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トリックエンジェルSS  作者: まーしゃ
第9章 白帽子編
31/48

9-14.創立記念日 ~イマジナリーフレンド編~

この物語はフィクションです。この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則などは架空のものです。


麻奈 :「でも、それじゃ、申し訳ないです」


風呂からあがると、麻奈が喋っていた。もうすでに夜も遅く、藤原さんも宮島さんも自室に戻っていた。レベッカこと藤原のお母さんも夜勤でここにはいない。


麻奈 :「せっかく、チケットとったのに私に譲るなんて。あなたが楽しめばいいのに」


麻奈はひとりソファーに座り、誰かと話している。別に携帯電話をかけているわけではない。


麻奈 :「まあ、確かに麻紀がここんとこ修君連れまわして買い物付き合わせたのは事実だけど、そんなこと気にしなくていいのに」


麻奈は、誰もいないところに向かい話をしている。


僕も、最初はびっくりした。でも、この頃は見慣れた風景だ。


話相手はイマジナリーフレンドの麻紀。麻奈しか今は見えていない。


修  :「麻紀がなんか譲ってくれたのか?」


僕は麻奈に話しかける。


麻奈 :「はい、温水プールの招待券なんです。生徒会関係でもらったのを私に譲るって」


修  :「ほう」


麻奈 :「それで、修君ご相談なのですが、明日の創立記念日、私と一緒に温水プール行きませんか?」


修  :「お、いいね~。この梅雨空じゃ休みといってもやることないしな」


麻奈 :「良かったです。実は私泳げないんです。それで、練習に付き合ってほしくて」


修  :「ああ、Welcomeだ」


こうして麻奈と温水プールに行くことになった。


------------------------------


修  :「なんだこりゃ」


温水プールに来てびっくりした。人がいっぱいいるがほとんどが同じ学校の生徒だ。


麻奈 :「貸し切り状態ですね」


麻奈が首をひねる。


修  :「まあ、平日だからな。創立記念日で休みの生徒くらいしか来ないのだろうけど、それにしても多すぎないか?」


知り合いを何人か見かける。いや、よく見ると知り合いだらけだ。


田村 :「よう、ご両人、今到着か?」


アメフト部の田村良介に声を掛けられる。


修  :「なんだ、良介も来てたのか」


田村 :「なんだってなんだよ。俺だけじゃなくて他のアメフト部のメンバーも来てるぜ」


プールの中から国立達が手を振る


田村 :「しかし、お前たちデートなら、わざわざこんなうちの生徒たちが一杯来ることわかってるプールなんか選ばなくてもいいだろう?」


麻奈 :「どうして、今日、こんなにうちの学校の生徒が多いのでしょうか?」


田村 :「何言ってるんだい? 生徒会が半額券ばらまいてたじゃないか」


麻奈 :「え?」


田村 :「チケットどうやって手に入れたの?」


麻奈 :「理恵にもらったのですが」


田村 :「ああ、生徒会長から直接か。創立記念日、生徒たちがはめはずして悪さしないように一か所に集めた。宮島の考えそうなことだ」


なるほど。プール側も平日のガラガラな状態の穴を埋めるのは半額券でもペイするってことか。双方の利害一致ってことか。


あゆみ:「麻奈さ~ん」


浮輪を抱えてプールサイドを小走りに立川あゆみがやってくる。アメフト部のマネージャーだ。


あゆみ:「麻奈さんたちもやっぱり来てたんですね」


ニコニコしながら立川が話しかける。


麻奈 :「あゆみもアメフト部のメンバーときたのですか?」


あゆみ:「いえ、クラスの仲のいい女の子たちとです。創立記念日どこへ行こうかとみんなで考えていたら、生徒会が半額券くれるって聞いたので、思わずみんなで来ちゃいました」


あゆみを追ってクラスメイトが来る。


友達A:「あゆみ、走っちゃ危ないでしょ。もう、はしゃいじゃって。あ、すいません。深沢さんですね。いつもあゆみがお世話になっています。もう、あゆみったらいつも麻奈さん麻奈さんてまるで恋人のように話すんですよ」


