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トリックエンジェルSS  作者: まーしゃ
第9章 白帽子編
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9-2.過去からの手紙 ~イマジナリーフレンド編~

この物語にでてくる薬名、治療法、一部の病名、一部の物理法則はフィクションです。

その日の放課後。今日はアメフト部の練習日だ。我々弱小アメフト部はグランドを占有できるはずもなく、他の部と交代交代で使うから週2回だけ練習日がある。


田村 :「おい、修、深沢さん、今日もあそこにいるぞ」


深沢さんが相変わらず木陰で本を読んでいる。こうやってあらためて見ると深淵の美少女のようで、はかなくてきれいなイメージがある。


修  :「別にかまわないだろう。誰がいようと。危ないからってどかすわけにはいかないだろう。僕たちが気をつければいい」


田村 :「いや、そうじゃなくて、なんで彼女はここにいるんだ? 本を読むならわざわざここでなくてもいいだろう」


言われてみれば確かにそうだ。


僕は練習が一区切りついたところで、ジュースを買って深沢さんのところに来た。相変わらず同じ本を読んでいる。深沢さんに昼のお礼と言ってジュースを渡す。


修  :「深沢さん、アメフトに興味あるの?」


深沢 :「特に興味ありません。」


修  :「そうなんだ。」


深沢 :「でも、なぜかみなさんが練習している姿や声を聞きながら本を読むと落ち着くんです」


修  :「へ~。なんでなんだろう」


深沢 :「きっと、私は別の世界でアメフトにかかわっていたんじゃないかと思うんです。」


修  :「前世の記憶ってやつ?」


深沢さんはこくっとうなずく。


修  :「ふ~ん」


やっぱり不思議な人だ。


深沢 :「ところで、お昼のお礼がジュース一本なんですか?」


修  :「え?」


深沢さんが僕をじっと見る。確かにジュース一本では割が合わない。


深沢 :「相川さん、週末は予定ありますか?」


修  :「別にないけど」


深沢 :「それでは、私の買い物に付き合ってもらえませんか?」


修  :「構わないけど」


深沢 :「じゃあ、大成駅前の時計の下に11時で」 


深沢さんはそういうと再び目を本に戻した。


僕は会話を断ち切られ練習に戻る。


田村 :「なんだって?」


僕はさっき聞いた話を良介に話す。


田村 :「ふ~ん。やっぱり深沢って不思議な奴だな」


そんな僕たちの会話を聞きながらキャプテンの国立がにやにやしながら言う。


国立 :「鈍感!」


そういって練習に戻っていく。僕には何が鈍感なのかわからなかった。


-------------------------------


次の週末、約束通り大成駅前の時計に僕はやってきた。大成駅は隣町の駅でターミナル駅としてにぎわっている。


深沢 :「こんにちわ」


しばらくすると深沢さんはワンピースにやっぱり白い帽子をかぶり、黄色いバンダナを左手に巻いてやってきた。


修  :「ああ。こんにちわ。深沢さん、やっぱりにあうね。そのワンピースと帽子」


深沢 :「こんにちは」


深沢さんは優しく、でも、どこかさみしげに笑った。


深沢 :「今日はどなたかとお待ち合わせなんですか?」


修  :「え?」


深沢 :「いいですね。お友達と一緒に遊ぶなんて。あ、もしかしてデートですか。羨ましいです。私も相川さんと友達となって一緒に遊べたらすごく楽しいと思います」


修  :「はい?」


深沢 :「では、これで」


そういって深沢さんは踵を返して去ろうとする。


修  :「ちょ、ちょっと待って!」


深沢さんは立ち止り振り返る。その表情は笑っている。


深沢 :「ププッ。冗談ですよ。さ、行きましょう」


修  :「まったくもう」


深沢 :「フフッ」


修  :「ところで買い物って?」


深沢 :「買い物は後でいいです。先に行きたいところがあります」


そういって、商店街の方にあるいていく。大成の街でもちょっと危なげな繁華街の方だ。


深沢 :「こっちです」


深沢さんが先にゆっくりと歩く。僕はその後ろをついていく。


深沢 :「ここです」


僕はその建物を見てつぶやいた。


修  :「映画館?」


そこは場末の映画館だった。メジャーな映画ではなく、昔の映画を再演しているような古びた映画館だった。


深沢 :「はい、どうしてもこの映画見たかったんです。だけど、ここは女の子一人ではなかなかこれなくて」


確かにここ大成南銀座商店街、通称「南銀」。ちょっと治安面とかで女の子一人で来るには勇気がいる。


修  :「他の女の子は誘わなかったの?」


深沢 :「この映画をみるような友達がいなくて」


修  :「なるほどね」


別にはやりでもない映画を見たいと思うような女の子はいないか。


そういえば、いつも深沢は一人でいることが多い。はやりの映画だとしても…


修  :「じゃあ、入ろうか」


深沢 :「はい」


深沢は嬉しそうにだけどどこか寂しげに笑って答えた。


映画は女の子が好きそうなどうってことない恋愛物だった。それほど広くない館内で全部自由席。週末だというのに観客もまばらで、この映画館大丈夫なのかと思ってしまうほどだった。


内容は死んでしまった彼女が神様の許しで一日だけ戻ってくる話だった。たった一日しかないのに二人で天文台に行って星を見ているだけという物語だった。二人はほとんど会話もなく一晩中星を二人で見ているシーンが延々と続く。そして、主人公がついウトウトしてしまい朝になったらもう彼女はいなかった。そんな話だった。なかなか難しい話だった。


