8月31日
この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。
舞 :「こんにちは~。」
和恵 :「いらっしゃ~い。舞ちゃん。」
8月31日の午後、舞は荷物を抱えて詩音の家にやってきた。
舞 :「あれ、今日は詩音いないの?」
和恵 :「朝からポッチちゃんの家にいきました。」
舞 :「ふ~ん。じゃあ、わたしもそっち行こう。」
和恵 :「今はやめておいた方がいいです。舞ちゃんまで巻き込まれてしまいます。」
舞 :「??」
和恵 :「今日は8月31日。夏休み最後の日だからです。」
舞 :「ああ~! やっぱり宿題やっていないんでしょう! そうだと思った。それでポッチの家にいって宿題やってるのね。」
和恵 :「そうだといいのですが。多分違うと思います。あの二人今日まで何も手をつけていないんです。だから今からやっても間に合わないはず。なので、もっと悪いこと考えてるに決まってます。そこに舞ちゃん付き合わせるの悪いです。だから、今日は私と一緒におやつ作りませんか? 舞ちゃん。」
舞 :「うん!」
そう言って二人はおやつ作りにその日の午後を当てることにした。
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詩音 :「なんで、夏休みって宿題があるのかしら。」
ポッチ:「先生たちの自己満足。仕事したって思ってる。大体、宿題なんてやったって身につかないのに。」
詩音 :「そうよね~。めんどくさいだけ。」
ポッチ:「じゃあ、やるのやめよう。意味ないよ。」
詩音 :「でも、やらないと響子先生に怒られる。」
ポッチ:「う~ん。響子先生は厄介よね。」
詩音 :「どうしよう、今からやっても間に合わないし。」
ポッチ:「いいこと考えた。」
詩音 :「なになに?」
ポッチ:「響子先生を学校に来させなければいい。」
詩音 :「なるほど。そうすれば宿題出さなくてもいいし、怒られなくてもいい。でも、どうやって?」
ポッチ:「お菓子を作って食べてもらう。ゴンタ達がこの前言ってた。」
詩音 :「どうして、お菓子食べてもらうと学校行けなくなるの?」
ポッチ:「お腹を壊す特別なお菓子。」
詩音 :「おお~。悪魔のような作戦。だけど、おなか壊して治んなかったりしたら大変だよ。」
ポッチ:「大丈夫。バイ菌とか入れるわけじゃないから。もともとお腹を壊す理由は油とかなかなか消化できないものをたくさん取ったりするとお腹を壊す。」
詩音 :「ふむふむ。」
ポッチ:「そして、その場合薬が効かないで全部出してしまうまで待つしかない。出してしまえば元通り。」
詩音 :「なるほど~」
ポッチ:「そして、この砂糖。甘いんだけどお腹で消化できない。効果てきめん。」
そういって、ポッチは棚から薬剤入れを出す。
詩音 :「早速、響子先生のところに電話してみよう!」
詩音が電話をかける。
詩音 :「響子先生、今日、暇?」
響子 :「暇だけど、どうかしたの?」
詩音 :「おうちでお菓子作るから先生にもおすそ分けしようかと思って。」
響子 :「へ~、詩音にしては優しいじゃない。」
詩音 :「でしょう。」
詩音は電話口でポッチに目で合図を送りにんまりわらう。
響子 :「でも、その手には乗らないわよ。どうせ、宿題やってないから毒入りお菓子でも食べさせようとしたんでしょ。」
詩音 :「(ギクッ!)」
響子 :「昨日、ゴンタが来て、やっぱりお菓子を持ってきたのよ。でも、どうも、挙動がおかしいから問い詰めたら、案の定毒入りお菓子。お腹で溶けない砂糖入りのお菓子だっけ? その砂糖ポッチからもらったって白状したわ。宿題やってないから私を学校に行かせないようにしようとしたのよ。」
詩音 :「(もう、ゴンタ! 余計なことをして! ポッチもなんでその砂糖上げるのよ!)」
ポッチが無言で謝るしぐさをする。
響子 :「ということで、今日は宿題しっかりやりなさい。そして、元気に明日会いましょうね。じゃあね~。」
明るく電話を切られてしまった。
詩音 :「もう、だめじゃん。」
ポッチ:「先にゴンタが仕掛けたのが失敗。私たちだったらうまくやれたのに。」
詩音 :「まったくよね。」
ポッチ:「詩音、他にいいアイデアない?」
詩音 :「ん~。そもそも、なんで私たち宿題やる必要あるの? というか学校行く必要あるの? 学校の授業退屈だし、意味ないよ。プロジェクトメンバーなんだから学校いらないと思う。」
そういって、今度は大橋志穂女史に電話をかける。大橋志穂は文科省の役人でエジソンプロジェクトの総責任者である。
詩音 :「ということで、私たち学校に行かなくてもいいようにしてほしいの。」