あゆみ:「いいじゃないの別に」


友達B:「あゆみ、泳ご。あんまり二人を邪魔しちゃだめよ」


あゆみ:「あ、ごめんなさい。気づきませんでした」


そう言ってあゆみがプールに引っ張られていく。


修  :「俺たちも泳ぐか」


麻奈を誘うと麻奈はこくんとうなずく。


田村もプールに入り国立たちと合流する。


俺たちは田村やあゆみたちの近くで麻奈の泳ぎの練習をすることにした。


麻奈は顔に水がついたり、目をあけるのが苦手そうだった。でも、今年はなんとか泳ぎたいと頑張っている。


山下 :「深沢さんが泳げないって意外よね」


今度は春祭の実行委員だった山下が現れた。


麻奈 :「あ、山下さん」


麻奈が山下を見てにっこり笑う。


修  :「山下もクラスの仲間とか?」


山下 :「いえ、加賀美さんとか十条とか。それと彼らの友達と」


修  :「ああ、春祭実行委員メンバーか」


山下 :「うん、深沢さんも誘おうと思ったんだけど、宮島さんが相川さんとここにデートに来るから現地に行けば会えるよって言ってくれたんで」


修  :「はあ。しかし、春祭メンバー仲いいな」


山下 :「仲がいいのもあるけど、せっかくのただ券無駄にしたくないしね」


修  :「ただ券?」


山下が手招きする。そして気かつくと耳もとでささやく。


山下 :「春祭実行委員には内緒でただ券配られてるの。春祭の慰労ってことで」


修  :「もしかして、麻奈にもか?」


麻奈はこくんとうなづく


なるほど。つくづく宮島のやつ考えてるな。こうやって気配りして秋の学園祭を成功に導くした準備を着々と進めている。当然彼らは秋の学園祭も実行委員やるわけで地盤固めをしている。


山下たちが離れていくと、今度はクラスの女の子がやってくる。


井川 :「麻紀~」


ちょっとヤンキーっぽい女の子が声をかける。


麻奈 :「あ、亜紀ちゃん」


井川 :「向こうで一緒にビーチボールで遊ばない?」


麻奈 :「あ、でも」


麻奈が僕をチラって見る


井川 :「あれ、相川いたんだあ。麻紀、私あなたに忠告しておくわ。男を見る目を養いなさい。相川も悪いとは言わないけど、あなたにはもっとふさわしい男がいると思うよ」


そういって離れて行った。


麻奈 :「亜紀ちゃんらしいです」


修  :「だな」


井川はああ見えても面倒見がいい。言ってることと思っていることが反対なのは見え見えだ。俺たちがいることを知っていて、わざわざからかいに来た。


修  :「そして、麻奈だってことは気付いていない」


見ているようで見ていない。それも彼女の特徴。なので、ときどき勘違いおせっかい暴走をする。それもまた一興。


麻奈 :「でも去年、彼女と一緒のクラスなのは救われました」


去年、なにかと麻奈を面倒を見てくれたのは彼女だ。クラスの中でも完全にはぶられることなく「ちょっと変わった人」ですんでいた。


その後も次から次へと僕や麻奈のところに知り合いや友達があいさつに来る。特に麻奈には男女問わず色々な人が現れた。皆麻紀だと思って来ている。


修  :「さすが麻紀人脈恐るべしだな」


そもそも学校では基本的に麻紀が対応している。麻奈の対人折衝モードといってもいい。明るく、万人に受けがいい麻紀。春祭を大成功に導いた英雄。そして、ほとんどが麻奈の存在に気づいていない。


麻奈はプールサイドに腰を掛け、疲れた様子を見せる。


修  :「麻紀になった方がいいな。麻奈のままだと疲れるだろう」


僕は麻奈の前で指を振り、麻紀を呼ぼうとした。


しかし、麻奈は首を振った。


麻奈 :「今日は私で頑張りたいと思います。せっかく麻紀が気を利かせたので」


修  :「でも…」


宮島 :「あら、ご両人、こんなところにいたのね」


仕掛け人の宮島が現れた。無事、生徒会選挙も終わり、会長に就任している。生徒会メンバーを連れてきているということは、トラブルが起きないよう見回りでもしているのだろう。


