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トリックエンジェルSS  作者: まーしゃ
第9章 白帽子編
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9-10.海馬の困惑 ~イマジナリーフレンド編~

この物語はフィクションです。この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則は架空のものです

田村 :「練習試合が決まったぞ。隣町の富士見高校だ」


ある日、みんながグラウンドにいるとき田村良介がニュースを持ち込んだ。


修  :「よく、俺たちと試合なんて引きうけてくれたな」


弱小アメフト部でやっと試合ができるくらいに人数がそろったうちの部では向こうも迷惑だろう。


田村 :「ああ、向こうも似たような事情らしく、初めてなんだそうだ」


修  :「なるほどね~」


田村 :「だから、審判がいない。顧問の先生がルールを知らないのはうちと同じなんだ」


修  :「あちゃ~」


田村 :「まあ、いなくても何とかなるだろうけど、せっかくの試合だからな。だれか審判できる人いないかな」


修  :「野球とかサッカーの審判なら探してくればいそうだけど、アメフトのルールなんて知ってるやついないからな」


田村 :「確かにな~」


立川 :「あの~」


田村 :「なんだ?」


立川 :「審判だったら麻紀先輩に頼めばいいんじゃないですか?」


田村 :「は?」


修  :「いくらなんでも、麻紀は細かなルールまで知らないだろう。野球とかサッカーと違って無茶苦茶ルールがある。それに矛盾したルールがいっぱいあってどれを優先するかとか経験がものを言う。知ってればできるってもんじゃない」


立川 :「でも、中学の時、ときどき地元のクラブで審判やってました」


修  :「うそだろ」


しかし、麻紀に聞いてみると二つ返事でOKしてくれた。


麻紀 :「どうして、私がアメフトの練習見に行っていたか疑問に思わなかったの? 修君? もしかして、『僕に見とれてる』とか思ってた?」


たしかに、アメフトが好きだから来ていたのが一番自然だ。


そして、実際に試合になってみるとさらに驚いた。ちゃんと審判ができる。


麻紀 :「オフサイド。ディフェンス。ナンバー21。5ヤードペナルティ。スティルファーストダウン」


麻紀 :「フォルススタート。オフェンス。ナンバー85。5ヤードペナルティ。スティルサードダウン」


麻紀 :「ファーストダウン。今のターンオーバーは認められないわ。ダウンバイコンタクト。つまり、ボールをこぼしたのはダウンした後だからファーストダウンは認められるわ」


麻紀 :「パスインコンプリート。今のはパスインターフェアランスは成立しないわ。一度、ディフェンス側がボールにチップしている。だから、フリーボール扱い」


麻紀 :「イリーガル・サブスティテューション。12人でハドルを組んでる」


相手チームも麻紀の審判姿に唖然として見ている。


田村 :「すっげえ。よく知ってるなあ。それによく見ている」


確かに。アメフトはただでさえルールが多いうえに、やたら例外規定があり判定が難しい。野球の審判と違ってそれを動き回りながらやらないといけない。


また、麻紀の知らない面を見つけた。



打ち上げはいとこがやってる喫茶店で行った。ファンダルシアという小さな喫茶店だ。このメンバーで入れば満員貸し切りだ。


この店には麻奈と何回か行ったことがある。まあ、麻奈好みの落ち着いた雰囲気のある店で一発で気に行ってくれた。


この店には、詩音ちゃんという座敷わらしのように居ついてる小学生がいる。今日も案の定詩音ちゃんがいた。詩音ちゃんはカウンターの片隅で何やらごそごそ本を読んでいるが、ときどきちらちらこっちを見ている。


修  :「詩音ちゃんもこっち来ないか? おいしいケーキあるよ」


詩音 :「いく~」


詩音ちゃんも交じっての打ち上げとなった。


麻紀 :「かわい~。この子。まるでモデルさんみたい。テレビに出ててもおかしくないくらい」


修  :「知らないのか? 本当にテレビに出てるよ」


詩音 :「もっとも、誰も見てない教育番組だけどね」


僕は詩音ちゃんの出ている週間こどもの科学を説明した。


麻紀 :「教育番組だってすごいわ。それにすんごく頭のいい子なんだね。びっくり」


詩音 :「ありがとう」


詩音ちゃんがにっこりわらう。



麻紀がトイレに言っている間、詩音ちゃんが僕の服の端を引っ張った。そして小声でささやいた。


詩音 :「ねえねえ。あの人誰?」


修  :「え?」


詩音 :「麻奈さんに似てるけど違う人だよね。でも同一人物。体の中に二人がいる」


ここにも麻奈と麻紀の違いがわかる子が現れた。


修  :「詩音ちゃんにはわかるのかい?」


詩音はこっくりうなずいた。


僕はふと春休みのことを思い出し、この天才少女なら聞いてくれるかもと思い春休みの話をした。


修  :「詩音ちゃん、ちょっと相談事があるんだけど」


詩音 :「いいわよ」


修  :「今、体の中に二人いるって言ったよね」


詩音 :「うん」


修  :「その二人のうちの一人が外に出るってことってあるわけないよね」


詩音 :「え?!」


修  :「ごめん、バカなこと聞いた」


詩音 :「それって、ありえる」


修  :「え?!」


詩音 :「事情がありそう。でも、今、ここじゃ話がしづらい。明日、もう一回このお店に来て」


予想外の回答だった。僕は詩音ちゃんにじっくり話をしてみようと思った。


次の日、僕は、再びファンダルシアで詩音に春休み以降の話をする。


詩音 :「はう! なんてむちゃくちゃな話なの? 本当に麻紀さんと麻奈さんが二人いたっていうの。しかも、変なとこだらけ」


修  :「その時、僕は脳震盪を起こしてたんだ。僕自身の記憶があいまいで現実と夢の区別がつかなくなってるのかもしれない」


詩音 :「ちょっと、待って。そんなことありえない。真実は一つ」


修  :「でも、人の記憶なんて曖昧なものさ。夢と現実の区別んなんてつかなくてもおかしくないよ」


詩音 :「待って。そんなことない。それは海馬君がサボってるってこと。そんなことになったら人間は死んじゃう」


修  :「え?」


詩音 :「夢は脳の中にある海馬が大事な記憶とどうでもいい記憶を取捨選択する行為。だから、大事なことは記憶に残ってて、どうでもいいことは記憶に残らないの。なので、一週間前の夕食のメニューなんかは記憶に残りにくい。」


