできた。

 俺は、何をすればいい。目の前のこれを、どう対処すればいいんだ。

保健室は扉が一つしかない袋小路。窓は開かない。

扉を占拠されれば、あの得体の知れないものと対峙しなくてはならない。

 どうすれば、いいのか。



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