宮島 :「二人には春祭お世話になったし、お礼といってはなんだけど、あそこで休むといいわ」


宮島が有料エリアのテーブルをさす。


宮島 :「あそこ、生徒会が借りてるの。麻奈も人あたりしてるようだから、そこで休むといいわ。」


修  :「ああ、ありがとう。恩にきる。厚意に甘えて使わさせていただくよ」


宮島は麻奈の様子を見ていて気を利かせたのだろう。僕と麻奈は白いテーブルのところに行き4つある椅子の二つに座る。


麻奈 :「ふう~」


麻奈はため息を一息つく。


修  :「飲み物買ってくるね」


麻奈 :「ありがとう」


麻奈と二人でジンジャエールを飲んでると遠くで女の子の「キャー」という声が聞こえた。興に乗った女子の声かと思って振りかえると、プールサイドをこちらに歩いてくるカップルがいた。女の子はきわどいマイクロビキニ姿だ。


麻奈 :「トラブルメーカー登場」


麻奈は再びため息をつく。


藤原 :「あははー。御二人さん見っけ」


木原 :「よう、修。お前たちもきてたのか」


学校一のプレイボーイと魔性の女のコンビだった。



-------------------------------


麻奈 :「ふ~ん。千秋、今日は大学生の彼氏連れじゃないのですね?」


藤原 :「ああ、彼?先週別れたわ」


麻奈がやれやれって顔をする。


麻奈 :「でもよりによって、木原って、手近で済ませすぎないでしょうか?」


麻奈はジト目で木原を見る。


麻奈 :「竹原の彼氏呼べば良かったのに」


藤原 :「え~、だって広島でしょ。遠いじゃない。だから木原」


修  :「(竹原の彼氏?)」


麻奈 :「でも、そんな女ったらしを連れてこなくても。色々騒ぎになるわ」


既に、周りの女の子たちが騒ぎ始めている。サッカー部人気ナンバーワンの木原とミス花の丘高校の藤原。そして、共に長続きしたことのないカップル。話題としては格好のカップルだ。