深沢 :「結局、彼女はここにはいられない運命だったんです。だけど、もう一度だけ会いたかった。突然の別れで色々話したかった。だけど実際会ってみると話なんて必要なかった。切ないですよね」


深沢は映画を見た後、目に涙をためてそう話をした。僕もちょっとうるっとしてしまった。


その後、二人で近くのレストランに入り、遅い昼食を取った。


深沢 :「今日は、つき合わせちゃってごめんなさい。つまんなかったですよね」


修  :「いや、そんなことないよ。確かに最初はどうかなって思ったけど、結構よかった。この映画もっと評価されてもいいんじゃない?」


深沢 :「はい。私もそう思います。原作の小説を読んで感動して泣いちゃって。もう、なにも手につかない状態だったんです。それで、映画があるって知って、レンタルビデオ屋さんに行ったんですが、なかなかなくって。でも、1週間だけ上映されるって聞いて、週末が今回しかなくって、絶対見たくって・・・」


深沢が目を真っ赤にして訴える。


修  :「うん、よかった。でも、結局悲劇だよね。究極の愛かもしれないけど、やっぱり報われなくって切ない。」


深沢 :「ハッピーエンドの方が好きですか?」


修  :「やっぱりね。最後は二人が報われるって話の方がいいかな。でも、ベタなのは嫌かな。ストーリーが見えちゃうのとかは陳腐でやっぱりね。そういう意味でこの映画よかったと思う」


深沢 :「あの、よかったらなんですが、来週も付き合っていただけません? あの映画館」


修  :「おもしろい映画でもやるの?」


深沢 :「『過去からの手紙』やるんです。来週は。すごくいいんです」


修  :「ふ~ん。どんな内容なの?」


深沢 :「すごくいいんです」


説明になってなかった。でも、この映画のこともあり僕はちょっと期待した。


修  :「わかった。来週もここに来よう」


深沢はパッと明るい表情をした。


次の週、約束通り二人で「過去からの手紙」を見に来た。事前にインターネットで調べたがベタな恋愛物だった。聞いたこともない映画でB級の恋愛物だ。


30分前にチケットを買い二人で映画館に入ると、前回と違い満席とは言わないがかなり混んでいる。


修  :「先週とはずいぶん違うな」


仕方なく深沢さんと後ろの方の席に座る。周りはカップルばかりだった。前の席には明らかに不倫とわかるような中年のカップル。後ろの席はぺちゃくちゃぺちゃくちゃしゃべるバカップルが座っていた。


修  :「(こつら、何しに来たんだ。別に映画を見るのが目的ではないだろう)」


心の中で毒づいた。


そして、映画が始まる。ヒロインの女医さんが湖畔から市内に引っ越すことになり、次の住人のためにポストに手紙を残す。すると、なぜかポストに返事が来る。それは2年前のヒーローからの手紙だった。


そして、奇妙な文通が始まり、二人は惹かれあうが、時を超えて二人は会うことができない。ますます盛り上がる二人。そこで、ヒーローは一計を案じる。2年後のレストランを予約を取る。そして、ヒロインに明日レストランに来るように手紙を出す。


ヒロインはわくわくしてレストランで待つ。外は寒い冬。そんななかひたすら待つ。


でも、ヒーローは来ない。2年の月日が二人の気持ちを分かつ。距離よりも遠い時間。


そして、手紙のやり取りも途絶える二人。ヒロインは昔の恋人とまた仲良くなる。そんななか、ヒロインが家の改装に。そこには男が書いた手紙に束が。


再びヒーローを思い出したヒロインはヒーローの過去を調べる。そこにはレストランの予約の日の前日に事故で死んだ事実があった。ヒロインはあわてて手紙を書き、あのポストに入れる。2年前の彼に伝えるために。


しかし、湖畔のポストにはもう手紙は来なくなった。だけどそこに一台のワゴン車がやって来る。


修  :「(やられた!)」


後ろのバカップルからすすり泣きが聞こえる。前の偉そうな中年男は眼鏡をはずしハンカチで顔じゅうふいている。横で深沢が泣いている。僕もエンディングロールがぼやけて見える。



修  :「あれは反則だろう」


深沢と俺は先週と同じように近くのファミレスに入って話をする。


深沢 :「でしょう」


修  :「くそあんなにベタなのに最後に泣かされるなんて。どおりで混んでたわけだ。みんな知ってたんだな」


深沢 :「うん」


修  :「全然知らなかった。深沢ありがとう。深沢のおかげだ」


深沢が顔を赤らめる。


深沢 :「あの、お願いがあるんですけど」


修  :「ああ、今だったらなんでも聞いたやれる気分だ」


深沢 :「相川さん、下の名前で呼んでもいいでしょうか?」


修  :「え? ああ、構わないよ」


深沢 :「修君?」


ちょっと照れ臭かった。


深沢 :「もうひとつお願い。私も名前で呼んでほしいのです。麻奈って」


修  :「ああ、そうだな。麻奈さん?」


深沢 :「麻奈でいいです」


修  :「じゃあ、麻奈。今日はありがとう」


深沢 :「こちらこそ。修君」


麻奈も照れくさそうに笑った。


つづく


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