修  :「すると?」


詩音 :「夢だと思っているのものは事実で、周りの人間が夢と思いこませてる可能性もある」


修  :「みんなが嘘ついていると」


詩音はうなずいた。


詩音 :「修兄が見たことはすべて真実であり、誰かにだまされてるいる。その可能性の方が高いわ」


修  :「僕が見たことが正しい…」


初めてそんなことをいう子が現れた。


詩音 :「とりあえず、修兄さんが自分では事実だと思っていることを並べてみて」


修  :「彼女と話をするようになったのは今年の2月」


修  :「そして藤原さんと宮島さんに麻奈と付き合うのはやめろと言われた」


詩音 :「うん」


修  :「彼女自身も自分はこの世にいてはいけないと言った」


詩音 :「うん」


修  :「そのころ、麻紀が現れた。彼女も麻奈と付き合っちゃいけないと」


詩音 :「うん」


修  :「そして、彼女は服毒自殺を試みた」


詩音 :「だけど、本人には記憶がない。さっきの海馬君の話の通り、そんな重要なこと覚えていないわけがない」


修  :「そして、次の日僕が脳震盪を起こして入院している時に麻奈は麻紀に連れられて消え去った」


詩音 :「ふむふむ」


修  :「そして、その話をするとみんな馬鹿にする。なんで麻紀と麻奈の二人が現れるのだと」


詩音 :「同一人物だからね」


修  :「その後、麻紀が新学期になって現れた」


詩音 :「当然、修兄ちゃんは麻紀さんと麻奈さんが入れ替わったと思った」


修  :「だけど、周りの人間は誰ひとり気付かない。みな、同じ人物だと言い張る」


詩音 :「姿は同じだからね」


修  :「そして、麻奈と麻紀がイマジナリーフレンドで同一人物であることがわかった」


詩音 :「ふむふむ」


修  :「藤原さんと宮島さんが手のひらを返したように麻奈と仲良くなった。特に宮島さんだ。あれだけ毛嫌いしてたのに」


修  :「しかも、麻奈も麻紀も自殺未遂から消える日までの記憶を持っていない」


詩音 :「それも不思議」


修  :「こんなところかな」


詩音 :「今までの話の中で二つの矛盾点以外はなんとなく納得がいくわ」


修  :「本当かい。ところでその矛盾点って?」


詩音 :「麻紀さんと麻奈さんが二人現れているところ」


修  :「やっぱり」


詩音 :「もうひとつは麻奈さんや麻紀さんがそのころの記憶を持っていないこと。二つとも記憶にかかわるところでおかしなところがある。つまり、何らかの方法で麻奈さんは記憶を消されている。暗示とか催眠術とかで。それなりに心理学を極めた人ならできるかもしれない」


修  :「そんなことできるのか」


詩音 :「うん。それなりに心理学や医学を修めた人ならできるかもしれない。そして、誰かが嘘をついている。あるいは修兄に話せない事情がある。だれかが麻紀さんのまねをして修兄と麻奈さんの前に現れた。そして、そんなことはあり得ないとみんなで嘘をつく」


修  :「え? だとするとなぜ麻紀の振りをして現れる必要があるんだ?」


詩音 :「それはわからない。でも、その目的は達成できなかった。そこで、その行為そのものをなかったことにするため、嘘をついている」


修  :「だれが?」


詩音 :「藤原さんか宮島さんか。それとも先生を含めてクラス全員か」


修  :「そんな…」


詩音 :「怪しいのは宮島さんと藤原さん。でも藤原さんはぶれていない。だけど、宮島さんは春休みの前後で態度が変わっている。宮島さんはあんなに嫌っていた麻奈さんと仲良くしている」


修  :「すげ~。さすが詩音ちゃん。でも、これからどうすれば」


詩音 :「やっぱり宮島さんがカギを握ってると思う。どうしてこの人一緒に住んでるの?藤原さんはアパートを取り壊されたという理由がある。でも、宮島さんの理由は弱いわ。どちらかというと麻奈さんを見張ってる感じがする」


修  :「じゃあ、締め上げて白状させるか」


詩音 :「それはやめておいた方がいいと思う。何らかの事情なり、理由があると思う。だからもう少し様子を見た方がいいと思う」


修  :「なるほど、泳がすのだな」


詩音 :「うん、そして、何かあったら相談に乗るわ」


修  :「ああ、ありがとう。少し希望が見えてきた。瑠璃姉ごちそうさま」


----------------------------------


詩音は修を見送った。


詩音 :「さて、厄介ね。今回の黒幕は自分の好奇心に従っておせっかいを焼くことが大好きなイノシシ娘か。しかも、悪いことをしている自覚があって催眠術みたいなことで記憶をごまかしてなかったことにしようとしている。問い詰めても白を切るだろうなあ」


詩音 :「でも、ヒントはつかめた。犯人は宮島さん。でも、そんな簡単なことなんだろうか。まだ何か裏がありそう」


詩音はためいきをつく。


つづく


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