木原 :「深沢。毒吐くなあ~。もしかして、俺に気があるのか? 相川の前でそんなそぶりされても困るなあ。罪つくりだな俺は」


麻奈 :「まさか。だれがビオレなんかに惚れますか」


木原 :「深沢、下の名前で呼ぶな~」


木原美俺。完全なキラキラネームである。そして、木原の性格そのものを表している。


麻奈 :「なかなか、清潔そうな良い名だと思いますが」


麻奈も思ってもいないことをいう。


木原 :「ははは、それより千秋、そこの売店でアイスクリーム食べないか?」


藤原 :「うん」


笑顔で答える。


修  :「(もう、下の名前で呼ぶ仲なのか)」


木原 :「バニラとストロベリーどっちがいい?」


藤原 :「え~、決められない。ビオレが決めて」


木原 :「しょうがないなあ。じゃあ、バニラな」


そういって木原が席を立つ。


修  :「麻奈も欲しくないか?」


麻奈 :「はい。修君一緒に買いに行きましょう。」


修  :「いいよ、買ってきてやる。少し疲れてるだろう」


麻奈 :「大丈夫。一緒に行きます」


結局、3人で売店に行く。藤原だけ席でまち、こっちを見て手を振っている。


藤原 :「ビオレ~。コーンじゃなくてカップね。カップじゃなきゃ千秋やだ」


木原 :「はいはい」


修  :「麻奈、何がいい?」


麻奈 :「ラムレーズン」


修  :「わかった。僕は…、このビターチョコにしよう」


修は二人分のお金を出す。


麻奈 :「じゃあ、私はこのポテト買いますね」


そう言ってポテトを買う。


席に戻ると木原がカップを渡そうとする。


藤原 :「ええ~、食べさせてくれなきゃやだ」


木原 :「はいはい」


木原がスプーンにアイスクリームをとり藤原に差し出す。


藤原 :「あ~ん」


木原は藤原に仲睦まじくアイスを口に運ぶ。


僕は茫然とその姿を見つめる。


「キャー」


その姿を見て周囲の女の子が声を出す。


修  :「(藤原さん、今、このプール中の女の子を敵に回してるぞ。木原も男子全員敵に回してるぞ)」


やきもきしながら僕は藤原さん達を見つめる。一方、麻奈は何事もなかったみたいに平然とアイスを食べている。


麻奈 :「このアイスおいしい! 修君も味見してみてください」


そういって、ラムレーズンを差し出す。


僕は一口味見してみる。なかなかおいしい。


修  :「うまいな」


麻奈 :「でしょ。今度は修君のアイスを味見」


修  :「ああ」


僕は藤原さんたちのはらはらする行動に気を散らせながら、麻奈にアイスを差し出す。


麻奈 :「これもおいしい」


修  :「だろ、けっこうこの味気に入ってるんだ」


藤原 :「今度は、そっちのポテトとって」


木原 :「はいはい。お姫様」


藤原 :「あ~ん」


再び黄色い声とともに険悪なムードがプールサイドに漂う。


だが、藤原さんも木原も一向に気にとめない。


麻奈 :「修君、前を失礼します。」


麻奈が、僕の前を横切るようにポテトに手を伸ばす。少し届かないので前かがみになり、麻奈の顔が僕の近くに来る。


修  :「とるよ」


麻奈 :「大丈夫です」


ちらっと麻奈は藤原さんを見てポテトをとる


修  :「(なるほどね。同じに見られてくないわな)」


相変わらず、木原と藤原はいちゃいちゃやっている。


修  :「木原も念願かなったな?」


木原 :「へ?」


修  :「だって、昔っから藤原さん好きだったじゃないか?」


木原 :「まあな」


その時だった。


井川 :「ちょっと、木原も藤原さんもいい加減にしなさいよ!」


井川さんが突然割り込み、木原と藤原を前にしてえらい剣幕で怒っている。


井川 :「ここは公共の場よ。それなのにいちゃいちゃいちゃいちゃ。いい加減にしなさい」


藤原 :「別に誰にも迷惑かけてるわけじゃないからいいじゃない」


井川 :「場をわきまえるべき」


藤原 :「ええ~、千秋わかんない。だけど井川ちゃんもっと素直になるべき。千秋は楽しみたいときは素直に楽しむのがモットー」


井川 :「あなた、大学生の彼氏はどうしたのよ?」


藤原 :「別れたわ。性格の不一致? それに私束縛されるの嫌いなんだもん。す~ぐ付き合い始めると他の男としゃべっちゃだめ、勝手に遊びに行っちゃだめって束縛するんだもん」


相川 :「(そりゃ、そんだけの美貌とかわいらしさ備えていれば独占したくなる男の気持ちもわかるぞ)」


井川 :「だからって、すぐ木原と付き合うことないでしょ」


藤原 :「井川ちゃん、木原のこと好きだったんだ。なんだ、そう言ってくれれば遠慮したのに」


井川 :「そうじゃないわよ。だれがこんな自己愛症候群男好きになるもんですか」


木原 :「井川、もっと素直になれよ。ああ、僕はなんて罪作りなんだ。でも、ごめん、今は千秋と一緒にさせてくれ。この埋め合わせは今度必ずするから」


井川 :「ちがう!」


井川さんはちらっとプールサイドの方を見る。女の子が一人泣いており、その両脇に別の女の子が支えている。二人の女の子もものすごい勢いでこっちをにらんでいる。泣いている女の子はサッカー部のマネージャーだ。


井川 :「藤原さん、どうせ、木原のこと本気じゃないでしょ。ただの遊びにでしょ。本気の恋愛ならしょうがないけど、あなたのはつまみ食い」


藤原 :「ステレオタイプで見ないでほしいな。私はいつも真剣よ。ただうまくいかないだけ」


井川 :「あなたのその行動で何人もの女の子がないてるの。ちょっとは気にしなさい」


藤原 :「他人のこと気にしてたら恋愛なんかできないわ。陰で泣くのはしょうがないこと。それが恋愛」


女の子のまとめ役の井川さんが、周りの雰囲気を悟って止めに来たのか。でも、独特の恋愛観をもつ藤原さんとでは会話がかみ合わない。


ここは僕が止めにはいらないと。


修  :「あの、二人とも」


井川 :「部外者はだまってて!」

藤原 :「相川さんには関係ないこと」


修  :「(はいはい。)」


この騒ぎに気付いたのか宮島がこっちを見ている。なにかいっているようだ? 口の形から判別すると


修  :「ま…き…」


あ、そうか。麻紀なら仲裁できる。麻紀を呼び出せってことか。僕は宮島にOKサインを出すと麻奈に向かって指を出す。麻紀を強制呼び出しする。


修  :「麻奈、ちょっとこの指を見てて」


しかし、麻奈は首を振り、ゆっくりと立ち上がる。


麻奈 :「亜紀ちゃん、私たちは翔君の思い出話をしてただけ」


井川さんの動きが止まる。


井川 :「翔…、ごめん、麻紀もいたんだね。気がつかなかった」


麻奈 :「ううん、千秋や木原の前ではだれでもかすんで見える。でも、ごめんなさい。翔君の話をするのに湿っぽくなるのはやめようとバカ騒ぎしてただけ。場をわきまえずごめんなさい」