志穂 :「わかった。早速検討しよう。」
詩音 :「おお~、さすが志穂さん話がわかる。」
詩音はポッチに手でOKサインを作り伝える。
志穂 :「ただ、そのためには法律改正が必要だ。」
詩音 :「はい?」
志穂 :「今からだと秋の臨時国会か。いや、間に合わないな。来年春の通常国会なら何とかなるかもしれない。それまで、待ってくれ。」
詩音 :「えっと、明日からにしてほしいんだけど。」
志穂 :「それは急だな。いくらな何でも無理だ。」
詩音 :「じゃあ、宿題はやんなくていいという特例を出してほしいんだけど…」
志穂 :「それは無理だ。学校に行っている間は学校の方針にある程度従わないと行けない。みんながやっていることをお前たちだけやらなくていいというのは認められない。」
詩音 :「ええ~!」
志穂 :「はは~。さては宿題やってないな。そんなんで究極召喚するのはだめだ。私だって忙しいのだ。さっきの話も宿題が原因だな。なら却下だ。では。」
ツーツーツー
詩音 :「電話切られた。だめだって。」
ポッチ:「残念。」
詩音 :「まだまだ。あきらめたらおしまい。次は番井先生。」
詩音が電話をかける。
番井 :「わかった。早速手配しよう。」
詩音はポッチに再び手でOKサインを作り伝える。
番井 :「淳典堂病院の特別室を用意する。費用は1泊5万円だがプロジェクトの費用から充当する。ここなら学校に行かなくてもいい。」
詩音 :「おお~」
番井 :「スイートルームで簡単なキッチンも付いている。暮らすうえで不便は全くない。必要なものも全部買ってきてやろう。」
詩音 :「すご~い。最高!」
番井 :「ただし、病人として扱うので部屋から出ることは許さん。」
詩音 :「・・・」
番井 :「OKなら早速用意しよう。」
詩音は丁寧にお断りをした。
ポッチ:「だめじゃん。」
詩音 :「あ~あ、プロジェクト全然役に立たない。」
ポッチ:「もう一人、プロジェクト理事がいる。」
詩音 :「あんまり期待できないよ。」
ポッチ:「私もそう思う。でも、最後の手段。」
詩音 :「そうね。電話かけるだけかけてみる。」
テレビ電話の向こうで眠そうな顔をしたくるみが見える。
詩音 :「それで、くるみちゃん、なんかいい方法ない?」
くるみ:「う~ん。う~ん。」
西海岸の向こうはもうだいぶ夜遅い。
くるみ:「あっ!」
ポッチ:「くるみさん、なにか思いつきました?」
くるみ:「重力波の方向と垂直に位相をずらす方法ならあるの。」
詩音 :「ほんと?」
くるみ:「うん。一瞬だけαベクトル空間に飛ばして、瞬時に戻っちゃうんだけど、そのとき、πだけ回転して戻っちゃうの。多分、できる」
詩音 :「おお~!」
ポッチ:「それがなんの役に立つの?」
詩音 :「えっと、簡単に言うと入口から部屋に入ろうとすると、一瞬αベクトル空間に入るんだけど、すぐにくるっと後ろ向きになって出ちゃうの。だから、部屋の中には永遠に入れないの。逆に部屋の中から外に出ることもできないの。つまり、部屋を封鎖することができるのよ。」
ポッチ:「おお!」
詩音 :「これを職員室の扉につければ、先生たち、朝から職員室に入れなくて授業どころじゃなくなる。クククッ」
詩音が口に手をグーにして持ってきて笑う。
ポッチ:「それ、今日中に作れるの?」
詩音 :「ちょっと、待ってね。必要な諸元計算する。」
そういうと詩音はくるみと計算を開始する。
詩音 :「αベクトル空間にいられるのは0.384秒。3.84秒後に反対向きで現れる。本人は一瞬の感覚だけどね。」
ポッチ:「必要な材料は?」
詩音 :「αベクトルジャイロとその受動体となるαベクトルコイル。それと、そのコイルに電源を供給する電源ユニット。」
ポッチ:「αベクトルジャイロはすでに詩音の部屋の外に置いてあるからいいとして、αベクトルコイルね。これはスタビライザのものを応用すればいいわね。それで、電源はどれくらい必要? 100ワットくらいで足りるかしら。」
詩音 :「それは、くるみちゃんが計算中。」
くるみ:「できた。」
ポッチ:「どれくらい?」
くるみ:「え~と。それが。1.21ジゴワット。」
くるみがてへっとわらう。
ポッチ:「1.21ジゴワット?」
詩音 :「120万キロワット?! 原発1基分じゃない?!」
くるみ:「なのなの~」
ポッチ:「なのなの~って」
くるみ:「時間共鳴なしで誰でもいつでも飛ばすにはそれくらい必要なの」
ポッチ:「今から、原発1個作れるかな。時間的に大丈夫かな。」
詩音 :「時間があっても駄目だと思う。」
くるみ:「待って。それだけのエネルギーを生み出して、移動できるもの探すから。」
ポッチ:「そんなのあるわけない。」