井川 :「い、いいのよ。私の早とちりだったわ。あのこにはちゃんと伝えておく。邪魔して悪かったわね」


そういって、足早に井川は泣いている女の子のグループに戻って言った。


藤原 :「ふ~。助かった~。ナイス麻奈。すごい機転だったわ。まさか井川ちゃんが乗り込んでくるとは。彼女を敵にまわしたくないからね」


藤原はどっとチェアに倒れこむ。


藤原 :「そうだ、麻奈、一緒に泳ぎましょ。大丈夫浮輪で泳ぐから。さあさあ、いこいこ」


藤原は無理やり麻奈の手をとりプールに向かった。


修  :「木原、どういうことだ。説明してくれないか? 翔ってのはだれなんだ? 思い出話ってなんだ? そんなこと一言も話してないだろう。 それに竹原の彼氏ってなんだ?」


木原 :「いやそれは」


修  :「話したくないのか」


木原がこくんとうなずく


宮島 :「そりゃ、当事者だからね」


いつの間にか宮島が現れ、麻奈が座っていた席にすわる


修  :「宮島…。お前は知っているのか」


宮島 :「ええ。翔。早見翔。千秋の元彼よ。そして、そこのナルシスト木原の親友」


木原は目をつむりつぶやく。


木原 :「宮島から話してやってくれ。俺はまだ気持ちの整理がついていない。でも、相川には知っていてほしい」


宮島 :「ええ、そうするわ。早見翔。千秋の中学3年の時の彼氏。千秋を理解して、叱ってくれる数少ない人だった。」


宮島 :「千秋はあの容姿と性格だから男の子に中学のころからもててたわ。中2のときには彼氏がいて付き合っていたんじゃないかしら。でも、あの調子で長続きはしなかったわ」


宮島 :「そして、同性からは嫌われる。好きな男の子が片っぱしから千秋に魅了されてくんだからね。でも、私と麻紀が守っていた。だけど、中3の時の時、私は別のクラスで、麻紀は家庭の事情で不安定。だから、彼女を守ることができなくて彼女はいじめられていた」


宮島 :「そんななか、彼女を慰めたのが早見翔だった。これといって特徴のない男の子だったんだけどね」


木原 :「でも、いい奴だった。男早見、女深沢。面倒見が良くて、よく気が付き、誰からも好かれていた」


宮島 :「そんな早見を千秋は好きになった。そして、二人は付き合い始めた。その時は誰からも祝福された。一見ぱっとしない早見で競争相手もいないし、他の女の子は泣かされることもなくなった」


木原 :「早見自身も実は心に壁があり、誰も近づけなかった。なので友達も多いようですくなかった。そんな奴がなんも遠慮なく話せたのが俺と千秋だった」


木原 :「俺たちは3人でよく遊びに行った。カラオケ、プール。そう、このプールにもよく来た」


宮島 :「だけど、早見は遠くに行ってしまった」


修  :「外国に留学にでも行ったのか?」


宮島 :「相変わらず相川おばかね。天国に行ったのよ」


木原 :「あいつは重い心臓病にかかっていた。手術しないと治らない病気だった。でも、手術は大変難しい手術だった」


宮島 :「拡張性心筋症という難病。治すにはバチスタ手術という難しい手術をする必要があった。その手術はある天才外科医でないと治せないと言われた」


木原 :「でもその天才外科医は事故で亡くなってしまった。そのため、手術ができず、もうすぐ高校生という時に発作で亡くなった」


宮島 :「そう、草薙先生が生きていれば、千秋はこんな不毛な恋愛をすることもなかった。もっとも木原にとっては大チャンスだけどね」


木原 :「でも、『特別な友達』のままさ。恋人にはなれない」


宮島 :「だれもなれないのよ。千秋の本当の恋人には…」


修  :「早見さんのことを井川は知ってたんだ」


木原 :「そういうこと。あのとき深沢が機転を利かせてごまかしたってわけさ。でも、結局は前後は逆になってしまったが翔をしのぶことになってしまったわけだ」


宮島 :「話はこれでおしまい。湿っぽいのは私も嫌いだし、副会長待たせてるから私も行くわ」


そういって宮島は席を立ちプールサイドの生徒会メンバーの方に向かった。


修  :「そういうことだったのか。俺の知らないことばかりだな」


木原 :「無理に話すこともないからな」


修  :「でも、お前も大変だな。藤原を彼女にするなんて。魔性の女というか小悪魔というか」


木原 :「まあ、あいつの気持ちをわかってるのはもう俺だけだからな。でも、さっきも言ったとおり、俺たちは恋人ではない。『特別な友達』だ。一番にはなれない。だけど永遠に友達を続けられる」


修  :「告ってしまえば意外といけると思うが」


木原 :「うまくいっても、長続きしない。早見と比較されてしまう」


修  :「ふう。難しいもんだな。それともう一つ」


木原 :「なんだ」


修  :「竹原の彼氏ってだれだ?」


木原 :「酷な質問だ。広島の竹原にいる千秋の本当の彼氏だ。本人いわく『特別な関係』といっている。毎年長期休みになると千秋は竹原にいくんだ。そこにいる男さ」


修  :「ええ? さすが魔性の女というか小悪魔というか」


木原 :「おいおい、さっきから聞いてると人ごとのように言うな。深沢の小悪魔っぷりの方がすごいだろ」


修  :「はい? どこが?」


木原 :「魔性の女と小悪魔は違う。魔性の女は直接的にアプローチする。だから、食べさせてとか平気で言う。それと、決して選ばない。相手に選ばさせるんだ。アイスクリームとかな」


木原 :「一方、小悪魔は間接的だ。決して直接にはアプローチしない。お互いの食べ物を交換したり、相手の近くにあるものをわざわざてを伸ばして体を近くに寄せる。深沢の見事なテクニックだ。他にも思うい当たる節はないか?」


確かに。コーヒーカップをわざと交換したり…。麻紀にいたっては耳元で囁いたり…


木原 :「ほら、思い当たる節があるだろう。気をつけろよ。深沢には。特に麻奈だっけ、本性の方は千秋に負けず劣らずだからな。気づいたら一緒に暮らす羽目になったりするぞ」


木原は柳風荘のことを知らないはずだ。それなのに見抜かれてる。


木原 :「さてと、そろそろ姫様を回収に行かないとな。また、機嫌損ねると厄介だ。じゃあな、相川。また学校で」


そういうとプールで遊んでいる藤原と麻奈の方に向かっていった。


-------------------------------


麻奈 :「『竹原の彼氏』は千秋の義理の兄です。兄といっても私たちと同い年ですが。千秋のご両親が離婚後。再婚した女性の連れ子です」


帰り道、僕と麻奈は藤原さんたちの話をした。


修  :「血のつながりはない」


麻奈 :「そういうことです。おとなしめの翔君と違い、パワフルでぐいぐい引っ張っていくタイプです」


修  :「それが本当の彼氏か」


麻奈 :「彼氏かどうかは微妙です。本当の兄のように慕ってはいますが」


修  :「なかなか複雑だな」


麻奈 :「千秋がなかなか恋人が続かないのは、翔君だけでなく、『竹原の彼氏』とも比較してしまうからなんです。タイプの違う理想的な二人。しかも、方っぽは天国に行ってしまい、さらに理想化されている。勝てるわけないんです」


修  :「木原も大変だな」


麻奈 :「ビオレは臆病すぎます。多分、彼だけはその二人に勝てるのに。勇気がないんです。今の関係を壊したくないって」


修  :「勝てるのか?」


麻奈 :「あの二人、見てたでしょう。すごい仲良かったじゃないですか。それにあそこまでの千秋の笑顔。久しぶりに見ました」


修  :「そうかあ。明日、木原けしかけてみるか」


その時だった。後ろから鋭い視線を感じた。


振りかえってみると駅のデッキから麻紀が鬼の形相で僕たちを睨めつけていた。そして、僕の視線に気づくとすぐに駅の中に入って行ってしまった。


麻奈 :「どうしたんですか? 修君」


麻奈も振りかえり誰もいないデッキをみた。


修  :「いや、なんでもない。勘違いだ」


再び僕たちは夕暮れの道を柳風荘に向かい歩いて行った。

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