くるみ:「あった。」
詩音 :「あるの?」
くるみ:「それだけのエネルギーを生み出す車がある。ロスのユニバーサル・スタジオに1台ある。」
ポッチ:「(デロ○アン…)」
詩音 :「(デ○リアン…)」
詩音 :「確かにね。その車、確かタイムマシンにもなるよね。でも、空間移動は普通の車並みだと思う。どうやって、今から日本に持ってくるの?」
くるみ:「すごいの。この車を作ったブラウン博士。1985年にすでに統一場の理論説いて、タイムマシン作ってるの。あってみたいの。」
ポッチ:「聞いてないし」
詩音 :「ほかに、方法ないかな。その車のエンジン部分を開発するとか」
ポッチ:「燃料はプルトニウム。これを一瞬で核分裂させてエネルギーに変換しているみたい。」
くるみ:「すごいの。どうしたらできるんだかわからないの」
詩音 :「それ原爆じゃない。そんなの使えない。」
ポッチ:「他に方法ないかな」
詩音 :「確か、その車、過去に行った時、戻ってくるとき燃料なくて困ったわよね。どうしたんだっけ?」
ポッチ:「えっと。雷」
詩音 :「そう、雷があるじゃない。雷のエネルギー使えば何とかなるんじゃない? くるみちゃん、雷って何ワット?」
くるみ:「10億ボルトの電気が1000Aで流れるけど、その時間は1000分の1秒だから1ジゴワットくらい。」
詩音 :「なんとかなるかも!」
くるみ:「でも、どうやって電気をためるの? それにそんな大電流流したらやけちゃうよ」
詩音 :「αベクトル空間にある超電導コイルにためるの。あれなら少しの時間だけためられる。落ちた瞬間にαベクトル空間にエネルギーを誘導すれば、電気抵抗0の超電導なら焼き切れないわ。」
ポッチ:「うん、それなら、何とかなるかも。学校の避雷針を改造して早速作るわよ。」
そういって、二人は材料を持って学校の職員室に行き作り始めた。今日は夏休みの日曜日ということもあって先生たちはだれもいない。
ふたりは集中して作業に没頭する。
夕方近くになり、プロトタイプが完成するとともに、ちょうど雷雲が発生してきた。
詩音 :「ウシシ。やっぱり、この辺りって夕方雷雲が毎日出てくるからね。ちょうどいいわ。」
そして、雷が遠くから近くにだんだん近づいてくる。
詩音 :「わくわく」
ポッチ:「ドキドキ」
詩音 :「おちろ~!」
大粒の雨とともに光と音が同時に来始める。
詩音 :「そろそろ、くるわよ。ポッチ、準備OK?」
ポッチ:「OK!」
ピッシャーン。雷が落ちる。同時にドアが青く光り出す。
詩音 :「ポッチ行くわよ!」
ポッチ:「オー!」
二人はドアに走っていく。そして、一瞬、消えたと同時に二人はクルッとUターンして反対向きに出てくる。
詩音 :「大成功!」
ポッチ:「私たちって世紀の大発明したよね。」
詩音 :「すごい、すごい」
ポッチ:「でも、これって、雷が落ちないと使えないよね。」
もう、エネルギーを使い果たし普通に戻ったドアを見てポッチがつぶやく。
詩音が職員室に入ってみると普通に入れる。
詩音 :「雷が鳴る夕方はもう学校終わってるよね。」
ポッチ:「使えないね。」
詩音 :「だめだね」
くるみ:「おめでとうなの。これで二人も役に立たない道具を作る科学者の仲間入りなの。」
ノートPCの中でくるみが半分眠りながらうれしそうに笑う。
がっくりうなだれるふたり。
ポッチ:「夏休みの自由研究はできたね。」
詩音 :「だね。これだけで許してくれるかな。」
ポッチ:「駄目だと思う。」
詩音 :「そうだよね。『これはこれ。それで他の宿題はどうしたの?』って響子先生いうと思う」
ポッチ:「だよね。」
詩音 :「夏休み最後の貴重な一日を使ってしまった。」
時差の関係で深夜遅くまで付き合わされたくるみはもう画面には寝てる姿しか映っていない。
詩音 :「これ以上、くるみちゃん付き合わせてもかわいそうだし、あきらめて帰りましょう。」
ポッチ:「うん」
夕立があがり、過ごしやすくなった帰り道を二人はとぼとぼ歩いた。
すると、向こうから女の子と女の人が歩いてきた。
舞 :「あ~、やっぱりいた~」
和恵 :「妙子さんに聞いたら学校に行ってと聞いたので迎えに来ました。」
舞 :「どうせ、あんたたち宿題やってないんでしょ。」
ポッチと詩音が顔を上げる。
舞 :「持ってきてあげたわよ。宿題。見せてあげる。和恵ママと作ったお菓子持ってきたから、それ食べたら『詩音の部屋』にいきましょう。あそこなら時間が流れないから今からでも宿題間に合うわよ。」
舞はにっこりと二人にほほ笑みかけた。
詩音 :「う~、舞ちゃん神様~。最初っからそうすればよかった!」
おしまい
トリックエンジェルSS自体はまだまだこれからも続きます。